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インフラ拡充を競う米国ベンダー大手、目指すは世界の“発雲所”—Part2

米国クラウド最前線

2006年夏に米AmazonがEC2を開始してから3年。クラウドコンピューティングは、IT業界はもとよりビジネス界に大きな影響を及ぼしつつある。一方、ユーザーが特定のクラウドサービスに囲い込まれる“ロックイン”を懸念する声も上がっている。

米国商務省の国立標準技術局(National Institute of Standards and Technology:NIST)は2009年6月、クラウドコンピューティングの定義(草案)を発表した(表2-1)。これまで、クラウドに関する定義はあやふやで人によって異なる見解を示していた。NISTの今回の発表により、「柔軟性」や「従量課金」といったクラウドが備えるべき要件が明確になったといえる。

表2-1 NISTによるクラウドコンピューティングの定義
備える特徴 摘要
オンデマンドのセルフサービス ユーザーが必要なときに必要な資源をセルフサービスで要求して使える
ユビキタスな
ネットワークによるアクセス
クライアントの多様なプラットフォームから標準の手順で、ネットワークを経由してアクセスできる
場所に依存しない資源プール ユーザーの要求に応じて動的にコンピューティング資源をマルチテナント方式で割り振り、解放できる。ユーザはそれらの資源がどこに設置されているか気にかけることはない
迅速な柔軟性のあるサービス ユーザーの必要に応じて、利用する資源を迅速にスケールアップあるいはスケールダウンできる
従量課金 ユーザーが使用する資源の量をシステム側で測定し、その量に応じて利用料を課金する

表2-2に、代表的なクラウドサービスの利用料金の例を示した。いよいよ、IT資源を電気・ガス・水道といった公共サービスと同様の気軽さで使える時代が始まった。

表2-2 主なクラウドサービスとその利用料
種類 サービス名 サーバー
(1時間当たり)
ストレージ
(1ギガバイト当たり)
データ転送
(Gバイト当り)
摘要
入力 出力
IaaS Amazon EC2 $0.10〜$0.80 $0.12〜$0.15 $0.10 $0.10〜$0.17 仮想サーバーの提供
RackspaceMosso $0.015 $0.15 $0.08 $0.22 仮想サーバー、ストレージを提供
GoGrid $0.08 $0.15 $0.00 $0.50 仮想サーバー、ストレージを提供
PaaS Google App Engine $0.10 $0.15 $0.09 $0.11 Python、Javaのアプリケーション開発・実行環境を提供
Windows Azure
(2009年10月にサービス開始予定)
$0.12 $0.15 $0.10 $0.15 Microsoftの.NETアプリケーションの開発・実行環境を提供

火付け役はAmazon
大手ユーザーも採用

クラウドの先駆けとなったのは、米Amazonだ。同社がストレージ貸しのサービスを開始して世界を驚かせたのは、2006年3月のこと。斬新なサービスに対する好奇心も手伝って、ユーザー数を急速に伸ばした。

しかし、ストレージだけではせいぜいバックアップかアーカイブにしか利用できない。ユーザーからは、「演算処理機能も使わせてほしい」という要望が上がった。同社はその声を待っていたかのごとく、同年8月に仮想マシンの利用サービスを開始した。「Elastic Compute Cloud(EC2)」である。

その後もAmazonは、矢継ぎ早にクラウド関連サービスを発表してきた(表2-3)。これらを「Amazon Web Services(AWS)」と総称する。Amazonによると、AWSのユーザーアカウント数は、2009年5月現在で50万に上る。

表2-3 米Amazonがこれまでに展開してきたクラウドサービスメニュー
サービス開始 サービス名 摘要
2006年3月 Simple Storage Service(S3) ストレージ・サービス
2006年4月 Simple Queue Service(SQS) メッセージキューイングサービス
2006年8月 Elastic Compute Cloud(EC2) スケーラブルな仮想マシン環境
2007年12月 SimpleDC データベースの索引・照会(EC2やS3を利用していることが前提)
2008年12月 CloudFront コンテンツ配信サービス
2009年4月 Elastic MapReduce 大量なデータの並列処理
2009年 5月 CloudWatch 資源の監視・管理
Auto Scaling 自動スケール化機能
Elastic Load Balancing 負荷バランス機能

大手ユーザー企業も続々とAWSを導入している。その一例が、新聞社のNew York Timesである。同社は、Amazon S3とEC2を利用して、1851〜1922年の新聞記事の画像データを検索・閲覧できるサービスを提供している。NASDAQ(米国の新興企業向け証券取引所)は、S3に過去の株式データを保存している。

こうしたAmazonの取り組みを追いかけるように、「クラウドコンピューティング」という言葉が普及し始めた。試しに、ある検索ワードがGoogleでいつ、どれだけ検索されたかをグラフ化できるGoogle Trendsで、「cloud computing」という検索ワードを指定してみよう。すると、図2-1のようなグラフが現れる。これを見ると、クラウドコンピューティングは2007年後半から関心を集めはじめたことが分かる。

図2-1 2008年後半から、「Cloud Computing」を指定した検索件数が急増している
図2-1 2008年後半から、「Cloud Computing」を指定した検索件数が急増している

その間、2007年9月にSalesforce.comが「Force.com」を開始。同年11月には、IBMが「Blue Cloud構想」を打ち出した。続く2008年4月にGoogleが「Google App Engine(GAE)」のベータ版を開始し、Sun Microsystemsは2009年3月に「Open Cloud Platform」を発表した。さらに、2009年10月にはMicrosoftが「Microsoft Windows Azure」を始動する。この原稿を執筆中の2009年8月上旬にもニュースが飛び込んできた。VMwareが、Javaによる開発フレームワークを提供するSpringSourceを買収。PaaS開発に乗り出すことを明らかにした。

需要増を見込むベンダー
競ってデータセンター増設

このように、米国では「先んずれば他を制す」とばかりに、クラウド上の陣取り合戦が始まっている。それを象徴するのが、大手プロバイダによるデータセンター建設ラッシュである。

Googleはもともと、本業である検索やWeb広告サービスを提供するために、世界に多くのデータセンター(噂では36カ所)を運用している。それらに加えて現在、米サウスカロライナ州やオクラホマ州、オレゴン州に総額6億ドルを投じて新データセンターを建設中である。

Microsoftは2007年にワシントン州、2008年にテキサス州にデータセンターを開設。さらに2009年7月、シカゴ市郊外とアイルランドにデータセンターを完成させた。2009年10月に提供を開始するAzureに向けたインフラ整備を着々と進めていることが伺える。

一方、Blue Cloud戦略を推し進めているIBMも、3億6000万ドルを投じて新たなクラウド向けデータセンターを6カ所で建設中である。

こうした動きはもちろん、将来におけるクラウドサービスの需要を見越してのことである。これらの企業は、世界の発電所ならぬ「世界の発雲所」となることを目指しているのだ。

クラウドにまつわる各種管理サービスやコンサルティングサービスを提供するベンチャー企業も続々と生まれている。ユーザーにとってクラウドは初めての経験であるため、既存システムからの移行やデータ連携に際して専門家によるコンサルティングやアドバイス、場合によってはプロジェクト管理といった助けが必要になるからである。既存のリセラーやシステムインテグレータも、クラウドに関するコンサルティングサービスを続々と始めている。

例えば、RightScaleはAWSやGo Grid、Rackspace Mossoのユーザー向けに、クラウド上の資源と稼働状況を監視・管理する機能をSaaS方式で提供する。HyperStratusは、主にAWSのユーザーを対象にしたコンサルティング企業である。Sererra Consulting Groupは、IntacctやNetSuite、Salesforce.comのユーザーに対してコンサルティングサービスを提供している。

米国クラウド業界のサービスの分類と主なプロバイダを表2-4に示す。米ガートナーの調査によると、世界のクラウド市場は2008年には464億ドルに上った。同社は、この市場は今後も成長を続け、2013年には1500億ドルに達するものと予測している。

表2-4 クラウドサービスの分類と主なプロバイダー
分類 サービスメニュー 主なクラウドサービス/プロバイダー
SaaS CRM NetSuite, Salesforce.com
ERP Digician, Intacct, NetSuite
HRM Successfactors, Taleo, Workday
PaaS アプリケーションビルダー DataWeb, Intuit QuickBase, Rollbase, Long Jump
IDE(統合開発環境) Bungee Labs, Force.com, Google App Engine, Windows Azure
クラウド基盤サービス ストレージサービス Amazon.com, Rackspace Mosso, EMC
デスクトップ管理 Everdream, Paragent
セキュリティ F-Secure, Qualys, SanSafe
アーカイブ Proofpoint, Zantaz
クラウドプラットフォーム クラウド管理ツール RightScale, Univa, NetIQ
仮想マシン VMware, Citrix, Palalles
OS 各社Linux, Solaris, Windows
IaaS Amazon.com, GoGrid, RackspaceMosso, Terremark, Layered Tech

米国政府もクラウド利用に積極的な姿勢を見せる。2009年3月にオバマ大統領から米国連邦政府のCIOに任命されたビベック・クンドラ氏は、政府機関のIT戦略の柱としてクラウド活用を掲げている。同氏は、それまで米国の首都ワシントンD.C.のCTOを務めていたときからクラウドコンピューティングに並々ならぬ関心を寄せていた。2009年1月20日にオバマ大統領の就任式がワシントンD.C.で行われた際、同市のWebサイトにアクセスが集中することを予測し、就任式の前の週から同市のミラーサイトをAmazon.comのEC2に構築して備えたほどである。

政府関連のIT調査会社であるINPUT社によると、米国連邦政府ならびに州政府、地方都市政府の2008年におけるクラウド関連予算は4億4700万ドルに上った。今後、この数字は年率26%で増加し、2013年には14億3500万ドルに成長するものと同社は見ている。

信頼性への懸念、技術革新で解消へ

クラウド利用を検討するユーザーにとって最大の懸念は、サービスの信頼性だろう。これまで、AmazonとGoogleにおいてはシステム障害によるサービス停止が数回ずつあった。記憶に新しいところでは2009年6月、Amazon EC2のサービスが米国の一部地域で数時間にわたって停止した。その原因はデータセンターへの落雷だった。

しかし、こうした障害によるサービス停止は減少傾向にある。プロバイダ各社は自社のクラウド技術を進化させ、サービスの可用性を高めている。クラウドサービスは将来、電力並みの高信頼サービスへと成長していくだろう。

一定以上のサービスレベルを保証するクラウドプロバイダも増えている。例えば、Amazonは2008年夏から、SLAとそれを守れなかった場合のクレジットを掲げている(表2-5)。

表2-5 Amazon Web Servicesの可用性とクレジット
AWSサービス 公称可用性 可用性を下回った場合 クレジット
(利用料の割引率)
AWS S3 99.9% 99%99%≦可用性<99.9% 10%
可用性<99% 25%
AWS EC2 99.95% 可用性<99.95% 10%

クラウドに対して多くのユーザーが持つ懸念は、信頼性のほかにもう1つある。セキュリティだ。大切な自社のビジネスデータを外部に保管することに不安を感じるのはもっともである。しかし、データを自分の手元に置いておけば本当に安全かと言えば、そうとは限らない。ある調査結果によると、情報漏洩の原因の70%は、内部にいる従業員の不注意によるものであるという。

もちろん、外部からの脅威も増している。巧妙な手口でウィルスやワームなどのマルウェアが日々、送りつけられてくる。しかし、ユーザー企業が完璧なセキュリティ対策を自力で整えることは事実上、不可能に近い。ITの専門家であるクラウドプロバイダが最新技術を駆使してセキュリティ対策を施した設備にデータを預けるほうが、実は安全である場合は多い。餅は餅屋、である。

それでも「いかなるデータも外部には出したくない」と言うユーザーは、これまで通り自分でサーバーやストレージを調達し、時間と労力をかけて自前システムを構築・運用すればよい。しかし、そうした作業に忙殺されているうちに、クラウドを上手に使って素早く新規事業を立ち上げた競合他社に出し抜かれるかもしれない。そのことは、覚悟しておいたほうがよいだろう。

囲い込み防止
標準化・オープン化の動き

信頼性やセキュリティへの懸念は、技術の進展に伴い早晩解消できるとして、クラウドが抱える最大の問題点はほかにある。サービス間での相互運用性や移植性がないことだ。例えば、GAE上で開発したアプリケーションをAWSでそのまま実行することはできない(サードパーティーのWebサービスを使ったデータ交換は可能)。このため、あるクラウドサービスの乗り換えは非常に難しい。ユーザーは一度サービスを選ぶと、そのサービスにロックインされてしまう恐れがあるのだ。

そこで2009年3月、IBMやSun Microsystemsなどの主要プロバイダが中心となり、クラウド技術の標準化・オープン化に向けた6原則を掲げた。これを、「オープンクラウドマニフェスト」と呼ぶ(図2-2)。約240社がこのマニフェストに賛同している。しかし、その中にAmazonやGoogle、Microsoft、Salesforce.comといったクラウド大手の名はないことから、6原則の実効性に疑問を投げかける声もある。

  1. クラウドプロバイダは、オープンな協働と適切な標準を通じて、その促進のために協業すること。
  2. クラウドプロバイダは、カスタマを独自のプラットフォームにロックして、選択の自由を限定してはならない。
  3. クラウドプロバイダはできる限り標準仕様を使うこと。
  4. 新しい標準が必要な場合、むやみにそれを作らないこと。イノベーションを促進するものであること。
  5. オープンクラウドはカスタマのニーズによって推進されるべきであり、プロバイダのニーズであってはならない。それはカスタマの要件に対して検証されるべきである。
  6. クラウドコンピューティングの標準組織、支援グループ、コミュニティは協同で作業すべきである。
図2-2 クラウド標準化団体であるオープンクラウド・マニフェストの声明
http://www.opencloudmanifesto.org

だが、クラウド技術の標準化・オープン化が進めば、複数のクラウドを連携させ、自由にサービスを選択できるようになる。このことがユーザーにもたらすメリットは大きいし、クラウド市場全体のさらなる活性化にも利するはず。オープンクラウドマニフェストの今後を見守りたい。

山谷 正己
IT Leaders米国特派員、米Just Skill社長/名桜大学客員教授
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