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役職別に見るクラウドへの期待―本音から本質が垣間見える(第3回)
ITにたずさわる人々に、今、注目するキーワードを尋ねたら、「クラウドコンピューティング」は間違いなくその上位にランクインするだろう。世間からの耳目を集めているのは事実だが、そこへの期待については、まちまちの声が聞こえてくる。企業システムの在り方を根底から変える新パラダイムという人もいれば、一過性のバズワードに過ぎないという見方も少なくない。
もちろん様々なとらえ方があっていいのだが、「クラウドコンピューティング」という言葉がまさに“雲”のようにつかみどころがないゆえ、市場に混乱をもたらしているという側面もあるようだ。例えば「クラウド」と「コンピューティング」のどちらに主眼を置くかによっても見解や主張は異なる。
「クラウド」派は、インターネット/Web/SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)という一連のネット系テクノロジーの延長線上にとらえ、企業の外(天空の雲)から提供されるサービスを「活用する」という点に多大な関心を寄せる。一方、「コンピューティング」派は、サービスの活用よりも「提供」に重点を置く。仮想化や自律管理といった技術を駆使して、データセンターからいかに柔軟なサービスを創出していくかが話題の中心だ。
このように、人それぞれが自分の立ち位置からクラウドコンピューティングをとらえ、語っているのが現状である。もっとも、どんな立場の人がどんな見解を示しているかという全体像を知ることは重要であり、本質を知るヒントとなり得る。そこでガートナーでは、この混乱期に頭の中を整理する一助として、ユーザー企業における8つの職制別に見た、クラウドコンピューティングの観点をまとめてみた。
1.CEO/CFOなどの経営トップ
多くの経営トップは、クラウドをITコスト削減のための斬新な手段と認識している。設備投資という考え方から離れ、より身軽かつ機敏にITを活用できるとの期待が大きい。手放しで賛成しているわけではなく、自社のデータを外部に置くことによる管理体制の低下を恐れる向きもある。
2.事業部門の責任者
経営トップと似た見解を示す。さらに彼らは「シャドウIT」、すなわちシステム部門の管轄外のところでIT化を促進できる好機だともとらえている。常にバックログを抱えているシステム部門に頼らず、自らが統括する事業部門を大きく成長させる手段になり得るのではと見ている。
3.CIO
例えばCFOから「当社はクラウドを使わないのか?」と問われたら、安全性や機能不足などの問題を挙げつつも多くは「目下、調査検討を進めているところ」と回答する。CIOはIT予算の観点、とりわけ運用面に着目しつつ、同じ質問を部下に投げかけるのが常だ。
4.CTO/Futurist
CTOのオフィスでは、クラウドの実体を見極める議論を繰り返している。規模の経済性、融通性、市場参入スピード、管理や機能の低下…テーマは様々だ。さらに、1万台規模のマシン、ヨタバイト級データへのアクセスが可能になるなら、もっと革新的なことができるのではという議論も盛んだ。
5.アーキテクト
粒度や概念が異なる世界で語られるクラウドを、どうシステムに具現化するかがテーマ。インタフェースの在り方、サービス同士を連携する規格など、全体のモデル化が鍵となる。従来からのアプリケーション開発パターンをどうクラウドに持ち込むのか、複数のクラウドベンダーからの提案をどうまとめるのかといった視点もある。
6.アプリケーション開発者
「Pythonなんて勉強したくない」という声から、「Amazon EC2のリソースを使えば、プロトタイピングやテストが柔軟にできて素晴らしい」という声まで、多岐にわたる。
7.データセンター/運用担当者
すでに整理統合や標準化、仮想化などに取り組み、規模の経済性を実感している。プライベートクラウドや、オンプレミス(自社導入)/クラウドを連携させるハイブリッド型の仮想インフラストラクチャにも関心を寄せる。
8.セキュリティ統括責任者
未知の危険性も懸念される中で、クラウドがかかえるリスクに対処するのは一筋縄ではいかない任務と認識する。どのリスクをどのレベルで受け入れるかを決めるのは、経営トップ/事業統括者の責任範囲にもなってきている。
あるべき論を再考する好機
IT部門の真価が問われる
亦賀 忠明ITインフラストラクチャ
バイスプレジデント 兼 最上級アナリスト
クラウドコンピューティングは、インフラもビジネスアプリケーションも「利用する」という、これまでの常識とは一線を画する概念をその1つの側面として提示している。IT戦略に携わる人が今、強く認識すべきは、クラウド時代の到来が企業情報システムの本来あるべき姿を再考する好機だということだ。
企業のIT部門に目を向けると、企業ITの本質的な変化に気がついていない、気がついていても、発想を変え自らイノベーションを起こしていこうという気概が稀薄に感じる。業務部門から寄せられる要求を満たすシステムを作ることに終始し、相変わらず「受け身」の姿勢のままであることが多い。業務よりも一段上のレイヤー、すなわち「ビジネス」に切り込んでいく視点がないと、ITの真価は生かせない。
自社はどんなビジネスで勝負するのか。それを支えるには、どんなデータがどんなタイミングで流れないといけないのか。そのための、もっとも効率的なITインフラや環境は何なのか−。しっかりとしたデザインがなければ、全体として機能しない。至極当たり前のことなのだが、それができている企業は残念ながら少数派である。
クラウドの時代に入り、IT部門の主な責務が単なる情報システムの構築と運用ではないことが明らかになりつつある。“必要な時に必要なテクノロジによるサービスの提供とイノベーション”に焦点を移さなければならない。それがCIOをはじめとするITリーダーに求められるミッションである。
一方、現在クラウドを展開しているベンダーやインテグレータは、まずはクラウドのビジネスメリットを明らかにすべきである。“クラウドでコスト削減”と称して、実際は個別見積りというケースが多いのは問題だ。また、企業向けクラウドに関するテクノロジーとサービスは発展途上である。よって、ベンダーやインテグレータは、クラウドが完成されたものであるという誤解を招く表現は止めるべきである。逆に言えば、であるからこそ、クラウドに関する中長期の展望を語る準備を行うべきである。単に新たな商材としてクラウドを展開するなら、早晩、ユーザーがそうしたクラウドに幻滅することは間違いない。
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