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第6回 意識や行動が突き抜けたインフォーマルリーダーを育てる
「当社の成長を支えているのは、実は会社が任命した管理職のマネジメントではなく、あちこちの部署にいるリーダーシップの強い一般社員なんですよ」。先日、あるIT関連会社の役員がこう話してくれた。彼の言う「リーダーシップの強い一般社員」を私たちは、“インフォーマルリーダー”と呼んでいる。読んで字のごとく、正式には任命されていないけれど、意識や行動が突き抜けていて、同僚の成果・成長の支援を意識して牽引できる人のことである。

管理職にとっての障害
これまでのコンサルティングの経験から、このインフォーマルリーダーの特性を持った人が多い組織が高い成果を上げていることが分かっている。それはなぜだろうか?
フォーマルなリーダー、つまり会社が任命した管理職には“会社へのしがらみ”がつきまとい、実はブレイクスルー(突き抜けた意識と行動)がしにくいという側面がある。私はこれを、「縮こまり管理職の障害ABC」として指摘している。具体的には、Accountability(組織への責任)、Behavior(忠実な態度)、Control(部下の管理や統制)である。この3つを深く認識する管理職が組織ではいい評価を得るわけだが、これらばかりを意識すると前例やバランスを重視するようになり、ブレイクスルーが難くなってしまうのである。
一方、インフォーマルリーダーが持ち合わせている資質もABCの3つで整理できる。それは、Action(行動力)、Belief(信念)、Commitment(遂行)だ。
Actionは、周囲の人を巻き込んで「とにかくやってみよう!」とする高い意識のこと。同僚や仲間の能動的な行動を引き出すことができる。Beliefは、自分なりの価値観や座標軸を持って日頃から発言し、行動できることである。そしてCommitmentは、一旦決めたら少しぐらいのことで諦めずに固い決意でことに当たる意思である。

行動、信念、そして遂行
ここで、自分がインフォーマルリーダーとなるための方法論をABC3つの要素の順に提示してみる。
まず、Actionを身に付けよう。それには、自分を成長させられる“場の醸成”が不可欠である。「とにかくやってみよう」といつも高い行動力を保有している人をインタビューすると、ほとんどが会社以外で仕事力や人間力を鍛錬する“場”を持っている。異業種交流会や社外セミナーに積極的に参加したり、社内外で勉強会を主催したりしているのだ。自ら醸成した“場”で多くの刺激を受け、それをバネに行動力のエンジンを回転させているわけである。
Beliefを強く持つにはどうしたらいいのだろうか? 重要となるのは、知恵や考え方をぶつけ合う機会を増やすことである。つまり、人と人とのケミストリー(化学反応)によって、自己の価値観や座標軸を強固なものにしていくことである。それには、考え方の異なる多くの人たちと意識的に接しながら、深い思考で自分の考えを構築することが欠かせない。ダイレクトなコミュニケーションが望ましいが、IT社会においては、サイバーコミュニケーションによっても知恵のケミストリーは実現できる。とにかく、面倒くさがらずに接触を絶やさないことである。
Commitmentを養うには、常に小さな目標を設定して、それをやり遂げる癖を付けるのが有効だ。たとえば読書量でもいい。2週間を1ユニットとして、自分の興味のある分野のビジネス書を読み込み、そのポイントを自分なりのノートにまとめるという目標を立てる。3カ月6冊の本で、ある分野の一定の知見が身に付くというゴール設定だ。もちろん、それはスポーツジムでも、食事制限でも構わない。何か記録を残して「自分なりにできた」という実感を獲得することである。このような習慣を付けることにより、仕事のミッションにも、しっかりとコミットメントする力が養われていくはずである。

すぐに始められる意識と行動
ここまで読んできた読者は、Action、Belief、Commitmentの方法論は、「○○のための仕事術」などの自己啓発本によく書いてあることで、「一朝一夕ではなかなかできないよ」というかもしれない。しかし、1つでも2つでもいいから是非始めてほしい。なぜなら、始めることで今まで見えてなかった何かが、確実に見えてくるからである。
そこまで構えなくとも、インフォーマルリーダーの素養として、さほど努力しなくても意識すれば始められる行動を2つ紹介しよう。
1つは、「情報発信」だ。「これは、あの人が必要としている情報だ」「このことを教えてあげると、きっと本人は助かるだろう」というものをピックアップして、該当する人にメールするなり、コピーを渡すなりで知らせてあげることである。あなたから情報を受け取った相手は、それが“ドンピシャ”のものであれば大いに喜ぶし、「知ってるよ」「今のところは…」というものであっても、あなたの行動に感謝し、あなたにも有益な情報を提供したいと考えるようになるだろう。
もう1つは、モチベーションが落ちている人を意識的に誘い出すことだ。ランチでも夜の1杯でもいい。あるいは、その人を複数で囲んだ懇親でもいいだろう。別にモチベーション低下の原因を聞き届け、解決してあげるわけではない。目的は「盛り上げ」だ。インフォーマルリーダーは、“宴会部長”としてのエッセンスも持ち合わせている。つまり、人を楽しませる手法を持っていることだ。ここでも、誘ってもらった本人は、「私を気にしてくれている」と認識するだろうし、みんなでワイワイやったことで、「リセットして頑張ろう」という気になるのである。
勘のいい読者は、この2つの意識と行動に共通していることが見出せているはずだ。つまり、インフォーマルリーダーは他人のことを気にする人でなければならない。この時代、「自分のことで精一杯で、人のことまでは」という声が聞こえてきそうだが、他人を意識し、他人にとって良きことを実践した結果、自分の仕事に幅ができて仕事が楽しくなっている事例を多く見てきた。そして、フォーマルなリーダーつまり管理職に登用されたとき、インフォーマルリーダーの経験が深いレベルで活かされてくるのである。

予備軍を育成しよう
さて、ITリーダーは自らがインフォーマルリーダーとしての資質を身に付けなければならないが、一方で後輩や同僚の中からインフォーマルリーダーになれそうな人に働きかけをして、育成することも大事だ。この人なら大丈夫だと見極める「行動様式」をいくつか紹介したい。
たとえば、「いつも組織に新しい提案を出す人」「後輩の面倒見がいい人」「社内勉強会を誰に言われることなく主催する人」「社外に多くの知り合いを持っている人」などが代表例だ。こうした行動ができる人に共通するポイントは次の3つである。
1つめは、「モチベーションが常に安定している人」である。なるべく高めに安定していることが望ましいが、重要なのはやる気が乱高下しないことだ。モチベーションが不安定な人は、周りの人を引っ張っていくことは難しい。少しぐらいモチベーションが下がる事象に出くわしても、すぐに戻せる術を持っていることも重要である。
2つめは、「他人のモチベーションを気にしている人」だ。リーダーシップには、「他人への配慮の志向性」が不可欠。「ここのところAさんのやる気が落ちているようですが、何かあったんですかね」などとあなたに相談してきている人がいたら、有力な候補と言えるわけだ。つまり、周りの人を気にできるというのは、視野が広く、人間力がある証明である。
そして3つめとして、「成長欲求」が何よりポイントとなる。ビジネスパーソンとして、少しでも“高み”を目指したいという気持ちがないと、権限も与えられていないのに同僚や後輩を意識し、彼らや組織自体を牽引しようとする気概は起こりようにないわけだ。

1つの事例を紹介しよう。私の講演を聞いてくれた、あるIT関連会社のマネジャーの報告である。
彼の部下K君は、仕事をコツコツとこなしていく寡黙なタイプで、“成長欲求”は、あまり持ち合わせていないというのが上司としての印象だった。しかし、K君への期待があるので“成長欲求”を刺激しようと考え、私が講演で話した「1年後どうなっていたいか」をレポートしてもらうことに。最初は、技術レベルの向上や資格試験の合格など、おおよそ自分のことばかりが中心だった。そこで目線を変え、同僚にどう見られるようになりたいか、お客様からどうみられたいか、など何度も面談をしたという。結果、彼は目標となる先輩をロールモデルとして選び、「その先輩は何ができるから周りに認められているのか、どういう意識だからお客様から評判がいいのか」を洞察するようになったという。
これらのことを始めて1カ月たったころ、会議ではしっかり自分の意見を言うようになったり、外部セミナーに出たときはその内容をまとめてチームのメンバーにメールしたりするようになったそうだ。さらに、新人が入ると積極的に面倒を見たり、業務改善を提案して、チームメンバーの仕事のやり易さを実現したともいう。このK君は、インフォーマルリーダーとして確実に同僚から頼られる存在に育っていくはずだ。
成果を追求し、組織員が高い志を持って仕事をしてもらうためには、少しでも多くのインフォーマルリーダーを育成して、“多様なリーダーシップ”が組織を動かすようになることが理想である。それには、あなた自身の変革が何より必要となるだろう。
大塚 雅樹 おおつか・まさき
JTBモチベーションズ 代表取締役社長
1961年東京都生まれ。86年、明治大学法学部法律学科を卒業しJTB(日本交通公社)に入社。91年、社内公募で市場開発室に異動しワークモチベーションの研究を開始。93年、JTBモチベーションズ設立と同時に出向、2004年に代表取締役社長に就任し現在に至る。著書に「やる気を科学する」(河出書房新社)、「明日の出社が楽しくなる本」(インデックスコミュニケーションズ)など。
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