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“Smarter Planet”、“BAO”、そしてソフト企業のM&Aで業績拡大を図る[IBM]

日本のIT市場における海外企業の存在感は大きい。その割に、海外企業の戦略や業績、さらには株価について耳にする機会は、意外に少ないのではないだろうか。そこで今回から、日本に進出している海外企業の戦略や業績・株価動向にスポットを当てる。今回取り上げるのは米IBM、言わずとしれた世界最大級のIT企業だ。

利益率の向上をM&Aの原資に

IBMの時価総額をご存じだろうか。答を言えば1675憶ドル(1ドル93円換算で15.5兆円)、トヨタ自動車の12.4兆円をはるかにしのぐ規模である。そんなIBMの戦略は極めてシンプルであり、一言でいえばソフトウェア・サービス路線の強化・拡充である。

図1に過去7年間の業績推移を示した。注目すべき点はソフトウェア比率の上昇と、ハードウェア比率の低下だ。売上高に占めるソフトウェア比率は03年12月期が16.1%だったのに対し、09年12月期は22.3%まで上昇した。一方でハードウェアのそれは、同期間に31.7%から16.9%まで低下している。

図1 IBMカテゴリー別売上高および売上総利益率推移(単位:百万USドル、%)
図1 IBMカテゴリー別売上高および売上総利益率推移

このことはIBMの収益性の改善に大きく貢献している。ハードウェアの売上総利益率は37%程度であるのに対し、ソフトウェアのそれは86%と圧倒的に高いからだ。実際、同社の売上総利益率も、37%から45.7%まで大幅に改善した。

この収益性改善がもたらしたメリットは明確である。利益が増加すれば、その分、自由に使える余剰資金も増加する。IBMは、この余剰資金を(1)M&Aによるさらなるソフトウェア事業の強化、および(2)研究開発に充当しているのだ。

(1)M&Aについては、同社のソフト主要5ブランド「Information Management」、「WebSphere」、「Tivoli」、「Rational」、「Lotus」を強化するべく、積極的に推進してきた。本誌2009年10月号「メガベンダーの買収戦略」で指摘されているように、2004年以降に限っても60社以上を買収している。(2)の研究開発については、短期的に企業業績に結実するわけではないが、研究開発の成果である特許収入はおよそ10億ドル。他ベンダーと比べても高い水準を誇る。収益性の改善→余剰資金の増加→余剰資金のM&A、研究開発への追加投資→さらなる収益性の改善、というポジティブ・スパイラルを生み出してきたのである。

もちろん課題がないわけではない。09年12月期、税引き前利益こそ前年度+8.5%と増益を確保したが、売上高は同△7.6%の減収だったのだ。減収の内訳はハードウェア(同△16.1%)のみならず、ソフトウェア(同△3.1%)、サービス(同△4.9%)まで及んだ。増益だったゆえんは、コスト削減による。地域別にみると、中国やインド・ブラジル・ロシアといった新興国では堅調だったが、北米・日本は落ち込んだ。特に日本IBMでは売上高が1兆円を切り、前年比△15.7%の減収となった。

09年12月期は未曽有の経済危機の真只中であり、地域を問わずIT投資を控えたという外部環境もあるものの、今後、どのように再び売上高を拡大し、かつ、収益性を改善できるかが、同社にとっての課題と言えるだろう。

収益に結実する“Smarter Planet”

こうした中で同社が力を入れている戦略が、“Smarter Planet”構想だ。これは、ごく単純化して言えば、電力や水道、交通といった社会インフラに近い領域にITを導入することによって、これまでのインフラをより便利に、より賢く(効率よく)する考え方である。分かりやすい例は、電力需給をITで管理する“スマート・グリッド”だろう。

IBMはこの構想の注力分野として、ヘルスケア、石油・ガス、エネルギー、交通、情報通信、小売、銀行、公共(行政)といった業界を位置付ける。教育分野もその1つだ。

背景にあるのは、企業や団体のニーズに応じて個別に情報システムを提供しているだけでは差異化が難しくなってきている、あるいは需要開拓が難しくなってきていること。そこでIT化が進んでいないか、進んでいても大幅な改善の余地がある分野を開拓し、より高い付加価値を提供する。国内メーカーも最近は同様な戦略を採りつつあるが、IBMはプロアクティブ、国内メーカはリアクティブ という違いがあると見る。

このスマート化に欠かせない要素の1つが、データの蓄積と活用・分析である。企業あるいは政府を含めた組織においてデータ分析は日常業務の一部だが、それが競争優位をもたらしているといえる組織は少ない。これを踏まえて、IBMではデータ分析によって企業の“スマート化”を実現するBAO(Business Analytics and Optimization)というビジョンを掲げ、SPSS、コグノスといったデータ分析に強みのある企業の買収、および日本を含めたグローバルでBAO対応スタッフの拡充を図っている。

実際に、10年12月期第1四半期決算の説明会では、コンサルティングの契約のうち25%程度がSmarter PlanetおよびBAO関連と同社はコメントしており、徐々にではあるが、Smarter Planet構想が収益に結びつきつつある状況だ。

図2 IBM株価推移(単位:USドル)
図2 IBM株価推移

IBMの業績見通し

これらを踏まえて同社の業績および株価の見通しを考えてみよう。4月19日に発表された10年12月期第1四半期決算では、一株あたり純利益(EPS)は1.97ドルと市場予想の1.93ドルを上回り、通期のEPSを従来の11ドルから11.2ドルに引き上げた。

しかし売上高は、前年同期比でほぼ横ばい。セグメント別では、ソフトウェアが買収効果などで前年同期比+5%(現地通貨ベース)と堅調であるものの、売上の半分を占めるサービスの受注は前年同期比△7%(現地通貨ベース)と、売上高の大幅回復の兆しは見えない。

第1四半期の増益も、昨年度と同様に売上高の伸び悩みを人員削減などのコスト削減でカバーした形だ。金融危機による大幅な落ち込みという最悪期は脱したものの、受注が本格回復しない現状のまま推移すれば、売上高が過去最高の08年12月期の1036億ドルまでV字回復するとは考えにくい。

今期の売上高は前年同期比+0.9%増の9666憶ドルを予想する。利益についてはコスト削減効果で会社計画EPS11.2ドルを上回る11.4ドルを予想。このEPS11.4ドルに同社の過去3年間の平均PER(株価収益率)である13倍を掛け合わせた理論株価は、148.2ドル。4月28日の終値は130.10ドルであり、現在の株価はほぼ今期の業績を織り込んでいるといえるだろう。

図3 ソフトウェア事業のM&Aに関するIBMの最近の主な発表
図3 ソフトウェア事業のM&Aに関するIBMの最近の主な発表
長橋 賢吾
ITアナリスト・博士(情報理工学)

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