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Part4 和製検索エンジンを志向した「情報大航海プロジェクト」の最新事情
「検索エンジンを制するものが市場を制する」−。今から3年以上前の2005年当時、こんな考え方が主流だった。
ところが当時、主要な地位を占めていた検索エンジンは、GoogleやYahoo!、MSNなど外資系のプロバイダばかり(現在も同じ)。「ネット関連技術の開発が世界中で進む中、日本の情報技術や情報サービス企業は大丈夫なのか?」、「検索エンジンを外資が占有すると、“Google八分”といったリスクが生じかねない」。こうした危機感から、経済産業省は2006年7月、「情報大航海プロジェクト」と呼ぶ国家プロジェクトを立ち上げた(実際の開始は2007年4月)。
3年で総額150億円をつぎ込む同プロジェクトは、Google対抗のサーチエンジンを開発する国家プロジェクトとして、“脚光”を浴びた。「今からGoogleと同じものを作って(市場での競争で)勝てるのか」「(150億円程度の予算で)実用性の高い検索エンジンを本当に開発できるのか」といった疑問は小さくなかった。
2年近くが経過した今、情報大航海プロジェクトはどうなっているのか。結論を言えばGoogle対抗ではなく、画像を検索したり、必要な情報にたどり着くためのナビゲーションをしたり、膨大な情報から新たな価値を発見したりするための技術開発や整備、および参加企業による実証実験がメインになっている。「国家プロジェクトでやるほどのことか」という批判もあり得る内容だが、少なくとも企業における情報活用という観点からは、意外に見るべき点が多いことは確かだ。
技術開発、実証実験、制度整備が3本柱
まずは全体の概要から。情報大航海プロジェクトは、「共通技術の開発」、「先端事業による実証」、「制度・環境の整備」という、大きく3つの枠組み(分野)に分かれて進められている。
技術開発では、動画を含めた情報を検索、分析、活用するための基盤技術の設計、開発、改良、検証を進める。複数のデータソースの情報を組み合わせて解析、表示する「サービス連携技術」、画像やセンサー情報など非テキスト情報を処理・活用する「リッチコンテンツ解析」、ユーザーの行動パターンや位置からニーズを推定し最適なサービスを提供する「プロファイル情報解析」といった技術群だ。開発した技術は、オープンに公開する予定である。
2つめの「先端事業による実証」では、実験プロジェクトを通じて、開発した技術の有効性や実現性を検証したり、不足する技術を洗い出したりする。2007年度は(1)新しい価値を生む次世代のWebサービス (沖電気工業やチームラボなど)、(2)新たな社会インフラのITサービス(国際医学情報センター、日本航空インターナショナルなど)、(3)プライバシーに配慮した未来型サービス(ブログウォッチャーや東急電鉄など)という、3つの分野に関して参加企業が実験プロジェクトを実施した。それぞれは共通技術と強い関係があり、(1)はリッチコンテンツ解析、(2)はサービス連携、(3)はプロファイル情報解析をベースにしている。
3つめの「制度・環境の整備」は、個人情報保護や著作権をはじめとする知財、不正競争防止など、法制度面における課題と対応策を明確にすることを目指す。日本だけではなく、海外における不正やトラブルの調査を実施。国際動向を踏まえた上での制度検討を行う。
情報活用の基礎技術を体系化
1年目、2年目の成果や実績をもう少し具体的に見ていこう。共通技術開発では、情報活用に関連する基礎技術の体系化と具体的な技術要素の選定・開発を軸に、作業を進めた。
その結果、できあがったのが基礎技術体系を定めた「平成19年度情報大航海『共通技術アーキテクチャ』図」である(図10)。4カテゴリの分類があり、第1は複数のサービスやコンテンツの中からユーザーの要求やニーズに相応しい情報を選んで提供する技術群「サービス連携層」。第2は動画などマルチメディア情報を活用するための技術群「リッチコンテンツ層」。第3は、ユーザーの行動パターンなどを解析して、ユーザーの特性に適したサービスを提供する技術群「プロファイル情報解析層」。そして第4のカテゴリは、プライバシーに関連する情報を安全に管理するための技術群「個人情報管理層」となっている。
いくら技術体系を整備し、そこに含まれる要素技術を開発・改良しても、実用性を持たないようでは意味がない。この点で、情報大航海プロジェクトの成否を占う「先端事業による実証」、すなわち参加企業各社による実証プロジェクトはどうか。2008年12月時点では、NTTドコモや角川マーケティング、ジー・サーチといった企業が合計8つのテーマで検証を進めている(表4)。
キーワード検索主体のサーチ技術を、人にとってより自然な“対話”という形で提供することを試みるのが、沖電気工業の検索サービス「ラダサーチ」である。対話形式で徐々に掘り下げた質問を投げかけて利用者のニーズや価値観を引き出す手法を「ラダリング」と呼ぶ。ラダサーチはこの手法を使って、利用者が本当に検索したいキーワードを明らかにし、情報を提示する。
例えば、求人情報が欲しいユーザーの場合、システムが「仕事探しで重視したいことは?」と質問し、ユーザーは「通勤時間が1時間以内の勤務地で働きたい」と自然文で回答する。システムは回答を解析して、より掘り下げた質問を出す。こうして勤務エリアや業種、給与条件といったユーザーのニーズを明確にする。システムは希望に合う求人情報を探し出し、ユーザーへ返す。
日本航空が安全管理に応用
一方、日本航空インターナショナルが実施しているのは、サーチ技術を安全管理向上につなげるプロジェクト。単純化して言えば、機体に自動記録される運行情報、日常の機体運行業務や整備に関わる日誌、過去のトラブル履歴、気象情報などから、事故やトラブルの予兆を探し出し、未然に防止できるようにするものだ。
テキストマイニング技術や、「リスクモデリング&シミュレーション」と呼ぶ技術により、事象や出来事を抽出してトラブル発生パターンをモデル化し、リスク発生を予測する。様々な要因とトラブルの因果関係を画面に表示する線の太さで明らかにするなど、定量的に把握しやすい形での情報提供を目指す。
「それで本当に何かが分かるのか」という疑問もあるが、様々な安全策を施した上で、さらに安全性を高めるには、可能性のあることを追求してみるしかない。うまくいかない可能性もあるので国家プロジェクトでやる意味もある。しかも仮に成果を上げることができれば、航空業界以外にも鉄道業界や電力業界などの安全管理に応用できる。
もう1つ、NTTドコモは、携帯電話やICカード乗車券などの利用に伴う利用者の行動情報(いわゆるライフ・ログ)をもとに、「日常・非日常の生活の中で必要なときに次の行動を予測して、新しい気付きや発見につながる情報を容易に入手できるサービス」を実現するプロジェクトを実施している。
ただし実は、ドコモはすでに「iコンシェル」という名称でこのサービスを実用化済みだ。そこでプロジェクトでは、このサービスが含む個人情報保護に絡む課題の検証や、利用者に提供する情報の精度向上を目指している。
以上から明らかなように、情報大航海プロジェクトでは、GoogleやYahoo!などが提供する検索エンジン(あるいはその次世代版)に相当する技術は、研究も開発もなされていない。むしろ、企業による実用性の高いサービス開発・実証と、サービスに直結する技術の開発に焦点を合わせている。結果として、企業情報システムのリーダーや担当者、ITエンジニアにとって、見るべき点が多いプロジェクトになった。
ただし見るべき点があることと、国家プロジェクトとしての成否は、別の問題だ。プロジェクトを推進する側に求められるのは、成果の厳正な評価と徹底した情報公開である。要素技術の中で本当に斬新でユニークなものはあるのか、あるとすればどれか。8つの実証プロジェクトは成功なのか、失敗なのか。その理由は技術的なものか、それ以外か。これらを明らかにすることが、情報大航海プロジェクトの意義に直結する。
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