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物体を空中に浮かす技術やカード決済サービス─ITリーダーにこそ知ってほしいITベンチャーの動き

2014年3月18日(火)田口 潤(IT Leaders編集部)

ITベンチャーといえば米国発。日本は人口比で米国の3分の1近いが、日本発のベンチャーは米国の10分の1もない──。これは間違いのない事実だ。実際、突出したエンジニア/起業家の絶対数が少ない、ベンチャー投資や経営指導などサポート環境が貧弱、ベンチャーの製品や技術を目利きする人がおらず、したがって起業しても成長しにくいなど、否定的な要素はいくつもある。ところが、そんな中でも日本発のベンチャーは生まれている。

それを知る機会の一つが、IPA(情報処理推進機構)が3月中旬に開催した「第2回未踏シンポジウム」。4社の起業家が自社の製品や技術をアピールした。一体どんな技術ベンチャーが誕生しているのか、紹介しよう。なお言うまでもない話だが、以下の4社は会場やシンポジウムの都合で選ばれた企業であって、未踏関連だけでもベンチャーはたくさんある。念のため。

1社がインフォクラフト(荒川淳平社長)というベンチャーである。2005年4月創業の同社は「研究開発型企業」を標榜し、これまでの9年間、大学や企業などから委託されたことの研究開発を行ってきた。RFIDを用いた位置測位システム、大学向け知財管理システム、ネットワーク機器のパスワード管理システムなどだ。

最近になって自社製品の開発にも乗り出しており、今回は「IzumoFS」と名付けた分散ストレージソフトウェアの説明を行った(写真1)。安価な汎用HDDを用いて高信頼・高速のストレージシステムを構成できる。OpenStackなどクラウド基盤に向くが、iSCSI対応など一般的なIT環境での使い勝手も考慮されている。

写真1 インフォクラフトの分散ストレージソフトウェア「IzumoFS」

「物体を宙に浮かす」──こんな技術を示したのは、jiseCHI(ジセカイ、豊島 圭佑社長)の取締役兼創業メンバーである落合陽一氏である。宙に浮かすといってもマジックの類ではなく、簡単に言えば「音による空気振動」で物体を持ち上げるものだ。

「3D standing waves manipulation」と呼んでおり、複数のスピーカーを使って空気を緻密に制御し、その力で物体を浮かせる(写真2)。ユーザーインタフェース、インタラクションを得意とする同社の社名は、次の世界を意味する次世界、とComputer-Human InteractionのCHIを組み合わせたものだという。ほかにも目に見えない電気信号を可視化するハードも説明した。

写真2 jiseCHIによる、複数のスピーカーを使って物体を浮かせる原理

ビビアン(久池井淳社長)も、ユーザーインタラクション技術をプレゼンした。しかしjiseCHIとはまったく方向が異なり、多関節の人形のポーズをコンピュータに取り込み、例えばアニメーションのキャラクタの動きをリアルにする技術である。

ダンサーなどの体にセンサーを取り付け、その動きを読み取ってCG画像で同じ動きを再現するモーションピクチャという技術がある。ビビアンは人とセンサーの代わりに、フィギュアと関節のセンサーを使う(写真3)。フィギュアのポーズをデータとして取り込むわけである。同じベンチャーのソフトイーサ、セルシスと共同開発した「QUMA」がベースだという。

写真3 ビビアンの久池井淳社長のプレゼン。中央下の人形の姿勢を入力する

4社めが、ウェブペイ(久保渓社長)。社名が示す通り、Webサービス事業者やモバイルアプリの提供者が、自社のサービスにクレジットカード決済機能を付加するための決済サービスである。(1)VISAやMasterCard、JCB、American Express、Dinersといった主要カードに対応、(2)既存のサービスに比べ開発・実装が用意、(3)サービス利用料金が安価といった特徴がある。小規模向けの会計サービス「freee(フリー)」などがすでに採用し、2014年2月には1億1000万円の投資も得た。4社の中では実用化という点でトップを走っている。

ざっと紹介してきたが、いかがだっただろうか。「インフォクラフトのIzumoFSやWebpayは分かる。でもjiseCHIやビビアンの技術は一体、何に使うのか。面白いのは確かだが…」といった見方もあるかもしれない。実際、残念なことにシンポジウム会場に足を運んでいたのは関係者を除くと数10名と少なめ。一般企業もとより、コンピュータメーカーやシステムインテグレータの参加者は片手で数えられるほどだった。

しかしインタラクション技術は応用範囲が広い技術であるのも確かだ。こうした技術が企業の情報システム、あるいは製品やサービスに組み込まれるようになれば、もっと面白くなるように思う。IPAの宣伝告知が足りないとも言えるが、ITリーダーの方々にはこういった催しにもっと足を運んでほしい。

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