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[私の本棚]

私の本棚『ザッポスの奇跡』ほか、国際社会経済研究所 東富彦氏が選ぶ3冊

2013年8月1日(木)折川 忠弘(IT Leaders編集部)

企業ITに携わるプロフェッショナル達に、自分の書棚から特に印象に残っている3冊を選んでもらう「私の本棚」。今回は、ビッグデータやオープンデータのビジネス活用を調査研究する国際社会経済研究所の東富彦氏に聞いた。

ザッポスの奇跡
アマゾンが屈したザッポスの新流通戦略とは

石塚 しのぶ 著
東京図書出版会
ISBN:978-4862234056
絶版

 もともと本が好きで、中学の頃は筒井康隆や星新一といった作家の本を好んで読んでいました。今でも彼らの新作が発売されると、すぐに買ってしまいます。もっとも、社会人になってからは仕事関係の本が中心になり、読む量もだいぶ減ったでしょうか。そういう意味では、趣味から実用へと本の役割が変わったのかなと感じています。

 特定のジャンルにこだわらず、いろいろな本を読むようにしています。2週間に一度は図書館に通い、手垢が付いてない、誰も読んでなさそうな本をあえて借りるのが習慣。10冊中9冊はハズレで、読破できないんですけど(笑)。

 これまで読んだ中で印象に残っているのは「ザッポスの奇跡」でしょうか。ザッポスとは米国の靴通販サイトで、徹底した「顧客第一主義」を特徴に打ち出しています。

 ザッポスではコールセンターのオペレーターが一番“偉い”んです。問い合わせてきた顧客と何時間でも話していい、お詫びに用いる割引クーポンなどを上長の許可なく自由に発行できるなど、顧客サービスを向上することが優先されています。コールセンターに宅配ビザを頼んだら手配してくれたというエピソードまで。日本では考えられないですよね。日本の通販業者なら、コールセンターは効率化を求めるのが常識のはず。しかしザッポスの“非常識”な戦略を知り、感心させられたのを覚えています。

 そうそう。「低価格路線」を打ち出していたネット通販大手のアマゾンですら、ザッポスには勝てなかったそうです。それだけザッポスに惹かれた固定客が多かったんでしょうね。結局アマゾンは2009年にザッポスを買収しているんですよ。

 ネットを中心とした社会生活を批判する「ネット・バカ」も面白かったです。そもそもの原題は「The Shallows」で、“浅い”や“深みのない”といった意味なんです。邦題は少し誇張し過ぎかもしれませんが、この本では、ネットばかりしていると物事を深く考える能力が失われてバカになる、と警鐘を鳴らしています。ネットで何かを調べても深堀りすることって難しいですよね。ネットでは広く浅い情報しか集まらず、これを繰り返していると脳が深く考える思考を止めてしまうそうなんです。

 普段の業務でも、たくさんの処理をこなしていると仕事をした気になりますよね。しかしこうした業務の多くが、深く思考する必要のないものばかり。本来なら新たなビジネスを企画するなどの思考に時間を割くべきなのに、通常業務に忙殺され、考えるための脳は使われなくなっているのです。本書を通して、思考が必要な業務とは何かをあらためて考えさせられましたね。

 “バカ”が続きますが、「バカをつくる学校」も好きです。これは米国の教師が義務教育の矛盾を提起するもの。そもそも学校は工場で働く人を確保するために作られた施設で、単純な労働者を育成する場だったそうです。同等の考えや価値を持つ人を育成するには最適な環境かもしれないが、義務教育に同じ仕組みを当てはめてよいのでしょうか。私を含めて義務教育を受けてきた人の価値感って本当に正しいのかと、疑問を抱くきっかけを作ってくれた一冊です。

ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること
ニコラス・G・カー 著、篠儀 直子 訳
青土社
ISBN:978-4791765553
2310円(税込)

バカをつくる学校
ジョン・テイラー・ガット 著、高尾 菜つこ 訳
成甲書房
ISBN:978-4880862033
1470円(税込)

東 富彦氏
東 富彦 氏
株式会社国際社会経済研究所 主幹研究員
電気通信大学を卒業後、NECに入社。主にソフトウェアの研究/開発に従事する。その後、社会貢献室長を経て現職。ソーシャルメディア、ビッグデータ、オープンデータなどのビジネス活用に向けた調査研究に携わる。オープンデータの普及を推進するOpen Knowledge Foundation Japanにも参画する
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