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IT投資意欲の好転は今秋以降 「サービス」利用にシフトへ

情報システムを利用するユーザー企業のIT投資マインドはどのようなスタイタスにあるのか。また、近い将来を見据えた上で関心を寄せている分野はどのようなものか。21世紀型情報システムの姿を追う第一歩として、まずはITをとりまく企業の「今」を、情報システム・ユーザー協会が実施した調査結果を基に整理してみよう。

「クラウド」が大流行である。インターネット、パソコン、ケータイ(携帯ではない)が融合し、ITがコモディティ化、ユーティリティ化するのは、ずっと前から分かっていた。ASPだ、SaaSだと言っているうち、それを飛び越えてしまおうというわけだ。

だが、ちょっと待ってほしい。クラウドに移行するのは必然かもしれないが、それを実現するための環境を、情報システム・ユーザー、そしてユーザー企業に提案しているITベンダーはどのように整えていくつもりなのか。地に足をつけて、21世紀型情報システムのセカンドステージを考えてみよう。

端的に景気後退の影響

さる4月9日、情報システム・ユーザー協会(JUAS)が恒例の「企業IT動向調査」(調査委員長:宮本史昭・東京電力執行役員システム企画部長)を発表した。1995年に第1回目の調査結果を発表してから、今回が16回め。ユーザーにとっても、ITベンダーにとっても、同調査が今後のIT投資動向を見極める重要な指針となっているのは間違いない。

IT投資額DI値(Diffusion Index:増加とする割合から減少するとする割合を引いた値)やシステム品質にかかわる数値的な指標に加え、今回は「クラウド」に焦点を当てた調査を行っているのが特徴である。また、一昨年秋のリーマンショックを機に顕在化した景気後退が、IT投資にどのような影響を与えているかも調べている。このため通常の本調査(2009年11月、4000社対象/有効回答1026社)だけでなく、今年3月に緊急の追加調査(866社対象/有効回答255社)を実施している。

詳細は同協会のホームページ〈企業IT動向調査2010〉を参照してもらうとして、要点をかいつまんで書く。

まず2010年度のIT投資予測額を前年計画値と比べた増減率で見たDI値は、昨年11月時点で−35と極端に落ち込んだ。今年3月の追加調査では−9だった。

投資内訳にも大きな変化

これをV字回復と見るか、比較的業績がいい企業に限っての傾向と見るかは意見が分かれるところである。ただ03年度から7年連続して、予測値が実績値より弱含みで示されていることから、JUASは10年度の最終的な実績値DIは−4前後に落ち着くとしている(図1)。

図1 IT予算/実績と予測のDI値の推移 出典:日本情報システム・ユーザー協会
IT予算/実績と予測のDI値の推移

算出の基となっているのは前年度計画値に対する次年度予測額の増減なので、IT投資意欲を示す目安的な数値ととらえていい。いずれにせよ大手ユーザー企業のIT投資意欲がプラスに転じるのは、早くて今年秋以後ということになる。

次に09年度IT投資計画額(1社平均14億1200万円)の内訳を見ると、開発費は08年度実績値比9.3%減の5億7100万円で全体の40.8%、運用費は5.1%増の8億4100万円で構成比は59.2%だった。10年度予測額(平均14億100万円)は、開発費が0.6%増の5億7500万円で構成比は41.0%、運用費は1.8%減の8億2600万円で同59.0%となる。微妙な増減はあるが、〈開発4:運用6〉というこれまでの枠組みから大きく外れるものではない。

ただ用途別内訳の構成比に大きな変化があったことは見逃せない。開発費では「ハードウェア費」が25%から20%に減少し、「新規開発費」が29%から34%に増加した。そのうち1ポイントは「SaaS」となっている。運用費の用途別内訳では、「ハードウェア費」が21%から23%に増加し、「ソフトウェア費」が21%から15%に減少、「ソフトウェア保守費」が9%から17%にほぼ倍増するとともに、「処理サービス費」3%が加わった。

これが何を意味しているかというと、ユーザーの多くがソフトウェア保守の範囲で改造型の開発を指向しているということだ。また開発に「SaaS」が、運用に「処理サービス」が加わった。サービス利用のウエイトを高める方向にあることが見て取れる。

サーバーの統合が進む

「ハードウェア費」は開発で5ポイント減少し、運用で2ポイント増加している。これを総額で見るとき目安となるのが「サーバーマシンの増減」だ。図2に示すように、サーバーマシン増設意向は06年度をピークに減少し、2010年度の予測で「増加」と回答したのは全体の28%にとどまっている。また「増加」から「減少」を引いたDIは、06年度が46だったが、2010年度予測では7と、ついに1ケタに落ち込む。

図2 サーバーマシンの増減(05〜08年度は実績値、09年度は計画値、10年度は予測値)
出典:日本情報システム・ユーザー協会
サーバーマシンの増減

ここで筆者が注目するのは、サーバーの増設意向ではない。注目するのは、サーバーを減らす、すなわち統合する意向が、09年度から顕在化したことである。筆者自身のヒアリングを通じての知見では、先覚的なユーザーは03年度から取り組んでいた。背景にある物理的な要因は、サーバーのレンタル契約ないし減価償却のサイクルだ。コンピュータの西暦2000年(Y2K)問題をクリアしたのを機に動いた先覚的なユーザーが一巡し、後続グループが本格的にサーバーの整理統合に取り組み始めたことが分かる。

では、ユーザーはどのような手段でサーバーマシンを減らそうと考えているのだろうか。〈クラウドへの関心度〉の調査に、その回答があった(図3)。現在、サーバーを「購入」すると回答しているのは売上高100億円未満の企業(回答220社)が59%で最も多く、また「リース・レンタル」が最も多いのは1兆円以上の企業(同43社)で63%となっている。「購入」も「リース・レンタル」も自己導入・自己運用を意味している。つまり事業規模にかかわりなく、現在は9割以上の企業がサーバーを自己導入・自己運用していることになる。

図3 サーバーマシンの保有形態(売上高規模別に見た現在と将来)
出典:日本情報システム・ユーザー協会
サーバーマシンの保有形態

将来はどうか。売上高100億円未満の企業(回答204社)では、「購入」が43%、「リース・レンタル」が35%に減少する。代わりに「ホスティング」が8%、「クラウド」が14%となる。

売上高1兆円以上の企業(回答41社)では、「購入」が20%に、「リース・レンタル」が27%に減少し、自己導入・自己運用が半数を割り込む。「ホスティング」が7%から20%に、「クラウド」が0%から34%に急増し、まさに〈保有から利用へ〉のトレンドが鮮明になっている。

なるほど…ではあるのだが、面白いのはこれからだ。現在のサーバーの保有形態で「ホスティング」が1〜7%、「クラウド」が0〜1%という回答であるにもかかわらず、〈新規テクノロジーの導入状況〉の回答では、「プライベート・クラウド」導入済みが5%、「パブリック・クラウド」導入済みが8%もある。あれれ? なのだ。

仮想化技術 6割が導入済み

〈新規テクノロジーの導入状況〉で目に付いたのは、「サーバー仮想化技術」について全体の31%の企業が「導入済み」と回答していたことだった。「検討中」を加えると、その割合は65%に達する。「ストレージ仮想化技術」も13%が「導入済み」、「検討中」を加えると47%となる。

「サーバー仮想化技術」の導入状況を整理したのが図4の左。売上高1000億〜1兆円未満183社のうち「導入済み」49%・「検討中」35%(図4中央)、1兆円超41社では「導入済み」73%・「検討中」24%(図4右)という結果だった。

図4 サーバー仮想化技術の導入状況 出典:日本情報システム・ユーザー協会
サーバー仮想化技術の導入状況

「プライベート・クラウド」の導入状況は、全体969社のうち「導入済み」5%、「検討中」16%はともかくとして、売上高1000億〜1兆円未満182社のうち「導入済み」12%・「検討中」30%、1兆円超39社で「導入済み」18%・「検討中」49%だった。「パブリック・クラウド(SaaS)」はどうかというと、全体968社のうち「導入済み」は8%、「検討中」は19%だった。売上高1000億〜1兆円未満180社で「導入済み」は13%・「検討中」は24%、1兆円超39社では「導入済み」は23%・「検討中」は31%という結果だった。

調査結果を見る限り、「クラウド」はすでに普及段階に入り、その前途は洋々といっていい─のだが…、正直にいうと、この結果はにわかに信じ難い。おそらくシステムのどこかに、VMwareなど仮想化のコンポーネントを試験導入しているレベルまで含んでの回答に違いない。「定義があいまいなまま、仮想化、クラウドという言葉が独り歩きしている実情が表れた」(JUASの原田俊彦常任理事)かたちだ。

課題は既存データの継承と連携にある

ユーザーがサーバーマシンを減らして統合したい、ホスティングやクラウドへ移行したいと考えるのは、それによってITコストを下げたいからにほかならない。期待する導入効果として「コスト削減」を指摘するのは、「プライベート・クラウド」は回答275社の62%、「パブリック・クラウド:IaaS」は206社の63%、「同:PaaS」は212社の59%、「同:SaaS」は317社の61%、「サーバーの仮想化」は615社の80%である。

今後のITシステムで留意しなければならないのは、コストと品質、コストとセキュリティ・レベル、コストとサービスのバランスである。完全な品質やセキュリティを追求すればコストは上昇するし、利便性が高まるからといって無闇にサービスを追加すれば、業務のトータル・パフォーマンスが劣化する。その解の一つとして、クラウドがあり、SaaSがある。最適であるかどうかはユーザー個々の事情による。

ホスティングやクラウドの利活用で情報システムの開発・運用からユーザーは解放されるかもしれない。だが、このとき忘れられがちなのは、広義の〈運用〉だ。それは、必ずしもITに限定されない。組織であり、業務プロセスであり、社内エンドユーザーの情報リテラシーであり、取引先との連携ないしバリューチェーンである。カギはデータにある。

組織間でデータの齟齬が生じたら、クラウドもSaaSも機能不全に陥ってしまう。取引先と物理的な、あるいは論理的なバリューチェーンを構築したとしても、例えばガラスのコップをA社は「コップ」と呼び、B社は「グラス」と呼んでいたら、コンピュータはそれぞれを異なるアイテムと理解する。さらにいえば、センターシステムが管理する経営者向けデータと、社内エンドユーザーが日常業務で利活用するデータが異なっていたら、データのガバナンスは全く機能しないことになってくる。

サーバーの整理統合が、コスト削減のみを目的とするハードウェアの台数減少や保有形態の変更にとどまるなら、クラウドに向けたセカンドステージは見えてこない。IT動向調査が真にユーザー企業のための情報提供であるためには、クラウドの認識でなく、データの標準化や共有化といった地道な作業にスポットを当てるべきだった。すなわち、いま必要なのは、クラウドでもSaaSでもなく、データマネジメントにほかならない。

佃 均 ITジャーナリスト
1951年生まれ、58歳。コンピュータ業界紙の編集長を経て2004年4月IT記者会代表幹事。情報システムのユーザー企業や情報サービス産業の動向に関わる報道を通じ、一貫して情報システムや情報サービス産業の高度化を提言している。主な著作に『日本IT書紀』『ルポ電子自治体構築』などがある。

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