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“兆し”に敏感な組織を創るPDCとCPM(第2回)

機会や危険の兆しを察知して行動に結び付ける「Seek & Action」型の情報活用が肝となる「パターン・ベースト・ストラテジー(PBS)」。PBSを実現するためには、トップが定めた戦略を社員全員が共有する「パフォーマンス・ドリブン・カルチャー(PDC)」と、それを推進する企業パフォーマンス管理(CPM)が鍵となる。

前号で解説した「パターン・ベースト・ストラテジー(PBS)」は、ビジネスに影響をもたらす“兆し”となる情報を自ら探し出して行動に移す「Seek & Action」が肝となることを述べた。これは経営環境の変化を受動的に収集し、素早く対応することに焦点を当てた従来の「Sense & Respond」型の情報活用とは大きく異なる。

どうすればSeek & Action型の情報活用に移行し、PBSへと踏み込むことができるのだろうか。ガートナーは、経営トップが定めた戦略を社員全員が共有する「パフォーマンス・ドリブン・カルチャー(PDC)」の醸成が不可欠だと考えている。PDCとは、従来型の厳格な指令・統制型(コマンド・アンド・コントロール)のアプローチとは異なり、新たな機会や失敗の兆しを積極的に利用し、経営者だけでなく従業員1人ひとりが能動的に行動することで、競争優位性の獲得に結び付ける企業文化だ。

ここで重要となるのは、兆しを見つけた後に行動に移すべきか、移さないべきかの判断だ。現場レベルで重要な兆しを見つけたのに、上からの指示待ちでまったく動かない、というのは重大な損失につながる。だが各従業員が全社戦略を正しく理解し、経営者とズレのない考え方をしているとは限らない。「従業員に勝手にやってもらっては困る」と考える経営者も多いだろう。

PDCを根付かせるには、企業の進むべき方向を組織全体に浸透させ、「何をやって、何をやらないべきか」といった判断基準を組織の端々まで理解させることが必要になる。企業全体が向かうべき方向性を、明確かつ全社共通の指標で示すことができれば、現場はさまざまな局面で迷いなく判断できるだろう。ガートナーがそのために必要だと考えているのが企業パフォーマンス管理(CPM)だ。

全社戦略管理を実現するCPM
仮説の継続的見直しが鍵

CPMは、新たな機会や失敗の兆しをいち早くとらえるための企業内のマネジメント基盤となる。ガートナーではCPMを、パフォーマンスを管理する「プロセス」、プロセスを推進する「方法論」、戦略目標と業務パフォーマンス目標に照らして実績を評価するための「指標」、上記プロセスを支援する一連の「分析アプリケーション」の組み合わせと定義している。

CPMがカバーする社内プロセスを図1に示した。CPMでは、上位から「企業経営」「事業/部門マネジメント」「業務遂行」の3つの意思決定層が中核となる。層ごとの意思決定は、異なるメンバー、異なるサイクルで実施し、今後の方向性を上位層から下位層に伝達していく。

図1 CPM がカバーする社内プロセスのイメージ
図1 CPM がカバーする社内プロセスのイメージ(図をクリックで拡大)

CPMの推進では、全社の幅広い業務領域からの情報の集約が不可欠となる。だが、参照する情報の種類が増えれば増えるほど、異なる情報解釈による現状認識の差により、組織間の意思決定に矛盾が生じる可能性が高くなる。このような状況を放置しつづけると、各組織が企業戦略とは異なった方向に向かってしまうことになりかねない。

このような状況を回避し、企業戦略と日々の判断の方向性を合致させるには、各層における意思決定の結果とその根拠を、プロセスの関係者にフィードバックし、各関係者が行動・計画を修正できる仕組みが不可欠となる。その方法論の1つとして有名なのがバランス・スコアカード(BSC)である。

BSCは、ビジネス上の課題を分析し、「財務」「顧客」「業務プロセス」「学習と成長」の4つの視点ごとに、目標となる指標を設定する。各指標間には因果関係を持たせ、個人レベルの指標達成が部門、全社レベルの指標達成に結びつく仕組みになっている。

気をつけなければならないのは、因果関係は仮説に基づいて決定するという点だ。仮説が誤っている場合、指標や因果関係の早急な見直しが必要となる。このため、指標に関する信頼に足る情報を収集し、定期的に仮説を検証することで、仮説の誤りを早期に見直す仕組みを構築することが重要になる。

国内でも広がる全社戦略重視の企業

CPMのようなマネジメント基盤としてのビジネスインテリジェンス(BI)に対する潜在的なニーズの高まりは、欧米に限った話ではなく、国内企業における導入意識の変化にも如実に表れている。

国内における帳票ツールをはじめとしたBIツールは、これまで実務担当者など現場のスタッフの利用が多かった。だが最近では、社長をはじめとする役員・管理者レベルでの利用意向が高まっている。ガートナーITデマンド・リサーチが2005年5月と2008年11月に実施した調査結果を比較すると、05年5月の実績に関する調査では課長クラス(66.3%)や主任クラス(54.9%)、一般社員クラス(53.9%)の利用率が高かった。だが08年11月の利用意向に関する調査では、社長クラス(22.3%から45.6%に上昇)、部長クラス(43.0%から70.9%に上昇)の比率が高まってきているという結果となった。

本連載は米ガートナーのリサーチ「Pattern-Based Strategy Requires a Performance-Driven Culture」をもとに日本法人アナリストが一部編集し、加筆したものです

Seek & Actionへの変化
インターネットの進化が後押し

堀内 秀明氏 堀内 秀明
ガートナー リサーチ
マネージング バイス プレジデント

情報活用の考え方として、従来型のSense & RespondにSeek & Actionが加わった背景としては、インターネットをはじめとするテクノロジの進化が大きく寄与している。これまでの情報活用は、基本的に社内システムのデータ集約にとどまっていた。だが今ではインターネットの普及により、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)をはじめ、Web上の情報が急速に増加。社内の情報だけでなく、社外の情報を収集し、新たな機会や失敗の兆しを発見する取り組みができるようになった。

国内でも、金融業や通信、小売、製造など、さまざまな業種において兆し情報を活用する動きが始まっている。たとえばある製造業の企業では、Web上の書き込みを元に、新規に市場投入予定の製品の売れ行きを予測するといった施策を実施している。

ただし、このような兆し情報の活用はまだ一般的になったわけではない。市場で提供されている製品・サービスも、Seek & Actionを実現するためのすべての機能を備えているわけではなく、限定的なのが現状だ。

逆に考えれば、今こそSeek & Actionに乗り出す好機だと言える。他社に先駆けてチャンスや脅威の兆しを見つけ出す仕組みを確立できれば、大きな競争上の優位を獲得できるだろう。

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