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[ザ・プロジェクト]

海外拠点向け共通ITインフラを構築 、「局地戦」からの脱却図る─DNPグループ

2013年12月18日(水)緒方 啓吾(IT Leaders編集部)

事業部門主導で、拠点ごとに個別構築してきた基幹システム。海外拠点ごとにシステムを個別構築すると、現地の事情を柔軟に取り入れられる半面、重複投資が発生し、ガバナンスも難しくなる。全体最適を目指すなら、「局地戦」から脱却せざるを得ない。DNP(大日本印刷)グループは、複数の海外拠点で共同利用可能なクラウドサービス型の基幹システムを構築、新規拠点から順次、巻き取る試みを始めた。プロジェクトの指揮を執った、DNP情報システムの宮本和幸 執行役員に話を聞いた。 聞き手: IT Leaders編集長 川上潤司 (文中敬称略)

写真:DNP情報システム 執行役員兼システム技術本部長 宮本 和幸 氏
写真:DNP情報システム
執行役員兼システム技術本部長 宮本和幸氏

――まずは、今回のプロジェクトの概要を教えて下さい。

宮本: 海外拠点用の基幹システムをクラウド基盤上に構築しました。各拠点から、ネットワーク経由で共同利用します。ERPパッケージのソフトウェア以外、サーバーやストレージなどのインフラは用意する必要がありません。今後、新たに開設する海外拠点から順次、利用を始める予定です。すでに、2013年に新設したベトナムとマレーシアの製造拠点で運用を開始しています。

 基幹システムの構築に合わせて、Windowsの脆弱性対策や、ウィルス対策、ファイルサーバー、セキュリティ認証など、共通性の高い機能も「DGSP」と呼ぶクラウドサービスとして提供するようにしました。今後も機能の拡張を続けていきます。

――これまで、海外拠点のシステムはどうしていたのですか?

宮本: 実は、事業部門に任せていました。エレクトロニクスや半導体など、すでに海外進出していた事業部門は、それぞれITに強い人材を抱えており、彼らが現地の開発会社などを使って、システムを調達していました。必要に応じて支援はしていましたが、情報システム部門のリソースは、専ら国内に注いでいました。

 ただ、今回、ベトナム、マレーシアに拠点を設置した事業部門は、海外での新規拠点立ち上げに伴う、システム構築の経験やノウハウがありませんでした。また、今回の2拠点については製造拠点だったので、販売管理や会計などの基幹業務システムに加え、生産管理システムも整備する必要がありました。そこで、情報システムの専門部門である弊社にシステムの調達一切を任された次第です。

写真:食品や日用品向けの包装資材を生産するベトナム工場(2013年6月竣工、写真上)と、フォトプリント製品を製造するマレーシア工場(2013年12月、下)
写真:食品や日用品向けの包装資材を生産する
ベトナム工場(2013年6月竣工、写真上)と、
フォトプリント製品を製造する
マレーシア工場(2013年12月、下)

――このタイミングで、海外拠点の標準システムを構築した理由は何だったのでしょう?

宮本: 直接の理由は納期です。ベトナムとマレーシアの立ち上げ時期が重なっていたので、スケジュール的に、システムを個別構築する余裕がなかったのです。

 ただ、これまでの課題を解消する良い機会だとも感じました。DNPのグローバル戦略で、海外での事業展開がますます進むことも見込まれます。海外拠点ごとにシステムを個別構築する“局地戦”から、そろそろ脱却する必要があると考えていました。非効率でコストが掛かるし、仕様が統一できず、ガバナンスも利かせられないからです。そのためには、事業部門任せのシステム運用を改める必要があります。

 今後、自分たちが、海外拠点のシステムも一元管理できるようにするためには、 “お作法”のようなものを作りたい。その一環で、基幹システムの共同利用という策を考えたのです。私自身は、つい最近まで、DNP本社の情報システム部門に在籍していたので、本社とのパイプもありました。それで、経営層の承認を取り付けて、プロジェクトをスタートしたのです。

ERPパッケージを採用、ベトナムでオフショア開発

――基幹システムはマイクロソフトのERPパッケージ「Microsoft Dynamics AX」を使われたそうですね。これはどういった経緯で選ばれたのですか?

宮本: システム構築の納期の面から、ERPパッケージの利用を第一に考えました。もともと、弊社は基幹システムをスクラッチで内製するくらい、徹底した自前主義だったのですが、今回ばかりはそうはいかないだろうと。それで、製品選定を始めました。

 新拠点のビジネス規模を考えると、高額で重厚長大な製品は機能を使い切れないと考え、選択肢から外しました。一方、いわゆる会計ソフトだと軽すぎる。妥当な線は、「Oracle JDEdwards」や、「SAP Business One」など、いわゆるミドルクラスのERPなのだろうな、とあたりをつけました。

 そんな折、北米の販売拠点が、「Microsoft Dynamics NAV(旧Navision)」を導入したという話を聞きました。もともと、大規模なERPパッケージを使っていたのですが、高い保守料を支払っている割には、機能を使いこなせていなかった。それで、更改のタイミングで切り替えたのです。担当者に聞いてみると、導入も楽だったと言う。それで、Navisionの検討を始めたのです。

 実際に触ってみると、オフィスに似たユーザーインタフェースで使い勝手が良かった。製造工場で使うにはちょっと軽いかなという印象を抱きつつも、4~5社にNavisionで提案を依頼したところ、そのうちの1社、NTTコミュニケーションズさんから「御社の規模なら、Dynamics AXの方がいいのでは」と提案していただいたのです。

 導入実績もあるし、海外展開に使っている例も多いという。価格も、ちょうどライセンス体系が変更されたところで、Navisionとそう変わりませんでした。これなら行けると思い、AXに方向転換したという次第です。開発体制や、ネットワーク分野の強さも考慮して、同社に依頼しました。

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