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サービスの本質を見極める Part05

間違いだらけのSaaS選び
コスト構造や要求品質に冷静な目を

利用モデル、月額課金、セキュリティ…。 すでに語られ尽くした感があるSaaSだが、誤解も多い。 本パートでは、SaaSの本質を「コスト」「サービスレベル」「アーキテクチャ」といった視点から改めて問い直す。

オンプレミスより結局は高くつく

「SaaSを5年間使い続けたとして月額利用料金を累積したら、オンプレミスのシステムを構築・運用した場合の費用を上回る」という意見は根強い。

計算上は、確かにそうなる。だが、自前システムには、ハードやソフトの維持管理がつきもの。バージョンアップや制度変更があるたびに、手を入れなければならない。「なかでも財務会計業務では、税制や法制度の変更が多い。最近では、IFRSへのコンバージェンスに伴うパッチ適用作業が数多く発生している」(エス・エス・ジェイの山田誠マーケティング企画部部長)。こうした手間や時間をコスト換算したらどうだろう。

SaaSであれば、上のような作業をサービスベンダーに任せられる。保守費用は月額使用料に含まれるので、追加コストは発生しない。しかも、オンプレミスのシステムは減価償却の対象となるのに対して、SaaSは自社で設備を所有しないため経費として計上できる。

対象業務によって一概には言えないものの、頻繁に改修があるケースならばSaaSのコストメリットは大きい。ただし、大半のSaaSではデータセンターの設定費用などで初期費用が発生することには注意が必要だ。

オンプレミス並みのSLAを要求すべき

SLAは、サービスベンダー選択の大きなポイントになる。SaaS利用に踏み切る際には、データ保護、稼働率、障害対応、セキュリティという4つの側面でベンダーのサービスレベルを確認し、SLAを結んでおきたい。

と言っても、ミッションクリティカル並みの可用性をSaaSに求めることに対し疑問を呈する声もある。ある大手SaaSベンダーの幹部は「絶対に停止してはいけないと考えると過剰品質になる。オンプレミスのシステムにも言えることだが、過剰品質は自ずとユーザー側のコストに跳ね返る」と話す。例えば、会計システムが1時間停止したら業務にどの程度の被害が想定されるのか、本当にそこまで高い可用性が必要なシステムかどうかを問い直し、コストとのバランスを検討すべきだ。

サービスアーキテクチャはユーザーに無関係

同じ“SaaS”という名を冠するサービスでも、ベンダーによってアーキテクチャは異なる。ガートナー ジャパンの本好宏次主席アナリストは、現在利用可能なSaaSをアーキテクチャの視点から4つに分類する。

第1は、複数ユーザーが単一アプリケーションと論理分割したデータベースを共用する「マルチテナント/シングルバージョン型」である。SaaSの最も基本的な姿であり、「マルチテナント/シングルインスタンス型」とも呼ぶ。第2は、全ユーザーに単一アプリケーションを提供して一括運用するが、データベースはユーザーごとに用意する「共有実行型」だ。

ユーザーごとに個別のアプリケーションとデータベースを割り当てたうえで、それらを集中管理するモデルもある。これが、第3の「分離テナント型」である。加えて、「マルチテナント/マルチバージョン型」と呼ぶべきサービスも出てきた。アプリケーションやデータベースの提供形態はマルチテナント/シングルバージョン型と同じだが、ユーザーごとにアプリケーションのバージョンを管理可能にしたモデルである。

本好氏は4つのモデルについて、「それぞれ異なるメリットがある。ユーザー企業は自社のニーズをよく見極めたうえで適切なアーキテクチャを持つSaaSを選択すべき」と提案する。共有実行型や分離テナント型には、データセキュリティ上の安心感がある。マルチテナント/マルチバージョン型には「不要なバージョンアップで使い勝手を変えたくない」といったニーズに応えられる。

だが、コスト面に目を向けた場合に軍配が上がるのは、マルチテナント/シングルバージョン型だ。すべてのユーザーが同じアプリケーションを利用するため、運用効率を最大化できるからである。ベンダーは自社サーバー上のアプリケーションを変更すれば、全ユーザーに対する変更作業を完了したことになる。ユーザー数が増えるほど規模の経済が働いて運用効率は高まるので、よりリーズナブルな費用でサービスを提供できるようになる。

パブリッククラウド利用のサービスは論外

今後、アマゾン、グーグルなどが展開する、いわゆるパブリッククラウドを利用してサービスを提供するSaaSベンダーが増えそうだ。パブリッククラウドを利用すれば、サービスをより安価に提供できるようになるからである。事実、グループウェアやSNSといったコミュニケーションSaaSでは、アマゾンやグーグルのクラウド基盤を活用してサービスを提供する動きが活発化しつつある。例えば、サイボウズ総合研究所は2009年11月、Amazon EC2上で動作するグループウェアを発表した。

基幹業務の分野でも、そうした傾向は強まるだろう。企業向け、しかも基幹業務システムにパブリッククラウドを利用すると言うと、セキュリティや可用性を不安視する声が挙がる。そうした懸念を、ウィングアーク テクノロジーズ事業統轄本部SaaS推進室の岩本幸男室長はこう喝破する。「例えばAmazon EC2では、アマゾンの本業である巨大ECサイトが問題なく動いている。それを考えれば、EC2のセキュリティや可用性が信頼に足ることは自明」。

国内ERP大手のワークスアプリケーションズも、パブリッククラウドの利用に前向きだ(囲み参照)。ただし、同社が考えている事業モデルはSaaSではない。ユーザーごとにシステムを構築し、ライセンスや保守料で収益を得るという従来型を踏襲する。

ハードの陳腐化からユーザー企業を救う

牧野 正幸 氏
ワークスアプリケーションズCEO

大手企業にとって、ハードウェアの所有コストが重荷になっている。ハードはすぐに陳腐化し、事業内容や規模に大きな変化がなくても定期的に買い換える必要がある。しかも、わずかなピーク時に合わせてスペックを決める必要があるため、平常時にはその大部分を遊ばせることになってしまう。

こうしたユーザーの悩みを解消するには、その時々のニーズに応じて柔軟に変更可能なIaaS(Infrastructure as a Service)利用が有効だ。そこで、アマゾンやグーグルといった大規模かつ堅牢なクラウドサービス上で、ユーザーごとに専用のERPを稼働させる準備を進めている。

2008年12月、クラウド研究開発の専門部隊を組織。Amazon EC2を対象に、分散データベースの扱いをはじめとするクラウド独特の開発ノウハウを蓄積してきた。具体的な取り組みとしては、メールやグループウェアといった社内システムをアマゾンのEC2上に構築したほか、開発・テスト環境も、半分以上をEC2に移行済みだ。

これらの実践を踏まえて、eコマース向けパッケージをEC2上で再構築した。今後、人事や会計といった他シリーズのクラウド対応を順次進める計画である。合わせて、EC2以外のクラウド基盤を検証していく。 (談)

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