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第5回 時間管理の4大メリットを伝え 自分の1日を追体験させる

山場の分かる計画とは

プロジェクトは時間との闘いだ。しかし、メンバーを「まだか、まだできないのか」とせきたてるのは逆効果。時間に追われ続けると、メンバーはいつかやる気を失う。チームを率いるマネジャーやリーダーはタイムマネジメントの重要性や具体的な実践法を伝えて、メンバーの主体的な行動を促すべきだ。

「『今日中』とは『明日の朝まで』という意味である」。これは、IT業界の格言の1つだそうだ。あるシステム開発会社の役員が、失笑まじりに教えてくれた。これを聞く限り、どうやらITに関わる人たちは時間に対する意識があまり高くない人が多いようである。

しかし、「タイムマネジメント」は、ビジネスパーソンのモチベーションを高く維持するための重要なファクターであることは言うまでもない。そこで今回は、メンバーの時間に対する意識を高めてチーム内にタイムマネジメントを根づかせるために、ITリーダーは何をすべきかを考える。

先を読んで行動できる

リーダーはまず、タイムマネジメントによってどんな“果実”を得られるかをメンバーにしっかり伝える必要がある。筆者が考えるタイムマネジメントのメリットは、大きく4つある(図1)。第1に、仕事が楽しくなる。常に時間に追いかけられる状態では、仕事を「やらされている」という気持ちになり、ストレスがたまる。しかし、時間を資源として活用できればストレスから解放される。時間に振り回されず、自分で計画して主体的に仕事に取り組めるからである。

図1 タイムマネジメントで得られる4つのメリット

タイムマネジメントがもたらす第2のメリットは、先読みできるようになることである。時間を効果的に使うには、様々な思考をめぐらさなければならない。このため、物事を上下左右あらゆる局面から見て判断する深層思考が身につき、将来起こり得るリスクを想定しながら仕事ができるようになる。第3に、タイムマネジメントを実践すると可処分時間が増える。その分を読書や研修などに充てることで、新しい知識や技術をインプットできる。家族や友人と過ごす時間も増える。

時間だけではない。タイムマネジメントがうまくいくと、心にも余裕が生まれる。このため、周りとのコミュニケーションが円滑になり、人間関係が良好になる。これが、タイムマネジメントの4つめのメリットである。

ストーリーのある計画を立てる

タイムマネジメントのメリットを共有できたら、あとは実行あるのみだ。ITリーダーは、メンバーがタイムマネジメントに向けてはじめの1歩を踏み出すよう促したい。

例えば、スケジュール管理の改善である。といっても、手帳やパソコンなどといったツールが問題なのではない。タイムマネジメントが上手な人のスケジュールには、“ストーリー”がにじんでいる。行うべきことに加えて、リスクや心の動きまで織り込んであり、小説のように起承転結があるのだ。

以前、ある製薬会社のMR(医薬情報営業)の手帳を見せてもらった。そこには、訪問予定の病院名や医師の名前を色分けして書き込んであった。色の意味をたずねると、難易度だと言う。「なかなか時間を割いてくれない先生は赤、自社製品に好意的な先生は青、黄色は口数の少ない先生」といった具合だそうだ。会議や出張、イベントなども重要度に応じてきれいに色分けしてあり、手帳を開けばその週は何曜日が勝負どころなのかが一目で分かるようになっていた。難度や優先順位の高い予定の前は、時間のバッファを確保して下調べや想定問答に充てるという。いつ、どこで最高のパフォーマンスを出せばよいかを見定めて集中力を高めているわけだ。

話を聞いて、大いに感心した。このMRは予定を色分けすることで手帳の上にストーリーを作り、タイムマネジメントを通じた仕事の質の向上に成功していた。

図2 “ストーリー”がにじむ計画

時間の使い方を自己評価する

「レコーディング・ダイエット」をご存じだろうか。これは、食べたものを手帳やノートにすべて書き出すだけのダイエット法だ。自分の食べたものを振り返ることでカロリーの取りすぎを自覚し、食べる量を減らすという心理的アプローチである。

タイムマネジメントにおいても、同様のアプローチが有効だ。自分がどのように時間を使ったかを、日常的に振り返るのである。これを私は「時間の追体験」と呼んでいる。やり方は簡単だ。夜寝る前や入浴時に、自分の1日の行動や場面を頭の中で再現する(図3)。これだけで、時間の使い方で効率が良かった点や悪かった点を意識し、今後の計画や実行に役立てられる。「過ぎた時間は取り戻せない」などとうそぶいているメンバーは、同じ過ちを何度も繰り返すことになる。

図3 1日を追体験し、時間の使い方を自己評価

ある会社の会議にオブザーバーとして参加した時のこと。会議の冒頭、マネジャーは「先週1週間で、一番質の高い仕事ができたと思う日時を即座に言える人は手を挙げてください」と切り出した。1人も手を挙げなかった。すると、マネジャーはこう話した。「みんなは最近、時間に追いかけられて仕事を“こなしている”状態になっていないだろうか。常に日々の行動を1つひとつ振り返って自己評価し、時間に対する意識を高めてほしい。そうでなければ、納期通りによい仕事はできない」。このマネジャーは、ビジネスの様々な修羅場をかいくぐってきた体験から、時間の追体験の重要性を知っていたのである。

3つのアクションプラン

図4 チームにタイムマネジメントを根づかせる3つのアクションプラン

個人がどれだけ時間に対する意識を高めても、組織全体にそのムードがなければ、意識の高い人も易きに流されてしまう。そこで、組織としても時間を意識したルールや風土作りを進めたい。以下で、そのためのアクションプランを3つ紹介しよう(図4)。

まず手をつけるべきは、会議の効率化である。だらだら長いだけで何も決まらない会議は、タイムマネジメントの最大の敵。参加者の貴重な時間を無駄に消費する。そこで、会議の議題や背景といった事前に共有できる情報は会議前にメールで伝えておく、会議の冒頭で得ようとしている成果やゴールは何かを全員で共有する、といったルールを作ろう。

オフィス内の整理整頓や美化も、タイムマネジメント実現に向けて組織として取り組むべきアクションプランである。資料や書類を探すのに多くの時間を割いて、なかなか本来の仕事が進まない人をよく見かける。ひょっとすると、みなさんのなかにもいるかもしれない。「身の回りを整理できないのは、個人の性格の問題。組織としてはどうしようもない」と思うだろうか。

そんなことはない。例えば、その日の仕事を終えて帰宅する前にデスク上の資料や書類をすべて片付けるルールを作る。思い切って、フリーアドレス制を導入してもよい。要は、どんなに性格が几帳面でない人でも必要なときに必要な情報が取り出せる環境を半強制的に作るのだ。こうした取り組みにより、無駄な時間を大幅に削減できる。

分からないことをメンバー同士が教え合う風土作りも、チーム全体のタイムマネジメントを推進するうえで欠かせない。お互いに知識や経験をもらいながら仕事を進めることは、組織の生産性向上に大いに役立つ。他のメンバーの知識や体験談を聞くことで問題解決への近道に気づくことは多いはずである。特に、若手メンバーには「何か分からないことはない?」「困ったことがあったら言ってほしい」などと積極的に声をかけたい。若手メンバーにとって、忙しそうな先輩や上司に質問するタイミングを計るのは難しい。このため、疑問や問題を1人で抱え込みやすいのだ。

テクニックにおぼれるなかれ

タイムマネジメントをテーマに講演すると、参加者から必ずと言っていいほど「すぐに役立つ参考書籍を紹介してください」という質問を受ける。街の書店やオンライン書店を見るとタイムマネジメント関連の書籍は数え切れないほど出版されていて、どれを選べば分からないと言うのだ。そんなとき、私はいつも複雑な気持ちになる。

書籍を読んで「大きな仕事は分割しろ」「アイドリングの時間を毎日15分作れ」「スケジュール管理に適したツールはこれだ」といったテクニックだけまねても決して長続きしない(図5)。なぜなら、「仲間の貴重な時間を有効に使う」という時間管理の本質が腹に落ちていないからだ。自分にとっても、組織の仲間や取引先の社員にとっても、それぞれが保有する時間には限りがある。そのことを意識して仕事を進めると、自ずと時間の使い方がうまくなる(図6)。

図5 成功者の方法をまねるだけでは失敗
図6 「仲間の貴重な時間を使っている」という意識が不可欠

もちろん、成功者の方法を参考にするのはよい。だがそこで満足してはいけない。重要なのは、それを自分の仕事や環境に当てはめ、試行錯誤を繰り返しながら自分なりの方法を導き出すことなのである。マネジャーやリーダーはぜひ、メンバーにそのことを教えてやってほしい。

タイムマネジメントについて述べた今回は、時間に関する名言でしめくくろう。「時間は人生の貨幣である。あなたが所有するただ1つの貨幣であり、それをどう使うかを決められるのはあなただけだ。他の人があなたの代わりに使ってしまわないよう気をつけなければならない」。米国の詩人、カール・サンドバーグの言葉である。

大塚 雅樹 おおつか・まさき

JTBモチベーションズ 代表取締役社長
1961年東京都生まれ。86年、明治大学法学部法律学科を卒業しJTB(日本交通公社)に入社。91年、社内公募で市場開発室に異動しワークモチベーションの研究を開始。93年、JTBモチベーションズ設立と同時に出向、2004年に代表取締役社長に就任し現在に至る。著書に「やる気を科学する」(河出書房新社)、「明日の出社が楽しくなる本」(インデックスコミュニケーションズ)など。

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