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ソフト開発にコンピュータを使わないIT産業(vol.13)

情報システム関連の業務に携わるようになる前まで、筆者はIT産業の人たちをコンピュータ遣いの達人だろうと考えていた。それにしても腑に落ちないことがあった。ソフトウェアを作る人たちが、どうしてコンピュータを駆使しないのかということである。言い換えれば、ソフトウェア生産の機械化がなぜ行われないのだろうかという、単純な疑問である。

製造業などでは自動化は当たり前

製造業も建設業もサービス業も常に機械化や自動化、部品化を進めている。依然として人手に頼らなければならないことも多いが、機械化やロボット化を進める合理化努力は止まない。

かなり以前のことだが、ある造船所を訪問した際にその一端を見たことがある。鋼板から最も経済的に部品の板を切り出す“板取り”や“切り出し”を自動化し、船体に組み上げる溶接もロボットで自動化していた。これらの制御はコンピュータで行われており、そのプロセスでは人手を極限まで省いていたのだ。溶接の熱による歪み分も計算済みなので、仕上がりの寸法検査は必要ないという。こういうコンピュータの使い方こそ、本来求めていたものではないかと感銘を覚えた。

ひるがえってIT産業を見ると、ソフトウェアの生産は相変わらず人力頼みで、機械化や自動化の進化が見られない。これはどうしたことなのだろう。

「アジャイル開発」といわれる開発手法のカテゴリーがある。アンチ・ウォーターフォール型の手法で、「XP(eXtreme Programming)」や「スクラム」など反復型の手法を用いて、要件変更に柔軟に対応し、早期に高品質のソフトウェアを構築する開発手法を総称している。この中にはソフトウェアのコンポーネントを再利用するようにしてセミオート化するRAD(Rapid Application Development)ツールやCASE(Computer Aided System Engineering)ツールなど古くからある手法も含まれるようだ。

しかしここで言うソフトウェア生産の機械化・自動化は、ソースコードの自動生成を指す。RADツールやプログラムパターンを使って部分的に再利用するのではなく、設計書からソースコード全体を自動生成するアプローチである。2001年に提唱された「MDA(Model Driven Architecture:モデル駆動アーキテクチャ)」が、最も近いイメージだ。

もちろん製造業でも、微小レンズの研磨や船舶プロペラの最後の仕上げは熟練工である匠の技が求められる。だが、通常のソフトウェア開発におけるプログラミングでは匠の技は不要だ。ロジックに基づいて書かれるものだから、設計書に基づいて機械化できるはずの領域である。それによって労務集約型の生産モデルも変えられる。ITエンジニアがデザインに集中することによって早く、安く、品質の良いシステムを作れるようになるはずだ。

普及しない自動生成ツール

ソースコードの自動生成は昔からの夢であり、既往のチャレンジや知見の集積もある。自動生成ツールの類いが存在しないわけでもない。

1989年にウルグアイで開発されたGeneXusや、国産のECOQやWeb Performerはソースコードを自動生成するツール(開発手法)だ。イスラエルで生まれたSAPIENSはソースコード生成機能こそ持たないが、設計書から機械的にアプリケーションを生成できる。いずれもDOA(Data Oriented Approach:データ中心アプローチ)の設計手法を取り込んでいることは興味深い。

ところがいずれも普及はパッとしない。2006年6月にはキヤノンソフトウェアなど8社が、「ソフトウェア開発自動化推進の会」を設立した。しかし、その後の活動は顕在化していない。

普及しない理由は、いくつも挙げられているが、それはやりたくないことや出来ないことの言い訳のようにも聞こえる。人月ビジネスから脱却したいと言っているIT産業は、むしろ人月ビジネスに甘んじているように見えるのだ。

だが人員頼りでは人件費コストの安い国に勝てるはずはない。もっと積極的にシステム開発のコンピュータ化、自動化に取り組むべきではないのか。パッケージ開発やクラウド型アプリケーションサービスでは、その効果も大きいはずだ。設計力で勝負して付加価値を取れるようになることが、人月ビジネスからの脱却だと思う。

木内 里美
大成ロテック監査役。1969年に大成建設に入社。土木設計部門で港湾などの設計に携わった後、2001年に情報企画部長に就任。以来、大成建設の情報化を率いてきた。講演や行政機関の委員を多数こなすなど、CIOとして情報発信・啓蒙活動に取り組む

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