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株価上昇に向け3スクリーン+クラウドの実現性が問われる[マイクロソフト(MSFT)]

マイクロソフトといえば、言わずと知れた世界最大のソフトウェア企業だ。だが6月には、iPadを発売したアップルに時価総額で抜かれるなど、いささか元気がない。はたしてマイクロソフトは今後どうなるのか? 今後の業績を踏まえて考えてみよう。

マイクロソフトの事業構成

WindowsやOffice製品のイメージが強いマイクロソフトは、次の5事業を持つ。(1)Windowsライセンスを提供するクライアント部門、(2)OfficeやDynamics製品を提供するMicrosoft Business Division(以下、MBD)、(3)検索エンジンBingやコミュニティサイトMSNといったオンラインサービスを提供するOnline Service Business (以下、OSB)、(4)家庭用ゲーム機Xbox 360や携帯音楽プレイヤーZuneを提供するEntertainment and Devices Division(以下、EDD)、および(5)Windows ServerやSQL Serverを提供するServer and Tools部門(以下、STB)である(クラウドサービスのAzureはSTB傘下の事業)。

マイクロソフト主要ニュース
2010年6月 北米ゲームショーE3でモーションコントローラ「Kinect」および新型Xbox 360を発表
2010年5月 「Office 2010」を発売
2010年4月 ソーシャルネットワークに特化したスマートフォン「KIN」を発表
2010年2月 スマートフォンプラットフォーム「Windows Phone 7」を発表
2010年2月 Yahoo!との検索事業提携について米国政府、EUから提携の許可
2010年1月 HPとクラウド分野で提携、3年間でクラウド移行のために2.5憶ドル投資を表明
2009年12月 欧州委員会とIEの反トラスト法訴訟で和解

稼ぎ頭のクライアント部門

図表1の部門別営業利益推移から明らかなように、同社の利益のほぼすべてがクライアント部門、MBD、STBによるものである。企業の事業構成は一般に、利益を生み出す事業(キャッシュカウ)でキャッシュを稼ぎ、それを成長分野・新規分野に投資するべきと言われるが、その典型例といえるだろう。

図表1 マイクロソフト 事業別営業利益および全社売上高推移(単位:百万ドル)
マイクロソフト 事業別営業利益および全社売上高推移

その中における最大のキャッシュカウはクライアント部門、すなわちWindowsの事業だ。前期(09年6月期)は、Windows VistaとWindows 7リリースの端境期だったため、クライアント部門の売上高は前年同期比△12・7%減少した。今期(10年6月期)はWindows 7の堅調な販売により、前年比+35.2%の大幅増収の見通し。第3四半期決算カンファレンスコールにおいて、同社のPeter Klein CFOは、「すでに世界のPCの10%にWindows7が搭載されている。これは過去のWindowsで最も早いペースだ」とコメント。実際、Windowsの競争相手は、Mac、Linuxくらいであり、かつビジネス向けデスクトップPCではWindowsが独占的なシェアを有しているため、値下げ競争になりにくい。ゆえにクライアント部門の営業利益率は約75%と、驚異的な高さを維持している。

これを背景に同社は多額の研究開発投資を実施している。例えば09年6月期の実績は90.1億ドル(1ドル90円換算で8109億円)。米Googleのそれが28.4憶ドル(09年12月実績)なので、絶対額で3倍の水準だ。もちろん研究開発費を投じたからといって、すぐに売上に結びつくことはないが、研究開発→新しい技術の強化→製品としてリリース→競争力の強化、というポジティブスパイラルを実現する必要条件であることは確かだ。

3スクリーン+クラウドが鍵

一方でマーケットシェアが低く、採算性も見劣りするのがOSB、EDDである。OSBは検索エンジンBingの先行投資がかさみ、大幅な営業赤字(09年6月実績△22.5億ドル)を計上。EDDは09年6月期にZuneの販売不振などから、売上高が前年度比△1.2%、営業利益にいたっては同△66%の減収減益だった。

これが一般の企業なら、不採算事業を売却するなどして、採算の取れる事業に特化すべきといった声や圧力が、社内外から高まるかも知れない。しかしそうならないのは、マイクロソフトの中長期的なビジョンの実現に向けて、EDD、OSBが重要という認識が社内にも社外にも存在するからだろう。

そのビジョンが、「3スクリーン+クラウド」である。3スクリーンとは、PC(Windows)、テレビ(Xbox 360)、携帯電話(Windows Mobile)であり、それぞれからハブとなるクラウド(Azure)上のサービスにアクセスするというものだ。同社の「ソフトウェア+サービス」というビジョンの進化版とも言える。

見方を変えれば、このビジョンの実現には、Xbox360やオンラインサービスの事業強化が不可欠。そこでマイクロソフトは2010年のクリスマスシーズンにあわせて、Xbox 360およびWindows Mobileの新製品を投入を予定する。Xbox 360については、人の動きや声をセンシングして入力とするモーションコントローラ「Kinect」を6月に発表。長年、研究開発してきたナチュラルユーザーインタフェースを応用したもので、キーパッドやコントローラを使わず、音声や手足の動作だけでゲームを楽しむことができる。Windows Mobileについては、Windows Phone 7を投入する。新しいユーザーインタフェースに加え、Xbox LiveやOfficeとの連携が特徴で、AppleのiPhoneやGoogleのAndroidを追撃する。

キャッシュカウであるWindows・Officeは独占的なポジションを築いているが、今後もその地位を維持できるとは限らない。したがってマイクロソフトの今後の企業価値は、現在のWindows・Officeライセンス収入を確保しながら、3スクリーン+クラウドをどれだけ実現できるか、収益をどこまで拡大できるかがポイントと言えるだろう。

図表2 マイクロソフトの株価推移(単位:ドル)
マイクロソフトの株価推移

業績動向と理論株価

これを踏まえて同社の業績を考えよう。今期(10年6月期)は、前述のようにWindows 7のライセンス販売が堅調でクライアント部門の売上高は前年比+35.3%の増収。仮想化などへ需要からWindows Serverも堅調で、全社売上高は前年比+9.8%の647.6億ドル、営業利益は同+25.6%増の271.3憶ドルを予想する。上場以来初の減収減益だった昨年度に対しV字回復する見込みだ。

来期(11年6月期)についても、引き続きPCおよびサーバーの出荷台数が増加傾向であること、Office2010の販売効果が加わることから、増収増益トレンドは変わらず、売上高は前年同期比+9.3%の708億ドル、営業利益も同+10.7%の300億ドルを予想する。3スクリーン+クラウドについては、KinectおよびWindows Phone7の売上増は見込めるが、営業利益の貢献は限定的であり、引き続きライセンス売上が今後とも業績を牽引するという見方だ。

次に同社の理論株価について。11年6月期の営業利益300億ドルから算出されるEPS(1株当たり純利益)は2.27ドル、これに同社の平均PERである15倍を掛け合わせた理論株価は34.05ドル。6月25日の終値24.53ドルからはアップサイドがある。

売上高、営業利益面で同社が超優良企業であることは議論の余地がなく、しかも業績はV字回復中。にもかかわらず株価が24ドル台に低迷している理由は、オープンソースソフトを含めた競合他社の勢いや、3スクリーン+クラウドの実現可能性と利益面での貢献に疑念があるからだ。実際、アップルの株価が上昇しているのは、既存のMac以上にiPhoneやiPad効果が大きい。屋台骨であるWindows・Officeが下振れすれば、株価はさらに下がる可能性もある。市場は、マイクロソフトの真価を問うている。

長橋 賢吾
ITアナリスト・博士(情報理工学)

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