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前章までで、BPMの意義・目的・機能・効果などについて理解を深め、自分の会社の立ち位置もある程度把握していただけたと思います。BPMを実施することで、自分の会社のどの部門の業務プロセスのどこが弱いのかをまず明らかにし、そこを改善することで会社を一層筋肉質にできるということです。この章では、いよいよBPMの実践方法のポイントを説明します。

まずBPMのプロジェクトを大きく組織化・業務の可視化・システム化の3段階に分け、それぞれの段階でのBPMの実践方法について、実体験に基づいたヒントを中心に示していきます。組織化と業務の可視化は業種や会社の規模に関係なく共通のもので、その次の段階であるシステム化の前提となるものです。

システム導入によるBPMの実践については第5章「BPMシステム化」で詳述しますが、システム化を実施する規模・範囲に応じて3つのステップで解説します(図1)。

図1 BPMのプロジェクトの概要と各ステップの特長
図1 BPMのプロジェクトの概要と各ステップの特長(画像をクリックで拡大)

初期導入、あるいは試行的導入として比較的シンプルな業務形態、あるいはビジネスプロセスの一部(サブプロセス)のBPMを実施するのが第1ステップ(パイロットプロジェクト)。特定の1〜2個の業務形態について実施するのが第2ステップ(特定ビジネスプロセスプロジェクト)。本格的に展開するのが第3ステップ(全社展開プロジェクト)です。通常はまず第1ステップでBPMの経験を積み、順次第2ステップ、第3ステップと発展させていくことで、全社的にBPMを深化させていきます。

繰り返しになりますが、組織化・業務の可視化は、BPMの対象となる業務形態を選定するための作業であり、これらを通じてどのビジネスプロセスに対してBPMを実践するかを決めることになります。組織化・業務の可視化は、予算や緊急度、リスク度とは直接関係なく進めていくため、第1〜第3の各ステップ共通の作業となります。

1. 組織化

どんなプロジェクトでもその成功を左右するのは、プロジェクトの推進体制です。

ここでいうプロジェクトの推進体制とは、プロジェクトの全社的な位置付けやプロジェクトチームのメンバー構成、各メンバーのスキル、運用の定着化に向けてBPMの作業を継続的に実施できる会社の理解と協力などを指しています。

まず、プロジェクトは経営幹部直轄にします。最終的には全社の業務をまわす心臓部になるわけですから、トップからその意義・目的を繰り返し発信してもらうようにしてください。常に全社から注目されプレッシャーもありますが、高いモチベーションを保つことが重要になります。

ここではプロジェクト管理の一般的な事項は省略しますが、特にこのモチベーションは、BPMプロジェクトの実践では経営幹部・プロジェクトチーム・業務部門のいずれにも要求される要素であることを各自に認識してもらう必要があります。眼に見える形で進捗や効果を実感するためには、短期目標の設定や成果の確認をお勧めします。業務改革で起こる顧客の反応や売り上げの増加、リードタイムの短縮、コスト削減、処理誤りの削減などについて、部分的なものでもすぐに把握できるようにしておくことは、全社のベクトルを1つの方向に向けて突き進むための必須事項です。

ただし、BPMは単に業務の質(内容)を変える、あるいは量を増減させるものではありません。後段で述べるスキルや研修とも関係が深いことですが、会社の資源の有効活用とは何か、収益を生み出すしくみとは何か、お客様の要望に応えるにはどうすればよいかなど、会社のビジョン・目標・戦略を社内で理解し共有しておくことは非常に大切です。なぜなら、もしそれらを考慮せずにBPMに着手すると、会社自体が本質的に守るべきもの(競争力や顧客の信頼など)を失う危険があるからです。

受注から納品までのスピードを最大の差別化要因にすることで市場優位性を確立している会社の事例を紹介します。業務の精度を改善すべくBPMに着手。出荷業務を一層正確にするため、出庫に関わる社内手続きを増やし、チェック体制を強化しました。その結果、納品ミスの頻度は減ったものの、肝心の納品スピードが低下。一番大事にすべき差別化要因を失ってしまいました。この会社の場合は、出庫までの手続きを増やすのではなく、出庫後のモニタリング(注文と発送品とが一致しているかどうかの事後チェックなど)を強化したり、お客様へのフォローアップを実施するなどで業務品質を向上させていく手法が適切だったと言えます。

次に、プロジェクトチームのメンバー構成です。全社のスタッフ部門の代表である経営企画部門・経理部門・システム部門に加えて、現場の業務部門も核となります。人数についてはプロジェクトの規模に依存します。各々の部門から主担当・副担当を選出し、ベテランと若手が補完しあう形が取れることが理想的です。最初の試行プロジェクトの段階では、十分な数のメンバーを準備できないと思います。ただ、百歩譲ってたとえ兼務の形でも、何らかの形で関わるメンバーを確保しておくことが会社の継続的な活動のためには必要となります。

チームメンバーの間でBPMに対する理解度と業務の改善意欲にばらつきがあると、プロジェクト全体の方向性がぶれ、組織全体の推進力が失速してしまいます。経営幹部のメンバーに対する認知・理解と社内に対する発信は、プロジェクトのメンバーが社内の各部門と折衝を容易にします。チームメンバーはBPMの重要性を改めて認識し、「自分がやるのだ」という強い主体性を持って体制を維持・推進していく必要があります。

図2 BPMプロジェクトチームのメンバー構成
図2 BPMプロジェクトチームのメンバー構成

メンバーのスキルについては、業務のスキル・システムのスキルが重要視されるのは当然のこと。ただBPMの実践には、経営のスキル・会計のスキルも不可欠です。その観点からも前述のとおり、会社の主だった部門の参画が求められます。自分の会社が何のためにどのような製品やサービスを提供しているのか、どのようなデリバリチャネルを持っているのか、それは市場の要請でどのように変化すべきか、会計という物差しではかるとどのような数字になって現れてくるのか、といったことはBPMときわめて密接に結びついているからです。

当然、限られた人数構成でこれらをカバーすることは不可能に近いことです。そのため社内の英知をすぐにかき集められる仕組みや、外部のコンサルタントの力を借りてBPRやBPMの基本を短期的に研修する手立ても有効となります。

プロジェクトチームのスキル向上と同様、経営幹部と業務部門の参画も無視できません。これらはスキルというよりも、全社的な意義・目的を理解し協力するための見識を高めるものです。経営幹部並びに業務部門の関与を軽視したために、プロジェクトの当事者だけが苦労し空回りしたという事例はたくさんあります。

BPMの構築と運用の定着化に向けた作業の中で1番重要なのは、関係者全員の参画意識です。経営陣・業務部門・BPMプロジェクトチームが三位一体となって、みんなでお互いの役割を理解し協力し合ってこの仕組みを育てていくためには、きめ細かな気付きと評価が欠かせません。具体的には、どのような些細なことでも良いので、例えば「改善案投書箱」とか、部門横断的な「改善提案会議」「プロセス改善委員会」などの改善提案を受け付けるツールを用意し、一般社員から積極的にアイデアを吸い上げるとともに、採用された提案を表彰するなどの全員参加型の仕組みを作ることが重要です。

部門の垣根を越えて気付いた改善項目をいち早く反映できるしくみや、顧客に自社のビジネスプロセスを一部公開して透明性と改善効果を狙うと同時に、IR効果まで視野に入れている企業まで出現してきています。

2. 業務の可視化

体制が整ったら、業務範囲と業務の可視化の目標を明確にします。その際に重要なのは、最初から対象範囲を広げすぎないことです。最終的な対象範囲は全社のビジネスプロセスだとしても、プロジェクトが開始したばかりの時点では、対象を一部の主要な部分に限定すべきです。例えば、購買(窓口の集約による効率化)や販売(在庫・生産の状況を社内で共有(=可視化)することにより、販売の現場で顧客に納期を具体的に提示できる)、決算(集計プロセスの改善による網羅性・正確性の向上)など、重要かつ効果がはっきり出やすいビジネスプロセスからとりかかること。こうすることで、プロジェクトチームのメンバーがBPM活動の内容を理解しやすくなるとともに、目標が身近になりモチベーションが維持できます。さらに関連業務部門も実施の内容を理解しやすく、BPM活動の成果を早く確認することができます。小さな成功体験を積み重ね、他の業務に広げていくことが会社全体のモチベーションの維持につながり、結果的に成功に近づくポイントになります。業務の選択にあたっては、効果が見えやすいか、重要な業務であるか、課題あるいは改善すべき点があるかを重視して考えるべきです。

企画や研究開発といった、人の個性や能力、創造性に依存する業務は標準化・文書化が困難であることから、BPMの初期段階では対象から外してください。

業務可視化の目標は共有と標準化にあります。ただ、最初の取り掛かりは会社全体に理解の得られやすい、コストの削減・レスポンスタイムの短縮などに的を絞った方が作業の標準化が進みやすい場合があります。1度要領を覚えたら、違う角度のアプローチも比較的簡単に実践できるようになります。BPMの効果は定量的に数値化されるとわかりやすくなります。例えば、業務効率や品質の改善といった項目で、作業時間が短縮されたり、不良やクレーム数が減少したりすることです。また、定性的な効果として内部統制レベルの向上(処理ミス、帳簿上の異常値の削減)を目標にすることもあります。これらのような数値化された目標を「KPI(Key Performance Indicators)」と呼び、KPIを何にするか組織全体で話し合い、共有することが非常に重要です。

スケジュール管理も、可視化にあたっては非常に重要です。いつまでに何をするかについてマイルストーン(工程ごとの作業項目)を設定し、「進捗管理表」で定期的にプロジェクトチームで進捗を管理します。マイルストーンの例としては「現業務フローチャート作成」「現ビジネスプロセスに関する課題について業務部門にヒアリングを実施」などです。

次に、現業務に関わるリスクを洗い出します。これは現在の業務フローを見直して、各々の業務のチェック体制・チェック項目などが十分かどうか、十分でない場合はどう改善すると業務の正確性が向上するかを検討する作業です。例えば、仕入先に発注する場合、発注書の内容を仕入担当者が作成したあとに誰(通常上司)も確認しない、というビジネスプロセスになっているケースを考えます。この場合、担当者がミスタイプをすると、それがそのまま仕入先に送られてしまうリスクがあることになります。この場合は、発注書の送付前に上司など第3者が内容を確認(承認)する、というプロセスを加えることにより業務の誤りが減少する(=統制レベルが向上する)ことになります。

こういった作業を丹念に行い、現在のビジネスプロセスに内在するリスクを減らしていきます。

業務部門は、よく「ウチの業務は特別だから理屈どおりにはできない」「お客さんとの関係があるので無理」などと反論します。確かに、取引先との間でやり取りされるビジネスプロセスは、長年の慣習などで決められていることが多いことから変更が容易ではありません。場合によっては例外を認めざるをえない場面もあるでしょう。その場合はプロジェクトチーム内で明確な基準と承認手続きを設定し、当該プロセスを例外プロセスとして認め、その運用を文書化しておくことが必要です。

以上の作業の結果が新しいビジネスプロセスになります。プロジェクトチームがまとめた新しいビジネスプロセスを関係部門に導入することで、BPMの大きなステップが完了します。この時点でプロジェクトチームを解散し、当該ビジネスプロセスがきちんと機能しているかチェックする専任組織(プロセスオーナー)を立ち上げます。

プロセスオーナーは、全社最適な視点に立ってビジネスプロセスを日常的にモニタリングし、必要に応じて見直しをするという、いわゆるPDCAサイクルを回すことが重要な業務となります。経営幹部はプロセスオーナーに対して明確な使命を与え、社内に周知徹底します。プロセスオーナーは、社内のビジネスプロセスのメンテナンスに責任を持ち、業務が設計どおりに遂行されているかを継続的に評価・モニタリングして、主体的にビジネスプロセスを改善していく、可視化・共有化・標準化の推進母体です。

プロセスオーナーは、営業部などの業務を実施する現場とは異なることに注意してください。業務を実施する現場がみずからビジネスプロセスを管理すると、牽制機能が働かず部門ごとに部分最適のプロセス・運用が乱立し、全体最適の統制レベルが低下するからです。ビジネスプロセスの管理や変更は、会社全体の目線で判断できるプロセスオーナーが決定するようにします。

新しいビジネスプロセスの実践と改善には、評価・モニタリングが不可欠です。

現場の業務が、定義したビジネスプロセスどおりに実施されているか、実際の業務を行っている現場をモニタリングして、監視・改善を実行していくのです。なし崩し的にビジネスプロセスが守られなくなることは避けなければなりません

最近の日本企業は内部統制の徹底や透明で簡素な取引を意識してきており、日本全体が変わりつつあります。お客様に業務手続きの変更を申し入れてみると、案外簡単に受け入れられたという事例もあります。ビジネスプロセスの修正が面倒なため営業部門の抵抗にあう場合でも、「直接先方のお客様とお話します」といった毅然とした社内対応をするとともに、できれば先方と業務の改善について話し合いを持たれることをお薦めします。

図3 BPMプロジェクトの運用とモニタリング
図3 BPMプロジェクトの運用とモニタリング

評価・モニタリングのなかで発見した課題は、理由を分析し具体的なビジネスプロセス改善につなげます。例えば、帳簿にはあると記載してある在庫が、実際の倉庫にない場合を想定します。不一致が発生した理由としては、(1)出庫の情報が経理に伝わるビジネスプロセスに漏れ・不備がある、(2)出庫伝票自体の起票プロセスに不備がある、(3)出庫担当が上司の現物確認なしで出庫できるビジネスプロセスになっている、(4)実出庫担当と在庫管理システムにおける出庫データの承認者が同一人物で、牽制する機能がない、(5)お客様の荷物の受領を確認していない、あるいは確認していても出庫データと照合していないなど、様々なものが考えられます。

不一致が発生した理由を分析し、根本的な対策を検討することが重要です。単に「次から注意せよ」と言っても、その背後にあるビジネスプロセスの問題点に目を向け、改善しなければ何の解決にもなりません。ビジネスプロセスの不備には往々にしてコンプライアンス上の課題やリスクが潜んでいます。

よくある事例としては、お客様と会社の間で、双方が口頭でのみ確認したベースで社内処理し、後日問題が生じた際に当社側が損失を負担せざるを得なくなるケース、あるいは担当者が作業用に作成した資料でお客様と契約を決めてしまい、上長が承認した条件・内容と異なってしまうケースなどがあります。

このように評価・モニタリングの過程を経ながら新しいビジネスプロセスを改善・統一していくことによって、情報システムを導入しやすくなります。初めは人間が評価・モニタリングのチェック作業をしていても、改善を進め監視すべき項目が明らかになった段階で、ITツールによるモニタリングを導入するとより効率的な結果を生むものです。

経営陣とは、要改善事項と改善後のビジネスプロセスについてのコミュニケーションを密にする必要があります。BPM活動でどういう課題が見つかりどう改善されたのか、この活動が本業のビジネスプロセスにどのように関係してくるのかについて、経営幹部に正しく認識してもらうことは、BPMの成功には不可欠です。担当役員が出席する定例報告会を毎月実施し、改善された点、現在取り組んでいる課題などを認識してもらうことが非常に重要です。

BPMを効率的、網羅的に進めるのはエネルギーと人手がかかります。でも、コスト削減効果や業務効率化・生産性向上の効果、新しい価値を創造する効果、内部統制レベルが改善される効果が得られることを考えれば、非常に価値がある活動です。これからのグローバルな経営環境の中では業種や規模に関係なく必要不可欠な取組みであり、怠れば会社が弱くなります。

次の段階としては、人手のかかる作業をより効率的・機能的に行う「BPMシステムの導入」が非常に有効です。次章ではBPMシステムの導入について、本章と同様3つのステップに分けて説明いたします。各ステップの組織・期間・費用・業務範囲・システムの特徴は図1の通りですが、次章の説明の中では、システム化の内容をより具体的に、設計・開発・運用のそれぞれのフェーズ/段階に分けて詳しく見ていきます。

本コラムは、ビジネスプロセス革新協議会(BPIA)で活動するビジネスプロセスマネジメント(BPM)研究会のメンバーが協力して執筆しました。BPIAは、次代の企業にふさわしい組織・業務革新の「あるべきモデル」「導入活用定着手法」を究明し、企業競争優位性の確立とビジネスの生産性向上を目指して1999年に設立されました。また、BPM研究会はITベンダー、ITコンサルタント会社、ユーザー企業で実際に業務革新に取り組んできた専門家が、もっとも効果的/実践的な業務革新の手法を探求しているグループです。

執筆 執筆協力
渥美 懋(ビジネスモデル)
田岡 賢輔(富士ソフト
吉岡 亮(三井物産
赤城 宣幸(協和エクシオ
松尾 光
串田 昭治(クシダ経営研究所)
濱田 隆一郎(シグマクシス
安田 正義(アガトン
福田 雅人(三技協
青山 修二・臼井 琴美(BPIA事務局)

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