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Part1 SaaSは一過性のブームに非ず ベンダーは利用モデルに舵切る

新市場巡る主要ベンダーの動き

SaaSの利用によってユーザー企業は開発・運用業務から解放され、コストを圧縮できる。 一方、これまでソフトやハードの販売や受託開発を収益源にしてきたITベンダーにとって、SaaSは大きな脅威になり得る。 「所有から利用へ」という流れが加速する中、新市場に生き残りをかけるITベンダーの動向をまとめる。

SaaSが2009年、本格的な活用フェーズに向けて飛び立とうとしている(図1-1)。すでに、日本郵政公社や損保ジャパン、イオン銀行といった大手先進企業が米セールスフォース・ドットコムのSalesforce CRMを採用。顧客管理や営業支援業務に活用している。こうした企業に共通するSaaS導入の狙いは、開発コストや運用業務の大幅削減だ。加えて、導入までの期間が短いことも経営のスピードアップを目指す各社のニーズにマッチした。

図1-1
図1-1 先行するセールスフォース・ドットコムなどを追撃すべく、SaaSに本腰を入れ始めた国内ITベンダー。2009年、「所有から利用へ」の流れは一気に加速する(図をクリックでPDFをダウンロード)

一方で、中小・中堅企業にもSaaSは徐々に浸透しつつある。民間調査会社ノークリサーチの岩上由高シニアアナリストによると、「IT専任要員の少ない中小・中堅企業の間で、クライアントPC管理やバックアップなど、自社で実施するには難易度が高い業務にSaaSを利用するケースが増えている」という。同社はこうした状況を踏まえたうえで、SaaSの市場規模は2012年に7746億円に達すると見ている。

国内のSaaS需要を掘り起こした先駆者は、米国発のセールスフォース・ドットコムだ。同社は2000年に日本市場に上陸して以来、オンデマンド型CRMスイートである「Salesforce CRM」を擁してSaaS市場をけん引してきた。

これに、同じく米国から進出したネットスイートが続く。オンデマンドERPスイートをひっさげて日本市場に参入した同社はさらに2008年12月、日本の会計基準や税制に対応した「NetSuite-Release J」を発表。日本市場にさらなる攻勢をかけつつある。

国内ベンダーの追撃が始まる

「インターネットの企業利用は当初、誰もが一笑に付したものだが、今や常識。これと同様、企業にとってSaaSの利用は当たり前になる」。NECのSaaSシステム技術センター長である島野繁弘氏は、こう言い切る。当然だが国内のITベンダーは、米国企業が有力な新興市場を席巻するところを、指をくわえて見ているわけではない。各社はそれぞれ、自社製品のSaaS化や他社との協業に動いている。

特に大手メーカーは、ソフトウェアベンダーがSaaSを開発・運用するための基盤を提供し始めた。ハードやネットワーク、OS、ミドルウェアといったインフラのほか、ユーザー認証や契約・課金といったSaaSに不可欠な基本機能を提供。運用保守業務を代行する。さらに、パートナー・プログラムを通じてSaaSベンダーの事業立ち上げを支援する(次ページの図1-2)。

図1-2
図1-2 国内大手ベンダーや通信事業者が展開するSaaS基盤サービスのイメージ

こうした基盤ビジネスの成否は、有力なソフトをどれだけ多く調達できるかにかかっている。各社とも、ソフト提供者となるパートナー企業の獲得に余念がない。

NECは2008年10月、「RIACUBE/SP」と呼ぶSaaS基盤サービスを開始した。同サービスのパートナー・プログラムに参加するベンダーは、2009年2月時点で46社を数える。ここには、セールスフォース・ドットコムや日本オラクル、マイクロソフトも含まれる。

NECが力を入れるのは、既存のシステムやサービスとの連携機能である。具体的には、複数のSaaS間のサービス情報を共有するリポジトリや、外部システムとのインタフェースを用意している。他社が提供する基盤サービスとの連携も視野に入れている。

「ビジネスパーク」は、日本ユニシスが2008年12月に発表した基盤サービスだ。契約・課金や開発環境といった基本機能には「きっとASP」社の技術を、サーバーやネットワークには日本HPやシスコシステムズの機器を利用している。「自社製品にこだわらず、良いものを組み合わせてベスト・オブ・ブリードのサービスを提供できることが当社の強み」(同社ICTサービス本部の竹田昌弘サービス企画部長)。すでに、日輝情報システムがこの基盤上で工事管理や原価管理アプリケーションをSaaS化するプロジェクトに着手している。

日立製作所は1997年から、企業間電子商取引サービス「TWX-21」を提供。約3万8000社が利用し、年間約12兆円の取引を処理するサービスに育て上げた。そこで積み上げた技術や運営ノウハウを生かし、同社が2008年6月に開始したのが「SaaS型ビジネスアプリケーションサービス」である。同社の経営戦略室 事業戦略本部 担当本部長である香田克也氏は、「TWX-21で月額課金モデルを10年にわたって運営し、実際に黒字化した。その実績こそ、他社にはない当社の大きな優位点だ」と話す。

富士通が提供する基盤サービスは、「SaaSプラットフォームサービス」だ。同社のサービスビジネス本部SaaSビジネス推進部長である横山耕三氏は、「当社には長年にわたりアウトソーシング事業に携わってきた経験と技術がある。それらを生かして、信頼性の高いサービスを提供していく」とSaaSへの意気込みを語る。同サービスのパートナー・プログラムには、230社以上のベンダー企業が参加しているという。

通信事業者も参戦

通信事業者も、SaaS基盤の整備に乗り出している。中でもKDDIは、SaaSの波にいち早く反応した。同社がSaaSの事業化に着手したのは、2006年にさかのぼる。2007年6月にはマイクロソフトと提携し、「Business Port」と呼ぶSaaS基盤サービスを他社に先駆けて開始。2008年4月から、マイクロソフトの「Office Outlook 2007」をSaaS型で利用できる「Business Outlook」を提供中だ。

現在、Business Portのパートナー・プログラムにはソフト・ベンダー100社が参加。「Business Outlookをハブに、複数のSaaSを連携させる構想だ。SI企業との協力関係を強め、企業内システムとの連携にも注力していく」(ソリューション事業統括本部ソリューション戦略本部 アプリケーション推進部 1グループの傍島健友グループリーダー)。

NTT陣営も黙ってはいない。2008年12月、NTTコミュニケーションズとNTTデータ、NTT持ち株会社は3社共同でSaaS基盤サービスを展開していくことを発表。グループを挙げてSaaS市場に切り込む(詳細はパート2)。

ソフトベンダーは他社との協業へ

有力ソフトベンダーは、自社製品のSaaS化や他社との連携を急ぐ。

先陣を切ったのは、ピー・シー・エーである。同社は2008年5月、「PCA会計」など主力5製品をSaaS型で提供する「PCA for SaaS」を開始した。実は当初、このサービスはSaaSとしては変則的な料金体系で運営していた。ユーザーは月額使用料のほか、初期費用を支払う必要があった。これは、販売代理店のビジネスに配慮したためである。

ところが、いざサービスを開始してみると「販売代理店から『初期費用を不要にすればもっと売りやすくなる』という声が多く寄せられた」(同社の折登泰樹専務)。そこで同社は2009年2月、月額使用料だけでPCA for SaaSを利用できる「PCA for SaaS イニシャル“0”プラン」を追加した。

オービックビジネスコンサルタント(OBC)は、協業戦略を推し進める。2007年から、大手SIのTISと共同して企業間のEDI(電子データ交換)をSaaSで提供。2008年10月には、「奉行V ERPシリーズ」をセールスフォース・ドットコムのSalesforce CRMとデータ連携させるサービスを発表した。一方で、自社製品のSaaS化も進めている。2009年4月には「奉行 for SaaS」を提供する予定だ。

弥生も後手を踏む気はない。2009年中には、パッケージの機能限定版をSaaSで提供。2010年には通常製品と同等の機能をネットワーク経由で提供予定だ。「SaaSとパッケージの2枚看板を掲げていく」(岡本浩一郎社長)。

インフォテリアやサイボウズなど27社のソフトベンダーが参加するコンソーシアム、MIJSも独自のSaaS基盤を立ち上げようとしている。すでに、ソフト間のトランザクション連携やマスター共通化を済ませた。2009年2月には、NTTコミュニケーションズと共同で技術検証を始めた。MIJSの視線の先にあるのは、海外市場だ。根岸敦之事務局長は「国産ソフトを海外に持っていくには、パッケージ販売ではなく利用型が有効」とSaaSへの期待を示す。

水面下の主導権争いに注目

外資系大手ベンダーの動きも気になるところだ(図1-3)。IBMは2009年1月、メールやコラボレーションなどの機能をSaaSで提供する新サービス「LotusLive」を米国で発表した。日本でのサービス開始時期は明らかにしていないが、幅広いユーザーから根強い支持を受けるロータス・ブランドのソフトがSaaSで提供されるとなれば、市場で大きな存在感を示すことは間違いない。

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図1-3 外資系ベンダーが進めるSaaS関連の取り組み

マイクロソフトも、Dynamics CRMのSaaS版を提供済み。2009年10月に「Azure Services Platform」を発表したほか、主要ソフトのSaaS化を進めている。

オラクルは、2つの立場からSaaSに期待を寄せる。1つは、SaaSベンダーとしての立場である。同社のSaaS型CRMソフト「CRM On Demand」には、既存顧客からの引き合いが急増しているという。もう1つ、データベースソフトの提供者としての立場からも、SaaSの普及を歓迎する。「SaaS事業者は当社のソフトの大規模ユーザーになる」(日本オラクル執行役員CRM On Demand本部長の藤本寛氏)。

上に挙げた3社と対照的なのは、SAPである。同社はmySAP CRMをオンデマンドで利用できる「CRM On-Demand」を2006年4月から国内で提供中。しかし、その位置付けは「新規顧客がオンプレミス型のSAPソリューションを導入するまでの“つなぎ”」(SAPジャパンの岡村崇 バイスプレジデント)と限定的だ。欧米では2007年から提供しているSaaS型のERPパッケージ「Business By Design」を日本市場に投入する時期も未定である。

ただし外資系の動きは、これがすべてではない。日本オラクルの関係者は、「(CRM On Demandは)ほんの始まりでしかない。他社の動きを見極めながら、2〜3年後には皆さんが驚くようなことを考えている」と話す。SaaSの延長線上にあるPaaSやIaaSに関しても、米インテルやシスコシステムズ、ヒューレット・パッカードが、それぞれの立場で戦略を練っている模様だ。

オンプレミスからSaaSへ、そしてIaaSやクラウドへ−。この流れの水面下では、次世代のコンピューティング環境を主導しようとする動きが進んでいる。日本のIT企業は、その中でどんな立場を確保できるのか、ユーザー企業は自社のIT基盤やアプリケーション基盤をどのベンダーに任せるべきなのか。SaaSが本番を迎えようとする今、そうした問題意識を持つことが賢明なユーザー企業の条件と言えそうだ。

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