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株価収益率は108倍 新サービス「Chatter」で次の成長ステージへ[セールスフォース・ドットコム]
売上高20億ドルを目指す
SFDCは言わずと知れたクラウドコンピューティングを代表する企業であり、同社の提供するクラウドサービスは、(1)セールス・クラウド、(2)サービス・クラウド、(3)カスタム・クラウド、(4)コラボレーション・クラウド、(5)データ・クラウドの5つだ。
この中で売上高の約3分の2を占めるのがセールス・クラウド。創業から手掛けてきたCRM(顧客関係管理)ソリューションである。インストール不要で、しかも利用をいつでも停止できる手軽さ、料金の透明性、社員数人の零細企業から数万人の大企業まで対応できる柔軟性などから、ユーザーが増加。前期(2010年1月期)の売上高は8.7億ドルにまで拡大した。全社売上高13.05億ドル(1ドル90円換算で1183億円)の大半を占める存在である。
セールス・クラウドは、他社製品やサービスからの乗り換えなどで顧客数・売上高ともに伸びている。だが中期的な目標である売上高20億ドルを、これだけで達成するには時間がかかる。同社の顧客数は2010年4月時点で7万7400社を超えるが、セールス・クラウドは全社員が利用しているわけではなく、全社員のおよそ30%程度という見方もある。この点で更なる業績の拡大にはセールス・クラウド以外のサービスの拡充がカギになる。短期的には、すでにサービスを提供中の(2)サービス・クラウドと(3)カスタム・クラウドの拡充。長期的には新サービスである(4)コラボレーション・クラウド、(5)データ・クラウドの拡充である。
| 2010年5月 | 富士通とのグローバルでの包括協業を発表 |
|---|---|
| 2010年4月 | クラウドソーシング企業jigsawの買収 |
| 2010年4月 | VMwareとの協業による「VM force」の発表 |
| 2010年2月 | Chatterのベータ版提供開始 |
| 2009年11月 | BMC SoftwareおよびCAと戦略的パートナーシップを締結 |
| Chatterの発表 | |
| 2009年10月 | Ciscoと中小企業向けコールセンター技術で提携 |
| Dellと中小企業向けCRMサービス販売で提携 |
VMforceでJavaでの開発を可能に
サービス・クラウドについては、2008年に買収した米InStranet社のコンタクトセンター向け情報共有ソフトウェアをベースに、コンタクトセンターソリューションを提供する。同社のマーク・ベニオフCEOは、東京から参加した11年1月期第1四半期の決算説明会で、サービス・クラウドの進捗を“triple digit growth(3桁の成長)”とコメント。背景として競合他社、特にコンタクトセンターで多く採用されている米オラクル社のSiebel7.8の顧客が、Siebel8へのアップグレードの検討時期に来ており、それを躊躇する顧客を同社が獲得しているなどと説明した。
(3)カスタム・クラウドについては、同社のプラットフォームForce.comを利用したPaaSであり、日本ではエコポイントサービス用のシステムが代表的な利用例だ。ただし売上全体に占めるカスタム・クラウドの割合はまだ低いとみられる。SFDCはForce.comの開発言語としてApexを提供しているが、開発者の数が限られる問題もある。
これに対して、SFDCは今年4月に米VMwareと共同でVMforceを発表した。VMwareのJava開発環境であるSpringSourceを利用することで、広く普及しているJavaによる開発が可能となり、開発者の拡大を狙う。
SFDC期待の新サービス「Chatter」
今後の会社およびマーケットの期待値の高さといえば、まだ正式にサービス・インしていない、(4)コラボレーション・クラウド(Chatterのリリース)、および(5)データ・クラウド(jigsawの買収)だろう。このうちChatterは、FacebookやTwitterのようなリアルタイムなコミュニケーションを企業内で実現するサービスである。ベニオフCEOが“most important application in my career(自分のキャリアのなかで最も重要なアプリケーション)”と述べるほど期待が大きい。
理由は(1)利用者が限定されるセールス・クラウドとは異なる“Enterprise Wide(企業横断)”なサービスなので、1社あたりの利用者数の拡大が見込める。(2)Force.com上で開発されているので、同社のセールス・クラウドおよびサービス・クラウドさらにはForce.comで作成されたサービスとの連携が容易、というメリットゆえだ。
もう1つ理由がある。同社が最近、強調しているビジョンが「Cloud 2」。これは低コストで簡単に利用できることがメリットだった「Cloud1」から、iPhoneのような手軽なモバイルデバイスを使ってFacebookやTwitterのようなリアルタイムに情報を共有するCloud2に進化するというメッセージなのだが、SFDCはChatterをその中核となるサービスと位置付けているのだ。現在はベータテスト段階であり、6月に開くDevelopers Conferenceで正式リリースの予定である。
一方、「jigsaw」は企業や人物などの情報サービス(コンタクト・データベース)。Wikipediaのようにサービス登録者が自由に情報を登録・編集できるのが特徴である。このコンタクト・データベースとセールス・クラウドやコラボレーション・クラウドを連携させることで、企業間やビジネスパーソン同士のコラボレーションを加速することができる。
PERでは説明できない株価水準
なお、SFDCに関しては日本との関係にも触れておく必要がある。前回取り上げたIBMが中国・インドをアジアの中核拠点としているのに対して、SFDCの場合、アジアの中核拠点は日本。会社側からの開示はないが10年1月期アジア向け売上高1.49億ドルのほとんどが日本での売上とみられ、現在も売上高伸長率は前年比+50%以上で拡大中だ。官民をあげた日本のクラウドサービスの盛り上がりで、最も恩恵を受ける企業の1つと言えるだろう。
以上を踏まえて、同社の業績と株価について考えてみよう。同社の売上高は、(1)サービス利用料(10年1月期売上高構成比93%) と、(2)研修・コンサルティングなど(同7%)から構成される。サービス利用料について、ユーザーは月・四半期・年次にサービス利用料を支払う。大企業の場合、利用料金が比較的割安な、年次の契約が多い。しかし顧客が2年分のサービス利用料を支払った場合としても、SFDCはそれを今期の売り上げに計上することはできない。ゆえに繰延収益として将来にわたるサービス利用料をあらかじめ計上しておき、その繰延収益から、サービス期間にみあう分だけ、売上高として取り崩す。このため短期的に大きく売上が落ち込むことはない。
これを踏まえた今期の売上高は15.72億ドル(前年同期比+20.4%)を予想。売上高の伸びが利益にも反映され、同社のEPS(一株当たり純利益)は同+15.9%の0.8ドルを予想する。
一方、5月28日のSFDCの終値86.53ドルから算出されるPER(株価収益率)は、108倍に達する。PERの平均は15倍程度なので、説明がつかない高水準だ。やはりSFDCの事業モデル、今後のChatterなどによる更なる成長性期待が織り込まれているとみられる。冒頭の株価が堅調であるのも、こうした理由によるものとみられる。


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