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悩み多きリーダーが次世代のリーダーを育てる(第9回)

部下を操り人形にしない

自分のマネジメント哲学のよき理解者でありつつ、暴走をいさめてくれる人材をどう育てるか。組織を率いるリーダーにとって、非常に重要であると同時に頭の痛い課題だろう。今回は、ナンバー2育成のヒントを解説する。自分の価値観を強要するリーダーの下には、すぐれたナンバー2は生まれない。

「あなたには、マネジメントの意思を共有してそれに率先して垂範しながらも、時にはあなたに苦言を投げかけるナンバー2はいますか?」。これは、私が取締役として経営メンバーに加わったばかりころ、取引先の社長に投げかけられた質問である。その社長は、「成長を続ける組織には強いメッセージを持ったリーダーと、そのリーダーを支えるナンバー2が必ずいる」と話していた。

この社長の言ったことは、規模の大小にかかわらずあらゆる組織に当てはまる法則だろう。50人を擁するシステム部門であってもメンバー5人からなるプロジェクトチームであっても、ナンバー2を育成することは組織を活性化して継続的な成長を目指すために極めて有益である(図1)。それだけではない。ナンバー2の育成を通じて、リーダー自身が成長できる。そこで今回は、ナンバー2をどう育てていくかを考えていく。あなたがナンバー2候補と考えている部下を具体的に頭に置きながら読み進めていただきたい。

図1 トップを支え、チームを活性化させるナンバー2を育成する

リーダーのクローンを作らない

具体的なナンバー2育成法について述べる前に、ナンバー2の育成に取り組むリーダーにくれぐれも忘れてほしくないことを指摘しておく。ナンバー2の育成とは、あなたのマネジメントを学びながらも、自ら考えて行動できる1人の人材を育てることである。ナンバー2はあなたの操り人形ではないし、ましてやあなたのクローン(分身)ではない(図2)。マネジャーが自分の価値観や習慣を当然のごとく押しつけて思い通りに操作しようとしては、自ら考えて行動し、ゆくゆくはリーダーとして活躍できるナンバー2は育たない。「こんなリーダーになってほしい」という方向性をゆるやかに示しながらも、そのナンバー2候補が深く考え実行することを支援すべきである。

図2 ナンバー2育成の失敗例

その一方で、多忙を理由にナンバー2候補とのコミュニケーションをおざなりにする「放し飼い」もいけない。ナンバー2を育成できるかどうかは、コミュニケーションの丁寧さで決まる。丁寧さとは、ナンバー2候補の表情や行動、報告内容などをよく見ることである。重要な用件をメールで伝えておいて、「あれだけ言ったのにできていない」とぼやくリーダーの下には優れたナンバー2は育たない。

情報をインテリジェンスに昇華させる

さて、ナンバー2をどう育てていくかだが、大きく3つのポイントがある。「情報共有」「フィードバック」「社外志向」である。まず、情報共有である。情報には大きく言って2種類ある。知識や技術といったレベルの情報と、マネジメントに必要な“徳”のレベルの情報である。ナレッジマネジメントの世界では前者を「形式知」、後者を「暗黙知」と呼ぶ。

近年、知識や技術といった形式知はインターネットを通してを習得することが多くなった。そうした時代において、「君が困っていたあの件、このWebサイトが参考になると思うよ」といった情報共有を組織内で日常化させる努力はもちろん必要だ。しかし、ある1つの情報はそれ単独では英語で言うところの「インフォメーション」にすぎない。ナンバー2を育成するうえでは、インフォメーションの共有からさらに一歩進めて「情報のインテリジェンス化」を意識すべきである(図3)。

図3 情報をインテリジェンス化する工程を共有する

情報のインテリジェンス化とは何か。これは簡単に言えば、新たに得た情報を従来から持っていた知識や技術、経験と関連づけながら整理することである。言いかえれば、1つの情報を表層的に共有するのではなく、その情報をリーダーとナンバー2候補が共同で深層に掘り下げていく工程のことだ。

加えて、ナンバー2の育成においては暗黙知、すなわち「リーダーとしての背中」の共有が欠かせない。ナンバー2候補が、あなたのマネジメントに対する姿勢を理解するよう仕向けるのである。それには、組織運営に携わるなかで体験した失敗やその克服について具体的に話すことが重要である。

傷口に塩を塗らない

ナンバー2を育成する際に心がけるべき第2のポイントは、フィードバックの質である。フィードバックの質を高めるポイントは、具体的な点を指摘して本人が考えるよう促すことである。

「認めてほしい」という誰もが持つ承認欲求に応える「正のフィードバック」は、ナンバー2の育成においても有効である。しかし、単純に成果だけを褒めても効果は薄い。むしろ、「あのときの君の一歩踏み込んだ考察が、成功に導いたんだね」といったように、成果に至るまでのプロセスにおける具体的で再現性の高い事象をとらえて褒めるべきである(図4)。

図4 ナンバー2候補が今後に生かせるよう、冷静で質の高いフィードバックを心掛ける

ナンバー2候補の承認欲求を満たすことは大切だが、その部下が期待するような成果を挙げられなかったときには問題点を指摘し改善を促すべきである。これを、「負のフィードバック」と呼ぶ。ただし、これも正のフィードバックと同様にプロセスに注目すること。顕在化している結果だけを見て叱責すると、そのナンバー2候補は「傷口に塩を塗られている」と感じて反発を感じる。重要なことは、思うような成果を挙げられなかった原因は一連のプロセスのどこにあったのかを、一緒に考え検出することである。

「この部下をナンバー2に育てよう」と決めると、何かにつけてやたらと褒めまくる、あるいは逆に箸の上げ下ろしまでも指摘して厳しく叱責する、といった極端な接し方に振れてしまうリーダーは少なくない。部下を思うあまり力が入ってしまうのは仕方ないが、冷静にナンバー2候補を見つめてほしい。リーダーには瞬間の出来事に惑わされることなく、そのナンバー2候補の将来を深く洞察して事にあたる度量が不可欠である。

社外に連れ出し共通言語を獲得する

図5 社外に連れ出し、そこで得た知見をチームに還流させる

筆者は仕事柄、ナンバー2を意識的に育て上げ、強固な組織を作り上げているリーダーを多く見てきた。その人たちには、ある共通点がある。それは、ナンバー2候補を積極的に社外に連れ出しているという点である。これは、決して社内の仕事をないがしろにしているということではない。積極的に社外の人と交流し、そこで得た知見を組織に還流させながらメンバーの活性化を促しているのだ(図5)。

そうしたリーダーの1人が、セキュリティー関連企業のA事業部長である。A氏は、月に2〜3度の頻度で異業種交流会や社外セミナーなどのイベントに参加している。その際、できるだけ彼のナンバー2候補を連れていくよう意識しているそうだ。そしてその帰り道に必ず、同行したナンバー2候補に「今日の出来事について、事業部内にどんなふうにフィードバックしようか」と問いかける。社外で得た知見を社内に価値としてもたらすことを、ナンバー2に身体化させることが目的だ。

ナンバー2候補を社外に連れ出すことは、リーダーにとってもメリットが大きいとA氏は話す。同じ人に会ったり一緒に勉強したりすることにより、社内に戻ってからそのときのことを「共通言語」で語れるようになるからだそうだ。リーダーが自分の目線では気づかなかったことを、同行したナンバー2候補が彼なりの視点で指摘してくれることも多いという。

メリットはほかにもある。A氏は社外で得た知識を部下たちに会議の場で伝えることにしているが、その際うっかり新人には難しいレベルで話してしまうことがある。そんなとき、同行したナンバー2候補は会議の後で新人に対して噛み砕いて解説してくれるそうだ。このほか、社外で知り合った人の人物評を交換することにより、その人物に対する洞察を深められる。素晴らしい相互作用である。

リーダーの苦悩が部下の成長の糧に

最後に1つ付け加えておきたい。ナンバー2の育成に取り組むリーダーは、大いに悩むことである。「こうすれば、さらに伸びるのではないか」「あの人を紹介して、彼に学習する意味を伝えてもらおう」「同じビジネス書を読んで、酒でも飲みながら意見を交換してはどうだろうか」などと頭をひねる労をいとわないでほしい。リーダーが悩んだ量に比例して、ナンバー2候補は成長していく(図6)。それだけではない。ナンバー2育成を目指して日々悩み試行錯誤を繰り返すという一連の行動はリーダー自身を成長させ、ビジネス・パーソンとしてのさらなる高みに導く。

図6 リーダーが悩んだ量に比例して、ナンバー2候補は成長する
大塚 雅樹 おおつか・まさき
JTBモチベーションズ 代表取締役社長
1961年東京都生まれ。86年、明治大学法学部法律学科を卒業しJTB(日本交通公社)に入社。91年、社内公募で市場開発室に異動しワークモチベーションの研究を開始。93年、JTBモチベーションズ設立と同時に出向、2004年に代表取締役社長に就任し現在に至る。著書に「やる気を科学する」(河出書房新社)、「明日の出社が楽しくなる本」(インデックスコミュニケーションズ)など。

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