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今こそ組織への誇りと愛を育みモチベーションを高める(第11回)
「知るより好く、好くより楽しむ」。これは、日本資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一の名言である。これは「どんな物事も、知ることより好きであることが必要であり、さらにそれを楽しむことはもっと大切だ」という意味で、元々は孔子の言葉だという。
IT担当者やエンジニアの仕事にも、同じことが言える。いやいやながら知識を習得しようとするより、「仕事が好きだ」という気持ちを持つほうが成果は出やすい。成果が出れば仕事が楽しくなる。仕事が楽しければおのずとやる気が高まり、知識を求めるようになる。知識が増えれば、仕事がさらに楽しくなる。実際、やる気に満ちあふれ、組織内で常に高い成果を上げている“ハイパフォーマー”は、例外なく仕事を楽しんでいる。やる気の好循環が回っているのだ(図1)。
では、どうすればメンバーに「仕事が好き」「仕事が楽しい」と感じさせられるのだろうか。少々乱暴ではあるが、そのためには大きく2つのポイントがあると筆者は考えている。1つは、自分が働く組織に対するブランド意識をメンバーに内在化させること。もう1つは、メンバー1人ひとりのパーソナルブランドをしっかり確立させることである(図2)。以下では、これら2つのポイントを実現するために、マネジャーやリーダーは何ができるかを考えていきたい。
組織の理念を腹に落とす
メンバーの組織に対するブランド意識を高めるにはまず、その組織の理念やミッションステートメントをメンバーの腹に落としてやることが欠かせない。古典的なやり方ではあるが、組織の年度目標や行動指針などを「見える化」することが効果的である。オフィスの見やすいところやイントラネットのトップページなどに掲示したり、朝礼や会議などで定期的に読み上げたりするとよい(図3)。
さらに、表紙裏に経営理念や行動指針を印刷したメモ帳をオリジナルで作成して配布すれば、外出がちなメンバーでも出先で事あるごとに目にすることができる。メモ帳は、男性ならジャケットの内ポケットに入れやすく、女性ならバックに入れても重くないサイズがよいだろう。
ちなみに、当社ではこうしたメモ帳を「モチノート」と呼び、社員に配布している。このモチノートは元来、アイデアを創出するための道具である。何でも書き留めることで思考の幅を広げ、深める目的を持っている。電車に乗っているときも、昼食後にコーヒーを飲んでいるときも、ふと頭に浮かんだアイデアをモチノートにメモする。社員はそのたびに、表紙裏にある自社の理念を目にすることとなり、それをトレースできるわけだ。
「あなたの会社は何色?」
組織に対するブランド意識というと、思い出すことがある。筆者が旅行商品の営業業務に携わっていた20歳代のころのことである。
「あなたの会社、あるいは仕事を色にたとえると何色ですか?」。ある研修で、講師にこう質問された。講師はさらに、「なぜ、その色だと思うのか?」「その色の持つ意味は?」などと質問を重ねた。
今となっては、自分が何色と答えたかは思い出せない。ただ、この質問をきっかけに会社のことや自分の仕事のことを初めて深く洞察した記憶がある。その後、講師はA4の大きさの紙に無理やり書きなぐった私の回答を見ながら「さて、それではあなたのお客様は、あなたの会社に対してあなたが考えている色と同じイメージを持っているでしょうか?」と語りかけた。
衝撃だった。なぜなら、「自社をこう見られたい」という思いはあっても、顧客からそう見られているか、自分がその色を体現できているかについて考えたことがなかったからである。要するに、自社に対するブランド意識が足りなかったということだ。この研修を通して、そのことに気づかされたのである。
“ご機嫌な組織”へ
メンバーは、愛着を感じられない組織に対してブランド意識など感じない。メンバーの組織に対する愛着を醸成するには、組織内のコミュニケーションを深めることが不可欠だ。6カ月に1度程度でよいので、社員を集めての会議の場などで、今の会社の強みや弱み、外部にどのように見られているかなどを議論しよう。メンバーは、こうした議論を通じて客観的に自社を見つめられる。さらに、それを踏まえて自分は何をすべきかが見えてくるわけである。マネジャーやリーダーは、様々な立場で多様な意見が出るよう上手にファシリテータ(相互理解や合意形成を促す牽引役)に徹してほしい。
実は、メンバーに組織への愛着を持たせるための最短の施策は、インフォーマルなコミュニケーションを増やすことである。最近、運動会や社内レクレーションの企画・運営を当社に相談してくる企業が増えてきた。さらに、ボーリング大会や社員旅行、サークル活動といった、仕事と離れた場での社員同士の交流が見直されている(図4)。
これらの取り組みは、“不機嫌な組織”を“ご機嫌な組織”にし、社員に自社への愛着を持たせるためのアクションだと言える。こうしたインフォーマルなコミュニケーションを通じて、メンバーは「うちの会社には、こんな人がいたんだ」「なかなかおもしろい人の集まりだな」などと実感し、組織に対する思いを高めるのである。
メンバーの組織に対する愛着を育むことは、組織自体のブランドを強化することにもつながる。社外の顧客や取引先から見ると、メンバーは製品やサービスと同様、組織のブランドを体現する存在だからだ。メンバーが自分が所属する組織やそこでの仕事に対して持っている誇りや愛着は、そのメンバーの言動を通じて顧客や取引先に必ず伝わる。
パーソナルブランドを強化する
次に、メンバー1人ひとりのパーソナル・ブランドを強化するため、マネジャーやリーダーが心がけるべき3つの工夫を紹介しよう(図5)。
第1の工夫は、メンバーに自分の専門性を磨かせることだ。「とにかく勉強熱心で、様々な資格を取得したり外部のセミナーに積極的に参加したりしている。ところが、不思議なことに仕事の成果は今ひとつ上がらない」—。あなたのチームに、そんなメンバーはいないだろうか。目標を定めず、必死になっていろいろなことに手を出したものの、結局は“あぶはち取らず”になってしまっているのだ。
試しに、そのメンバーに「あなたの強みは?」と聞いてみてほしい。おそらく、答えに詰まってしまうだろう。浅く広く知識や経験を得てきたが、深めてきたものがないからだ。周りから見ても、そのメンバーの特徴がクローズアップされることはない。マネジャーやリーダーには、メンバーが専門分野を早期に開発できるよう、そのメンバーの資質を見極めたうえで助言する努力が求められる。
2つめは、メンバーに「プラスワン」の価値を模索させることである。パーソナルブランドを構築するには、専門性を磨くだけでは不十分だからである。パーソナルブランドは、その人ならではのユニークさを必ず伴う。例えば、「データベースに関して誰よりも詳しいうえに、財務にも明るい」「ネットワーク技術に強いうえに、プレゼンもうまい」といったメンバーは、パーソナルブランドを構築しやすい。当然、財務やプレゼンがプラスワンだ。
話はちょっと脱線するが、プレゼンテーションスキルの絶好の教材として落語をお勧めしたい。繰り返し聞くうちに、会話での間の取り方や抑揚のつけ方を体得できる。もちろん、話題が豊富になる、ユーモアのセンスも身に付く、といった効果も期待できる。メンバーに落語のCDを渡すことも、プラスワンの価値を獲得する一助になるかもしれない。
パーソナルブランドの構築においては、他者から自分の価値を評価されることも重要なファクターとなる。そこでぜひ、社外で得た情報をメンバーにフィードバックさせる場を日常的に設けてほしい。これが、3つめの工夫である。例えば、社外の勉強会で新しい技術を学んだメンバーに、会議で報告させる。メールや電子掲示板などに書き込ませてもよいだろう。有益な情報を発信するメンバーに対し、周囲からの評価は当然高まる。結果として、そのメンバーはパーソナルブランドを向上させられるというわけだ。
ブランド意識が新規事業を創る
今回は、やる気を導くブランド意識について述べた。筆者はこれまで、組織に対するブランド意識と自らのパーソナルブランドを確立し、高いモチベーションを保っている人をたくさん見てきた。そうした人には、ある共通の思考習慣がある。自社のコアコンピタンスを生かしながら、新しい商品やサービスを創造できないかをいつも考えているのだ。休日に街を歩いているときも、学生時代の友人に会うときも、常に「おもしろいネタ探し」をしている。無意識のうちに社内と社外を常に接着させることにより、自社に対するブランド意識を身体にいっそう強くたたき込んでいるのである。新規事業や商品開発が活発な企業のブランド力が高いのは、このことが影響している。筆者はそう確信している。
- 大塚 雅樹 おおつか・まさき
- JTBモチベーションズ 代表取締役社長
- 1961年東京都生まれ。86年、明治大学法学部法律学科を卒業しJTB(日本交通公社)に入社。91年、社内公募で市場開発室に異動しワークモチベーションの研究を開始。93年、JTBモチベーションズ設立と同時に出向、2004年に代表取締役社長に就任し現在に至る。著書に「やる気を科学する」(河出書房新社)、「明日の出社が楽しくなる本」(インデックスコミュニケーションズ)など。
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