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第7回 表面的な褒め言葉は逆効果 水面下のプロセスを称賛し続ける

目指せ! 褒め名人

若手社員のモチベーション低下が深刻化している。経済の閉塞感やそれに伴う将来への不安など、その原因は様々だ。どうすれば、厳しい環境の中で若手に前向きさを取り戻せるのか。それには、ITリーダーが積極的に彼らの承認欲求を満たし、職場での存在意義を感じさせてやることだ。

このところ、若手社員の離職者が増えているようだ。ある人材紹介会社の経営者は、「入社後3年以内の離職率は3割とよく言いますが、私の感覚ではそれが4割くらいに増えています」と教えてくれた。注目すべきは、その理由である。離職者と面談して会社をなぜ辞めたかを尋ねると、「周りから認められないので、仕事が楽しくならない」「孤独感を感じて自信を持てない」といった理由を挙げる声が少なくないという(図1)。

画像:人は認められることがないとモチベーションを保てない

こうした声は、多くの企業においてメンバー同士がお互いの行動をよく見て認め合う風土が欠落していることを示唆している。多くの経営者はその原因として、管理職がプレーイング・マネジャー化してきたことや、メールに代表されるサイバー・コミュニケーションがフェース・トゥー・フェースのやり取りにとって代わったことなどを挙げる。しかし、それらは極めて表層的なこと。深層には「認められたい」という、誰にでもある承認欲求に対する理解の不足がある。

安易な称賛は相手の意欲をそぐ

人は承認欲求を満たすために努力し、その努力を認められればさらに新しいことに挑戦しようという意欲を高める。承認欲求が満たされないと、やる気や向上心を失ってしまう。承認欲求は、いきいきと仕事に取り組むためのモチベーションを高める重要なエンジンだ。そして、このエンジンの燃料になるのが、「認める」「褒める」という行為である。

一言で褒めるといっても、それは意外に難しい(図2)。優秀なITリーダーほど、メンバーの行動や努力を「仕事なんだから、やって当然。褒めるほどのことではない」と感じるものだ。「どこをどう褒めればよいか分からない」と困惑することもあるだろう。しかし、メンバーの行動や成果を当然視して黙っていると、部下や後輩は「どうせ認められないならがんばっても無駄」と、やる気を低下させる。

画像:人を褒めるのは意外に難しい

それならばなんでもかんでも褒めればよいかというと、事はそれほど単純ではない。必要以上に褒めちぎると、かえって相手の意欲をそぐことがある。ほんのささいなことで「すごい!」「素晴らしい!」などと大仰に褒めたたえると、相手は「白々しい」「心にもないことを言っている」などと感じ、意欲をそがれる。

そこで今回は、互いの承認欲求を満たしてモチベーションを高め合う風土を培うかを、認める側と認められる側の両方の視点から考えていくことにしよう。

成果に至るプロセスを評価する

ある会合で、IT関連企業のA課長と人材育成について話していた時のことである。A課長が、こんな悩みを打ち明けた。部下のやる気を引き出すために、1人ひとりをできるだけ褒めるよう心がけている。ところが、メンバーの反応がいま一つらしい。筆者は、どんなことを褒めているのかをA課長に尋ねた。するとA課長は、「そうですねえ、期日までに仕事を仕上げてきたことやミスが少ないこと、周囲とうまくやっていることとか…」と答えた。

A課長の心がけは素晴らしい。しかし残念ながら、上記のような褒め方ではメンバーのモチベーションは上がらない。現状維持がせいぜいである。「期日を守った」「ミスが少なかった」といった褒め言葉は、そのメンバーの行動を表面的にしか見ていないからである。私はこの手のフィードバックを、氷山をイメージして「水面から上の称賛」と呼んでいる(図3)。

画像:“水面から下の称賛”で相手の承認欲求を満たす

ご存じのように、氷山の大部分は海の中にあり、海上に浮かんで見えているのは全体のほんの一部にすぎない。これと同様に、メンバーが本気で認めてほしいことは、もっと深いところにある。成果を出そうと自分なりに努力をしていることや工夫していること、苦手を克服したことなどである。メンバーの承認欲求を満たすには、目に見える成果だけでなく、そこに至るために試行錯誤して継続しているプロセスを深く見つめること。そして、節目節目でその努力や工夫を称賛し続けることが重要である。

こうした水面から下の称賛は、モチベーションというエンジンに燃料を注入する役割を果たす。「ささいなことでも褒めるよう心がけているのに、メンバーがやる気を出さない」と言う人は、メンバーの水面から下の努力をきちんと称賛できているかどうか振り返ってみてほしい。

承認の場は社内に限らない

ここまでは、ITリーダーがどのような意識でメンバーを認めていくべきかを述べた。ここからは、自分自身の「認められたい」という承認欲求をどのように満たしていくかを考えてみたい。

私たち日本人は欧米人に比べて、承認欲求を表に出すことをよしとしないところがある。人を押しのけて自分の功績を認めてもらおうとして、「自己顕示欲の強い人」というレッテルを張られることを恐れるがゆえである。文化や教育など、その原因をここで議論をすると誌面が足りなくなるが、ここで共有しておきたいのは日本人の「認められたい」という承認欲求は顕在化されにくいため見過ごされることが多々ある、ということである。

確かに、自らの成果や功績を積極的にアピールしないという慎み深さは、日本人ならではの美徳だろう。とはいえ、そのために承認欲求を犠牲にして仕事のモチベーションを低下させては無意味である。そこで、承認欲求を上手に満たす3つの行動を提案したい。「承認される場の確保」「自分軸の創造」「褒め名人になる」である(図4)。

画像:自分自身の承認欲求を満たす3つの行動

まず、1つめの「承認される場の確保」である。自分の考えや新しくチャレンジした事柄、達成した成果を自分の信頼できる人に伝えて、それらにコメントしてもらうルートを構築するのだ。社内であればイントラネットの掲示板やSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)、あるいは、信頼できる先輩や上司との雑談や定期的な飲み会でもよい。

社内だけでなく、社外の情報発信ルートも確保したい。異業種交流や社外勉強会、気の合う友人との飲み会でもよい。ここで賢明な読者は「仕事での行動や成果を認めてほしいのは、その仕事を理解している社内の人。事情を知らない社外の人に称賛されてもうれしくないのでは」と疑問に思うかもしれない。しかし実は、社外のメンバーから認められたほうが、かえってモチベーションは上がることは多い。

皆さんは、こんな経験はないだろうか。異なる業界に進んだ学生時代の友人と久しぶりに飲んで、自分が取り組んだ成功プロジェクトの話をした。友人は自分の話を興味深く耳を傾け、「お前もがんばってるな」とコメントしてくれた。そのコメントに、職場の上司や先輩に認められたときよりも強い達成感を感じた—。社内のメンバー間においては、承認する側もされる側も心のどこかで人事評価や査定を意識しがち。直接的な利害がからむため、必ずしも認められる場にならないこともある。その点、社外の知人や友人は査定など関係なく、純粋にその行為の本質を認めてくれる。このため、翌日からのモチベーション向上につながりやすい。

“自分軸”で褒められ上手に

自分自身の承認欲求を満たす2つめの工夫は、「自分軸の創造」である。仕事への挑戦や改革、成果を人から認められたいと思うなら、仕事をする上での自分の信念、つまり“自分軸”を構築することである。自分軸とは例えば、「確実に納期は守る」「新しい技術を誰よりも早く身につける」「いつもユーザーの立場に立って考える」といったことである。

自分軸は、人から認められるためのベースになる。というのも、人は誰かを認めて褒めるとき、その事柄もさることながら、その相手の日ごろの考え方や仕事ぶりを基準にすることが多いからだ。自分軸がある人はそれに照らし合わせながら言及できるので褒めやすい。反対に、自分軸のない人は基準がないので褒めにくい。

ただし、自分軸は一朝一夕に得られるものではない。社内外の人たちと多くの時間を使って交流し、様々なものの見方や価値観を知ること。加えて、自分の行動を認められたり認められなかったりする体験をすること。そうしたなかである程度の時間をかけて創り上げていくものである。

褒め上手は褒められ上手

自分のことを認めてもらうために、様々な手法を使ってあちこちでアピールしても、日ごろからあなたにシンパシーを感じていない人には受け入れられにくい。シンパシーを感じてもらうには、人とコミュニケーションを取る際にその人の考え方や人間性の優れたところを深く見抜き、褒めることである。これにより、相手は「この人は分かっている」「鋭い観察眼を持っている」などと感じ、あなたに一目置くようになるだろう。自分自身が「褒め名人」になることで、自分の承認欲求を受け入れてもらいやすくなるわけだ。

ただし、心のこもらないお世辞を言っても、すぐ気づかれる。かえって「信用できない人」という印象を与えてしまうだろう。嫌味なく、本気で褒めることが重要である。褒め名人になるには、洞察力と表現力に磨きをかける必要がある。そのレベルが高まってくると、必ずや「あの人に褒めてほしい」と思う人が現れ、結果として自分自身の承認欲求も満たされる。実際、モチベーションの高い人はたいてい褒め上手だ。周囲の人をきちんと褒めることにより、相手からも認めてもらう術を身につけている。

私がこれまで出会った最高の褒め名人は、ダイエーの元CEOで現在は東京日産自動車販売の社長である林文子さんだ。彼女は人と3分話しただけでその相手の思考や価値観を見抜き、彼女なりの言葉で褒めたたえる。次に会ったときは、前回に増して様々な情報を付け加え、本人も気づいていない長所をたたえる。こうして、相手の深層に眠っているやる気を呼び起こしてくれるのだ。私は彼女のことを、「承認欲求の魔術師」と思っている。

大塚 雅樹 おおつか・まさき

JTBモチベーションズ 代表取締役社長
1961年東京都生まれ。86年、明治大学法学部法律学科を卒業しJTB(日本交通公社)に入社。91年、社内公募で市場開発室に異動しワークモチベーションの研究を開始。93年、JTBモチベーションズ設立と同時に出向、2004年に代表取締役社長に就任し現在に至る。著書に「やる気を科学する」(河出書房新社)、「明日の出社が楽しくなる本」(インデックスコミュニケーションズ)など。

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