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【SAPPHIRE NOW(SAP)】オンデマンドに本格参戦 DB老舗買収でモバイルでも主導権を

2010年の「SAP SAPPHIRE NOW」は、独フランクフルトと米オーランドでの同時開催という異例のスタイルだった。直前の5月14日に「SAP、サイベースを買収」というニュースが駆け巡ったこともあって同イベントへの注目度は高く、2会場合わせて1万5000人以上が来場している。

2010年5月17〜19日/独フランクフルト
フランクフルト・メッセ ドイツ会場となったフランクフルト・メッセ

3日にわたるイベントの中心となったのは、SAPを率いるリーダーたちによる基調講演だ。現地フランクフルトでは、ジム・スナーベ共同CEOとビシャル・シッカCTOが講演した。一方、オーランド会場ではもう1人の共同CEOであるビル・マクダーモット氏、監査役会の議長を務めるハッソ・プラットナー氏が登壇。フランクフルトの来場者はスクリーン越しに拍手を送った。4人のリーダーが講演中に発信し続けたのは「オンプレミス、オンデマンド、オンデバイス」というメッセージである。以下では、各講演から浮かび上がったSAPの新戦略を見ていこう。

2人の共同CEO
2人の共同CEOは、米独に分かれて登場。写真上のスクリーン中はビル・マクダーモット氏、右下はジム・スナーベ氏

オンプレミス戦略
真のリアルタイム分析を可能に

まずは、企業がシステムを自社運営する「所有型」、つまりオンプレミス領域への取り組みである。ERPはもとより、データ分析やCRMシステムといったオンプレミスのアプリケーションは、SAPが最も得意とするところ。今回はこれを、独自のインメモリー技術で強化していくことを強調した。

インメモリーDBについては、技術トップであるシッカCTOが詳しく述べた。同社のインメモリーDBとは、一言で言えばデータのカラムを10分の1に圧縮してメモリー上に展開する技術のこと。ハードディスクへのアクセスが発生しないため、従来のRDBに比べてデータ処理のスピードが圧倒的に速まる。インメモリーDBを利用すれば、「例えばリアルタイムのトランザクションデータに基づく需要予測やシミュレーションといったアプリケーションをデスクトップ上で実行できる」(シッカCTO)。

同技術を実装した製品としては、2010年2月に分析ツールの「BusinessObjects Explorer, accelerated edition」を出荷済み。これに加えて、2010年内に「High-Performance Analytic Appliance」と呼ぶ分析アプライアンスをリリースするという。

インメモリーDBは、SAPの既存技術であるMAX-DBをベースに、ドイツのウォルドルフとベルリン、韓国ソウルの3拠点に散らばるチームが一体となって開発したという。共同創業者の1人であるプラットナー氏が、開発の様子を「まるでスタートアップ企業に戻ったようだった」と感慨深げに振り返ったのが印象的だった。

2人の共同CEO
基調講演会場は、SAPの新戦略を知ろうという2000人の聴衆で埋め尽くされた
「SAP Mentors」のメンバー
ユーザーやベンダー各社のSAP技術者が組織する「SAP Mentors」のメンバー。
会期中、多くのセッションで積極的に発言していた

オンデマンド戦略
マルチテナントSaaSを始動

同社がいよいよオンデマンド領域へ本格参入するというニュースも、今年のSAPPHIRE NOWを盛り上げた。スナーベ共同CEOは「大企業向けにはオンプレミス、中堅向けにはオンデマンド」と、明確なビジョンを提示。そのうえで、SaaS型ERP「Business ByDesign(BBD)」の新バージョンの提供を2010年7月に開始すると発表した。

BBDは現在、ドイツのほかインド、英国、中国、フランス、米国の6カ国でサービスを展開中で、すでに100社が利用している。しかし、ユーザー企業ごとにアプリケーション環境を割り当てるシングルテナントモデルであることから、将来における収益性に疑問を投げかける声もあった。

新版は、前述のインメモリーDBを利用したリアルタイム分析機能を備えるほか、1つのアプリケーションを複数企業で共有するマルチテナントアーキテクチャを採用。ユーザーは、マルチテナントかシングルテナントかを、自社のニーズに合わせて選べるようになる。

既存アプリケーションのマルチテナント化は、プログラムコードの改変など大きな負担を伴うはず。それをやり遂げたSAPのオンデマンドへの本気度は高い。同社はこの分野では後発だが、スナーベ共同CEOは、業務システム機能をフルスイートで提供できることを優位点として挙げ、「The suite always wins」と強気の構えを見せた。

PaaSにも取り組む。2010年中に、BBD上で稼働するクラウドアプリケーションを開発するためのSDKをパートナー向けに提供開始する。開発環境にはVisual Studio、開発言語にはC#を採用する見込みだ。シッカCTOによれば、BBD上で開発したアプリケーションは、ネイティブでマルチテナントに対応するという。

ただし日本でのサービス提供時期は未定である。日本メディアからの問いかけに対してスナーベ共同CEOは「6カ国でのサービスを通じてインフラを検証し、完全といえる状態にしてからサービスを開始したい」と答えた。

SAPのオンデマンドへの取り組みは、中堅向けERPにとどまらない。オンプレミスでSAPを導入している大企業向けのサービスも充実させていく。すでに、2010年3月からSaaS型コラボレーションツール「StreamWork」を提供中だ。さらに、企業のCO2排出量を管理する「Carbon Impact On-Demand」をアマゾンのEC2上において構築中で、7月にサービスを開始する。

パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、ドイツ銀行のヴォルフガング・ガートナー氏や英バーミンガム市議会のグリン・エヴァンス氏らがSAPの導入効果を報告した

オンデバイス
サイベース買収でモバイルに地歩

「企業のコンピューティング環境は、デスクトップPCからモバイル機器へと広がりつつある。あらゆるデバイスでSAPアプリケーションを利用可能にしていく」(スナーベ共同CEO)。こうしたオンデバイス戦略を推し進めるうえで、定評あるサイベースのモバイル技術は不可欠な要素だったという。

マクダーモット共同CEOは、58億ドルを費やした今回の買収について、「決して高い買い物ではない。ビジネスアプリケーション分野でナンバー1である当社は、ビジネスオブジェクツの買収でアナリティクス分野でもナンバー1となった。サイベース買収により、モバイル分野でも主導権を握れる」と力説。スナーベ共同CEOはこれに「サイベースのモバイルDBと、当社のインメモリーDBは、時に競合しながら共に成長していく。両社のエコシステムはこれまでと変わらない」と呼応し、単なる市場シェア確保や売り上げ目当ての買収ではないことを強調した。 (力竹尚子)

フランクフルト会場の展示フロア
フランクフルト会場の展示フロアには、67ベンダーが出展(左)。周囲では、ユーザー企業やベンダーによる小セッションが多数開かれ、来場者を集めていた(右)

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