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最新技術の導入は慎重かつ大胆に 新潮流に挑むベテランCIOの姿

Sybase’s CIO on Cloud Computing, Mobility By Brian P.Watson
翻訳 : 古村 浩三

クラウドが本格的に普及するのは5、6年先だ─。データベース関連製品ベンダーである米サイベースでCIO(最高情報責任者)を務めるジム・シュワルツ氏は、こう主張する。重要なシステムをクラウド上で稼働させるには、現在のクラウドのセキュリティでは不足しているというのが氏の見方だ。一方で同氏は、モバイルやソーシャルツールなどの新技術に大いに注目している。社内環境の活性化のためにも、リスクとメリットを天秤にかけて新技術を大胆に導入すべきだと説く。(本誌)

近年、モバイルソフトウェアの領域に焦点を当て、大きな転換を図ってきたサイベース。同社のCIO(最高情報責任者)であるジム・シュワルツ氏は、クラウドコンピューティングやSaaSといった最新技術や、2000年代に入って成人を迎えたミレニアム世代(Millennials:1980年代以降に生まれた若者)の持つ潜在能力に大いに注目しているという。

米研究機関であるSRI Internationalや米情報システム会社のSAICなど、複数の企業でITリーダーとして活躍してきたベテランCIOである氏が、CIO INSIGHTのインタビューに応じた。クラウドをどう捉えているか、ITリーダーにとっての2010年とはどんな年になるかなど幅広く語った。

CIO INSIGHT:2010年に優先的に取り組むテクノロジーは。

シュワルツ氏 : 業務効率向上のため、組織のワークフローをどう改善すればよいかを一生懸命探求している。具体的な取り組みとして、アプリケーションを自社運用すべきか、新しいアプローチとして社外にホスティングすべきかの検討に取りかかっている。

クラウドに関しては、これまで経営トップを巻き込んだ多くの案件をこなし、検証を繰り返してきた。これは恐らく他の多くのCIOとは異なることだろう。クラウドは当社や当社のビジネスにとってどんな意味があるか、上手く使うにはどうすればいいか、そしてクラウドのような新技術につきものの漠然とした不安を払いのけるにはどうしたらいいか、といったことだ。

クラウドの採用に当たっては、一般に利点とされていることが真実かどうかを徹底的に探究してからにしたいと思っている。本当に電気や日用品の感覚で、もっとも安い価格のサービスを選択できるのか。本当にベンダーを変えても自社のビジネスの遂行に支障をきたさないのか、といったことだ。

これらの利点が現実になるには、まだまだ時間がかかるというのが私の見方だ。当社は既にいくつかのクラウド事業者とパートナーシップを結んでいる。だが残念ながら、こうした利点を実現するために必要な、データやサービス提供形態などの標準化は遅れているのが現状だ。

とはいえIT部門の至上命題は、いかに収益向上に貢献するかということ。2010年には、当社はクラウドの可能性についてさらに詳しく検討し、長期的に見て当社のビジネスにどう影響するかを見ていくことになるだろう。もし実用に足る適切な外部のサービスがあれば、ずっと安く上がるからだ。高価なデータセンターを自社構築したいとは思っていない。

CIO INSIGHT:本誌はクラウドをいささか懐疑的に見ている。特に大企業のCIOは抱えるシステムの重要性も大きく、システムやデータを社内に置くべきか、社外に置くべきかを見極める必要があるはずだからだ。クラウドで一番大きな障害になり得るものは何だろう。

シュワルツ氏 : まず挙げられるのは、セキュリティの問題だ。自社の経営情報を第三者の手に委ねるのだから、慎重にならざるをえない。SaaSでは複数のユーザー企業がサービスを共有していることから、危険ではないかと思う人もいるだろう。一方でセールスフォース・ドットコムなどのSaaSを採用して早期にクラウドの世界に飛び込んだ先駆者達は、この瞬間にも機密情報をSaaS事業者のデータセンターにどんどん投入している。

私は、最終的には自社運用とクラウドのハイブリッド環境に落ち着くと考えている。特に機密性の高いデータを扱うアプリケーションは、「社内クラウド」(自社で管理するデータセンターで仮想化技術などを利用して柔軟なリソースの追加や変更を可能にした環境)の中に置くことになるだろう。あるサーバーに問題が起きた時は、外部のデータセンターにフェイルオーバーしたり、社内で保有する他のセンターに移行するといった運用が可能になる。

そうした利点を活用するためには、仮想環境でのセキュリティの仕組みを確立しなければならない。ベンダーが仮想環境で構成したデータセンターのセキュリティ標準を作っていけば、ユーザー企業はクラウド上で機密性の高い情報を扱うことを受け入れやすくなるだろう。標準ができるまでには当然時間はかかると思うし、それまでの過程では成功も失敗もあるだろう。ERPのような重要なアプリケーションを外部環境で安心して稼働できるようになるのは、5、6年先になるのではないかと考えている。

クラウドの価格については様々な数字が飛び交っている。クラウドは基本的には従来のシステムに比べて安いものの、導入環境によってはそう安く上がるわけではない。このため、正確な評価測定のノウハウを持つことが重要になる。

変な言い方かもしれないが、実は、近い将来にクラウドがらみで大きな障害が発生しないかと心のどこかで思っている。企業は一時的であれクラウドに幻滅するだろうが、クラウド事業者は真剣になってその状況を改善しようと努力する。こうした事象が起こるのも5、6年先だろうが、その間にはうまくいく事例もいくつかは出てくると考えている。Googleのオフィススイート「Google Apps」は興味深く見ているし、電子メールに外部のホスティング型サービスを利用する企業は増え続けている。

メールを外部に委ねることは中小企業にとっては好都合かもしれないが、当社のような規模の大きな企業になると、ERPと同じように問題が多く、慎重にならざるをえない。特に注目しなければならないのは添付ファイルだ。メールの添付ファイルの中には機密性の高い情報が数多く含まれているからである。当社は送信するメールにファイルを添付する代わりに社内の中央リポジトリに保管し、メールにはリポジトリ内のファイルへのリンクを貼ることで、メールと一緒に外部に出ることがないようにしている。リポジトリ用のストレージへの負荷もそれほど高くはならない。リンクを辿って添付ファイルが出て行くのはそれほど頻繁ではないからだ。

社内での情報共有にはマイクロソフトのSharePointを利用している。これは非常に魅力あるツールだが、SharePointに多くの情報を蓄積すればするほど、他のベンダーに移行しにくくなると実感している。当社が他のMicrosoft Office製品を多く導入しているのも、SharePointとの結びつきが強いからだ。製品自体は大変良いのだが、それ相当の費用はかかっている。

オープンソースソフトウェア(OSS)などにも目を向けているが、マイクロソフト製品との互換性は、残念ながら当社が期待しているレベルに達していない。当社が使用を決めたオフィス製品を誰もが使うというのなら問題ないが、多くの人がマイクロソフト製品を使用している現状では、代替品を使うのは難しい。顧客との間のやりとりに利用する際は、なおさらだ。

ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)のFacebookやマイクロブログのTwitterなどのコラボーレーションツールが企業にもたらす影響は日増しに大きくなっている。私たちは、これらのツールをもっと積極的に活用していかなくてはならないと考えている。新たに当社に入社してくる若者がそれを求めているからだ。Facebookのようなソーシャルツールを使ったコミュニケーションは、当社のようなIT業界では広く受け入れられてきている。この動きは止められないし、たとえ今止めたとしても、現在の普及度合いから見れば将来的には受け入れざるを得なくなるのは目に見えている。いろいろと規制するよりも、積極的にこれらの新技術を活用し、先頭に立って使い方の指針を作っていくほうがよい。

他社に先んじて新技術を導入しようとすれば、当然ながらリスクは避けて通れない。さらに社外にまで適用の範囲を拡大するならば、その妥当性を実証するための専門チームを社内に持つなど、慎重にことを進める必要がある。早期の新技術導入には、ノウハウが乏しいため多くの時間が必要になる。導入のタイミングの決定にはバランスが肝心だ。あまり採用が早すぎても大変だし、かといってあまりに遅くなり他社の後塵を拝することも避けなければならない。

CIO INSIGHT:SaaSについてはどう考えるか?クラウドに比較すると実際の普及が進んでいるようだが。

シュワルツ氏 : SaaSをクラウドの一部に入れるかどうかは議論があるだろうが、当社はセールスフォース・ドットコムのユーザーであり、サービス-ナウ・ドットコムをヘルプデスクの提供で使っている。当社はSaaSやその関連技術を高く評価しているが、同時にSaaSを今後どのように業務に生かしていくかを継続的に検討しなくてはならないと考えている。今使っているSaaSに対しても、備わった機能を本当にうまく使いこなしているかどうかを検証していく必要がある。

クラウドやSaaSに継続的に注目することには大きな意味があると考えている。社内構築システムや社内ホスティングの代替案となるだけでなく、処理のピーク時の負荷分散にも利用できるからだ。

クラウドに関連して注目すべきもう1つの分野は、クライアントコンピューティングだ。これは個人的な労働空間を従来までのデスクトップPCだけでなく、ラップトップやモバイルなどあらゆる機器から利用できる環境のこと。携帯電話などのインテリジェントな機器の普及で、今やコンピューティングはデスクトップに必ずしも紐付かなくなってきている。

クライアントコンピューティングやクラウドをうまく使いこなせば、コスト削減や高い可用性を実現し、知的財産を保護したうえで安全に仕事ができるようになる。たとえば夕方に、新型インフルエンザに罹患したためにオフィスには入れない、と宣言されたらどうなるだろう?クラウドやSaaS、クライアントコンピューティング、データセンターの仮想化といった技術はすべて、ディザスタリカバリ(災害復旧)を考える上で大きな影響を持つことになる。

CIO INSIGHT:貴社はモバイルソフトウェアの企業としての顔もある。その分野でも先駆的な取り組みがあるのでは?

シュワルツ氏 : モバイルには当然強い興味を持っている。当社は、従業員がどんなデバイスを使っているかについてはまったく気にしていない。標準化の対象はデバイスではなく、あくまでバックオフィスの業務プロセスだからだ。Mac ProやLinuxはだめだ、iPhoneやグーグルのAndroid携帯「Droid」の社内使用は禁止だなどと規制することは難しい。当社で利用するアプリケーションは、これらすべてのデバイスで利用できるように標準化している。

社内で口を酸っぱくして言っているのは、「社内で利用できるのはインテルベースのハードウェアで、かつWindowsを搭載したものに限定する」などと言ったら、現在の企業間競争には勝てないということだ。その意味で世界は変わってきていると言えよう。もはやコンピューティングがデスクトップに紐付けられた時代は終わった。どんな業務を担う従業員でも、とりわけ生産性向上を期待される人々にとっても、物理的なプラットフォームを変えることなく複数のシステム環境にアクセスできるようなワークスペースを2010年内に提供したいと考えている。

CIO INSIGHT:IT部門のスタッフはこの施策についてどう考えている?

シュワルツ氏 : 実はこれらの努力の多くは、社会人になりたての若い世代が遂行しているものだ。これは当社全体に脈付いた哲学に基づいている。

私たちは新卒を即戦力として迎え、“噴水効果”を起こしたいと考えている。当初は役職の肩書きすらない彼らを噴水のように昇級させ、溢れ出る水の流れのように会社の各部署に行きわたらせる、というものだ。従業員1人ひとりがこのダイナミックな「噴水の吹き上がり」の一部となることが求められる。

この噴水効果のダイナミズムに耐える能力を持った若い人材を引き寄せるためには、組織の物の考え方やツール、仕組みを整備し、彼らに魅力を感じてもらうようにすることが大切だ。若者が好きな技術や慣れ親しんでいる技術の多くは、企業のIT部門が長年つきあってきた、バッチ処理や逐次処理といった硬直的な技術とは相当かけ離れたものになる。これは仕方がないことだ。

効果的な社内コミュニケーションのためには、コラボレーション技術にも注目しなくてはならない。チャットやプレゼンス(在席確認)、コラボレーションなどの新技術の台頭で、電子メールは相対的に枯れた技術となり、表舞台から消えていくのかもしれない。企業がそうした新しい潮流に乗るためにも、若い世代の力が必要なのだ。

CIO INSIGHT:多くのCIOは、ミレニアム世代は1つの仕事には長い間携わらない、いわば「傭兵」のような存在だという認識を持っているようだ。

シュワルツ氏 : 私が大学を卒業したときとは、状況がまるで違う。ゼネラルモーターズ(GM)に入社して、そこで一生働こうと思う人は今やいないだろう。現代は、モバイル技術の発達などによって身動きが取りやすくなっている。会社を興す若者も多く出てくるだろう。

一方、彼らは大企業で働きたくないと思っているわけではない。企業の動きが鈍って社内の空気がよどまない限り、自らに再投資しつつ、1つの企業に長くいることを選択する人も多い。だが、会社が再投資の機会を与えなかったり、企業自体が再投資をしないなどというダイナミックさにかけた環境であれば、若者は簡単に離れていくだろう。我々のようなリーダーが、このダイナミズムを理解できるかどうかにかかっているのだ。

若者の意識を完全にコントロールすることはできない。だが、相当な額を投資してきた若者たちを失ってしまう危険を、どのようにしたら回避できるかという手段は理解できるはずだ。

CIO INSIGHT:その他にCIOが注視すべき問題にはどんなものがあるだろう。

シュワルツ氏 : 2010年は不透明な年になるだろう。経済が好転しつつあることを示唆する指標は確かにある。だが雇用環境の改善は遅れている。IT部門が今まで会社のために担ってきた仕事も、見直しの圧力にさらされている。相当大きなベネフィットを予測できない限り、大胆なことを実行するには躊躇せざるを得ない状況だ。

コスト削減などの守りの施策は2010年も継続して実施する一方、将来の成長に向けた施策にも投資していく。例えばERPシステムを刷新したり、営業部隊が潜在顧客により効率的に到達できるシステムを整備することにより、より大きなビジネスチャンスを獲得できるようにしていく。

ほとんどの企業で共通だと思うが、当社がもっとも大きな挑戦だと捉えているのは、今後の発展に必要な人材配置をいかにしていくかということだ。当社には幸いなことに、勤続年数が長く忠誠心の高い従業員が多い。だがそれは裏を返せば、自分自身の生き方を長い間変えてきていない従業員が多いということだ。そのため、彼らには半年から1年ごとに、自らへの再投資が必要だということをしっかり理解させなくてはならないし、そのための支援も用意しないといけないと考えている。一度ある組織に入ってしまうと、その枠を超えて自己変革するのは難しい。トレーニングを施したり勉強の機会を与えることはできるが、それで生き方を変えられるとは限らない。

従業員に再投資する際には慎重でなければならない。トレーニングによって良い方向に変化できる人もいるが、自分自身を改革しようと思っていない人たちには効果は期待できない。これなら絶対と言えるような魔法の方程式は存在しないのだ。正しいスキルセットを持ち、企業を前進させるような正しい望みを持ち、自らの自己改革に前向きな人材を得ることが今まで以上に大切になっている。

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