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iPhone、iPadにみるUIの威力(vol.23)

iPhoneやiPadが世界中で大ヒットして、米アップルが絶好調だ。株式の時価総額は米マイクロソフトを上回り、米エクソン・モービルに次いで全米2位になった。ビジネスモデルも秀逸だが、筆者はそれ以上に、同社の製品が醸し出す美意識とユーザーインタフェースに感銘を受ける。これらはアップル創業者のスティーブ・ジョブズが、こだわり続けてきたものだ。

クパチーノでみた未来

筆者がアップル製品に初めて触れたのは1991年のこと。所属部署がMacintoshの大量導入を決定し、導入リーダーを担当したことがきっかけだった。米国カリフォルニア州クパチーノにあるアップル社を訪問し、ラボを見学する機会を得た。そこで見たのは「ナレッジ・ナビゲーター」という、未来のコンピュータのイメージだった。

これ自体は製品ではないが、その思想は世界初のPDA(個人用携帯情報端末)である「Newton」、そしてiPhoneやiPadに結実している。パソコン嫌いの筆者に初めて興味を持たせたMacintoshを含め、それらには人を楽しくさせるインタフェースがある。

実際、iPadを使って電子書籍のページを捲る時の感覚は、ワクワクする。端的に違いをいえば、日本製の携帯電話には200〜300ページくらいの取扱説明書が添付されているが、iPhoneは30ページくらい、iPadでは呆気ないくらいマニュアル類がない。この違いを生んでいるのが直感的に操作できるユーザーインタフェースである。

企業ITのインタフェースは?

この観点に立つと、企業の情報システムはおざなりであることがよく分かる。機能優先の中で、インタフェースの設計は「画面設計」で片付けられ、使いやすさや分かりやすさ、その結果としての効率性などは、ほとんど無視だ。入力画面などもひたすら入力を求めるだけで、利用者の利便性や効率性を考え、こだわった設計に時間を費やすことは少ない。業務アプリケーションはそういうものでいいという‘常識’があるらしい。

しかし今は、操作に慣れたベテラン社員だけが情報システムを活用する時代ではない。誰もが様々な業務アプリケーションやコミュニケ—ション・システムを使いこなすことを求められる。そのためにいちいちマニュアルを参照していたら、時間がいくらあっても足りない。

一方、Webシステムになると、画面の表現を豊かにしカラーやコンテンツバランスなどを整えるWebデザイナーが登場。ユーザーインタフェースにも、少し配慮されるようにはなった。しかし部分的に良くなっても、全体の使い勝手に大きく影響する“系”としての設計には意外に無頓着である。インタフェースの利便性を追求する専門のデザイナーが少ないからだ。

実は筆者自身、情報システムを、Webシステムとして全面再構築する際に、特にユーザーインタフェースにこだわろうとした。しかしタイトな工程で進行する再構築プロジェクトの現実は厳しかった。優秀なデザイナーを探したがいない、それぞれの開発業者に提示するインタフェースデザインの標準が作れないなど、ないない尽くしだったのである。

結局、できたのは見た目の統一感と、入力画面に「Biz/Browser」という優れた日本製のツールを活用してRIA(Rich Internet Application)を実現したことくらいだった。それでも、こだわりを持って作っただけマシだと思っている。

ユーザー視線のないシステム開発

企業システムでユーザーインタフェースに力を注がないのは、そもそも利活用の現場の視点で開発を企画し、設計していないからではないかと思う。運用時の利便性さえ十分に考慮していないことさえある。これは開発そのものが目的化、あるいは開発の都合を最優先しているからである。その先にある利活用と効果が本来の目的なのに、ユーザビリティが軽んじられているのだ。

先月号で書いた「パートナーシップの崩壊」は、この傾向を増長している。ベンダーとの契約は開発成果の納品で切れてしまい、ユーザビリティの評価はフィードバックされない。使い勝手の悪いシステムでも、人間は柔軟性があるので追随する。だから問題は表面化しない。しかしその陰に非効率の累積と、無機質で親しみのない業務環境が作られていることを忘れてはならない。

木内 里美
大成ロテック監査役。1969年に大成建設に入社。土木設計部門で港湾などの設計に携わった後、2001年に情報企画部長に就任。以来、大成建設の情報化を率いてきた。講演や行政機関の委員を多数こなすなど、CIOとして情報発信・啓蒙活動に取り組む

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