[海外動向]

クラウドにあらためてフォーカスしたオラクルの勝算─ラリー・エリソンCEO

Oracle OpenWorld 2012 基調講演

2012年10月9日(火)五味 明子(ITジャーナリスト/IT Leaders編集委員)

米サンフランシスコで9月30日から10月4日の5日間に渡り開催されたオラクルの年次カンファレンス「Oracle OpenWorld 2012」では、マルチテナンシー機能を実装したOracle Database 12cや、インメモリーマシンに進化したExadata X3、データセンターの内側に構築できるプライベートクラウドのOracle Private Cloudなど、いくつもの新発表が行われた。これらに共通するのはクラウド、わけてもプライベートクラウドを構築し活用するための機能が大きく強化されている点だ。

そして今回のOOW 2012において、ラリー・エリソンCEOはIaaS市場への参入を正式に発表した。オラクルはこれにより、SaaS、PaaS、IaaSの3つのレイヤでビジネスを展開するクラウドサービス事業者となる。製品とサービスの両面から企業のクラウド移行を支援するという、強いコーポレートメッセージがそこには見える。


写真1:会場に熱く語りかけるラリー・エリソンCEO

なぜオラクルはいまになってクラウドを全面に押し出そうとしているのか。10月2日に行われたエリソンCEOの2回目の基調講演から、オラクルが新たに打ち出したクラウド戦略を分析してみたい。

オラクルのクラウドは「顧客に選択肢を」がテーマ

ERP、CRM、HCMなどをラインナップにもつオラクルの業務アプリケーション群「Oracle Fusion Applications」はオンプレミスとパブリッククラウド(SaaS)の両方で提供されている。そして最近の傾向として、顧客が徐々にオンプレミスからクラウドに移行しつつあるとエリソンCEOは指摘する。一方で、クラウドで動かしていたアプリケーションをオンプレミスに移行したいというニーズも少なくないというが、エリソンCEOは「オラクルは顧客が置きたいところにデータを置ける。オンプレミスとクラウドの間を自由に行き来できる技術をもっているのはオラクルだけ。Salesforce.comには無理」とライバルの名を挙げながら、クラウド事業者としての優位性を強調する。

オラクルの自信の根拠となっているのは、OS、ミドルウェア、データベース、アプリケーションからハードウェアに至るまで、プラットフォームとインフラのすべてをオラクルソリューションで提供できるという点だ。オラクルクラウドの基盤はすべてEngineered Systemsを中心とする同社の製品で構築されている。

自社での技術開発と戦略的な買収という2つの方針を掲げ、Best-in-Classな環境を構築するためのポートフォリオを充実させてきたオラクルだが、SaaSにしろ、今回発表されたIaaSにしろ、市場参入の時期が競合他社に比較して遅すぎるのではという批判がある。これに対しエリソンCEOは「サービスインするまでの期間は正直苦しいが、成熟した技術で構築したプラットフォームで提供されるクラウドサービスの質の高さに顧客は満足している」と反論する。Web業界などで流行りのローンチ&イテレートという概念とは逆に、自社製品で作り込んだプラットフォームのクオリティの高さが担保できるまでは、サービスインしないというわけだ。

運用に関しても製品ポートフォリオと同様、多彩なメニューが並んでいるのもオラクルクラウドの大きな特徴だ。オラクルによるホスティングだけでなく、顧客自身による管理も可能だ。「顧客に選択肢を提供する」はオラクルのトップがよく口にするフレーズだが、顧客が求める製品を求める方法で提供できるだけのメニューを揃えることは、自社プラットフォームへのこだわりと同様、オラクルの重要な戦略である。

加えてOOW 2012ではパートナー向けに「Oracle Cloud Partner Program」の提供開始を発表している。これによりユーザは信頼するISV事業者やクラウド事業者からオラクルクラウドを基盤にカスタマイズされたクラウド環境を手にできるようになる(日本での同プログラムの適用は未定)。オラクルがいうところのクラウドにおける顧客の選択肢がまたひとつ増えたことになる。

こうした戦略の正しさを証明する例として、エリソンCEOはいくつかのクラウド導入事例を挙げている。

  • Red Robin(ファストフードチェーン) … Oracle Hosted ServiceでFusion ERP、Fusion SCM、Fusion HCMを利用。100店舗において人件費と食材コストの削減と最適な人材登用を実現
  • UBS(金融) … Oracle HCM Cloud ServiceでFusion Core HR、Fusion Talent Managementを利用。人材の見える化と最適化を改善。ツールでタレントマネジメントを統合したいというニーズに適合
  • KLM Royal Dutch Airlines(航空) … Oracle Customer Service and Support Cloud ServiceでRightNow Intent Guide、RightNow Website Search Overlayを利用。顧客サービスのオンライン対応が年間30%増加し、コールセンターの規模を3カ月で18%低減、顧客対応のレベルが大幅に向上

業種業界を問わず多くのグローバルカンパニーで利用されていることがうかがえる。とくにRightNowやTaleoなど、ここ1、2年で買収したクラウド企業の採用例が目立つ。人材管理や顧客サービスなどSaaSの拡充は、ある分野に特化した企業の買収が戦略の中心となりそうだ。

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