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グーグルCIOが語る企業ITの未来像 発想転換なくして新しい価値は生まれない
革新的な企業文化や広大な敷地、無料の食事、従業員を快適にさせる様々な仕組み…。多くの人々が企業としてのグーグルに対してこんなイメージを抱いており、恵まれた環境は時に嫉妬の対象にもなる。
この最前線のオフィスにいる1人が、同社のCIO(最高情報責任者)、ベンジャミン・フライド氏だ。彼はグーグルの企業文化を醸成する上で、IT部門が中心的な役割を担っていると確信しており、様々な試行錯誤を重ねている。
そのうちの1つは、会社からの押しつけではなく、従業員が欲しいと思ったテクノロジーを提供することだ。これによってグーグルは、従業員の生産性や労働意欲の向上だけでなく、有能なプロフェッショナルをリクルートする際に大きな力を得られるとフライド氏は信じている。
この方策は、IT部門に対する不満を和らげることにもなる。「IT部門は製品やサービスの提供に長い時間と多額の資金を使っているにもかかわらず、自分たちのニーズを満たしてくれない」─。現業部門のエンドユーザーにそう感じさせないためにも、CIOやIT部門はもっと賢い意思決定をしていく必要があると同氏は主張する。
フライド氏は、前職の米証券大手モルガン・スタンレーでインフラのアーキテクトをしていた経験から、このような考え方や様々な教訓を得てきたという。CIO INSIGHTは彼にインタビューし、グーグルでの先進的な社内システム構築手法を聞いた。
CIO INSIGHT:これまで、金融とITという2つの分野を経験している。それらの職場で学んできたものは?
フライド氏:企業に競争力をもたらすのが自分たちの唯一の仕事だと考えているCIOは多い。だが私の見方は少し異なる。競争力強化の重要性が高まっているのは確かだが、競争優位性(Competitive advantage)を創出することは差異化(Differentiation)とイコールではないことを認識する必要がある。競争優位性は、他社との違いを際立たせるポイントの1つに過ぎないのだ。
ITが以前にも増して企業文化の一部として浸透してきていることを理解すべきだろう。ユニークな企業文化を作り上げることは、立派な企業を作り上げる取り組みの1部分である。自社がどんな企業かを明確に定義できるだけでなく、それが他社とは違うことが求められる。より良く、より安い製品を提供して他社に勝つ、という意味での競争力とは必ずしも同じではないかもしれない。だがITは企業を他社とは異なった存在に仕立て上げる機会を与えてくれるものだ。
CIO INSIGHT:差異化について、CIOが犯しやすい過ちにはどんなものがあるか。
フライド氏:インフラ増強へのこだわりを捨てることによる経済効果をあまり理解していないCIOがずいぶんといる。一般的には、インフラは差異化要因にはなりにくいと言われている。インフラを増強する際にも、増強によって得られる価値とリスクを勘案し、慎重に考慮する必要がある。
ITが企業に浸透した現在では、パケット通信の速さや、メール送信の簡単さに感謝の意を表す人などいない。多くのCIOはそういった些細な事柄をまず強化しようとする。CIOの時間には限りがあるというのにもかかわらず、である。
技術環境は大きく変わった
会社主導から社員主導へ
CIO INSIGHT:多くのCIOが差異化の将来像をつかめずにいる。それは彼らがテクノロジーに偏りすぎているからなのか?
フライド氏:時代の変化が1つの原因だろう。私たちの世代が初めて就職した頃(編集部注:1980年代半ば)は、もっとも優れたテクノロジーは会社からもたらされることが普通だった。当時はPCの値段は高く、性能も低い。家庭で職場より進んだ環境を整えようなどと考える人はいなかった。ネットワークやルーターも無かったのだから、なおさらだ。多くの人々は当時、会社のIT部門にはものすごい専門家がいて、どのテクノロジーを選択すれば良いかを正しく判断でき、それを従業員に与えてくれるものだという期待を持っていた。今では想像もできないことだが。
インターネットへ気軽にアクセスできるようになってから、状況は一変した。今の求職者は、職場よりも遥かに進んだテクノロジーを家庭で利用できる。家庭には職場にあるものよりも一回り大きなモニターがあるし、インターネットへの接続スピードもずっと速い。私が在籍したモルガン・スタンレーは以前、1.5メガビットのT-1回線を全社で2本用意してインターネットに接続していた。ところが、今や家庭でも20メガビットでインターネット接続が可能な時代だ。今の若い人は、自らがテクノロジーを選択し、会社が提供するものよりも格段に良い環境を手に入れている。昔とまったく反対の現象が起きているのだ。CIOがテクノロジーで差異化を図る難しさは、言うまでもないだろう。
モルガン・スタンレーは、グーグル検索アプライアンスのアーリーアダプターである。また、若いスタッフたちの多くはオフィスソフトとしてGoogle Appsを利用している。これは彼らが望んで利用していたものだ。それ以前に会社が提供していたアプリケーションはもっと高価だったが、それは必ずしも彼らが望んでいたものではなかった。望んでもいない物を与えてその能力をすべて引き出してほしいと考えても、決して長続きしないと悟ったのだ。
CIO INSIGHT:CIOはエンドユーザーが望むものを受け入れるべきだと。
フライド氏:認めたくないかもしれないが、私たちが決まりを作っても、エンドユーザーはそれとは違った方法を望んでいるのが事実だ。現在の人々は、仕事で使うテクノロジーは個人的なものだという感覚があり、思い入れも強い。IT部門が「あなたがたの仕事の効率をどうすれば上げられるかは、私たちの方がずっと良く理解している」などと言ったら、スタッフを馬鹿にしているようなものだ。従業員にテクノロジーを選択する権利が与えられておらず、また選択する能力もなかった環境で育った年代の人にとっては、やっかいな時代になったのかもしれない。
良い例が、私がモルガン・スタンレーに在籍していたころにあった。インターンシップの男子学生を受け入れたある夏のこと。彼は会社に来た翌日、自らのPCを会社に持参してきた。彼のPCの方が会社支給のものよりメモリー容量は大きいし、プロセサも高速。搭載しているソフトウェアも豊富だった。会社のLANも利用せず、自分が契約するプロバイダで接続するという徹底ぶり。そんな彼のインターンにおける成績はナンバーワンだったのである。
彼のような最先端を行く若者たちは、経営幹部への階段をロケットのように駆け上がっていくだろう。CIOを指揮下に置く立場になることもあるかもしれない。そのときに彼はCIOに、「私はあなたがたが提供してきたテクノロジーは何も使ってこなかったし、どれも尊敬に値しないと思っていた」というきつい言葉を浴びせるのかもしれない。
オープンな環境がサポート部隊の意欲向上に貢献
CIO INSIGHT:どのCIOもスタッフの生産性向上を重視している。若い人たちに、彼ら彼女らが望むツールを与えて生産性が向上するなら、多くのCIOが導入に踏み切っているはず。だが実際にはそうなっていないのはなぜか。
フライド氏:既存の意思決定プロセスがそれを許さないからだ。多くの組織では、社内のエンドユーザーに対するサポートのためのヘルプデスク機能を、従量払いのアウトソースに移行する動きが活発になっている。エンドユーザー向けのサポートコストを削減する一般的なアプローチは、標準化を強烈に推し進めることだ。業務ごとに1つのツールのみを採用すればサポートが簡単になり、コストが抑えられるという考え方が根底にある。
これが正しいものだとする数字的な裏付けは、多くの専門家がさまざまな形で示している。だがこういったアプローチを採り続けるCIOは、いつか窮地に立たされるだろう。標準化はいわば“オール・オア・ナッシング”で、融通の利かないやり方だ。究極的には、「システムコストを減らすには、何も投資しないことだ」という短絡的な思考に陥りかねない。
グーグルは、サポートできる範囲でいくつかの選択肢を従業員に与えている。例えば、デスクトップOSのサポート対象はWindowsだけでなく、Mac OSやLinuxも含まれる。オフィスソフトはGoogle Appsを望んでくれれば嬉しいし、ぜひ使ってほしいと思っているが、Microsoft OfficeやオープンソースのOpenOffice.org、アップルのiWorkについても特段の制限を設けていない。エンドユーザーにとっての選択肢を維持するための投資も欠かさない。
社内でいくつものテクノロジーの利用を許可するには、当然ながら、それぞれに対してサポートを提供しなければならないという課題がついて回る。だがサポート業務そのものに興味を持てるような環境を作れば、喜んでサポートしたいというスタッフが現れてくるものだ。それは、対象となる技術の面でも仕事の内容的にも、もともと双方に関心を持つ人材を得ることにつながるのである。
専門業者のサポートデスクに相談した際、サポート担当者が問題点をよく理解せぬまま与えられた資料を読むだけいったことが間々ある。エンドユーザーはそんな対応を望んでいるわけではない。この点、多様なテクノロジーを選択できるようにするとともに、サポート部隊に名乗りを上げられるような環境があれば、より優秀な人材を社内に得られる。優秀なサポート部隊があれば、問題発生時に多くの問題を現場で解決できる。これは大きなコストメリットにつながっている。
副次的な効果として、テクノロジーを変更すべきかどうかのマネジメントが容易になる点も見逃せない。サポート部隊が知見を生かして即断即決することで、大がかりな計画立案を伴わずに新しい環境に移行できるようになる。
こういった取り組みは、私が他で経験したこととはまったく異なるものだ。他の多くの企業は、可能な限りプロセスを最適化しようと試みる。その結果、料理の本のように紋切り型の返答をし、エスカレーションをなるべくしないようになってしまっている。
CIO INSIGHT:だがITリーダーにとって、考え方をすぐに変換するのは難しい。
フライド氏:経済誌「エコノミスト」に載っていた記事で、興味深いものがあった。欧州各国の市街地の中心部で交通標識の撤去が盛んに進んでいる、というものだ。
歩行者が多い市街地では、厳しい交通法規が逆に事故を誘発しているという考えに基づいたものだという。ドライバーは運転中に数多くの標識を確認しなくてはならない。結果として運転に集中できず、道路状況に注意が行き届かなくなってきていたというわけだ。
そこで、多くの街中から交通標識が取り除かれることになった。事故防止のためにいつも採る方法とは真逆に思えるが、この施策によって事故の発生率が大幅に減少したという。
個々人の選択の幅を広げることは間違ってはいないというのが私の見方だ。グーグルには、もともと技術知識が豊富なスタッフが多いという特殊な事情はある。だが当社の事例は、従業員にオフィスワーク環境の選択肢を与える環境が作れることの証左だと考えている。優れたサポート部隊を持つことにもつながるし、技術の変革にも即応できる。そしてエンドユーザーもハッピーにできるのだ。
膨大なサポートコストがかかるという反論もあるだろう。確かに、多くのテクノロジーをサポートするには、多額の投資をして多くの専門技術者を抱えなくてはならない。だが我々が利用しているアプリケーションのほとんどはWebベース。ソフトのインストール作業など、クライアントPCとの直接の関わりを持たなくて済む点では、コストの抑制効果がある。
CIO INSIGHT:だが、こんなことはグーグルのような先進的な企業でないとできないのでは?
フライド氏:そんなことはない。私が話をする人の間では、当社の取り組みに魅力を感じ、同様の仕組みの導入を考える人が増えてきている。
デスクトップPCを中心にITスタックを考えていると、新しいオフィスを開設するたびに多大な出費が必要になる。この問題はモルガン・スタンレーで実際に目の当たりにしてきた。同社ではデスクトップを運用していくため社内に多岐にわたるテクノロジーを保有する必要があり、その維持に相当なコストがかかっていた。
例えば、ある中国企業と共同で新ビジネスを展開するにあたり、現地にオフィスを設けようと交渉していた時のことだ。その中国企業が使用しているテクノロジーを理解し、サポートもできる米国人スタッフを新オフィスに派遣するコストは、たった1人で新オフィスの従業員の賃金総額を上回ることが分かった。さらには1台のデスクトップのコストは、従業員1人当たりの年俸を超えたものだった。これは決して冗談ではない。余計なインフラを持たず、インターネットへの接続に力を振り向ければ、もっと機敏な反応ができるようになるはずだ。
CIOは、次の躍進のためにどの分野に投資をしようか悩んでいる。新しいオフィスを設ける際、機能の豊富さがウリの従来型のソフトウェアに比べて、クラウドは格段に速く安くシステムを構築できる。企業が何か新しい付加価値を探そうとする際には、速さと安さは非常に重要だ。高いROI(投下資本利益率)が期待できるかどうか分からないものに膨大なコストをかけることを望むCIOは存在しない。新しい地域、特に開発途上国に進出する場合には特にそうだ。
IT部門も製品開発部門の一員
有能なスタッフ獲得の原動力に
CIO INSIGHT:グーグルが多くの技術知識を持っていることは公私ともに認める事実だ。そのことが、自身やIT部門にプレッシャーを与えてはいないか。
フライド氏:きちんと勘定をしたわけではないが、当社の経営会議のメンバーの中にはコンピュータサイエンスの博士号や、少なくとも博士過程で勉強していたスタッフが多く存在する。その点では、私が他のCIOの多くとは異なる環境にいることは確かだ。
ただ、そのことで我々にプレッシャーがかかることはない。当社では、IT部門はエンジニアリングの規範部門という位置付けだ。つまり私は、Google検索やGoogle Appsなどの製品群に責任を持つグループの一員ということになる。IT部門が当社のエンジニアリング・スタンダードとして扱われていることはすばらしいことだ。これは有能なスタッフを獲得する上で非常に大きなアドバンテージとなっている。
私たちは検索やMapsなどの開発で活躍しているスタッフと同じ力量を持っている人材を、IT部門にも迎えたいと思っている。エンジニアはグーグルに来ればすべてのプロダクトへのアクセスが許され、開発部門と同じ活動の場で評価される。その意味でのプレッシャーはあるかもしれないが、私はそういったプレッシャーは大好きだ。このプレッシャーこそが、我々を正しい方向に導いてくれる。
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