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“空気を読む”システムを実現する Context-Aware Computing(第6回)

社内システムの情報だけではなく、Web上の情報や位置情報などを人に紐付けし、その状態に応じてシステムが適切な機能を提供する「コンテキストアウェアコンピューティング」。うまく活用すれば、顧客の要望によりきめ細かく応えるサービスの提供や、オフィス内の生産性の向上といった効果が期待できる。

目下の景気後退をいかに乗り切るかに多くの企業が全力を集中させている。一方で欧米企業を中心に、来るべき景気回復時に備え、競争優位性を高めるための取り組みに舵を切り始める企業も増えてきている。

ガートナーが2009年8月に発表した、世界1500人のCIO(最高情報責任者)を対象にした調査「2009 Gartner CIO Survey」では、2009年における最優先事項のトップはITコストの削減だった。一方で、2012年には新製品や新事業の開発といったイノベーションを最優先事項にするだろうと回答したCIOがもっとも多かった。

企業が近い将来に向けて競争優位性を高めるために、採用を検討すべきだとガートナーが考える技術の1つが、「Context-Aware Computing(コンテキストアウェアコンピューティング)」である。

GPS(全地球測位システム)を搭載した携帯電話の普及などで、人の現在位置をピンポイントで特定する「ロケーションベーステクノロジー」が急速に実用化されている。一方、様々な通信技術の融合で人々の連絡手段を高度化する「ユニファイドコミュニケーション」は相手の在席状況を確認する機能も提供する。コンテキストアウェアコンピューティングは、システムがこうした情報を組み合わせて活用し、人の状況に応じて適切な情報やサービスを提供するものだ。

ガートナーでは、2012年までにコンテキストアウェアコンピューティング関連市場が120億ドルにまで成長すると予測している。周辺技術が成熟し、技術環境が整った2010年。コスト削減から景気回復を見据えた企業競争力強化に舵を切るためにも、今こそコンテキストアウェアコンピューティングへの取り組みを開始すべきだ。

さまざまな要素技術の連携によって実現する

コンテキストアウェアコンピューティングとは、様々なシステムやセンサーなどから得られる情報と人とをリアルタイムで結び付け、システムがその人にとってその時点で最適な情報や機能を判断して提供する技術だ。例えば同じ時間帯でも、仕事中か旅行中かで提供する情報を変える。具体的には、GPSによる位置情報やグループウェアのスケジュール情報、ユニファイドコミュニケーションの在席情報などを組み合わせることで実現する。

具体例を説明しよう。1つは空港における免税店のクーポン発行だ。ある便に搭乗する乗客の持つ携帯電話のGPSで位置情報が得られれば、顧客が店の近くに通ったときに、その携帯電話にクーポンを送信できる。顧客はクーポンを見て購入したいという気持ちが高まったその場で店を見つけられるので、商品購入のチャンスは劇的に増加する。

さらに乗客のスケジュール情報を航空会社から得られれば、出発時間まで余裕のある乗客のみにクーポンを送信できる。そのため店にとってより効率的に集客できるだけでなく、搭乗間際の乗客が不要な情報を得ずに済む。

当然、これらの情報をすべて得るためには企業間の連携が必須であるほか、顧客から情報提供への同意を得ることも必要になってくる。ただこういった情報がなくても、顧客のメールアドレスさえ入手できれば、クーポンを送信すること自体は可能だ。コンテキストアウェアコンピューティングの本質は、なくてもプロセスは止まらないが、あれば競争優位性を高められるという柔軟性にある。

数多くのプレーヤーが関与
既存技術の連携が鍵

コンテキストアウェアコンピューティングは、それぞれ独立して発展してきた既存の幅広いテクノロジーを基盤とする。関連する技術や製品、サービスを持つプレーヤーはWebアプリケーションやコミュニケーションサービス、デバイスの分野まで幅広い(図)。プレーヤーの規模もマイクロソフトやシスコシステムズ、グーグルといった大規模企業から、専門技術を持つベンチャー企業まで多様だ。

コンテキストアウェアコンピューティングの要素技術を持つベンダー
図 コンテキストアウェアコンピューティングの要素技術を持つベンダー
出典:ガートナー

GPS搭載のモバイル機器やセンサー、ユニファイドコミュニケーションといった技術のほか、人間同士の相関関係を可視化する「ソーシャルグラフ」の元となるSNSやブログといったコミュニケーションツールも要素技術となる。

これらの技術はコンテキストアウェアコンピューティングの1要素ではあるが、これらの技術から得られる情報を組み合わせて利用できなければ真価は発揮できない。WebサービスAPIなどのシステム連携の仕組みが発展してきたことが、コンテキストアウェアコンピューティングが現実味を帯びてきた理由の1つだ。

国内でも応用例が登場
まずは部門やコンシューマ向けから試行を

田崎 堅志氏
田崎 堅志
ガートナー ジャパン
リサーチ部門
コミュニケーションズ
バイス プレジデント

いわば“場の空気を読む”技術と呼べるものの1つが、コンテキストアウェアコンピューティングだ。存在を意識することなくコンピュータの機能を利用できる「カーム・テクノロジー」の1つで、「ユビキタスコンピューティング」の本質を突く技術だと言える。必須のものではないが、あれば競争優位につながる。

これまでGPSやソーシャルメディアといった要素技術は個々に進化を遂げてきた。一方でセマンティックWebやSOAといった、システム間連携の仕組みも広く普及しつつある。要素技術とそれらを結び付ける技術の双方が成熟した今、コンテキストアウェアコンピューティングに現実感をもって取り組めるようになった。

既に国内でも応用事例がいくつか出てきている。NTTドコモは2008年11月、携帯電話のGPSなどの情報を利用して顧客の現在位置を割り出し、近くの店舗情報やクーポンを携帯電話に配信する「iコンシェル」と呼ぶサービスを開始した。NECも2009年1月、デジタルサイネージに顔認証技術を応用し、観客の性別や年齢に応じた広告配信の実証実験を始めている。

今のところ適用例はコンシューマ向けが多い。だがインターネット技術を社内システムに導入する「Consumerization of IT」は確実に進む。日本のCIOは、今こそ現実感をもってコンテキストアウェアコンピューティングに取り組むべきだ。

とはいえコンテキストアウェアコンピューティングへの取り組みは、多くのシステムやデバイス、サービスが絡む大規模なものとなる。欧米でも社内環境に本格導入している企業はまだ少数だ。まずは社内の特定部署向けコラボレーション基盤に導入して評価を始めるのが良いだろう。またサービス業であればコンシューマ向けサービスから試行し、留意点や適用可能性を探るのも手となる。

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