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トヨタ、リコー、ミスミの問題意識 CIO100人が集う委員会で議論

リーマンショックから半年が経過し、2009年度に入った今、ユーザー企業の多くがIT投資を引き締めている。「引き締めざるを得ない」といった方が正確だろう。だが、そうした表層に目を奪われてはならない。先進的なユーザー企業は、視点をIT投資削減に置いているわけではないからだ。限られたIT投資予算をどう効果的に使うか、過去のやり方と決別するための議論がある。

「当社は従来のIT調達プロセスを抜本的に見直しました」─。経済産業省の主宰で、今年2月末に開かれた「CIO百人が考える電子政府研究会」の最終会合。ここで情報化投資に関する興味深い意見交換が行われた。

行政と民間のCIOが連携

渡辺捷昭社長
写真1 第1回CIO百人委員会で講演するトヨタ自動車の渡辺捷昭社長

本題に入る前に、あまり知られていないこの研究会を説明しよう。2008年10月にスタートした先進自治体のCIOと中央省庁のCIO補佐官による「行政CIOフォーラム」を子委員会とし、その親委員会として発足。同年11月5日に第1回会合が行われた。「行政機関の、より高度なIT利活用の推進」を目的に、子委員会での議論を施策として取りまとめるのが役割だ。

座長は、リコー副社長で経団連の電子行政推進部会長である遠藤紘一氏。官民を代表する有力CIOが歯に布を着せずに意見を交換してきた。さらにいえば、民間におけるIT利活用に照準を当てた「IT経営協議会」─「CIO戦略フォーラム」と相互に連携しつつ、議論を深めてきた。

この2つ(親・子を個別にカウントすれば4つ)の研究会は、3月26日に発足した「CIO百人委員会」(委員長=トヨタ自動車社長・渡辺捷昭氏、写真1)の母体となっている。ちなみにCIO百人委員会は、「行政と民間の知見を融合」を前面に掲げ、「2つの動きをより親密に連携させることで、新しいITバリューチェーンを実現する」(経産省情報政策課の鍛治克彦課長)狙いがある(図1)。

図1 官民の知見を集積するCIO百人委員会
図1 官民の知見を集積するCIO百人委員会(画像をクリックで拡大)

ここで本題 ─冒頭で述べた研究会─ に戻ろう。2月末の会合は最終回ということから、行政の情報化に限らず、一般論も含めた自由討議となった。事務局である経産省が提起したのは、IT投資の方向性に対する考え方だ。

「少子高齢化や年金・福祉・医療にかかわる将来不安といった社会情勢、そして未曾有の不況を勘案すると、民間も行政機関もIT化予算を、これ以上増やせない。これに対して電子政府プロジェクトは、状況がどうあれフロントのサービス機能を、質量ともに強化していく必要がある。予算が減る中で、どうすればフロント系システムを強化できるだろうか。解は、バックヤード系システムのコストを抑え、浮いた分をフロント系システムの強化に回すほかないのではないか」。

予算管理のやり方を変えた

これに対して、委員の1人であるトヨタ自動車の常務役員(IT・ITS担当)、大西弘致氏は、次のように言う。「今年1月、当社は従来のIT調達プロセスを抜本的に見直しました。これまではプロジェクトごとに可否を決め、役員会はIT予算の総額を見ているだけでした」。

国内で若者の自動車離れが進んでいたものの、米国やアジア地域での好調な販売が、同社を世界ナンバーワンの自動車メーカーに躍進させた。ところがゼネラルモータースを抜いた直後に世界規模の景気後退が発生。それがもたらしたダメージは予想以上に大きかった。過去の景気後退では、一律何%カットと通達を出せばよかったが、今回はそれでは済まない。大西氏は「やり方を根本から変えなければ、という危機感がありました」と続ける。

2009年度の予算編成にあたって同社が採ったのは、各部門から提出させたIT化の要望について、関係部門の長を一堂に集めて討議させ、副社長が優先順位を決定する方式だった。「基準は、製品とサービスの品質向上につながるか、競争力の強化になるか、早期に投資を回収できるかの3点。その基準に照らして全社規模のIT化計画と予算編成を行ったんです」。

ただし単純に、個別システムの提案を評価したわけではない。「部品調達から生産にいたるバックオフィス系と、顧客への情報提供や営業・サービスなどに関わるフロントオフィス系のシステム連携を重視しています」という。

ユーザーから見たら、バックヤード系もフロント系も、トヨタ自動車も地域の販売会社も、区別なく「TOYOTA」なのだ。オールTOYOTA として、消費者や取引先と、どう向き合うか。発想の転換が迫られたことを示している。

バックヤード系とフロント系という整理

遠藤紘一副会長
写真2 CIO百人が考える電子政府研究会の座長であるリコーの遠藤紘一副会長

座長であり、リコーのCIOである遠藤紘一氏(写真2)は、大西氏の発言を、こう受けた。「バックオフィス系の投資を抑制してフロント系に回すことは、リコーでも取り組んだ。それによってIT予算の総額を変えずに、サービス品質を高めることができた。しかし、それにこだわり過ぎると、いい結果は出ないと思っています」。どういう意味か?同氏は、「フロント系を生かすには、バックオフィス系がしっかりしていることが前提になります」と話す。

電子部品を調達し、在庫として管理するのはバックオフィス系に閉じた業務に思えるが、実はそうではない。電子部品は製品の品質を左右するばかりでなく、保守サポート業務に従事するエンジニアのサービスレベルにも影響する。「バックオフィス系とフロント系は、シームレスでなければなりません」(遠藤氏)。

そこでリコーは、組織ごとの縦割りで保有・管理していた情報の一元化や、製品ごと、業務ごとに最適化されていた情報処理プロセスを根本から見直す作業を実施した。顧客を座標軸として、バックオフィスからフロントまでを貫く情報共有の体制に改め、部品調達部門からユーザーサポートに当たるフィールドエンジニアまでが、一元化された“情報の海”にアクセスできるようにする。経済・社会の環境変化に柔軟に対応できる企業を具体化するために、情報システムを通じて業務プロセスを変えていく、ということだ。

両氏はともに、「部分最適でなく、重要なのは全体最適である」と指摘し、「それを考えるのが、今日のCIO の役割である」と提唱する。同時に企業の情報システムは、大きな屈曲点 ─管理目線からユーザー目線へのベクトルチェンジ− に差し掛かっている、という。

IT予算は過去数年、抑制または減少傾向

大西氏、遠藤氏の発言から読み取れるのは、ユーザー企業におけるIT投資が質的に変化していることだが、それは必ずしも未曾有の不況を受けたものではない。参考になるのは経産省が毎年まとめている情報処理実態調査である(図2)。

図2 売上高と情報処理費用の推移(2000年度を0とした指数)
図2 売上高と情報処理費用の推移(2000年度を0とした指数)

まず2000年度を100とする指数で1社あたりの売上高と情報処理費用の推移を見ると、2001 年度はITバブル崩壊の影響を受けて瞬間的に減少。2002 年度にはその反動もあって大幅に増加したが、その後、下落に転じている。売上高が「戦後最長の景気浮揚」傾向にあったにも関わらず、である。

これを売上高規模別に見たのが図3。黒線で示した全体の平均(下から2番目)は、2003 年度をピークに漸減している。売上高10億〜100億円規模の企業における情報処理費の減少が顕著であり、売上高100億〜1000億円、同1000億円超では、2005年度、2006年度ともに横ばいなのだ。売上高の伸びに対し、情報処理費用を抑制していたと言える。

図3 売上高に占める情報処理費用の推移
図3 売上高に占める情報処理費用の推移

部分最適は、本当に最適か

情報処理費用には、情報処理要員の人件費やハードウェアコスト、運用・保守費、オフィス費用といった固定費が含まれる。つまり抑制されたのは新規開発投資になる。この時期、情報サービス産業が「仕事はいくらでもある」と浮かれていたのは、この業界内部の多重取引き構造が生み出した幻影であり、2002年度から2005年度に投じられたIT予算のバックログを消化していただけと見ることもできる。

注意すべきは、単に情報処理費用を抑制しただけではない点だ。主要ユーザー企業は、この数年で「基幹系」、「情報系」という区分けを、「バックヤード系」、「フロント系」に整理し、「部分最適」から「全体最適」を志向する動きを強めている。情報処理費用という「羊羹」のサイズが小さくなっているのに加えて、羊羹の中身も変わっているわけだ。それが前出2氏の言葉となって現れたとみることができる。

では「全体最適」とは、CIOにとってどのようなものと認識されているのだろうか。この点について、多くの企業の情報システムを見てきたベテランIT技術者の安光正則氏(アトリス社長)は、素朴な疑問を呈する。「これまでの部門ごと、業務ごとの情報化で達成されたのは、部分最適だという話をよく聞きます。しかし果たして、本当に部分最適だったのでしょうか。部分最適でさえなかったと考えるべきではないでしょうか」。

安光氏は続ける。「部門ごと、業務ごとに、異なるアーキテキチャのシステムがご都合主義、もしくは場当たり的に採用されているケースが少なくありません。部分最適はコンピュータ・メーカーやシステム構築を受託したIT会社の都合であって、ユーザー側はIT調達のガバナンスを放棄していたとさえ思います」。

情報システム部門は社内エンドユーザー部門の下請け、CIOは部門間の調整役、情報子会社は外部ITベンダーの代理人になっていたのではないか。「そのことに気が付いたユーザーは、ビジネスのコアを担う情報システムを自分で設計し、自分で作る方向に動き始めています」(安光氏)。

コア・システムは自ら作り込む

有賀貞一氏
写真3 ミスミホールディングス副社長の有賀貞一氏(元・CSKホールディングス取締役)

CIO百人が考える電子政府研究会の民間委員である有賀貞一氏(ミスミホールディングス代表取締役副社長、写真3)は、システム構築の視点から次のように言う。「パッケージを採用すれば、手組みでシステムを作るより安くできる、とITベンダーは言う。実際はどうかというと、どうも違います。ユーザーはもっと真剣にビジネスのコアを追求すべきでしょう」。

広く普及しているパッケージは、今から10年、20年以上前の古いアーキテクチャーを引きずっている。そういうパッケージを導入するのは、リスクが大きいだけでなく、ITで業務プロセスを改革するという話の筋が通らない。同氏がこの半年以上にわたって考え続けて得た結論は、「コアシステムは自分で作る」ということだった。

「自分たちで作れば、システムの構造もプログラムも状況に応じて手直しできます。パッケージではそれができません。例えばERPパッケージの導入と運用に総額15億円も払うのなら、当社に必要な機能をきちっと設計して5億円で手組みする。3年、5年で作り替えたとしても金額は同じです。ビジネスのコアシステムを考えたとき、パッケージで間に合わせるなんて、できるわけがないでしょう」。

ただし、この言葉はパッケージを否定しているわけではない。本誌読者ならお分かりいただけると思うが、有賀氏も筆者もパッケージには、むしろ肯定的である。問題は、コアシステムなのにベンダー丸投げでパッケージを使うことや、パッケージをフルカスタマイズして使うことにある。

今回は日本を代表する大手企業の取り組みを紹介し、IT化の陣頭指揮指揮を執る著名なCIOに焦点を当てた。「これまで」に束縛されない発想の転換が始まっている。では、いわゆる中堅中小企業はどうか。旧態依然のITベンダーへの丸投げが日常化しているのだろうか。次回はそこに焦点を当てる。

佃 均
ITジャーナリスト
1951年生まれ、57歳。コンピュータ業界紙の編集長を経て2004年4月IT記者会代表幹事。情報システムのユーザー企業や情報サービス産業の動向に関わる報道を通じ、一貫して情報システムや情報サービス産業の高度化を提言している。主な著作に『日本IT書紀』『ルポ電子自治体構築』などがある。

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