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システム環境の変化で重要性増すアーキテクト(第9回)
システム構築の現場では一般的に、開発者とビジネスプロセス設計者(ビジネス・アナリスト)が別個に作業を進めている。この両者の間には、技術/業務スキルの面で大きなギャップがあり、プロジェクトがうまくいかない大きな原因の1つとなっている。
一方でITの進展に目を向けると、サービス指向アーキテクチャ(SOA)を中心とした分散環境での柔軟なシステム連携技術に注目が集まっている。事業環境が急激に変化するなか、システムに求められる要件も日々刻々と変化する。頻繁な仕様変更を前提としていない従来のシステムでは、環境の変化への追従は難しい。複数のプロセスを実現する機能部品を組み合わせてシステムを構築するSOAのアプローチは、そうした課題解決の有効な手段として普及が進む。こうした環境下で、プロセス中心のスキルがますます重要性を増している(図1)。
出典:ガートナー
SaaSやクラウドコンピューティングにおいても分散環境は増大しており、社内/社外システムの連携や、異種混在のシステム間連携が肝になる。こうした時代において必要となるのが、システムの適切な全体構造を策定し、必要に応じて要素部品を組み立ててシステムを設計する能力を持つ「アーキテクト」だ。
アーキテクトに必要なスキルセットと基本手法
どうやってアーキテクトを育成すればよいのだろうか。ガートナーはさまざまな企業への独自のインタビューを実施。さらに2009年11月11〜13日に開催した「Gartner Symposium 2009」で、製造業や金融業、運輸業、商社、公共など約20社の国内企業のIT部門担当者とディスカッションし、アーキテクト育成に必要なスキルセットや、その獲得のためのアプローチをまとめた。
アーキテクトに必要なスキルセットは多岐にわたるが、参考までに、ディスカッションを通して明らかになった代表的な3つのスキルを示しておこう。
- 高度な複合的問題を、臨機応変に解決する能力
- 詳細にこだわるのではなく、全体の構造をモデル化し、把握/分析/抽象化する能力
- 文章や図、口頭説明など外部からの情報(マルチモーダルインフォメーション)を、イメージとして具現化するコミュニケーション能力
また、アーキテクト育成のための基本的なアプローチの例は次の3点になる。
- 個別スキルの検討の前に、IT部門としての果たすべき役割や達成すべき目標を定め、それをベースに、自社で保有する必要があり、かつIT部門として強化すべき業務ドメインを割り出す。それを踏まえた必要なスキルセットの種類や量などを特定して整理する
- 必要なスキルセットなどの整理結果と現状のスキルセットを突き合わせ、過不足を把握する
- 過不足が生じた原因や、重点的に補強すべきスキルセットを特定したうえで、キャリアパスや人事考課、ローテーションなど制度/組織面からの育成アプローチを考察する(世代構成とスキルセット獲得に要する時間軸も考慮しつつ、人事部門へ十分に説明し、理解と協力を仰ぐ)
またアーキテクト育成における留意事項は以下の4項目である。
- 先天的・後天的問わず、人材の性格的資質に大きく左右される領域であることを認識する
- 高度なスキルセットの獲得には、資質を開花させる適切な職務機会と、個人の適性に応じた適切な育成機会を見抜く“師匠”と呼べる存在が必須
- 高度なスキルセットを有する人に師匠としての役割を担ってもらう
- 社内に適切な師匠がいなければ、戦略的な位置付けで社外から確保する
戦略思考と対人能力に優れた「バーサタイリスト」を目指す
出典:ガートナー
アーキテクトになる人材は、特定の領域で深い知識を持つスペシャリストや、決して深くはなくとも広範な知識を持つジェネラリストのどちらでも不十分だ。特定領域の深い専門知識とその周辺知識、社内部門間の利害関係などを調整できるコミュニケーション能力などをバランスよく持つ「バーサタイリスト(多芸者)」が必要になる(図2)。
バーサタイリストの育成には、IT部門のメンバーを計画的かつ積極的に流動させたり、組織横断的な戦略立案などに参画させることが効果的だ。
本連載はガートナーのリサーチ「SOAベスト・プラクティス:アーキテクト獲得のアプローチ」をもとに日本法人アナリストが一部編集し、加筆したものです
SOAへの移行は自然な流れ
ベンダー依存から脱却した社内人材の育成が急務
飯島 公彦ガートナー ジャパン リサーチ部門 SOA & Webサービス担当 バイス プレジデント
ITを活用した業務改革のためには、業務部門とIT部門の協業は必須だ。だが両者の間にある壁は厚い。業務部門はシステムで実現したいことを要件としてまとめることはできるが、システムとして実現するためのITスキルは十分でない。一方、IT部門はITスキルはあるものの、業務知識は不足しているのが現状だ。こうした両者の溝を埋めるのが、アーキテクトの役割になる。
アーキテクトに必要なのは、自社の業務全体を把握できる能力と、課題解決に必要なシステム要素を選択して組み合わせられる目利きの力だ。システムをサービス要素単位で分割し、それらを連携させることでシステムを構築するSOAの普及により、アーキテクトの重要性や存在価値が高まっている。
ITをビジネスに真に役立たせるには、業務視点でのIT投資が不可欠となる。既に多くの企業が実感しているように、単一のアプリケーションでビジネスのあらゆる課題を解決するのは不可能だ。もしできたとしても、過剰な個別開発により将来の改修や運用保守に多額のコストがかかってしまうことは免れない。ビジネスを取り巻く環境変化が激しい現在、SOAに基づくシステム構築に移行するのは自然な流れだといえる。
こうした動きを受け、実際にSOAに取り組む国内企業は増えている。だが、いざSOAに取り組もうと思っても、十分なスキルを持った人材は不足しているのが現状だ。人材が不足したままSOAに取り組んでも、良い成果を挙げることは難しい。
従来のシステム開発では、特定分野だけに特化したスキルを持つT字型のスキルセットで済んだ。だが、これからは特定分野に加え、その周辺分野のスキルを持ち合わせた氷山型のスキルセットを持つ「バーサタイリスト」が必要で、育成は一筋縄ではない。
クラウド時代になって、システムのコンポーネントの運用管理を外部に委託することは容易になった。だが当然のことながら「知識の外部委託」は不可能だ。ベンダーやシステムインテグレータ、サービスプロバイダーにシステムを丸投げするという意識を捨て、早期に社内人材の育成や獲得に努めなければならない。
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