[イベントレポート]

M2M/IoTが”完全な嵐”を巻き起こす─モバイル活用こそが対処への第一歩

2013年11月6日(水)田口 潤(IT Leaders編集部)

欧州のIT動向、特に企業情報システムの動向を知る有力な機会の1つが、ERPベンダーのIFSが開催する年次カンファレンス「IFS World Conference」だろう。取材すると、スウェーデンに本社を置くIFS、そして同社の製品IFS Application8が、意外に日本企業に適合するのではないかと思えた。

 情報化のトレンドを理解し、活用する上で米国をウォッチすることは欠かせない。それに勝るとも劣らずに注視すべきなのが欧州だろう。欧州は好むと好まざるとに関わらず米国の影響を受ける、個々の国で見た時に市場規模が米国のように巨大ではない、企業と社員の関係が相対的に固定的など、日本と類似点が多い。加えてグローバル対応やCSR(企業の社会的責任)といった面では、日本の一歩先を行くからだ。

 そんな欧州のIT動向、特に企業情報システムの動向を知る有力な機会の1つが、ERPベンダーのIFSが開催する年次カンファレンス「IFS World Conference」である。今年はIFSが本社を置くスウェーデンから離れ、サグラダファミリアやサッカーで知られるスペインの観光都市、バルセロナで10月28日~30日に開催された。

 集まったのは欧州のユーザー企業を中心に1000人弱(写真1)。米国の大手IT企業のカンファレンスに比べると規模は小さいが、3日通しの参加費1600ユーロ(20万円超)を支払っても参加する企業がこれだけいることは明記しておきたい。

写真1 基調講演の会場全景
写真1 基調講演の会場全景

今年のテーマは「Mobility--Accelerate Your Everyday Business」。ただし必ずしもモバイル一色というわけではなく、M2M(Machine to Machine)やIoT(Internet of Things)が急速に広がる中で、IFSの主要ユーザーである製造業、設備産業、防衛産業などは”未経験の嵐”に突入しようとしている(後述)。そのような事態にIT武装で備えるとともに、最低限、モバイルを活用してビジネスのスピードや精度を高めるべきという提案だった。まず基調講演から紹介しよう。

基調講演~「我々は”完全な嵐”の真っ只中にいる」

「我々は今、モバイル、クラウド、ビッグデータといったデジタル化の進展が引き起こす、”完全な嵐”の真っ只中にいる。特に製造業は3DプリンティングとM2Mによる波が来ている。英国では3Dプリンティングで製造した銃の部品が見つかったし、センサーの価格は級数的に安く、同時に小型で高性能になる。まだ初期段階に過ぎないが、すぐに制御不能な大波になる」。初日の基調講演の冒頭、IFSのCEOであるAlastair Sorbie氏(写真2)は、このように問題意識を語った。

写真2 Alastair Sorbie CEO
写真2 Alastair Sorbie CEO

 完全な嵐とは、2000年公開の映画「パーフェクトストーム」のこと。「嵐でも自分たちなら何とかなる」と判断して漁に出た漁船が巨大な嵐に遭遇し、翻弄される運命を描いたものだ。現在の環境も全く同様で、「大丈夫だと思っていても、何もしなければ飲み込まれる。企業は変化に適応する必要があり、そのためには効果的なIT活用が欠かせない」(同)。だからIFSと共に歩んでほしいとのメッセージだ。

 これだと単なるマーケティングメッセージに聞こえかねないが、Sorbie氏の後に登壇したダイヤモンドスポンサーである米Microsoftのクラウド担当エバンジェリスト、Mike Opal氏もやはりパーフェクトストームを引用(写真3)。「冷蔵庫も、牧畜の牛にもデバイスが入り、2020年には500億個がネットにつながる。そんなデジタル化の”嵐”をどう乗り越えるか? 答は、自社がまず利用することだ。ビジネスとテクノロジを組み合わせて、自社を特別な存在にする必要がある」と強調した。

写真3 Perfect Storm
写真3 Perfect Storm

モバイルファーストの姿勢が重要

 2日めの基調講演では、ITアナリスト世界一に選出されたこともあるRay Wang氏(米Constellation ResearchのCEO)が「The Role of Mobility(モビリティの役割)」を熱演。「あらゆる業種、業界において今まさにビジネスモデルのシフトが進行している。その中で企業は破壊するか(disurpt)、されるか(be disrupted)の、どちらかしかない(写真4)。破壊する側に回るためのイノベーションの推進役を果たすのがモバイルだ」。

写真4:破壊するかされるか
写真4:破壊するかされるか

 ビジネスモデルのシフトが現実だとして一体なぜ、モバイルなのか? Wang氏はこう話す。「考えてみてほしい。レンタカー・ビジネスがモバイルで変わりつつある。自動車も航空機も医療機器も同じで、製造業は製品販売からサービス収入に変わり、それにつれてB2BとB2Cの区分けはなくなっていく。重要なのは人やモノとのコネクション、エンゲージメントであり、モバイルファースト(最優先)は必然だ(写真5)。

写真5:モバイルマニフェスト
写真5:モバイルマニフェスト

 当然、そのためには投資が必要だが、それはイノベーションを理解するための痛みと捉えるべきである」(同)。モバイルをビジネスに活用できないようでは、これからの時代を勝ち抜くことは不可能というわけだ。余談だが、著名アナリストだけあって同氏の講演やその資料は示唆に富む。要注目のアナリストである。

 基調講演は3日間で延べ5時間以上あり、ほかにも多彩な話が展開された。ユーザー企業5社がIFSのERPの導入やバージョンアップについてパネル討論をしたり、ゴールドスポンサーの米OracleがIoTの進展と処理基盤をアピールしたり、IFSのCTOが開発中の技術を解説したり、といったことである。

 例えばアフリカのレジャー施設運営大手、SunInternationalはSAP、Oracle、Microsoftの製品と比較した上でIFS製品の採用を決定。契約額は550万ドル、人事/給与、会計、調達、プロジェクト管理などのモジュールを2015年までに導入するという。また米Oracleは、アメリカズカップを戦う帆船は300個のセンサーを装備し、Exadataをデータ処理基盤としていることをアピールした(写真6)。

写真6:米オラクルのヨットの話
写真6:米オラクルのヨットの話

 モバイルのユーザー企業の紹介もあった。油田掘削の英Archer、ノルウェーの貿易&サービス業であるBertel O.Steen、同じノルウェーの海底ケーブル敷設専門企業であるVSMCなどだ。このうちVSMCは作業拠点との連絡や情報共有にTouch Appsを導入。資材の購買に関わる時間を60%削減したという。「すでにIFSユーザー企業の25%が1本以上のTouch Appsを使っている」(Dan Matthews同社CTO)。

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