PR

Part1 言葉だけの「顧客志向」から脱却、100年に1度のチャンスが到来

ピンチの中にチャンスあり-。「100年に1度」と言われる経済環境をチャンスと捉え、CRMの強化に乗り出す企業が相次いでいる。拡大を続けるCRM市場の動向と、過去の失敗を繰り返さないための勘所をまとめる。

図1-1 CRMの全体像

2008年度における日本企業全体の損益を合計すると赤字に転落する−。未曾有という言葉がピタリと当てはまる世界経済の歴史的低迷。消費者の購買行動は冷え込み、企業も投資や人材採用を切り詰める。IT投資も例外ではなく、凍結や延期になるプロジェクトが激増している。

そんな状況下でも製品やサービスが増加し、導入する企業も増えているITがある。CRM、つまり顧客との関係を様々な側面で強化するものだ。カバー範囲は、営業やサービスといった顧客対応の中核業務はもちろん、新製品開発や新規顧客開拓に向けた情報管理・分析などを含む(図1-1)。

抑制あるいは凍結傾向にある企業のIT投資の中で「CRMは例外」との予測もある。ミック経済研究所によると、CRMパッケージの市場規模は2009年度に前年度比11.7%増の286億円となり、その後も拡大を続ける(図1-2)。この傾向は日本国内だけにとどまらない。米ガートナーの調べでは、欧州でもCRMパッケージの市場は2009年に前年比4%だが、増加する。

図1-2 国内のCRMパッケージ市場規模

着実に増加するユーザー企業

表1-1を見てほしい。ここに挙げた40社はCRMに積極的に取り組んでいる国内企業の、ほんの一例である。CRMの強化に向けた動きは業種を問わず広がっている。

表1-1 CRMに積極的な国内企業の例
  企業名 主な利用製品/サービス
電気 シャープ Salesforce CRM
ブラザー工業 eセールスマネージャー
堀場製作所 SAP CRM
横河電機 SAP CRM
機械 IHI SugarCRM
御池鉄工所 Microsoft Dynamics CRM
精密機器 川澄化学工業 Microsoft Dynamics CRM
コニカミノルタセンシング Oracle CRM On Demand
リコー RightNow
自動車 トヨタ自動車 PeopleSoft Enterprise CRM
製薬 資生堂薬品 eセールスマネージャー
鳥居薬品 SAP CRM
食品 マルコメ eセールスマネージャー
ヤクルト本社 FASTSFA KM+
パルプ・紙 王子製紙 Pivotal CRM
化学工業 花王 エコーシステム(花王独自)
カネボウ化粧品 エコーシステム(花王独自)
ジョンソン・エンド・ジョンソン Salesforce CRM
金融 セコム損害保険 PeopleSoft Enterprise CRM
東京海上日動フィナンシャル生命 Salesforce CRM
松井証券 RightNow
横浜銀行 SAS CUSTOMER INTELLIGENCE
商社 青山商事 eMplex CRM
高千穂交易 Onyx Enterprise CRM
テリロジー Microsoft Dynamics CRM
丸紅 eMplex CRM
小売業 イエローハット eセールスマネージャー
ベルーナ eMplex CRM
丸善 Microsoft Dynamics CRM
ローソン Salesforce CRM、SASシステム
通信 ソフトバンクテレコム SugarCRM
不動産 東京カンテイ Oracle CRM On Demand
三井不動産レジデンシャル eMplex CRM
サービス JTB eセールスマネージャー
ディップ COMPANY CRM for Sales
ニフティ Salesforce CRM
楽天 RightNow
空輸 全日本空輸 RightNow
ガス 大阪ガス eセールスマネージャー
日本海ガス Oracle Field Service
※ソフトメーカーやサービスプロバイダなどの公開情報より

カネボウ化粧品は2009年1月、CRMシステム「エコーシステム」を導入した。消費者向けの相談窓口や研究部門、工場で別々に管理していた消費者の「声」を一元管理することで、消費者対応の質を高めると共に、商品やサービスの開発・改良にも役立てる。

エコーシステムはCRMに積極的なことで知られる親会社の花王が独自開発した。同社は1978年に初めてエコーシステム導入した後、改良を重ね、現在は第6次システムを稼働させている。システムには商品情報と消費者からの相談内容に加え、商品の取扱店や身体に関する情報も格納。相談窓口に寄せられる問い合わせへの迅速な回答に活用するのはもちろんのこと、問い合わせ内容を検索・解析して商品開発やマーケティング活動に生かしている。

コンビニ大手のローソンは業務改革プロジェクト「PRiSM」の中で、地域や町に密着した店舗展開を推進中だ。具体的には、構築を進めている新システム「ローソン3.0」を使って、独自のカードサービスで得た顧客の購買履歴などを分析。全国約8600店舗を8タイプに分類して、店舗の来店客の生活スタイルに適した品ぞろえの充実を図っている。

「生活防衛型」の消費者増加で小売業の苦境が伝えられる中、同社は2009年2月期の決算で上場後過去最高益を見込む。それでもCRMの手を緩めない理由を、CIO(最高情報責任者)の横溝陽一常務執行役員は次のように説明する。「勝ち残りのカギは商品力。欲しい商品がないと顧客の4人中1人に来店してもらえなくなる」。

企業による設備投資や人材採用が減少傾向にあるのを受けて、IHIと求人情報サイトを運営するディップの2社はそれぞれ、既存顧客へのサービス力向上と営業力強化を目指して新CRMシステムを稼働させた(詳細はPart2)。

CRMの定着を阻害する悪循環

CRMは10年ほど前にも話題になり、新システムを導入する企業が相次いだ。どのような商品提案をしたら、新規顧客の獲得に結び付くか。新たな投資を検討している既存顧客はどこにいるのか−。企業はマーケティング戦略の立案や、営業の注力分野を見定めるために、顧客の購買行動やクレーム情報、販売実績を収集・分析するCRMシステムの導入を急いだ。しかし、CRMの動向に詳しい日本総合研究所の木下輝彦主席研究員は、「コールセンターのようなサービス業務では成功例が多いものの、マーケティング業務では少ない。セールスとなると、期待通りの成果を上げた例は数えるほどしかない」と語る。

なぜ、マーケティングやセールスの分野で、CRMの効果が出なかったのか。端的に言えば、「多くの企業が切迫した状況になかった」というのが、ユーザー企業のシステム担当者やコンサルタントの見解だ。CRMに熱心に取り組む必然性がないから、情報もシステムも活用しない。活用しないために情報が集まらない。集まらないので、さらに活用が進まない。悪循環がCRMの定着を阻み、成功から遠ざけていた。

例えば、かつても顧客の嗜好の移り変わりが激しくなったことが、CRMに取り組む動機の1つだった。ところが、今ほど消費は冷え込んでおらず、「一定のサイクルで新商品を出しておけば、そこそこ売れた」(ある消費財メーカー)。顧客への訪問記録や商談内容を事細かに分析して、重点顧客を見つける必要性が低かったわけだ。

現在に比べれば、人材の流動化が限定的だったこともある。営業やマーケティングの担当者の中にはベテランや中堅の社員が多く、CRMシステムで標準的な業務プロセスを規定して新人を支援しなくても、売り上げと利益に大きな支障を来たす心配が少なかった。

CRMシステムを全社員のエンジンに

言うまでもないが、今、企業が置かれた環境は10年前と異なる。掌握が困難なネットでの口コミ、海外製品やサービスの台頭による「値ごろ感」の変化、取引先の突然の破綻、ベテラン社員の退職と中堅社員の流動化、そして多くの企業にとって未経験の経済環境…。「商品やサービスを販売する」という全事業者に共通の礎がガラリと変わった。

もはや、言葉だけの「顧客志向」や、小手先のCRMは通用しない。セールスやマーケティング、サービスといった顧客接点を強化するのは当たり前。研究や設計・開発の現場にも顧客志向を定着させる。そのために企業はCRMを避けて通れない。成果を引き出すカギは、前述した負のスパイラルを逆回転させること。つまり、情報とシステムの「活用」だ(別掲記事「情報活用のDNAが、100年後の危機の備えに」)。

これから企業がCRMで目指すべき1つの姿が、ここにある。図1-3に示した「クローズド・ループ・マーケティング(CLM)」と呼ぶものだ。顧客の反応や市場動向、販売戦略など各種情報を、複数の部門間で途切れることなく共有し、スクラムを組んで1件の顧客に応じる。その際、セールスやマーケティング、サービスの担当者が足並みをそろえてを前進するための“エンジン”として、CRMシステムを活用する。

図1-3 CRMで目指すべき姿の1つ「クローズド・ループ・マーケティング」の概要
図1-3 CRMで目指すべき姿の1つ「クローズド・ループ・マーケティング」の概要
(日本総合研究所提供の資料を基に本誌が作成)

一見、絵空事に感じるかもしれないが、一般企業の営業に当たるMR(医薬情報担当者)の流動化が目立つ製薬企業の一部では、MR支援のためにすでに実践が始まっている。商品体系と保障内容が複雑なうえ、他業界からの中途採用が多い生命保険業界にも、CLMを取り入れる企業がある。

ITの選択肢が広がる

ソフトやサービスの選択肢が広がったことも、CRMの強化を目指す企業を後押ししている(詳細はPart4)。最初から大規模な展開を目指すのか、小規模に始めるか。営業の可視化にフォーカスするのか、既存顧客のセグメンテーションや市場開拓を主軸にスタートするか。企業は自社のCRM戦略に適したソフトやサービスを選ぶことができる。

一般にCRMシステムは、SFA(営業支援)に代表されるセールス向けの機能、メール配信やデータ分析といったマーケティング向けの機能、問い合わせ対応をはじめとするサービス向けの機能で構成する。日本オラクルの「Siebel CRM」や、SAPジャパンの「SAP CRM」は、これらの機能を一通り備える統合型のソフトだ。基幹系のERPパッケージとCRMシステムとの間で受注や製品のデータをやり取りしやすくするなど、引き合いから受注登録、アフターサービスまでのプロセスを一貫してシステムで支援できるようにする。

主に中規模向けのソフトには、マイクロソフトが2008年3月に出荷した「Dynamics CRM 4.0」がある。Outlookの画面からCRMシステムの機能を利用したり、CRMシステムのデータをExcelで集計してレポートを作成したりできる。セールスフォース・ドットコムの「Salesforce CRM」のようなSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)型ソフトは、数人規模でスタートする場合に選択肢に挙がることが多い。

セールスやマーケティングに特化した製品も充実してきた。ソフトブレーンのSFAソフト「eセールスマネージャー」は、携帯電話から情報入力できる手軽さが売り物の1つ。「COMPANY CRM for Sales」を提供するワークスアプリケーションズは、業務の見直しに伴う機能変更を追加料金なしで支援する定額保守サービスを用意し、段階的なシステム拡張を考える企業のニーズに応えようとしている。

マーケティング特化型では、SASインスティチュート ジャパンの「SAS CUSTOMER INTELLIGENCE」や、日本テラデータの「Teradata Relationship Manager」がある。いずれも、複数の統計手法を用いて大量のデータを分析し、顧客の購買パターンなどを見出す多機能BI(ビジネスインテリジェンス)ソフトだ。統合型より高度な分析機能を必要とする企業での利用を想定している。

Interview
情報活用のDNAが、100年後の危機の備えに

横澤 利昌 氏
長寿企業研究家 亜細亜大学 経営学部 教授

江戸時代から続いている長寿企業は、現在のような経済環境に何度も直面し、その都度乗り切ってきた。秘訣は、顧客との関係を大切にしてきたこと。

CRMでよく引き合いに出される例に、富山の薬商人が活用していた懸場帳がある。薬商人はここに、顧客が使用した薬の種類や量、家族構成に至るまできめ細かく記していた。次回訪問時に持っていく薬の種類と量を決める参考になるからだが、それだけではない。

懸場帳の情報から、顧客の家族が遠方に嫁いだことを知ることができた。そこで薬商人は全国各地にいる仲間の商人と協力して情報を収集して共有。消息が分かると、顧客に「娘さんは元気でした」と伝えていた。ちょっとしたことかもしれないが、情報の徹底活用が顧客との信頼関係強化につながっていた。

今は「100年に1度の危機」と言われているが、企業にとっては長寿企業になるためのDNAを社内に刻み込むことができる「100年に1度のチャンス」でもある。危機という字の「機」は、文字通りチャンスを意味している。企業は今こそ試行錯誤しながらCRMに取り組み、顧客との関係を強化する方法を見出していくべきだ。そうすれば、100年後に来るかもしれない経済危機だって乗り切れるだろう。 (談)

IT Leaders 毎月無料でお届けいたします

本誌は、読者登録いただくことにより、毎月無料でみなさまのお手元まで直接お届けいたします(書店などでは販売していません)。

企業の情報システムを担当する方々や事業部門のIT担当の方々、およびIT関連プロフェッショナルの方々を対象に、実践的に役立つ情報を掲載、幅広く業務にご活用いただけます。

IT Leaders新規購読お申し込みはこちらから
Ads by Google