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Part6 まずは「情報系」からクラウドシフトが加速する--メリハリあるIT投資にSaaSは不可欠

座談会〜SaaS市場展望

SaaSビジネスを手がける企業は市場トレンドをどうとらえているのか。4社の代表が、ユーザーの意識の変化や SaaS普及の障害、将来展望を本音で語った。そこには、SaaSに寄せられるコストと機動性への期待と、 自前の基幹系システムとサービスを組み合わせた効率的なITの将来の姿が見えてきた。(文中敬称略)

聞き手:本誌副編集長 川上 潤司 Photo:的野 弘路

間下浩之氏 間下 浩之
富士ソフト
営業本部 副本部長
組込系システム開発や受託計算から出発した富士ソフトは、受託開発型から提案型へのビジネスモデルの転換に取り組む。昨年6月には、Google Appsの企業向けバージョン『Google Apps Premier Edition』の国内初の販売代理店に。今年4月からは、同サービスを使った社内の情報管理システムも運用する

─ SaaS導入の機運が国内でも高まっているように思うのですが、市場の変化をどう見ていますか。

間下: グーグルのメールやグループウェアを企業向けに提供する「Google Apps Premier Edition」の販売を始めて約半年ですが、現在、数百社の案件が動いています。コスト意識が高いユーザーが、真剣に検討を始めました。特に昨年11月以降は、商談件数が急激に増えていますね。

コスト面で圧倒的なメリットがあるとなれば、特に「情報系」と言われる分野ではデータがどこにあるかとか、セキュリティはどうなのかといった、世間でよく言われる不安材料を並べていつまでも先送りにすることが許されなくなってきたのが現状ではないでしょうか。Google Appsはとにかくコストを下げたいというニーズに合っていると感じています。社員数が1万人以上の大企業でも状況は同じ。業種も関係ありませんね。

宮田: セールスフォースのビジネスを約3年手掛けてきましたが、3年前と今ではユーザーは相当変わってきました。以前は、使わないことの“言い訳”を探しているユーザーが多かったのですが、今は、ユーザーの方から「この課題をクリアできないだろうか」と持ちかけられます。ユーザーが本気になってきたのが分かりますね。

導入の動機や理由としては従量制というコスト面よりも、やりたいことを早くやる手段として注目している感じがします。ユーザーとしては、戦略的な業務システムをスピーディーに構築して機会損失を防ぎたい。そのためにSaaSが使えないだろうか、と考えているのではないでしょうか。

豊本: 特に首都圏の企業では、SaaSの認知度が上がってきていると思います。全体としてはクラウドというくくりになるのでしょうが、地に足が着いている部分としてSaaSを利用しようという土壌ができてきています。データを社外に置いて大丈夫か、サービス水準の合意としてSLAは結べるのか、といった点を気にする声はまだありますが、選択肢の1つとして認められつつあります。

適用分野としては、やはりCRMなどの情報系が多いのが現状です。日本に本社があって、海外展開している企業などでは、身軽なSaaSがなじむのか「明日にでも始めたい」といった声も出始めました。

─ 情報系ではSaaSが有力な選択肢となりつつあるということですが、中堅中小企業の基幹系システムをSaaSモデルでも提供しているPCAさんは、どう見ていますか。

篠崎: 当社のユーザーは社員が100人以下の企業が多く、SaaSという言葉は響きません。SaaSというより、複数台のPCで複数拠点から利用したいというユーザーに「ネットで利用できますよ」とアピールしています。

IT人材の確保に悩む小規模なユーザーは、とにかく解決したい課題を優先して考えていますから、データを社外に出すことへの不安の声はほとんど聞きませんね。

カスタマイズへの対応が現実的な普及を促進

─ アプリケーションをネット越しに利用するという点では、かつてASPが注目されたものの、なかなか浸透しませんでした。ここにきてSaaSが普及の兆しを見せるというのは大きな変化があったということなのでしょうか。

宮田:複数のサービスを組み合わせたり、カスタマイズできたりすれば、ASPも広がったかもしれませんね。

豊本: そう思います。セールスフォースも当初はASP型の域を出ず、カスタマイズは難しかった。そのやり方では厳しいということで、SaaSモデルに作り直して、カスタイマイズ性が向上し、今のように普及してきたのです。仮想化やネットワーク環境といった技術面でのブレークスルーは確かにありましたが、カスタイマイズできるようにしたことが、大きかったんだと思います。

間下:  もっともユーザーからすれば、ASPであろうがSaaSであろうが、サービスを支える技術論は二の次です。スピーディーに導入したい、レスポンスを確保したい…。やりたいことができて、しかもコストが安い、というニーズに応えられれば良いんです。

基幹となる業務システムは残り情報系システムはSaaSへ

宮田隆司氏 宮田 隆司
みずほ情報総研
金融ソリューション第2部 部長
第一勧銀情報システム、富士総合研究所、興銀システム開発の3社の統合によって誕生したみずほ情報総研は、システムインテグレーション、アウトソーシング、コンサルティングの3つの事業を展開。セールスフォース・ドットコムと業務提携して、SaaSによる顧客管理・営業支援サービスを提供する

─ 情報系の分野からSaaS普及が進んだとして、最終的にすべてのシステムがSaaSモデルで置き換わる可能性はいかがでしょう?

間下:  基幹業務系のシステムをSaaSにすべて置き換えるのは、まだ難しそうですね。情報系システムの場合、機能的にはそれほど差別化要因がありませんから、外に任せても良いという話になりやすい。しかし、基幹業務系システムのSaaSへの移行となると壁は厚い。やはりデータを外に出すのは抵抗があるというユーザーは少なくありません。大企業では7〜8割がそう考えている。まだ踏み出せないという声はしばらく続きそうです。

宮田:金融機関が勘定系システムをSaaSでまかなうというのは考えにくいですよね。IT投資の効率化という観点では、地銀が取り組んでいるセンター共同化などが限界かもしれません。

間下:  あえて言うと、基幹系システムのバックアップとか、ピーク時にイレギュラーで飛び出してしまう処理とかをカバーするといった領域でSaaS利用というのは考えられますね。

豊本: 新商品を発売した際のコールセンター業務などは、格好の対象になるかもしれません。

─ 情報系システムだとしても、SaaS利用には少なからず現場の抵抗がありそうですが。

間下:  当社では、全社員1万人に対して、4月からGoogle Appsを導入することを決めたのですが、全く抵抗はありませんでした。個人レベルでGmailを使っていた人も多く、すでに使い慣れているんですね。それがエンタープライズ版になって、独自ドメインが使えたり、セキュリティが強化されたり、企業として使いやすくなれば、さらに良いのでは、という感じです。

この例ですべてのSaaSを代弁するわけにもいきまんが、いざ使い始めてみると、慣れるのは案外早い。さらにユーザーに鍛えられて機能も進化するのですから、抵抗するよりはまず使ってみるべきでしょう。

ただ毎日のように機能が変わるのは、ちょっと困りものですね(笑)。どんどん良いものに進化していくからこそ、SaaSなのでしょうが、それに企業活動が振り回されると本末転倒です。

ベンダーとユーザー間の信頼関係の構築が普及の鍵に

豊本英文氏 豊本 英文
日立ソフトウェアエンジニアリング産業システム事業部 産業サービス本部
チーフプロジェクトマネージャ
日立ソフトは、システム開発、サービス、プロダクト&パッケージの3つを主な事業領域としながら、ハードウェア機器販売も含むトータルなシステムインテグレーションサービスを提供している。セールスフォース・ドットコムと業務提携し、SaaSビジネスを推進している

─ 提供者側が頻繁にアプリケーションに変更を加えることは、B to Bのビジネスの視点から見るとマイナス要因にはなりませんか?

豊本: この市場で先行するセールスフォースにしても年3回はバージョンアップがありますし、それ以外でもいつの間にかパッチがあてられていることもしばしばです。他社に対する競争力の強化という面では必要かもしれませんが、我々リセラーとしてはやりにくいし、ユーザーが混乱する場面も少なからずありますね。

宮田:金融機関では、アプリケーションが変更されるたびに社内での「リリース手続き」が必要なので、頻繁に変更があるのは正直つらいですよ。これは、情報システム部門が、システムの質を自分たちで保証してきたという文化の違いもあると思います。

豊本: とはいえ、進化を続けるからこそ安定性が高まるのも事実です。それでも不安が拭い去れないのか、SaaSというだけで、ユーザー企業の見方は厳しくなるようです。

間下:  グーグルなんかは世界中の何億人もが使っています。これだけの厳しいテストを行っているシステムは他にはないんですけどね。

─ 企業側からSLAを求められたり、安全性について追求されたりすることは、多いのでしょうか。

豊本: SLAを結べるかどうかを打診される例は以前からありました。最近では、解約時のデータ消去は誰が保証してくれるのか、といった具体的な質問を受けることが増えてきました。

篠崎: 当社のユーザーではあまり話が出ませんが、大企業の関連会社では、データの廃棄方法については突っ込んで聞いてきます。

間下:  グーグルは、データが多数のサーバーに分散されて格納されています。データがどこにあるか分からないようになっており、これこそ最大のセキュリティシステムとも言えるでしょう。

─ 近い将来、セキュリティや可用性については、あまりにも当然で、議論の対象にならなくなるかも知れませんね。むしろ、ベンダー企業の信頼度とかが重要になってくるのでは。

間下:  そうですね。万が一、情報漏えいが発生したらどうしてくれるのか、と聞かれることがあります。私たちで言えば、グーグルや富士ソフトをどこまで信用してもらえるか、ということになるでしょう。

篠崎: SLAまでは結んでいませんが、バックアップシステムはどうなっているかなど、できる限りの情報を開示しています。そうした姿勢が、信頼につながるのではないでしょうか。

情報システム部門の本来の役割が問われる

篠崎 洋介氏 篠崎 洋介
ピー・シー・エー
戦略企画部 企画課 課長代理
『PCA会計』を中心に中堅・中小企業向けの統合基幹業務系パッケージを販売するピー・シー・エーは、昨年5月から「PCA for SaaS」としてSaaSモデルのサービスを開始。今年2月には、初期費用なしで、「サーバー利用ライセンス」と「ソフト利用ライセンス」を合計した月額費用だけで「PCA for SaaS」を利用できる料金プランを開始した

─ SaaSというモデルが普及することで、情報システム部門の役割はどうなると考えていますか。

宮田:大きく変わるでしょうね。サービスをどうユーザーに浸透させるのか、システムをどう経営に活かすのか、といった本来あるべき姿に変わるはずです。

システムを開発するという仕事が半分は残るでしょうが、SaaSによって情報システム部門は良い方向に変わると思います。

豊本: それだけ情報システム部門にとって厳しい時代が来る、という言い方もできます。今までは決められたものを作ればよかったのが、これからはどう使いこなすかを考えなければなりません。違う次元からの発想が求められるのです。

宮田: 達成感も変わってくるでしょうね。今までは「システムをリリースしたぞ」と喜んでいたのが、これからは、エンドユーザーの「使って良かった」という声を聞いて、達成感を味わうようになるのでしょう。

間下:  SaaSモデルで、具体的な仕事内容も変わるでしょうね。例えば、メールを管理する仕事がなくなって、Webのコンテンツの充実を図る仕事にシフトするとか、もっと知的でクリエイティブな仕事ができるようになるのではないかと思います。

─ 情報システム部門が自ら研究して、意思を持って導入していくことが必要になりますね。そうなった時に、日本のIT産業の価値はどこにあるのでしょうか。SaaSについては現在は外資系のものが圧倒的なわけですが。

間下:  国産パッケージをSaaS化しようというMIJS(メイド・イン・ジャパン・ソフトウェア)コンソーシアムの取り組みなど、日本のIT産業も頑張っていると思います。私たちとしては、特に外資系にこだわるわけではなく、良いものがあれば国産のものも積極的に提供していきます。

豊本: 今はたまたま外資系の製品を使っていますが、私たちインテグレータとしては、日本の良いものも育ててインテグレーションしていきたいですね。使いやすいもの、使いたいものを提供することが、ユーザーをハッピーにすることにつながります。

─ 3年後、5年後というスパンではどんな変化が起きるのでしょうか。SaaSはその変化へのワンステップということなのでしょうか。

宮田:私はSaaSとBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)が合体して、企業活動全体がスリム化していくのではないかと考えています。

豊本: 大きなイメージとしては、電気・ガス・水道のような社会インフラとしてのITになっていくと思います。必要なコンポーネントを組み合わせて、使った分だけ支払うという形です。少なくとも情報系はそうなるでしょうね。

企業のミッションクリティカルなところは自社で持っていて、足りない部分をSaaSやクラウドが補完するといった、ITに関して非常に効率の良い時代が来ると思います。

間下:  キーワードは「コモディティ化」です。サービス全体がコモディティ化して、コンピュータを持っているのは、世界に5つの企業だけ、みたいな世界がひょっとすると来るかもしれません。

サービスの価値を重視し、モノに執着しない気質が強い欧米は、コモディティ化が早く進むかもしれません。モノを所有したがる日本企業も発想転換が必要です。業務系システムは所有するが、情報系システムは所有しない

といった明確な基準を持って、IT戦略を描き直すべきでしょう。

宮田: グローバルな競争と変化にさらされる今、変化を拒む企業が生き残れないのは確かです。クラウドコンピューティングに象徴されるようにITの世界も大きく変わり始めています。どのようなタイミングで、どのように波に乗るべきか。その判断力が、企業に大きな差を生むことになります。

写真:インタビュー

 

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