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先駆的5社のCIOが語るSaaS/クラウドへの移行で得た「果実」と「教訓」
ユーザー企業が、サービスプロバイダーの所有するインフラやアプリケーションにアクセスし、あたかも電気やガスといったユーティリティ感覚で使用するSaaSやクラウドコンピューティング。企業のIT戦略の中で、実際に採用されるようになるのには、何年もかかるものと思われていた。だが今日では、新しい試みとして積極的にSaaSやクラウドの活用に乗り出すユーザー企業が急増しており、従来の伝統的なITインフラに代わるものとしての評価を急速に高めつつある。
CIO INSIGHTでは、実際にそうした世界に飛び込んだ先駆的な5社のITエグゼクティブに取材した。彼らがSaaS/クラウドに向かった理由や、移行の際に避けては通れないセキュリティ問題への対処方法を見ながら、その移行の可能性を検証しよう。
| ユーザー企業名 | 概要 | 使用したサービス名 | |
|---|---|---|---|
| 事例(1) | インテバ・プロダクツ(自動車内装品製造) | 事業部門の分離独立に伴うIT環境の整備で、電子メール、ERPシステムにSaaSを利用 | 電子メールにはUSA.NETのサービス、ERPにはプレックス・システムズのサービスを使用 |
| 事例(2) | オーサー・ソリューションズ(オンライン出版社) | システム統合のため、SaaSプラットフォーム上でERPシステムを稼働 | セールスフォース・ドットコムのSaaSプラットフォーム「Force.com」 |
| 事例(3) | ESPNデジタルメディア(電子メディアサービス) | スポーツ専門サイト「ESPN.com」上のコミュニティのインフラをクラウドに移行 | アマゾン・ドットコムのクラウド環境「Amazon Web Services」 |
| 事例(4) | パルト・ホームズ(住宅建築) | 基幹業務にSaaSを利用するもトラフィック増や社内システムとの連携に起因するシステムダウンを経験 | 明示なし |
| 事例(5) | フロリダ州マネジメントサービス局(州政府組織) | 州のポータルサイトのFAQや車両管理のアプリケーションにSaaSを利用 | ライトナウ・テクノロジーズの各種ツール、クローム・システムズの車両管理ツール「Carbook Fleet Edition」 |
事例(1)
インテバ・プロダクツ
米GM傘下の自動車部品メーカーであるデルファイ。その中で内装と開閉部品を扱う部署のCIO(最高情報責任者)に2007年9月に就任したデニス・ホッジス氏は、難題を抱えていた。同部署は6カ月後には分離独立し、インテバ・プロダクツという新会社として発足することになっていた。ホッジス氏は分離独立に際し、デルファイ社のIT環境のうち、同部署に関係する部分を抽出して、新会社のために用意する必要があった。会社から与えられた猶予期間は、たった15カ月しかなかった。
最初に取り組んだのは、全世界3400人の従業員が使用する電子メールシステムの移行だった。同氏はクラウドベースのサービスを利用することを決断し、インターネットサービスプロバイダーであるUSA.NETと契約した。結果、08年3月の分離独立後、わずか1週間でシステムが稼働した。USA.NETがすべてのストレージを管理し、すべてのソフトウェアのアップデートを行うため、同社のIT部門は面倒な保守作業からも解放された。
この決断により、ホッジス氏はより大きな課題である新しいERPシステムの選択に時間を費やすことができた。「ITスタッフの数も最小限で済むなど、我々にとっては実に理想的な展開だった」と振り返る。
電子メールシステムにおけるクラウド選択の成功は、ERPシステムの選択にも影響を与えた。氏はERPシステムを評価する際にも、オンプレミス(自社運用)型に加えSaaS形式のサービスも対象に加えた。
ビジネスの生命線であるERPシステムを第三者に委ねることに躊躇するCIOは多い。ホッジス氏もERPシステムのクラウド移行にためらいがなかったわけではない。製品計画からサプライチェーンに至るまでのミッションクリティカルな分野において、SaaSは果たして充分なセキュリティと可用性を実現できるのか・・・。同氏は真相を確かめるため、ベンダー各社に厳しい質問をぶつけた。どのようにしてセキュリティの問題を解決しているか、可用性やディザスタリカバリ(災害復旧)の仕組みはどうかなど、質問は多岐にわたった。「これらの質問は、同等のシステムを手組みで構築しようとするときに自問自答しなければならないことと基本的には同じだ」(ホッジス氏)と話す。
最終的に、プレックス・システムズが提供するSaaS形式のERPシステムの採用を決断。機能面で今までのシステムよりも同社にマッチしていたうえに、費用面での利点も圧倒的だった。氏の試算では、デルファイ社が使用するSAPのERPシステムと比較して75%減のコストで運用可能だという。
08年末にはインテバ社のヨーロッパ拠点がプレックス社のサービスに移行し、残りの拠点についても09年5月1日までに移行する計画だ。
電子メールシステムの成功やERPシステムの進捗に非常に勇気付けられ、氏はSaaSやクラウドの利用を同社のデファクトスタンダードとして位置付ける意向だ。「自社で行う必要のないことは外部に任せ、自社ではビジネスに直結することに集中すべきだ。IT部門は、ビジネスそのものの変貌を助け、ビジネスプロセスの改善を実行する組織でなければならない」と指摘する。
事例(2)
オーサー・ソリューションズ
インテバ社以上にSaaSやクラウドの採用を急展開してきたのが、オンライン出版大手であるオーサー・ソリューションズだ。同社は従業員400人という小規模の企業。とはいえ従来のシステムをSaaS/クラウド環境に移行する決断を下すのは、同社にとって非常に挑戦的なことだった。
ケビン・ワイス氏が07年12月にCEO(最高経営責任者)の職に就いたときから、同社のクラウドへの取り組みは始まった。同氏はシーベル・システムズの大規模なCRMアプリケーション導入プロジェクトに何回か携わった経験を持つ。CEO就任後、すぐに現状のITシステムの棚卸しに着手したワイス氏は、その惨状に愕然としたという。
会社の規模に見合わず、多数のシステムがバラバラに存在していたのだ。 3つの出版ブランドを運営するために、2つのデータベースと2つのEコマース用システム、そして3つのワークフローシステムを運用している、といった状況だった。
ワイス氏は、これらのシステムを1つに統合する方針を打ち出した。IT部門のスタッフは当初、統合作業は自分たちで行うことが当然のことだと思っていた。だが「会社の方針で、短期間に統合を完了する必要があった」(ワイス氏)ため最終的にはSaaS/クラウドに移行することを決断。いくつかのサービスを評価し、セールスフォース・ドットコムのSaaSプラットフォーム「Force.com」が最適であると判断した。
氏がセールスフォースへの移行を決めた最大の理由は、長期の使用に耐えるIT基盤を構築できると判断したことだ。セールスフォースでは、サービスの改善を継続的に実施しているのに加え、状況に応じてアプリケーションをいつでもカスタマイズできる環境を用意していることが大きかった。
独自に新規開発するのと違って、新たにITの専門家を採用する必要がないということもクラウド移行を後押しした。実は同社の本拠地があるのは、米国ミネソタ州ブルーミントンという田舎町。適任のIT専門家を探しにくいという、慢性的な課題を抱えていたのだ。
もちろん経費削減効果も大きい。データセンターやアプリケーションの運用・管理費用が不要となった結果、最大75%の経費が削減できたと試算する。
ワイス氏がクラウドへの移行を決定したのは08年3月。同年8月の終わりには、クラウド上で新ERPシステムの稼働を開始した。現在では、見込み客の管理や原稿の校正など、ほぼすべてのシステムがセールスフォースのプラットフォーム上のサービスに移行しているという。
事例(3)
ESPNデジタルメディア
全世界にスポーツに関するニュースを提供するESPNの電子メディア部門であるESPNデジタルメディアも、クラウドに移行した事例の1つだ。同部門の主要事業は、スポーツ専門サイト「ESPN.com」上のオンラインコミュニティの運営である。
商品開発担当のバイスプレジデントであるエド・デイビス氏が、初めてクラウドのことを知ったのは07年。その後、ESPNのオンライン環境の運用にクラウドを試験的に使用する機会を得て、パフォーマンスや使用感など、クラウドの能力を定量的に評価した。評価を進めるうち、「予想外のトラフィック増に耐える環境を、自社で構築することなく得ることができる。本当にすばらしいことだ」と、クラウドへの移行に自信を深めた。
同部門の事業は比較的新しく、クラウドへの移行自体は小規模なプロジェクトで済むだろうと考えられたが、その前にどうしてもやり遂げなければならないことがあった。同社は“責任を伴ったリスクテイク”を文化として掲げており、クラウドの採用に当たってもきちんとしたデューデリジェンス(適正評価)を行うことが必要だったのだ。
氏は、既にクラウドを導入した環境で働く多くの人たちに経験談を聞いて回った。結果、クラウド環境下であっても、システムの可用性やセキュリティは充分に確保できると確信した。サービス選定の際にもベンダーを質問攻めにした。データ喪失の危険性をどのように回避しているか、バックアップ戦略は・・・。執拗なまでのデューデリジェンスを経て、氏のチームはオンラインコミュニティーサービスの基盤を、アマゾン・ドットコムが提供するクラウド環境「Amazon Web Services」に移行。開発や品質保証、実行環境はクラウドコンピューティングプラットフォーム「Elastic Compute Cloud(EC2)」で稼働し、固定的なコンテンツ情報はオンラインストレージサービス「Simple Storage Service(S3)」に収納した。
アマゾンのクラウドサービスを使うことによって、ハードウェア経費の大幅な削減や、システムの複雑さの緩和、さらに場所や時間を問わないアクセス環境が実現できた。だが最大のベネフィットは、開発や品質管理環境が実行環境と共通している点だとデイビス氏は語る。「開発担当のエンジニアは、エンドユーザーが実際に利用する様子を正確にイメージしながら、コーディングすることができる」(デイビス氏)。
事例(4)
パルト・ホームズ
初期段階でのSaaSやクラウドへの試みが、必ずしも良い結果に結びつくとは限らない。住宅建築業のパルト・ホームズでCIOを務めるジェリー・バット氏は、SaaSのパフォーマンス低下の問題に泣かされた経験を持つ。
バット氏がSaaSへの取り組みを開始したのは数年前。給与管理や人材管理、資金管理といった比較的小規模なアプリケーションを、次々とSaaSに切り替え、順調に事が進んだ。ところが06年に、住宅購入の潜在顧客と、同社が契約している住宅所有者との関係を管理するSaaSを使用し始めたときから、歯車が狂い始めた。
導入したSaaSは、要求に応じてカスタマイズも施しており、必要な機能は満たしていた。だが同氏は、多くのCIOが陥りやすい罠にはまってしまっていた。サービスの機能とビジネス上のニーズとのマッチングに気をとられ、トラフィックの急増時や、SaaSのシステムアップデートの際のパフォーマンス低下について考えていなかったのだ。
案の定、システムの停止が頻発した。氏は怒りを覚え、そのSaaSベンダーのユーザー会の年次会議に、自ら参加して情報を得ようとした。他のユーザーも同じ問題に直面しているのかどうか、どうしても自分自身で確認したかったのだ。
実際、他のユーザーもパフォーマンスの低下を経験していることを認めた。だが、不思議なことにそれを不満だと思っている人は1人もいなかった。「なぜ頭にこないのか」と氏が尋ねると、彼らは「自社の利益に直結するコアな分野には、まだSaaSを使っていないからだ」と口を揃えた。
氏のチームは、契約管理システムなど、自前で運用するいくつかのシステムとSaaSを連携する仕組みを作っており、これが事態をより悪化させる原因となった。SaaSがダウンすると、これと連携するシステムがドミノ倒しのようにストップする状態になってしまっていたのだ。
ユーザー会に参加していた他の企業はまだ、自社アプリケーションとSaaSを連携する仕組みを作っていなかった。自社のアプリケーションが、ベンダー側のサービスダウンに引きずられて停止してしまう事態を恐れてのことだ。「SaaSベンダーの技術力は発展途上で、問題なく連携できるとまだ確信できないとするユーザーが大半だった」(バット氏)。
結局は、連携システムの中に簡単なスイッチ機能を持たせて問題を回避した。SaaSアプリケーションの更新作業中や、特定物件のプロモーションを大々的に行ったときなど大量のトラフィックが予想される場合は、スイッチをオフにして連携機能を停止させる仕組みだ。
事例(5)
フロリダ州マネジメントサービス局
初期の取り組みではSaaSやクラウドの真価を判断することはできないとするITエグゼクティブも多数存在する。米国フロリダ州で州の人事管理や購買活動などを管轄する、州マネジメントサービス局のCIOであるジョー・ライト氏もその1人だ。
ライト氏は、同局が所有するリソースだけでは処理しきれない計算処理要求がある場合や、アプリケーション関連のコストを大幅に削減できるチャンスがあると見た場合に、SaaSを選択肢に入れて検討していた。たいていの場合、他の選択肢よりもSaaSのほうが優れていると氏は判断していた。「新しいサービスを迅速に提供できるほか、コスト削減の効果が大きかった」(ライト氏)。
同局ではその時々の要求に合ったニッチなサービスを選択している。例えば州が運営するポータルサイト「MyFlorida.com」上のFAQである「Get Answers」に、ライトナウ・テクノロジーズのナレッジベースやカスタマーサービスのツールを使用している。また州の車両購入管理にはクローム・システムズの「Carbook Fleet Edition」を使っている。
ライト氏は、他のプロセスやツールについても、SaaSへの移行を検討している。例えば、住民からの問い合わせやそれに対する返答の履歴、電子メールやカレンダー、マネジメント教育や資産管理を候補に挙げる。「ベンダーには常に『SaaSバージョンは利用できるか』と確認している。必要がないソフトウェアに莫大な投資をするつもりはない」(同氏)。氏はクラウドによるインフラの提供形態、例えばアマゾンのEC2やS3にも興味を持っているという。
ライト氏は“使える”と思ったサービスについては、ベンダーと協力して、データの収納時や転送時に充分なセキュリティを確保しているかどうかを確認している。氏はSaaSサービスの選定にあたって、充分な冗長性と強固なディザスタリカバリプロセスが組み込まれているかどうかを特に重視している。ハリケーンなどの自然災害が多い米国では、災害対策が非常に重要となるからである。またデータの保管場所についても綿密に確認している。州民に関するデータが、いつの間にか外国のサーバーに保管されるということがないようにするためだ。
氏は、これまで主にインフラやアプリケーションの運用管理に向かいがちだったCIOの意識を、今後は将来のビジネスニーズや戦略といった方向に振り向けるべきだと強く主張する。その実現のための手段として、SaaS/クラウドへの移行を真剣に検討するべきときが来ていると氏は信じている。
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