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アメリカで浸透するSNSのビジネス利用—Part4

サービス品質を高め、新規顧客も開拓

SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)は2003年ごろから若者の間で爆発的に普及してきた。この動きにビジネス界は当初、「SNSは若者たちの社交の場」と高をくくっていた。ところが近年、SNSを業務に利用する企業が急激に増えてきた。狙いは、顧客サービスの品質向上や新規顧客の開拓だ。

利用実態
ビジネスパーソンの5割が高い頻度でSNSを業務に利用

Network World誌は2009年1月、アメリカのビジネスパーソン583人を対象に、SNSの利用調査を実施した。それによると業務目的で「毎日」利用している人は20%に達し、「週に数回」使っている人の30%を加えると、回答者の実に半数が高い頻度でSNSを使い込んでいる実態が浮き彫りになった。

同じ調査から、どのSNSがビジネスパーソンに浸透しているかも明らかになった。週に数回以上SNSを使っているヘビーユーザーのうちLinkedInの利用者は63%、Facebookの利用者は44%だった(複数回答あり)。

LinkedInのアカウントを持つ人は世界に約3800万人で、中でもITベンチャーがひしめく米国シリコンバレーで活動するビジネスパーソンにはかなり浸透しており、この地での人脈を拡充するうえで不可欠のサービスになっている。実は筆者もユーザーの1人で、人脈づくりの道具として重宝している。

一方のFacebookは、2億人規模のユーザー数を誇る世界最大級のSNSだ。アメリカでは高校生のほどんとがFacebookを使って、遊びから勉強までさまざまな情報を学友とやり取りしている。Facebook内で見ず知らずの人と友人になるなど、好奇心旺盛な高校生ならではの活動も盛んだ。こうして培われた人脈(リンク)は、彼ら彼女らが社会に出てからの財産になり得る。

ITベンダーの間では、Facebookの人脈をビジネスに生かしやすくする技術の開発が加速している。例えばCRM(顧客関係管理)のSalesforce.comは2008年末、同社のSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)とFacebookとの間でデータを連携させるコネクタを開発した。これを使うと、Facebookに蓄積してきた友人の情報をSalaesforce.comから利用できる。学生時代に築いた人脈とCRMを連動させれば、今自分が担当する新製品のプロモーションなどにおける商談や受注活動を、潜在顧客に最初から一歩踏み込んだ形で進められる。

Facebookは2007年にSNSのAPIを公開。現在、Salesforce.comのようにFacebookとの連携機能の開発に取り組むエンジニアは世界に約64万人もいるという。

ユーザー企業動向
サービスの充実や顧客開拓で活用が広がる

Facebookのように一般に広くサービス提供されている「パブリックSNS」は、ビジネス向きではないとする風潮が少なからずあった。しかし、ここにきてそうした考えは払拭されつつある。

例えば、大手デパートのSearsはFacebook上に同名のアカウント(www.facebook.com/sears)を持ち、10ドルの割引クーポンの提供や各種のイベントの告知に利用している。Searsのアカウントから発せられる情報をウォッチしている人は2009年6月末時点で2万4573人いる。毎日、大量に送り付けられる販促メールに飽き飽きしている消費者は多いが、SNSの世界ではユーザーが自ら貪欲に情報収集する傾向にあり、集客やイベント告知の成果を上げる新しいマーケティングチャネルとして企業の期待が高まっている。

女性用衣服販売のMadewellもFacebookを活用する企業の1社だ。Searsと同じく、Facebook内で商品の割引クーポンを提供している。自社のオフィシャルサイトで割引クーポンを提供する手もあるが、顧客が日常的に利用しているFacebookにアカウントを設けたほうが集客効果を高められる可能性がある。

Facebookを集客に結びつけようとする企業は、SearsやMadewellだけではない。ある調査では、全国規模でチェーン展開するアメリカの主要小売業100社のうち59社が、Facebookをマーケティングに活用しているという。

ここにきてマイクロブログのTwitterも、顧客との関係強化を目論む企業の間で脚光を浴びつつある。表4-1に示す通り、グーグルやシスコシステムズ、デルといった名立たる企業が、顧客サポートやサービスの充実を目的にTwitterの利用を開始している。その先に、既存顧客との関係強化や新たな関係の構築を見据えている。

表4-1 顧客サービスやサポートにTwitterを活用している企業の例
アカウント名 運営企業/業種・業態 フォロワーの数(2009年6月末現在) 用途
CiscoSystems CiscoSystems/通信機器メーカー 9940 主に製品サポート情報の提供
DellOutlet Dell/ハードウェアメーカー 74万5722 顧客からの問い合せ対応やオンライン購入者向けの割引コードなどの提供
googleapps Google/Webの各種サービス 1万1619 Googleの開発プラットフォーム・サービス「Google Apps」に関する情報提供
JetBlue JetBlue Airways/格安航空サービス 76万7725 顧客からの問い合せ対応やサービス案内、運行情報などの提供
Mosso Rackspace US/データセンター 4529 データセンターに関するインフラストラクチャ・サービスのサポート情報の提供
skypejapan Skype愛好家 2万3326 最新ニュースやサポート情報の提供。愛好家によるもので、運営会社のSkypeは関与していない
WholeFoods Whole Foods Market/健康志向スーパーマーケット 89万4012 顧客からの問い合せ対応やおすすめ食品の紹介

一般に個人ユーザーがTwitterを利用する場合、ニックネームや本名をアカウント名として使う。企業はニックネームや本名の代わりに製品名やサービス名をアカウント名に使用。製品/サービスに関する最新情報をニュース速報のように提供したり、Twitterのユーザーである消費者から問い合わせを受け付けたりしている(本誌注:Twitterの詳しい利用例はPart1を参照)。

期待できる効果
社員の意識改革を促し顧客志向を全社に定着

SNSをマーケティングに活用することで、顧客志向の文化を企業に根付かせる効果が期待できる。一般に営業部門やマーケティング部門の担当者は顧客と直に接する機会が多いが、本社のバックオフィスで働く社員は、顧客の生の声を聞く機会がほとんどない。そのため経営方針として「顧客志向」を掲げても、なかなか実感がわかない社員が出てくる。

しかし、自社製品/サービスのアカウントをSNSやマイクロブログに用意すると状況は変わる。営業やマーケティングだけでなく、経営企画や研究開発の担当者も、顧客の率直な意見に触れることができるからである。このことは「顧客が何を求めているのか」「製品/サービスをどのように改良したらよいのか」など、1人ひとりの社員が顧客を意識するきっかけになる。

SNSのビジネス用途として考えられるのは、何もマーケティングだけではない。従来のeラーニングに代わる新たな学習基盤にSNSを用いる動きも出てきた。企業向けSNSを手掛けるMzingaは、SNSの仕組みを学習システムに応用した「ソーシャルラーニング」のプラットフォームを商用化。米国連邦準備銀行やサン・マイクロシステムズなどで利用されている。

周知の通り、従来のeラーニングはインターネットを介して一方通行で教材を配信する仕組みだ。ユーザーは好きな時間に自席のパソコンで学習できるメリットがあるが、あくまでも自習形式のために、教材に書かれている以上の情報は得られない。

ところがSNSの双方向性を取り入れると、学習者(ユーザー)と指導者との間で質疑応答をしたり、学習者同士で実業務に即した応用例を情報交換したりできるようになる。

多様化する「企業向け」製品
プライベートSNS構築用のツールやサービスが充実

ひょっとすると日本企業の中にはまだ、SNSをはじめとするインターネット関連サービスの可能性を理解しながらも、ビジネス利用に抵抗感を持つところが多いかもしれない。セキュリティや機密情報の管理などを考慮すると、ユーザーの間口が広いインターネット関連サービスに手を出すのはリスクが高いといったところだろう。

そうした企業は、自社やグループ企業に閉じた「プライベートSNS」を導入するのも1つの手だ。最近は企業向けSNSのツールやサービスが充実し、プライベートSNSを自社で用意する環境が整ってきた。

表4-2に挙げたのは代表的なツールとサービスである。Jive SoftwareのSNSツールはインテルやオラクル、SAPなど大手ITベンダーの採用例が多い。LiveWorldのSNSツールはシティバンクやゼネラルモーターズといった大手の金融機関やメーカーが使っている。P&GやAT&Tは、サービスプロバイダが提供するプライベートSNS向けのSaaSを活用している。

表4-2 企業向けSNSのツールベンダーとSaaSプロバイダの例
  企業名 URL 主な顧客
ツールベンダー Jive Software www.jivesoftware.com Intel、NetApp、Nike、Oracle、Red Hat、SAP、VMwareなど約2500社
LiveWorld www.liveworld.com Citi Bank、Chrysler、eBay、GM、HBO、IBM、IDG、NBA、Shell、Sprint、Toyotaなど約100社
Pluck www.pluck.com Dallas Cowboys、McGraw-Hill、NFL、USA Today、Wall Street Journalなど約40社
Telligent Systems www.telligent.com Avid Technology、シカゴ大学、Cadence Design、Microsoft、Reader's Digestなど約50社
サービスプロバイダ KickApps www.kickapps.com COX、HBO、Kraft、P&G、San Francisco 49ersなど約4000社
Lithium Technologies www.lithium.com AT&T、Comcast、Juniper Networks、Motorola,Networks、RIM、Sprint、Symantec、Verizon、Zuoraなど
Mzinga www.mzinga.com ABC、CBS、Amazon.com、AOL、Ford、John Deereなど約230社
ONEsite www.onesite.com Capcom-Unity、Panasonic、World of Good Community、World Wrestling Entertainmentなど約3000社
Socialtext www.socialtext.com Acumen Fund、Angel.com、ボストン大学、Hospital for Sick Children、TransUnionなど

こうしたSNSツールやサービスは、コミュニケーションを図る基本機能だけでなく、使い勝手を高めたりアイデアを醸成したりする機能を備えている。自然言語処理やセマンティック・タクソノミー(文脈分類法)を応用した検索機能はその典型例だ。

アイデア管理機能を備えるサービスもある。中でも、Spigitが提供する「Innovation Spigit」に対する企業の注目度は高い。シスコシステムズやIBM、インテル、サウスウェスト航空が新製品/サービスの開発目的で採用している。

アイデア管理機能では、ある社員がSNSに書き込んだアイデアに対し、別の社員が質問や意見を書き込んだり、代替案を提示したりする。複数のアイデアを対象に投票を実施し、優先度を定めることもある。こうして多くの社員の考えを取り入れながら、アイデアに磨きをかけて新製品/サービスの開発に格上げしていく。

Innovation Spigitがユニークなのは、アイデアの醸成に参加した社員を評価する仕組みを持っている点だ。「良いアイデアや改善策を提案した」「質問や意見を多く出した」など、貢献の度合いによって相応の評価点を与える。上司や同僚など人間による評価は属人的になりがちで、社員が不満を持ちかねない。もちろんシステムによる画一的な評価で満足度が高まる保証はないが、少なくとも評価基準が一定であれば不満は出にくいはずだ。

システムを媒介に議論することで、副次的なメリットを享受できる可能性もある。人が対面して意見を交わすと、しばしば議論が紛糾する。最悪の場合、異論がきっかけで人間関係が危うくなるかもしれない。ところが不思議なことにSNSにおいては、参加者が緊密な人間関係を保ちながら意見をぶつけ合う。SNSを利用している読者なら、そんな経験をしたことがあるだろう。

山谷 正己
IT Leaders 米国特派員、米Just Skill, Inc.社長/名桜大学客員教授

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