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チーム内の異質性を保ち、知恵のぶつかり合いを促進する(第10回)

凡人を賢者に変える

プロジェクトを率いるITリーダーは誰しも、知恵が次々にわき出るチームを夢見ることだろう。しかし、メンバーが自分なりに考え、学び合う風土のないチームで「何か斬新な知恵を出せ」と言っても無意味。今回は、メンバー間の知の相互作用を促すためのポイントを解説する。

「強く関わり深く考えると、知恵が出る。中途半端に関わりあまり考えないと、愚痴が出る。関わっているふりをして全く考えないと、言い訳が出る」。これは、私が講演の際によく持ち出す、メンバーの言動からチームの強さを見極めるときの指針である(図1)。

図1 メンバーの日ごろの言動から、チームの将来が見えてくる。言い訳の多いチームは崩壊を待つばかりだ
図1 メンバーの日ごろの言動から、チームの将来が見えてくる。言い訳の多いチームは崩壊を待つばかりだ

詳しく説明しよう。積極的に知恵を出したり、周囲と議論し行動したりするメンバーは、自分自身も組織も成長させる。自分のミッションだけを黙々とやり、周囲とのコミュニケーションを極力避けようとするメンバーは、自分以外のメンバーに対して不満を持つだけで、個人も組織も成長させない。さらに、自分のやるべきことさえろくにやらないで、出来ない理由ばかり並べるメンバーは、チームを崩壊させる。

マネジャーやリーダーとしては当然、知恵を出すメンバーを多く育ててチームを強化したいと考えるだろう。そこで今回は、知恵がわき出るチームを形成するためのポイントを考えていきたい。

野球型かサッカー型か

一言でチームと言っても規模や期間などは様々だが、筆者は役割分担とマネジメントから大きく2種類に分けられると考えている。「野球型チーム」と「サッカー型チーム」である(図2)。

図2 業務に応じて、チーム内の役割分担やマネジメントのあり方は異なる
メンバーの役割分担 マネジャーやリーダーの任務 向いている業務の例
野球型チーム メンバーの経験や能力に応じて明示的に分担する メンバーにひんぱんに指示を出し、細かな意思決定に関わる システム・インテグレーション
サッカー型チーム 大まかな役割分担はあるが、メンバーはその役割を超えて有機的に動く プロジェクト中には細かな指示を出さず、メンバーの判断に任せる 新規事業開発

野球型チームのメンバーは、経験や能力に応じて役割を明確に分担し、それをまっとうする。マネジャーやリーダーは、野球の監督が試合中にサインをひんぱんに出すように細かい事柄まで指示し、現場レベルの意思決定にも関わる。

一方、サッカー型チームにおける役割分担は野球型に比べて柔軟だ。メンバーは役割を超えて有機的に動き回り、その時々で最も成果を導きやすいフォーメーションを組んでプロジェクトを進めていく。マネジャーやリーダーは、個別の作業に対する指示をいちいち出したりはしない。サッカーの監督がパス1本1本に指示を出さないのと同じことだ。

野球型とサッカー型のどちらを目指すかは、業務の性格や目的による。例えば、システム・インテグレーションを担当している組織ではメンバーの経験や技術レベルで役割をしっかり明示する野球型がいいだろう。新規事業開発をミッションとするチームであれば、役割を固定せずメンバー同士が同じことを同じフェーズで考えるサッカー型が向いているかもしれない。

情報をインテリジェンス化する

野球型であろうとサッカー型であろうと、知恵がわき出るチームを作るために不可欠なのは情報共有である。

先日、あるメーカーで新システム開発プロジェクトを率いるリーダーに、チームにおける情報共有の現状を聞いた。するとこのリーダーは、「万全です。プロジェクト推進にかかわる情報はすべてサーバー上でオープンにしていて、自由に閲覧できます」と胸を張った。しかし残念ながら、彼の取り組みは単なる情報公開にとどまっていると言わざるを得ない。もちろん情報公開は重要だが、それは情報共有の前提にすぎない。

私がここで言う情報共有とは、情報を“インテリジェンス”へと昇華させるプロセスや仕掛けのことだ(次ページの図3)。具体的に言えば、ある情報を受け取ったメンバーが、その情報を自分の知識や経験と結び付けて発信。ほかのメンバーは、それに対して自分の知識や経験に基づき意見を述べる。こうしたやり取りを通じて情報の付加価値を高めていく過程である。

図3 情報を公開するだけでなく、メンバー同士が自分の知識や経験を情報と関連づけ発信し合う組織風土が知恵を生む
図3 情報を公開するだけでなく、メンバー同士が自分の知識や経験を情報と関連づけ発信し合う組織風土が知恵を生む

情報をインテリジェンス化するには人と人との知恵のぶつかり合い、すなわち“ケミストリー(化学反応)”が欠かせない。残念ながら、ケミストリーはマネジャーやリーダーが黙って見ていてもなかなか発生しない。みなさんも、自分が率いるチームの日ごろの様子を思い返してほしい。メンバー同士がしょっちゅう意見をぶつけ合い、インテリジェンスを生み出している、というケースはそう多くないのではないだろうか。そこで、ケミストリーを起こす工夫を2つ紹介しよう(図4)。

図4 チーム内に「学習するムード」を作り上げる工夫の具体例
図4 チーム内に「学習するムード」を作り上げる工夫の具体例

知識の同質化を防ぐ

1つは、メンバーを社外の知見に触れさせることである。同じチームで働くメンバーは、毎日顔を合わせて長い時間をともに過ごすだけに、知識や考え方が同質化しやすい。こうした状況を放置すると、だんだんケミストリーが発生しにくくなる。同質化による弊害を防ぐには、日ごろからメンバーを社外セミナーや異業種交流会などに参加させ、そこで吸収した新たな知識をチーム内に持ち込むよう仕向けなければならない。

メンバーを社外に送り出すとき、マネジャーやリーダーのちょっとした一言が効果を倍増させる。例えば、技術セミナーに参加するメンバーに対しては、「セミナーのダイジェストを、今度の会議で説明してくれ」「ぜひ、新しい人脈を作ってきてほしい」などと言って送り出す。こうすれば、セミナーに出るメンバーは、他のメンバーに説明できるように本気で習得することを心がける。こうしたほどよい緊張感を与えることにより、メンバーは「一言も聞きもらすまい」という積極的な受講姿勢でセミナーに臨めるようになるはずだ。

ケミストリーを起こす2つめの工夫は、チーム内に「学び合うムード」を作り上げることだ。それには、あるリーダーの取り組みが参考になる。彼は毎週金曜日、メンバー全員に「あるテーマについて考えてくる」という宿題を出す。翌週の月曜日に実施する朝礼では、メンバーがそれぞれ週末に考えたことを聞く。

この考える宿題をしばらく続けたところ、チーム全体に目に見える効果が現れたという。昼休みに朝礼の続きを話し合うなど、メンバー同士が知識や考えをざっくばらんに述べ合う“ワイガヤ”が自然発生したというのだ。このリーダーは、自分なりに考えたことを皆と共有する習慣をチームに持ち込むことで、メンバーが互いの知のレベルを無意識のうちに高め合う風土を作り上げたというわけだ。

1人ひとりの能力を皆に知らしめる

図5 相手の成長を願う気持ちや尊敬、信頼の念がないフィードバックは、時として凶器になる
図5 相手の成長を願う気持ちや尊敬、信頼の念がないフィードバックは、時として凶器になる

言うまでもないことだが、活発なケミストリーを促すこれら2つの工夫は、メンバー同士が相手の言動に対して自分なりの意見を述べるフィードバックが実践できていることを前提にしている。メンバーが社外で得た知見や自分の考えをせっかく発信しても、それに対するフィードバックがなければ、ケミストリーは起きようがない。

ただし、低レベルのフィードバックはかえって逆効果になることを知っておきたい。相手に対する信頼や尊敬の念がないフィードバックは単なる中傷や叱責にすぎず、何も生み出さないどころか相手の気持ちを傷つける凶器となるからだ(図5)。

レベルの高いフィードバックとは、その人の成長を願う気持ちにあふれた意見である。では、メンバー相互に信頼と尊敬の念を抱かせてフィードバックの質を高めるにはどうすればよいのだろうか。難しいことではない。マネジャーやリーダーが、メンバー1人ひとりが保有する能力を自分なりに分析し、チーム内に伝えればよい。これによりメンバーは、それまで自分では気づかなかったほかのメンバーの優れた点を意識できるようになり、周囲を信頼し尊敬する思いを強める。

今回は、知恵がわき出るチームを作るポイントについて述べた。賢明な読者は、上記の内容に2つの方向性があることに気づいたはずだ。1つは、率先して知恵がぶつかり合う風土を構築するアプローチ。もう1つは、メンバーの社外志向性を高めてチーム内を異質の状態に保つアプローチである(図6)。

図6 メンバーを賢者に育てるには、互いに異質なメンバーが知恵をぶつけ合い、“ケミストリー”を引き起こす組織風土作りが重要だ
図6 メンバーを賢者に育てるには、互いに異質なメンバーが知恵をぶつけ合い、“ケミストリー”を引き起こす組織風土作りが重要だ

マネジャーやリーダーは、これら2つのアプローチを同時に進めることを意識し、愚痴や言い訳ではなく知恵ばかりが出てくる“賢者”ぞろいのチーム作りに今すぐ着手しよう。ちょっと想像してみてほしい。最初は平凡だったメンバーがあなたのチームでもまれ、数年後に賢者としてほかの部署に旅立つ。なんと素晴らしいことではないか。

大塚 雅樹 おおつか・まさき
JTBモチベーションズ 代表取締役社長
1961年東京都生まれ。86年、明治大学法学部法律学科を卒業しJTB(日本交通公社)に入社。91年、社内公募で市場開発室に異動しワークモチベーションの研究を開始。93年、JTBモチベーションズ設立と同時に出向、2004年に代表取締役社長に就任し現在に至る。著書に「やる気を科学する」(河出書房新社)、「明日の出社が楽しくなる本」(インデックスコミュニケーションズ)など。

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