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リスクを恐れずアイデアを具現化し、イノベーションを促進する

Finding the Essence of Innovation By Samuel Greengard
翻訳 : 古村 浩三

オバマ政権の下、米国では電力網インフラをITで管理する「スマートグリッド」をはじめとしたイノベーションへの投資が加速している。企業が不況という難局を乗り切り、次の成長を迎えるためには、イノベーションへの取り組みが不可欠だ。今回は、CIO INSIGHTの中からイノベーションに関する2本の記事を取り上げる。イノベーションにいかに取り組むべきか。その方策を探っていこう。 (本誌)

“イノベーション”とは、何をすることなのか。よく議論になるが、100人のCIOがいれば100通りの解釈がある。この点で、イノベーションという言葉の意味を正しく把握しようとする努力は、大きな意味を持たない。重要なのは、企業の将来がイノベーションの実現能力にかかっていることへの認識だ。

米信用情報サービス大手、エクイファックス(Equifax)でCIO(最高情報責任者)を務めるロバート・ウェッブ氏は、このことを良く理解している。年商19億ドルに上り詰めた同社は、社員からアイデアを引き出したり、試行したり、うまくいきそうなものについては実際のビジネスに適用するプロセスを作り上げた。ITを組み込む仕組みもある。

一連の取り組みをリードしてきたウェッブ氏は、「アイデアを実行可能な計画やプログラムに変換していく能力は、競争上の優位性をもたらし、利益の向上や成長へと導いてくれる。イノベーションは我々のような企業にとって欠かせないものだ」(ウェッブ氏)。

CIO INSIGHTでは、専門家やCIOへインタビューを実施し、イノベーションの課題や成功の指針をまとめた。

イノベーションが困難な理由
成功のための万能薬はなし

一口にイノベーションといっても、何をどうすればいいのか、そもそもどんな概念なのかがつかみにくい。「これをやればイノベーションが達成できる」といったテンプレートも存在しない。実際、優れていると思ったアイデアがうまくいかず、ありふれているアイデアが意外に成果をもたらすケースもある。有効なアイデアを確実に見分ける、一貫した手段は存在しない。

前出のエクイファックスのウェッブ氏をはじめ他の多くのCIOが、こうしたことを実感している。加えてイノベーションの有効な道具であるITは、驚異的なペースで進化している。その状況の中で、IT部門は企業が直面する問題解決と、ITを活用したプロセス改善という2つの役割を、同時並行で果たさなくてはならない。

イノベーションが困難な理由はまだある。企業によってビジネスモデルや文化が千差万別であることだ。グーグルでうまくいった方法が、小売業のウォルマートといった他の業種・業態でそのまま活用できるとは限らない。採り得るアプローチは無限に存在する。例えば、先進的なITを他に先駆けて導入することは、競争力の向上を必ずしも約束するものではない。

しかし、だからといってイノベーションに取り組まないという選択肢は、存在し得ない。冒頭で示したように、企業の将来がかかっているからだ。

アイデアを成果に結び付けることが大事

イノベーションに成功している企業やCIOは、どのように取り組んでいるのだろうか。アイデアをビジネスやITの改善に結び付け、収益を上げるためにはどう工夫すれば良いのだろうか。

ハーバード・ビジネス・スクールの准教授であり、Web2.0ツールの企業利用を「エンタープライズ 2.0」と提唱して研究するアンドリュー・マカフィー氏は、「イノベーションのためのしっかりとした基礎を作り上げるためには、自社のビジネスの原動力が何かを良く理解することが先決。ITを正しく導入・活用することも必要だ」と語る。

一方、イノベーションそれ自体は目的ではなく、継続的な取り組みが必要な活動である。戦略コンサルティング会社であるボストンコンサルティンググループが2007年に実施した調査では、2468社の上級管理職の46%が、イノベーション戦略から得られる結果と投資対効果(ROI)に満足していないという結果になった。

背景には何があるのか。イノベーション専門のコンサルティング会社であるイノサイトのスコット・アンソニー社長は、こう語る。「創造的、独創的なアイデアが出てくるのは当然良いことだ。だがそれを具体的な行動や成果に結びつけないと意味がない」。つまり、アイデアの創出まではできても、それに基づく具体的なアクションをとれていないのではないか、というわけだ。

前出のエクイファックスでは、アイデアの提案や討議、吟味に必要な時間をスタッフが捻出できるよう配慮している。アイデア開発のための短期集中型のセッションには、部署を問わず100人以上のスタッフが全米各地の事業所から集まる。「こうした“起業家チーム”が、若芽のアイデアから新規事業を生み出す」と、ウェッブ氏は語る。

出てきたアイデアは、試行も含めて原則として具体化する。すでに成果も出ている。2年前、同社はクレジットの認証に査定や、“権原保険”(注:不動産の権限に瑕疵がないことを保証する保険。日本では一般的ではない)を結び付けたサービスを開始した。実現するための情報システムも新規に開発し、従来からのビジネスを強化することに成功した。

情報システムの開発には費用がかかるが、それほど困難ではなかったという。アイデア創出のプロセスの中で、必要なシステムやソフトウェアを特定していたからである。「ブレーンストーミングで出てきたアイデアを伝えてもらい、IT部門がそれをダイレクトに具体化していった」(ウェッブ氏)。

情報技術は手段の1つ
体系的手法も有効

ITベンダーが次々と開発・販売する新しいテクノロジを利用した製品やサービスは、イノベーションにとって有効なことは間違いない。だが注意すべき点もある。イノサイトのアンソニー氏は、「イノベーションはIT製品を導入するだけで実現できるものではない。ITを使って変化を促進しようとする人々の行動の結果こそが、実はイノベーションだ」と語る。

一方、ハーバード・ビジネス・スクールのマカフィー氏は、「業務の迅速化や経費の大幅削減といった経営課題だけが、イノベーションの対象ではない点に注意する必要がある」という。「顧客や社員の利便性や簡易性、アクセシビリティを提供するといった単純なもの、あるいはちょっとしたものでもよい。人々が求めているものを提供することがイノベーションになるからだ」。

経営品質改善の手法であるTQM(総合的品質管理)やシックスシグマと、イノベーションの関係はどうか。これらの手法がイノベーションを抑制すると考える人は少なくない。「体系的な手法を用いて変動性を減少させ、予測可能性を高めた結果、イノベーションによる改革の余地が残らないように見えることがあるからだ」。ペンシルベニア大学ウォートン校の業務・情報マネジメント学部で准教授を務めるカーティク・ホーセンネイガー氏は、こう説明する。

しかし当然だが、TQMなどの手法とイノベーションは、排他的な関係ではない。実際、イノベーションのプロセスでは、数値目標を設定したり、正確なデータを調べることが必要になる。プロジェクトマネジメントなどの手法が生きる場面もある。エクイファックスのウェッブ氏は、「イノベーションにおける様々な経営手法の重要性を強く認識している」と語る。そのため同社では市場調査やインタビュー、その他の手法を積極的に活用している。顧客の動きを知り、マーケットで何が起こっているかを察知するために必要だからだ。

ITの役割を理解
社内外のリソースを上手に活用

イノベーションをリードし、実践するために、IT部門は何をするべきだろうか。まず第1に取り掛かるべきことは、企業全体におけるITの役割をきっちりと理解することだ。全社レベルでの経営目的を把握したうえで、全社や事業部門の支援にITを生かすための洞察力と見識を持つことが重要になる。当たり前のこととはいえ、これができているIT部門は少ない。ハーバード・ビジネス・スクールのマカフィー氏は、「ITを確実に稼働させ、活用を推進することは確かに大切だ。だが同時に、ビジネスモデルや戦略目標にまで踏み込んでビジネスプロセスを見ることも忘れてはならない」と指摘する。

第2は、ITリソースの調達や管理に関して、社外・社内のどちらか一方に焦点を合わせるのではなく、両者の適切なバランスを意識することである。「アウトソーシングなど外部のリソースやテクノロジを活用する効果は大きい。だが過度の依存は自らのコアとなる戦略的ビジョンを見失うことにつながる。一方で自社のリソースや都合にこだわり過ぎると、日進月歩のテクノロジについて行けなくなる。例えばソーシャルブックマークサイトの『Digg』やマイクロブログの『Twitter』といった最新のWebアプリケーションに目を向けず、あっさりと無視してしまう可能性がある」(マカフィー氏)。

本記事は米国の有力ITメディア「CIO INSIGHT」(提供はZiff Davis Enterprise)の記事を翻訳したものです。
ⓒ2009 Ziff Davis Enterprise, Inc.

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