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日立・富士通・NECの行方-国内事業の強化と海外展開を両立できるかがカギを握る[ 特別編 ]
こうした中、ユーザー企業が普段利用しているサーバーやストレージ、通信機器、ソフトウェア製品を提供している日立・富士通・NECは、今後とも大丈夫なのか? もしそうでないとしたら、どうするべきか?
今回は「株価に見る強みと弱み(特別編)」として、日立・富士通・NECの全体戦略、およびITサービス事業における事業戦略、財務状況そして株価の見通しについて概観する。
自己資本比率で安全性を測る
企業財務の観点から見た時、何をもって“大丈夫”と言えるのだろうか? 一般的に用いられる指標が、自己資本比率だ。会社全体の資金調達(総資産)のうち、どの程度まで返済不要の資金(自己資本)かを示す指標である。それが高ければ高いほど、返済が必要ない=“大丈夫”であると考えられる。
図1に日立、富士通、NEC、およびNTTデータ、野村総研、CTC、ITホールディングス、住商情報といった専業ITサービス企業における09年3月期末の自己資本比率および総資産を示す。読み取れるのは、(1)総資産の絶対額と、(2)日立・富士通・NECとITサービス専業との自己資本比率の差異、の2点である。日立の総資産は、ITサービス専業首位であるNTTデータの7.3倍。一方、自己資本は日立の11.2%に対してNTTデータは46.4%と、NTTデータの方が4.1倍高い。日立・富士通・NECの総資産規模はITサービス専業に比べて圧倒的に大きいが、自己資本比率はおよそ半分の水準ということだ。
この理由は、言うまでもなく日立・富士通・NECがITサービス、いわゆるソフトウェア開発だけではなく、多角的に事業を営んでいることである。例えば日立では、ITサービス事業以外にも、半導体・分析装置を製造する電子デバイス分野、原子力発電システム、鉄道車両を製造する電力・産業システム分野、電線ケーブル・合成樹脂などを製造する高機能材料分野など、事業領域が極めて広い。
富士通、NECも日立に比べるとややIT分野に集中しているものの、携帯電話、ネットワーク機器製造など、様々な事業を展開している。事業領域が広いゆえに、総資産の規模が大きくなる、かつインフラ分野での事業展開のため多額の設備投資が必要になり、資金を自己調達だけではなく、銀行借入れなどを利用する。その結果、自己資本比率が専業ITサービス企業に比べて低くなる。
安定した収益をもたらすITサービス事業
上記の点から考えれば、日立・富士通・NECと専業ITサービス企業を比較しても、違う土俵での比較になり、有効とはいえない。そこで日立・富士通・NECにおける売上構成比を図2〜4(日立、富士通、NEC)に示す。ITサービス事業にサーバー、ストレージおよび光伝送装置などのハードウェアが入っているので単純比較はできない。日立では情報通信システム、富士通ではテクノロジーソリューション、NECではIT/NWソリューションが、ITサービスに該当する。
09年3月期では、日立の情報通信システム事業の全体に占める売上比率は25.9%。富士通のシステムプラットフォームとサービスを合計したテクノロジーソリューションのそれは65.6%、NEC(IT/NWソリューション)のそれは64.6%。日立に比べると高い。
ここで“日立・富士通・NECは大丈夫か?”という最初の問いに立ち戻ってみよう。日立におけるデジタルメディア・民生機器事業(営業利益率-8.4%)、富士通におけるLSI事業(同-14.9%)とHDD事業(同-8.0%)、NECのエレクトロンデバイス事業(同-12.2%)は苦境を強いられている。そんな中、ITサービス事業は日立の情報通信システムの営業利益率が6.8%、富士通のテクノロジーソリューションは6.1%、NECのIT/NWソリューションは4.6%と相対的に堅調だ。収益性という点から見ると、“日立、富士通、NECは大丈夫か?”に対する答は、「ITサービス事業に関しては収益力もあり、大丈夫と」言える。
コモディティ化しないITサービス事業
なぜ日立・富士通・NECのITサービス事業の収益性は、他の事業と比べて高いのか? 筆者は、3社が手がけるITサービス事業はコモディティ化しにくい点にあると考えている。例を挙げると、日立・富士通・NECのITサービス事業の売上高のうち、およそ20%が金融業界向けとなっている。日立は東京三菱UFJ銀行、富士通はみずほ銀行、NECは三井住友銀行が主要な顧客だ。こうしたメガバンク向け基幹システムでは、高い信頼性への要求、これまで手掛けてきた実績などから、他社が容易に参入できる分野ではない。一度システムを構築した後は、アウトソーシングとしてサーバー・システムのメンテナンスによる安定した収益も期待できる。
一方、コモディティ化の典型例はDRAM。ここ2年間でDRAMの価格は1/20にまで下落した。DRAMは日本メーカーであろうが、台湾・韓国メーカーであろうが、誰が作っても同じであり、量産の結果、供給過剰になり価格が下落する。これによってDRAMはコモディティ化し、価格下落がおきるという構図で、ITサービスと対照的と言える。この議論をまとめれば、ITサービスには“日立・富士通・NECしかできない”分野が存在するため、結果として、コモディティ化せずに安定的な収益を確保できていると考えられる。
ITサービス事業を重点分野と位置付ける日立・富士通・NEC
こうした背景もあり、日立・富士通・NECの3社は、ITサービス事業を中核分野の一つとして、今後とも強化する方針。図5に示すように、売上高に占めるITサービスの割合もここ数年微増しており、今後も増加すると考えられる。
ただし、ITサービス事業が今後とも成長するかといえば、そう単純ではない。経済産業省による特定サービス統計によれば、日本のITサービス産業は約11兆円と横ばい。人口減少が見込まれ、国内産業が伸び悩む中で、大きな伸長は期待できない。今後は日本のGDP並みの年間成長率である前年比+1〜2%で推移すると筆者は考える。
特に日立・富士通・NECは、日本IBM、NTTデータと並んで売上高の規模が他社と比べて突出していることからビッグ5と称され、5社で情報サービス市場の6〜7割近くを占めている。ITサービス産業が前年比+1〜2%程度の成長であれば、その市場の7割を占めるビッグ5の伸び率も市場の伸び率に従わざるをえないと考えるべきだ。
結果として、ITサービスは重点強化事業である半面、今後の成長は限定的という、ジレンマが発生する。これをどう解決するかが、日立・富士通・NECの3社の今後の収益を占う上でのポイントになる。次に3社それぞれの戦略、企業価値のあり方について検討する。
日立製作所(6501)
コングロマリットから社会イノベーション路線へ
企業において、損益を改善する一番早い方法が「選択と集中」である。今後とも成長が見込める中核分野と成長が見込めない非中核分野とを選択し、中核分野に経営資源を集中投入することで、損益を改善するわけだ。日立は今期からこの方向を加速させる考えである。
背景には財務体質の大幅な悪化がある。図6に示すように自己資本比率は一昨年の20.61%から前期は11.17%と急速に悪化。昨年9月のリーマン・ショック以降、半導体事業(持ち分適用法会社のルネサステクノロジ)、薄型テレビ、自動車分野などで業績が大幅に落ち込み、09年3月期当期純損失は、製造業で過去最大の赤字となる▲7873億円になった。これに伴い、株主資本も2兆1706億円から1兆499億円へと大幅減少したのだ。
今年4月に就任した川村隆社長は選択と集中を明言し、方向性として社会イノベーション事業を強化する方針を打ち出した。具体的には、日立が手掛けてきた情報通信、電力、電気、都市開発といった社会インフラ事業を強化。半面、社会インフラ事業と相乗効果が低い事業は分社化し、他社との協業体制を探る。すでに自動車部品・システム関連事業を担う日立オートモティブシステムズ、薄型テレビの開発・製造・販売事業を担当する日立コンシューマーエレクトロニクスが7月1日より分社化している。直近での事業売却という可能性は低いが、これらへの他社による資本参加は選択肢の1つだろう。
ここで情報通信システムの業績について考えてみよう。図7に情報通信システム(HDD事業を除く)の業績を示す。ITサービス産業の場合、景気遅行性、すなわちユーザーが景気悪化を受けてからIT投資を減額するまでにタイムラグがあるので、09年3月期は景気の景況を大きく受けておらず、営業利益1551億円の増益、営業利益率も7.7%まで上昇した。
一方、今期の見通しは売上高が前年比▲9.1%の1.9兆円、営業利益は同▲40.7%の920億円と大幅な減収減益計画を発表。景況感の悪化を織り込みつつ、10年3月期をボトムに12年3月期には売上高2兆円、営業利益率7%までのV字回復を計画している。ポイントはそれが現実的かどうかだ。
筆者は会社の想定するV字回復は厳しいと考えており、12年3月期は会社予想を下回る、売上高1兆9250億円、営業利益率5.4%を予想する。理由は、08年3月期〜09年3月期の業績のけん引役だった金融系のIT投資が大幅に伸長する可能性が現時点で低いことである。当時は、東京三菱UFJ銀行のシステム統合をはじめとして金融系の大型プロジェクトが目白押しだった。金融系は他の業種と比較して、ボリュームが大きいため、外注を大量導入してレバレッジを効かせる場合が一般的だ。ところが金融系のプロジェクトが一巡した現在、外注費を削減し、内製化している状況がある。
それでは日立の理論株価はどの程度だろうか? 会社全体の業績は2010年3月期に-2700億円と、引き続き赤字を見込む。来期の黒字転換は、今期、どこまで社会イノベーション事業への選択と集中ができるか、その構造改革次第だろう。前述のように、自動車関連や薄型テレビ事業は分社化したものの、持ち分法適用会社であるルネサステクノロジとNECエレクトロニクスの合併比率など、まだ確定していない点も多い。株価も、この事業改革の成果をまだ織り込んでいない、というのが筆者の見方だ。
7月3日の終値305円は解散価値と呼ばれるPBR(株価純資産倍率)1倍を下回る水準。今後、事業改革が進み、来期黒字転換の道筋がつけば、財務体質も改善し、一株当たり株主資本も増えることが推測される。現状の株価はそこまで織り込んでいないと筆者は考えており、当面はPBR1倍である315円程度で推移すると見ている。
富士通(6702)
積極的な海外展開でリスクをとる
富士通は、ITサービス分野を中核事業として選択し、不採算案件を撲滅するためにSEと営業部門を一体化させる製販一体など、選択した分野に経営資源を投入してきた。結論として、筆者は前述の日立、後述のNECのITサービス事業でのビジネスモデルを比較すると、富士通のビジネスモデルが一歩先を進んでいると考えている。
この“一歩先”が意味するところは、1)積極的な海外展開、2)明確な事業集中の2点。1)積極的な海外展開について、前期における日立の情報通信システム(HDD事業を除く)の海外売上は4200億円(売上比21%)、NECはIT/NWセグメントでの海外売上の開示はないもののNEC全体の海外売上高比率22.2%程度と推定される。
これに対し富士通は、テクノロジーソリューション分野での海外売上高が7748億円(売上比率31.9%)と、2社に比べて高い水準である。海外子会社である富士通アメリカ(米国)、富士通テクノロジーソリューションズ(ドイツ、以下FTS)、富士通サービス(英国)などの貢献が大きい。国内ITサービス業界首位であるゆえに市場成熟化の影響を最も受けやすく、その分、海外展開に活路を探ってきた結果とも考えられる。
IAサーバーなどのIT製品を核にコンサルティングなどでサービスを展開する海外戦略は、日立、NECともに同じだが、富士通が異なるのはグローバルデリバリーを中核としたオペレーション体制だ。”Think Global, Act Local”というキーワードのもと、今期からグローバルマーケティング機能を新設し、製品の開発、設計、調達、サプライチェーンをワールドワイドで一体化し(Think Global)、開発された製品・サービスを各地域販社を通じて販売 (Act Local) する体制を整えつつある。
海外展開において注力しているのが、IAサーバー「PRIMERGY」の販売である。低消費電力、容易な操作性を売りに新製品を投入し、2008年のIAサーバー市場における富士通のシェアは、HP(35%、出荷台数274万台)、Dell(同27%)、IBM(同14%)に次ぐ4位(4%、出荷台数 27万台)。2年後の2010年中に出荷台数50万台、シェア10%を目指す。
2)明確な事業集中については、08年6月に野副州旦社長が就任して以降、矢継ぎ早に選択と集中を実施。非中核事業だった1)HDD事業を東芝に売却、2)40nm世代のロジックICは自社では製造せず、半導体製造ファウンドリ大手である台湾のTSMCに生産を委託、などである。中核事業に関しては、3)独シーメンスとの合弁会社である富士通シーメンスについて富士通が全株式を取得し、今年4月にFTSとして完全子会社化。4)中堅企業向け機器販売・ソリューションに強みをもつFJB(富士通ビジネスシステム)をTOBにより100%子会社化し、10月1日より富士通の中堅企業向け営業機能とFJBの営業機能を一体化して、国内の営業体制を固める。
これを踏まえて、富士通の今後の業績について検討しよう。日立の場合、事業が多岐にわたるため情報通信システムの業績を予想したが、富士通、そして、後述のNECの場合、情報技術で事業がまとまっており、会社全体としての業績動向を考えたい。図9に富士通の売上高推移、営業利益推移を示す。今期は、前述のFTSの連結子会社化により、売上高では前年比+6000億円の増収効果が見込めるものの、FTSののれん代償却、開発費の一括処理などにより営業利益では同▲150億円の赤字(一過性の費用)、さらには、HDD事業も▲100億円の赤字の見通し、デバイスソリューションも▲150億円の赤字と、既存事業の赤字が響く。
一連の構造改革が実るのはむしろ来期だ。ITサービス事業であるテクノロジーソリューション事業が引き続き安定的に推移することに加えて、HDD事業の売却、デバイスソリューションの赤字幅の縮小により11年3月期は売上高が前年比▲0.39%の4兆8012億円、営業利益が前年比+59.7%の1264億円を予想する。今期は来期の飛躍のための基礎固めの1年と位置付けられるだろう。
富士通の理論株価はどの程度だろうか? 来期の営業利益を1264億円と仮定すると、1株当たり純利益(EPS)はおよそ30円前後、東証1部平均PER(株価収益率)15倍を当てはめた場合、理論株価は450円となる。7月3日終値528円からはやや乖離があるが、急激に業績が回復する局面では株価収益率が上がりやすいので、来期の業績急回復を織り込んで急伸していると筆者は考えている。
NEC(6701)
構造改革で基盤を固める
NECはIT/NWソリューションが売上比率に占める割合が64.6%と富士通と同様、情報技術が事業の中核である。違いはNECの方がネットワーク機器の売上高が大きい点。同社の09年3月期 IT/NWソリューション売上高2兆7239億円のうち、固定・携帯電話向けネットワーク機器の売上は、1兆46億円(ネットワークシステム・サブセグメント)と売上比率の37%を占める。富士通のサーバー・ネットワークなどを含めたシステムプラットフォームセグメントの09年3月期における売上高が6439億円であり、ネットワーク機器では業界首位のポジションである。
NEC全社としての今期の戦略は、構造改革に尽きる。背景は日立と同様であり、リーマン・ショック以降の急速な業績の悪化だ。08年3月期末に28.5%あった自己資本比率は、09年3月期末に20.9%まで落ち込んでいる。落ち込みが厳しいのがエレクトロンデバイス事業で、子会社のNECエレクトロニクスの赤字734億円に加えて、事業構造改善費用(728億円)、投資有価証券評価損(750億円)が重なり、当期純損失は▲2966億円となった。
今期は筋肉質の収益構造への転換として、2700億円の固定費削減に取り組む。具体的には、人件費(720億円)、外注費・業務委託費(1240億円)、リース・償却費(280億円)、販売・宣伝費(460億円)である。さらにエレクトロンデバイス事業の中核である子会社、NECエレクトロニクスについて10年4月を目途にルネサステクノロジと経営統合を予定する。
出資比率は現時点では決定していないが、新会社は連結子会社を外れて持ち分法適用会社となる見通し。これにより11年3月期以降の中核事業はITサービス事業、ネットワーク事業、さらには新規事業である環境エネルギー事業となり、NECの原点であるC&C (Computer & Communication)に近付く格好となる。
一方、7月初めには売上高500億円以上の大手をNEC本体が、それ以下の中堅企業をNECネクサソリューションズが、それぞれ営業を担う構造改革を発表した。顧客へのNECの窓口を一本化し、より多くの顧客に営業ができる体制を作るものである。
こうした点を踏まえて、NECの今後の業績について検討してみよう。今期について、会社営業利益計画は1000億円なのに対し、IFIS社によるアナリストコンセンサス(各アナリストによる業績予想の平均値)は512億円。すなわち会社営業利益計画1000億円は楽観的過ぎるとアナリストは見ている。
差異の主因は、前述のNECエレクトロニクスの業績動向であり、NECエレクトロニクスは今期の営業利益0円を計画しているが、厳しい状況が継続しており、赤字が拡大するという見方が強い。筆者も同様に厳しい状況が続くと考えており、今期営業利益720億円を予想する。焦点は来期だ。前述のようにNECエレクトロニクスが非連結化されるため、大幅増益が予想され、営業利益995億円を予想する。
コスト削減による構造改革の成果は、今期・来期に結実すると考えるが、IT/NWソリューション部門での成長戦略が不明瞭な点が課題だろう。とくに、前期はNTTによるNGN投資などでネットワークシステムサブセグメントが大幅増収となったが、今期はこの効果が薄まり、かつ次世代携帯電話インフラであるLTE投資のインパクトも限定的であり、来期も特需は見込めない。人員削減など急激かつ大幅な固定費削減のマイナス面もある。
最後に、NECの理論株価について考えてみよう。IT/NWソリューション部門での戦略が不透明な点はあるものの、NECエレクトロニクスの持ち分適用法会社化、構造改革もあり、来期に向けての業績回復期待から株価は急回復している。ただし今期のNECエレクトロニクスの不透明感などもあり、一本調子で上がるとは考えにくい。こうした点から、日立同様に解散価値であるPBR1倍である317円が同社の理論株価の目安と筆者は考えている。
- 長橋 賢吾
- ITアナリスト・博士(情報理工学)
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