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所有から利用へ、企業ITを支えるiDC
100年に1度の大不況と言われる今、企業が勝ち残るには業務改革とITコストの削減が不可欠だ。そのために有効な手段の1つとして、以前にも増して期待が高まりつつあるのがITアウトソーシングである。自社ITのすべてを自前で賄うのではなく、外部のリソースやノウハウを活用する。そして経営資源を最適に配置したり、競争優位を確保したりしていく。
ITアウトソーシングに対する企業の期待の高まりは、データセンターの進化を加速させている。元々は単なるコンピュータの設置場所だったデータセンターは、さまざまな形態のITアウトソーシングの基盤となるiDC(インターネット・データセンター)へと変化を遂げた。そしてSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)やPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)が登場した今、iDCは新たなステージに入ろうとしている。
iDCはデータセンター専業の事業者が運営するものだけでなく、通信事業者やシステムインテグレータが経営母体になっているものなど多種多様で、それぞれが“生い立ち”を強みにしたサービスを拡充して特徴を打ち出してきた。ところがiDCの利用が一般的になってきた昨今、省エネルギーやセキュリティへの対応、ファシリティや運用サービスの違いが少なくなっている。
以下では、データセンターからiDCへの変遷とITアウトソーシングの形態、SaaSおよびPaaSと従来からあるITアウトソーシングの関係、近い将来のiDCのミッションを示す。
IT機器の「設置場所」から「情報基盤」へと変貌
今でこそ企業情報システムのライフサイクル全般にわたって色々な価値を提供するiDCだが、その始まりは高価な大型汎用コンピュータの処理能力を時間貸しする計算センターだった。計算処理に必要なプログラムとデータを持ち込み、利用した時間に応じて料金を支払うものである。
コンピュータが多くの企業に普及し始めると、施設を所有していた計算センターや通信事業者、システムインテグレータはコンピュータを設置する「場所」を貸し出すようになる。コンピュータの設置には水冷設備や空調、瞬間停電に備えた無停電装置の整備など多額の設備投資が必要だったため、あらかじめ環境が整っている「場所」に対する一般企業のニーズがあった。この設置場所が、いつしかデータセンターと呼ばれるようになった。
そしてインターネットの普及に伴ってネットビジネスが活発になると、新たな役割を持つデータセンターが誕生した。それがインターネットへの高速なバックボーンを備えるサーバー群の基地、「iDC(インターネット・データセンター)」である。
iDCのサービスは当初、ユーザーが保有するサーバーの設置場所と、高速インターネット接続や24時間365日の運用サービスを提供する「ハウジング」が主だった。その後、初期投資を抑制すると共にIT資産を持たずにシステムを利用できる「ホスティング」に発展。さらには、外部のITや業務の専門家を活用できる「フルアウトソーシング」や「BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)」、必要なときに必要なだけのIT資産を利用できる「ITユーティリティ型」のサービスへと広がってきた。
「場所貸し」から「情報基盤提供」へ。iDCは企業ニーズの高まりと技術の進化に伴ってサービスの範囲を拡大させ、さまざまなITアウトソーシングの形態を支えている。
「使う経営」の実践手段
ITアウトソーシングの利点
当たり前だが、企業にとって大切なのは、既存ビジネスの競争力を強化すると共に、新規事業を迅速に展開することだ。それを効果的に実現するために、経営の観点で必要なリソースを見極めて「持つ経営」と「使う経営」を使い分ける。ここで言う「使う経営」の実践手段こそが、ITアウトソーシングである。
ITアウトソーシングにはいくつもの利点が考えられる。特に大きなポイントを「戦略」「財務」「リソース」「スキル・ノウハウ」という4つの側面で整理していこう。
戦略の側面(1)
環境変化への柔軟な対応
経済環境の変化や市場ニーズの変化に機敏に対応するには、必要な時期に必要なリソースを外部から調達する「使う経営」が効果的である。変化が激しくなればなるほど、効果を実感しやすい。逆に、固定費の割合が高い「持つ経営」では、経営リソース(人、製造設備など)を投入させざるを得ず、柔軟性に欠けてしまう。
ネットビジネスを考えると分かりやすい。ネットビジネスは、Webサイトを検索することで必要な機能や品質を満たす商品を世界のマーケットから探せて、大よそのマーケットプライスも把握できるという特徴がある。このように、価格が透明化されて競合相手も多い事業では、競争に打ち勝つために徹底したコスト削減が要求される。つまり、中核でない業務や非効率で高コストの業務を外部委託するなどしてコスト削減しなければならない。
戦略の側面(2)
競争優位性の確保
これからの企業経営は外部のノウハウや機能を自社に取り込むことで、競争力を強化していくことが必要になる。ITアウトソーシングは、そのための有効な手立てになる。明確な戦略に基づいて描いた「あるべき姿」を実現するのに必要であれば、業務の設計から運営まで一切を優れたノウハウや機能を持つアウトソーサに委託する。
例えば、通信販売のように顧客の維持が重要な業種では、顧客情報の管理・分析能力を備えるコールセンターが他社との差異化を図る付加価値となる。顧客満足度の獲得と消費者の嗜好などの分析は、次なる商品販売への足がかりとなるからだ。このとき企業は、アライアンスやM&Aと並ぶ経営戦略の1つとしてITアウトソーシングを位置づけ、高いスキルとノウハウを持つコールセンターを外部から調達する。こうすることで既存業務を強化するほか、自社にない新たな業務機能を取り込んでシナジー効果を生み出し、市場での競争優位性を確保する。
財務の側面(1)
資本効率の追求
経営効率が重視される昨今、資本の論理の徹底が求められている。ROA(総資産事業利益率)やEVA(経済的付加価値)、ROI(投資収益率)などの経営指標を駆使して企業価値を評価し、利益貢献が低い資産を極力持たない。そうした傾向はますます顕著になってきた。
資本の論理では、固定資産ベースではなくキャッシュフロー/流動資産ベースの経営が重視される。経営の4大資源である「人」「モノ」「カネ」「情報」の流動資産化が大きな意味を持ち始めているわけだ。
その点、ITアウトソーシングには固定資産を流動資産に切り替えるメリットがある。さらに、初期投資や事業に必要な人員数を抑制し、事業投資リスクを低減することも可能だ。
財務の側面(2)
総費用の削減
ITアウトソーシングは委託先への支払い費用が増加するため、一見するとIT関連費用が増加するように思えるかもしれない。しかし情報システム部門にかかわるコストの内訳を細かく見ると、自社で情報システムを構築・運営する場合に比べ、情報システム部門人件費やファシリティ関連費用などが下がり、全体としてコストを抑制可能なことが分かる(図1)。このとき自社で余剰となる情報システム部員や空き施設(マシンルーム)をどれだけ有効活用していくか、慎重に検討することを忘れてはならない。
リソースの側面(1)
ファシリティの補強策
最近のデータセンターは地震や水害のリスクが少ない場所を選び、建物や土台は免震・耐震構造を採用している。複数系統の電源を引き込み、自家発電機やバッテリを確保して停電など非常時にも備える。
加えて、サーバー室内のエアフローをシミュレーションして排熱用の「ホットアイル」と冷気を流す「コールドアイル」を配置したり、ラック当たりの冷却能力を調整。これにより冷却効率を高め、空調機が消費する電力の最適化を図っている。
これだけの条件を満たすスペースを自社ビルの一角に設置する場合、ファシリティ管理ノウハウを持った要員が新たに必要となるだけでなく、床の補強や電源の確保などに高額な費用と時間が必要となる場合が多々ある。そのため、自社のリソースや財務状況にもよるが、iDCの利用は一考の価値がある。
リソースの側面(2)
ファシリティの災害対策
データセンターの建物が十分に堅牢であっても、大規模な地震や水害の発生でライフラインもろとも影響を受けてしまう可能性はゼロではない。そうしたケースに備えて、現在のデータセンターから地理的に離れた拠点にデータセンターを置くのが一般的だ。ファシリティの災害対策を施しておくことで、災害時の迅速な復旧を可能にし、事業やサービスの停止による損失を最小限に抑える。
では、いつ発生するか分からない災害に対して、どの程度の投資をすべきか。これは難しい問題に違いないが、災害対策のためのデータセンターは自社で保有するより、iDCを活用したほうがコスト的な負担が少ない。
スキル・ノウハウの側面
最新技術の取り込み
サーバー仮想化やデータセンターのオートメーション化の技術が発達し、システムを停止せずに即時に機器やソフトウェアを変更できるようになってきている。しかし、自社のシステム要員だけで技術革新をキャッチアップし、コスト/効果を劇的に改善するのは、それほど簡単ではない。
革新的な技術の活用には、何より情報収集能力や情報評価能力、検証技術が求められる。情報収集能力について言えば、利用可能な最新技術を幅広くカバーするだけでなく、それを利用した時のパフォーマンスや移行リスクに関する情報が必要になる。だが、この種の情報は専門家でなければ入手が困難な場合が少なくない。
情報評価能力も同じことが言える。最新技術を採用すべきかどうかを判断する際に、最適な機能や性能を備えているかの分析が欠かせない。しかし新しい技術に関しては、十分な分析結果を得るだけの環境を整備するのは容易ではない。ベンダーから得た情報を基に独力で評価するにしても、質の高い検証を実施するスキルやノウハウが求められる。
最新技術を適用したITアウトソーシングの活用は、こういった“障壁”を乗り越えるための選択肢になる。
外部リソースの活用範囲で違うITアウトソーシングの形態
アウトソーシングとは、Out=「外部」のSource=「源泉」を活用すること。狭義には外部委託の一種と捉えられているが、現実には色々な解釈が混在するので、ITアウトソーシングの種類や特徴について改めて整理する。
図2は代表的なITアウトソーシングの分類を示したものである。コロケーション、ハウジング、ホスティング、フルアウトソーシング、BPOの順に、外部の資産(モノ)および専門性・経験(ヒト)の活用範囲が広がっていく。
例えば、ハウジングは企業が保有するサーバーやネットワーク装置などのIT機器をiDCに預けて運用・管理を委託することであるのに対し、フルアウトソーシングはIT機器のみならず、情報システムの企画から開発、運用、保守にいたるライフサイクル全般にわたって外部の資産や専門性・経験を活用する。さらに人事や総務、経理などでよく見られるBPOになると、委託の範囲はIT機器の運用・管理や情報システム関連業務にとどまらず、業務そのものの企画立案や業務プロセスの設計にまで及ぶ。
脚光浴びるSaaSやPaaSなどのITユーティリティ型サービス
ハウジングやホスティングのほかにも、ITアウトソーシングの形態はある。ここにきて脚光を浴びているSaaSやPaaSは、その典型例だ。これらはネットワークを介して必要なときに必要なだけのITリソースを利用する形態。「ITユーティリティ型(オンデマンド型)サービス」と総称できる。
「モノ」と「ヒト」の視点で従来からあるITアウトソーシングとの関係を整理すると、次のようになる。SaaSはフルアウトソーシングと同様の、外部資産や専門性・経験を活用するサービス。PaaSはホスティングと同じモノを必要に応じて調達できるサービスである。
SaaSやPaaSが従来のITアウトソーシングと大きく違う点は、利用量に応じて料金を支払う従量課金制であること。それに、パッケージ化(標準化)されたプラットフォームやアプリケーションを複数のユーザー企業が共有する点である。
ITユーティリティ型サービスには、企業が必要とする量だけリソースを調達できるというメリットがある。裏を返せば、リソースの過剰な所有や利用を防ぎやすい。パッケージ化されたリソースを用いるので短期間でシステムを使い始められるほか、ユーザー企業が自らバージョンアップしなくて済むといった運用面での利点もある。
SaaSとPaaSそれぞれの特徴を見ながら、ITユーティリティ型サービスのメリットを深堀してみよう。
SaaS
マルチテナントで資源を効率化
2000年頃、アプリケーションと運用管理を提供する「ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)」サービスが登場した。ASPは顧客ごとにサーバーやアプリケーションを専用に割り当てる「シングルテナント」の形式だった。このため小規模のユーザー企業にはオーバースペックになることもあり、あまり普及しなかった。
これに対してSaaSは、複数のユーザー企業でサーバーやアプリケーションを共有する「マルチテナント」の形式をとっており、リソースを効率よく使える。またSaaSは、複数のユーザー企業に同じバージョンのアプリケーションを提供する(シングルインスタンスと呼ぶ)ことで、iDC側で一括してソフトウェアのバージョンアップやパッチを適用できる。このことは運用・保守の負荷やコストの削減につながる。
PaaS
標準化した開発・実行環境
PaaSはOSやデータベース、アプリケーション、ユーザーインタフェースなどの各レイヤーで、標準化された開発フレームワークとSaaSの開発・実行環境(プラットフォーム)を提供する。このため開発用と本番用のように利用目的に応じてプラットフォームの環境設定を変えてシステム構築するのではなく、必要に応じて開発や本番の環境を調達することが可能になる。開発したアプリケーションはそのまま本番環境に移行して運用できる。
開発・実行環境を提供するPaaSは、アプリケーションの短期開発に対する期待が大きい。実際、社内外のサービスを組み合わせて短期間で情報システムを構築する「エンタープライズマッシュアップ」のプラットフォームとして利用する動きが出てきている。マッシュアップ可能な外部のサービス(Web API)やコンテンツは増え続けており、システムの利用部門がExcelのマクロを作る感覚で社外のサービスを組み合わせ、必要なアプリケーションを開発する日は近いかもしれない。
サービス範囲の拡大と機能特化が進むiDC
ITアウトソーシングの対象領域や内容が拡大する一方で、iDCを取り巻く環境は大きく変化しつつある(図3)。事業継続や内部統制への企業ニーズは高まり、仮想化や自動化など新技術が次々と登場している。こうした状況の下、iDCは企業のニーズや最新技術を取り入れながらサービス範囲を拡大すると共に、特定の機能に特化したさまざまなサービスの開発を続けている。
iDCが提供する「IDS(Intrusion Detection System)」は、堅牢なセキュリティを確保したいユーザー企業のニーズに応えるものだ。従来のホスティングに、不正アクセスを発見するアプリケーションを用いたセキュリティサービスを組み込んでいる。
運用管理に特化した「マネージドサービス」もiDCが強化しているサービスの1つだ。「ITIL」に代表されるデファクトスタンダードのプロセスや手法に基づく運用管理サービスを提供する。金融商品取引法(日本版SOX法)で要求される「ITを使った業務が正しく運用されていることの証明(ITによる内部統制)」を考慮したサービスなどもある。
技術や制度などあらゆる面で環境の変化が激しくなった今、iDCが果たすべき役割は大きい。ユーザー企業の要望に応じたり、制度対応や新技術を早期に取り込んだりするのは当たり前。そのうえで変化に柔軟に対応した新サービスを開発できる「情報基盤」でなければならない。そしてiDCのユーザー企業の資本効率や競争力を高めていく必要がある。
機能の使い分けを支援するサービスインテグレータへ変貌
SaaSやPaaSなどITユーティリティ型サービスが多くのユーザー企業に受け入れられるようになると、iDCは特定の「場所」でファシリティやプラットフォームを提供するという基本的な役割から、「仮想空間」でカタログ化した機能をサービスとして提供する役割へと変わっていく。企業はiDCが提供するサービスをリモート回線を通じて利用するようになり、「場所」は特段の意味を持たなくなるからだ。複数のユーザー企業がサーバーやアプリケーションを共有することになるので、iDCの利用に当たって「どのプラットフォームを使うか」「立地条件はどうか」といった点もあまり大きなポイントでなくなる。むしろ、iDCが提供する機能/サービスが重要になってくるだろう。
そうなると、ユーザー企業は複数のiDCから適材適所でサービスを調達するようになる。ミッションクリティカルなシステムはハウジングする。メールにはホスティングを使う。e-Learningなど社員教育のアプリケーションはSaaSで用意するといった具合だ。
こうした使い分けは、iDCに新たな変革を迫るようになる。キーワードは仮想化だ。
最適な機能/サービスを組み合わせる傾向が強くなると、ユーザー企業にとってiDCの管理が煩雑になる。ちょうど、サーバーが増えて管理しきれなくなったのと似たような状況が生まれるわけだ。
この問題を解決するために、サーバーでは仮想化技術を使った統合が進んでいる。サーバーと同様、iDCもユーザー企業の管理効率を高めるために、仮想化による統合が求められるのは想像に難くない。
仮想化したiDCとは、複数のiDCを取りまとめて、あたかも1つのiDCであるかのごとくユーザー企業にサービスを提供するものである。このときプライマリのiDCは連携するiDCのサービスの内容や品質、コストを説明するカタログを用意する。iDC間のデータ連携の仕組みも備え、運用管理やサービスデスク、課金のプロセスを統合する。
このようにiDCは遅かれ早かれ、自社と外部iDCのサービスおよびプラットフォームを組み合わせて、企業が求めるアプリケーションや管理機能、処理性能、サービス品質の要件を満たす「サービスイングレータ」としての色合いを濃くしていく。もちろん、iDCを利用するユーザー企業との間で取り交わす合意内容も、リソース明細と固定料金という現在の一般的なものから、サービス内容や品質、従量課金制の単価などに変わっていくことになる。
- 森野 秀明
- 日本ユニシス ICTサービス本部アウトソーシング推進部 マネージャ
- データセンター見積もりは「DC完全ガイド」
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