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「世界一トイレ」の先に見えるもの:第1回
今年5月に始まった上海万博の入場者は、1日40万人以上を数えています。閉幕まで2カ月を残しながら、総入場者数は4,500万人。比較対象として適切かどうかは別として、「愛・地球博」の2倍以上になっています。
さて、そんな上海万博の日本産業館での一番人気が「世界一トイレ」なんだとか。ブースではハイテクを駆使したトイレを展示するほか、コンシェルジュの懇切丁寧な説明付き。現地中国の方々を筆頭に、興味津々に見入る人が連日後を絶たないのだそうです。中国と言えば「公衆トイレに仕切りが無い」という話をよく耳にしましたが、急速な経済発展は、トイレに対する認識も変えつつあるようです。広大な中国のどこまでに水洗便所が普及しているか知りませんが、便器メーカーにとっては、将来の巨大市場を獲得するための絶好の機会に違いありません。
思い起こせば、大阪万博のあった昭和45年は下水道の整備が早かった東京でもその普及率はたったの48%。全国的にはまだ汲み取り(いわゆる和式のボットン便所)が一般的でした。その後、浄化槽や下水道の普及で、地方でも水洗トイレの設置が常識となり、ボットン便所は今では建設現場の仮設トイレでたまに見かける程度になりました。
さて、私の本業である土木屋としては、便器の“その先”がとっても気になるのです。下水って、ちょっと分かりにくいですよね。あなたの家のトイレの水が、どんな経路をたどって、そこに運ばれているかご存じですか? 普段の生活ではなかなか目にすることがない世界を一度調べてみてはいかがでしょう。役所の下水道課に行けば、喜んで教えてもらえるはずです。
下水は水道水を人間が汚した水なので、当然、元の綺麗な水に戻して自然に返してあげなければ、湖沼や海がどんどん汚れていってしまいます。そこで最終的に下水処理場(最近は水質浄化センターとも言われます。ちなみに飲料水を作るのは浄水場ですね)に運んで、飲めるほどの綺麗な水にして河川に戻しています。家庭の浄化槽では飲めるまでは綺麗にならないので、1カ所に集めて綺麗にする方が効率的なのです。
運ばれているといっても、下水管の中を人が歩く程度の早さでゆっくり自然に流れていきます。道路の下を通っていろいろと迂回していくので、トイレから処理場までは数キロから十数キロにもなります。日本全体での下水道の総延長はどのぐらいになると思いますか? 大阪万博の時は3万キロぐらいだったのですが、現在はなんと40万キロ!! 地球を10周してしまいます。月まで38万キロなので、日本の下水道を全部つないで中を歩いていけば、月まで十分行けてしまうのです。
人間が汚した水を綺麗にするのは大変で、固形物を粉砕したり、沈殿させて取り除いたりと先端技術の宝庫です。毎年7月下旬に行われる「下水道展」は土木分野最大の見本市で、最盛期には4日間で10万人が来場したこともありました。しかし、日本の下水道の普及は一段落し、下水道の新設も年間1万6000kmから年間7000kmまで減り、来場者数も8万人余りと2割も減ってしまいました。
さて話戻って、上海万博。中国に水洗トイレが普及するとどうなるでしょう。日本と中国の国土の面積や人口の違いを考えると…その市場規模は100兆円とも推計されています。上海万博に展示されている小さな「世界一トイレ」は、日本の誇る世界一の下水道と水の浄化技術に、そして中国の巨大市場に繋がっているのです。ITプロジェクトで毎日多忙な生活を送っている皆さんも、時には目先をかえて「水に流す」その先に、想いを馳せてみませんか?
--「地下潜む 流れをつなげば 名月へ」
- 佐藤 郁
- 戸田建設 アーバンルネッサンス部 技術チーム 主管
- 橋梁やダムなどの工事現場を歴任した後、土木設計や指紋認証、GISといったシステム開発・構築などに従事。現在は土木技術の開発のかたわら、システム開発も手がけている。工学博士、技術士(建設部門、情報工学部門)
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