[市場動向]

オラクルが描く将来像、ハードからアプリまでをフルスタックに

【徹底調査】M&Aに見るERPの将来像

2014年4月23日(水)折川 忠弘(IT Leaders編集部)

積極的なM&A(企業の統合・買収)戦略を打ち出す米オラクル。クラウドや非構造データが台頭する中で、オラクルは、どんなERP像を描こうとしているのか。同社のM&A(企業の統合・買収)の経緯を追うとともに、既存ユーザーが抱くであろう7つの疑問点に対するオラクルからの回答を紹介する。

 米オラクルが2009年1月から2014年3月までに実施したM&A件数は46社だった(次ページ以降の表1-1、1-2、1-3)。同時期にSAPが実施したM&A件数(12件)の約4倍である。この違いを生んでいる最大の理由は、オラクルがハードウェアを含め、幅広い分野の企業を買収しているからである。

オラクルが買収した企業は大きく、ハードウェアやミドルウェアを含めたプラットフォーム系と、CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)/マーケティングに分けられる。前者ではもちろん、ハードウェア/ソフトウェアベンダーのSun Microsystemsが、その中核である。ここにクラウド関連ミドルウェアのNimbulaなどが組み合わさってくる。後者では、ソーシャルメディア関連データを扱うマーケティング支援のEloquaをオラクルは前面に推している。

【Sun Microsystems】

 2009年4月に買収した。独自プロセサ「SPARC」や、UNIX OS「Solaris」のほか、プログラミング言語「Java」など、オープンシステムの一角を形成した製品群を一手に手に入れた。ハードウェアでは「Sun x86」や「Sun Blade」などのサーバーや、「ZFS Storage Appliances」や「StorageTek」といったストレージ製品もある。

これらのハードウェア環境は、「Oracle Database」を中核にしたミドルウェアと組み合わされ、垂直統合機 「エンジニアド・システム」を形成している。さらにSPARCは現在、Oracle Databaseの処理を高速化するためのファームウェアを搭載し、オラクル専用チップの様相を強めている。Solarisもエンジニアド・システム向けに機能強化が図られ、最新の「バージョン11」では、ハードウェアの不具合を検知し、故障箇所を自動で切り離す機能が追加された。

Javaは、オラクルがクラウド環境を中心に新規機能の提供用に開発を続ける「Oracle Fusion Applications」の主要開発言語である。

【Nimbula】

 2013年3月に買収した 。クラウド環境を構築するためのソフト「Nimbula Director」が主力製品である。サーバーやストレージなどのハードウェアリソースを管理し、要件に応じて、これらリソースを組み合わせた仮想マシンを作成。負荷に応じてリソースを動的に追加できる。

Nimbula Directorも今後は、エンジニアド・システム「Exalogic Elastic Cloud」に搭載される予定だ。Exalogicは、プライベートクラウドを想定したアプリケーションの実行環境である。

【Eloqua】

 2012年12月に買収した。キャンペーンの管理や効果測定といったマーケティング支援機能をクラウドで提供する。効果測定の手法として、ソーシャルネットワーク上の「つぶやき」や「評価」など、非構造データを扱うのが特徴だ。構造データを扱うOracle Databaseがカバーしていないデータ世界を取り込む戦略である。

オラクルは現在、Eloquaの各種サービスを「Oracle Eloqua Marketing Cloud Service」として展開。ここにマーケティング関連クラウドサービスを次々と買収し、拡充を図っている。具体的には、2013年10月に買収した「Compendium」、同年12月の「Responsys」、2014年2月の 「BlueKai」などである。

フルスタックを全方位で提供

 オラクルのM&A戦略が、ERPパッケージの範疇に留まらないのは明らかだ。プロセサからOS、ミドルウェア、アプリケーション/サービスまで、同社が抱える製品群のすべてに対抗できるベンダーは最早、存在しない。最も製品レンジが近い米IBMや米HPでも現時点では、アプリケーション領域には踏み込んでいない。

だがオラクルは、表には現れていないものの、それ以前には多数の業種・業務パッケージベンダーなどを買収している。金融、製造、小売り、さらには公益といった業界別ソリューションを示せることは、企業情報システムのこれからを考える上では、オラクルの強みだと言える。これも、「企業活動のすべてが見える」というデータの流れを一元管理してきたOracle Databaseというデータベースを握ってきたためだ。

オラクルは今後、「フルスタック戦略」を加速させとともに、それらをクラウド、オンプレミス、ハイブリッドのいずれの環境に向けても展開できるようにする(図1)。非構造データなど企業活動を示すデータの範囲が広がる中で、オラクルが全データをどう抑えるのか。同領域では、非構造データに強いベンダーの巻き返しが予想されるだけに、オラクルの次の一手からも目が離せない。

図1:自社製品で揃えたフルスタックをオンプレミス/クラウド/ハイブリッドに展開する

表1-1:米オラクルが2009年~2010年に実行したM&A(企業の統合・買収)案件

実施年月 対象企業 対象分野 M&Aをした企業の概要とオラクルの取り組み
2009年2月 mValent アプリケーション構成管理 アプリケーションの構成管理ソリューションを提供。運用管理ソフト「Oracle Enterprise Manager」に組み込む
2009年3月 Relsys 医薬品安全管理 医薬品を管理するアプリケーションなどを提供。医療/ヘルスケア専門部署「Health Sciences Global Business Unit」の強化を図る
2009年4月 Sun Microsystems ハードウェア/ソフトウェア全般 サーバー、ストレージなどのハードウェアと、Java、Solarisなどのソフトウェア技術を提供。アプリケーション開発・実行基盤の強化に加え、ハードウェアを組み合わせた統合システムの展開を進める
2009年5月 Virtual Iron Software サーバー仮想化 サーバー仮想化ソフトを提供。サーバー・リソースを自動管理する技術を「Oracle VM」に統合する
2009年6月 Conformia Software ライフサイクル管理 医薬品の開発プロセスを管理するアプリケーションを提供。オラクルの「Agile Product Lifecycle Management」に統合する
2009年7月 GoldenGate データ連携・統合 データの移行/連携/統合技術を提供。「Oracle Database」同士のデータ同期・複製のほか、IBM「DB2」、マイクロソフト「SQL Server」など他社製データベースとのデータの同期・複製を可能にする
2009年9月 HyperRoll 財務報告管理 財務報告業務の支援ソフトを提供。Hyperion製品などに製品/技術を利用する
2009年10月 Sophoi 知的財産管理 メディア、エンターテインメント業界向けの知的財産管理ソフトを提供。メディア企業などのコンテンツの利用促進を支援する
2010年1月 Silver Creek Systems 製品データ管理 製品に関する品質データを管理するソフトを提供。複数機器から収集した品質データを統合管理する技術を「Oracle Data Integration」などに適用する
2010年2月 AmberPoint SOA管理 SOAに関連する管理ソフトを提供。同製品/技術を「Oracle Fusion Middleware」や「Oracle SOA Governance」、「Oracle Enterprise Manager」などに利用する
2010年2月 Convergin 通信/ネットワーク 通信事業者向けネットワーク統合ソフトを提供。「Oracle Communications」に統合し、事業者のIPベースのネットワーク構築およびハードウェア削減を支援する
2010年4月 Phase Forward 臨床試験 製薬会社向け臨床試験関連機能をクラウドサービスとして提供。同社の人材を医療/ヘルスケア部門に配置し、医療分野の強化を図る
2010年5月 Secerno アクセス管理 データベースへのアクセスをポリシーに基づき制御する製品を提供。不正アクセスを検知/遮断する機能を持つ。「Oracle Database」のセキュリティ向上に利用する
2010年5月 Market2Lead マーケティング マーケティング活動を自動化するソフトウェア/技術を提供。同技術を「Oracle CRM」に統合する
2010年10月 DataScaler  分散処理 データベースの分散処理技術を提供。分散メモリーを使って処理速度を高める。Oracle Databaseなどの高速化に利用する
2010年10月 Passlogix シングルサインオン シングルサインオンソリューションを提供。サーバーやメインフレーム、アプリケーションなどの認証を一元化する。「Oracle Identity Manager」や「Oracle Access Manager」などに統合する
2010年11月 Art Technology Group(ATG) Eコマース(オムニチャネル) 小売り業向けに実店舗やWebサイト、モバイルなどの複数チャネルによる商取引を管理するためのソフトを提供。CRMやRetailなどのアプリケーション製品の機能強化に利用する

表1-2:米オラクルが2011年~2012年に実行したM&A(企業の統合・買収)案件

実施年月 対象企業 対象分野 M&Aをした企業の概要とオラクルの取り組み
2011年6月 Datanomic データ品質管理 データ品質や、データ管理がコンプライアンスに沿っているかどうかを可視化するソフトウェアを提供。MDM(Master Data Management)ソリューションに統合する
2011年6月 FatWire Software マーケティング(オムニチャネル) 顧客に応じたコンテンツを配信したり、ソーシャルやモバイルを使って顧客を囲い込んだりするためのソリューションを提供。同技術をCRMやEコマース、コンテンツ管理、BI製品などに利用する
2011年6月 Pillar Data Systems ストレージ SAN/NASとして利用できるユニファイドストレージを提供。Sun Microsystems買収で展開するストレージ製品のハイエンド製品に位置付ける
2011年7月 Ksplice 基盤ソフト(アップデート) Linuxを再起動なしにアップデートできる技術を提供。Linuxのサポートサービスの1つとし展開する
2011年7月 InQuira CRM 顧客のセルフサービスQ&Aやオペレーター業務を支援するナレッジマネジメントソリューションを提供。利用企業が持つ複数チャネルにおける顧客サポート体制、顧客満足度向上を支援する
2011年9月 GoAhead Software 基盤ソフト(HA構成) 通信事業者向けHA環境を構築するためのソフトウェアを提供。通信事業者が敷設するネットワークの可用性を高めるために利用する
2011年10月 Endeca Technology データ検索/分析 エンタープライズサーチやBI製品などを提供。ビッグデータ分析エンジンに位置付け、クラウド型の分析サービスとしても展開する
2011年10月 RightNow Technologies CRM 顧客管理サービスを提供。コールセンターやWebサイト経由の顧客情報を一元管理できる。「Oracle RightNow Cloud Service」として展開する
2012年2月 Taleo タレントマネジメント 人材開発/活用などのタレントマネジメントをクラウドサービスとして提供する。ソーシャルを使って従業員を評価したり、評判を社内評価に役立てたりできる。Taleoブランドのクラウドサービスとして展開する
2012年3月 ClearTrial 臨床試験 医療/ヘルスケア業界向けの臨床試験関連のクラウドサービスを提供。業界/業種別ソリューションを拡充する
2012年5月 Vitrue ソーシャルマーティング 複数のSNSを使ったキャンペーンなどを管理するSaaSを提供。SNSへの投稿を管理したり、SNS利用者の投稿を分析して自社商品などの評判を測定したりする機能を持つ。マーケティング関連クラウドなどのサービス拡充を図る
2012年6月 Collective Intellect ソーシャル分析 SNSやブログの投稿を分析するツールを提供。テキストマイニングを活用し、自社や自社商品の評判を時間帯別に把握したりできる。マーケティング関連の機能強化に利用する
2012年7月 Involver ソーシャルアプリケーション開発 FacebookやTwitter、Youtubeなどを対象にしたコンテンツやアプリケーションの開発基盤を提供。複数のSNSを活用したマーケティング活動の実践を支援する
2012年7月 Skire 設備管理 建設業向けの設備管理・投資ソリューションを提供。設備への投資計画から建設、保守までの一連の業務に関わる製品を展開する
2012年7月 Xsigo Systems  ネットワーク(IO仮想化) ネットワークの帯域を仮想的に分割する製品/技術を提供。要件に応じて広帯域、低帯域なネットワークを動的に作成できる。同技術を仮想環境およびエンジニアド・システムで活用する
2012年9月 SelectMinds タレントマネジメント タレントマネジメントをクラウド経由で提供する。特に人材採用(リクルーティング)機能を強みにし、SNSを活用した採用活動を管理する。HCM関連の製品/サービスを強化する
2012年11月 Instantis プロジェクト管理 製品やシステム開発などにおけるプロジェクト管理用アプリケーションを提供。プロジェクトの計画立案やリソースの使用率を把握したりする。従業員のアイデアやナレッジを管理する機能も備える
2012年12月 DataRaker スマートメーター監視/分析 水道や電気などのスマートメーターからのデータを収集/分析するクラウドサービスを提供。公益企業向けの製品/サービスを拡充する
2012年12月 Eloqua マーケティング 企業のマーケティング/キャンペーンを管理するソフトを提供。優良な見込み客を抽出し、顧客に応じた広告を配信するまでの作業を自動化する。「Marketing Cloud」として展開する

表1-3:米オラクルが2013年~2014年3月に実行したM&A(企業の統合・買収)案件

実施年月 対象企業 対象分野 M&Aをした企業の概要とオラクルの取り組み
2013年2月 Acme Packet ネットワーク(IP電話のセキュリティ) IP電話のセキュリティを高めるゲートウェイ製品を提供。通信事業者が提供する通話/ネットワークサービスの安全性向上に活用する
2013年3月 Nimbula クラウド管理 クラウドのリソースを管理するソフトウェアを提供。同製品/技術をクラウドの可用性や品質向上を支援するために使う
2013年3月 Tekelec モバイル モバイルの通信/ネットワークを管理する技術やソフトウェアを提供。通信事業者に対し安定したモバイルネットワークとして提案する
2013年10月 Compendium マーケティング クラウド型マーケティングツールを提供。顧客向けコンテンツの制作/配信を効率化できる。「Marketing Cloud」に統合する
2013年10月 BigMachines 決済管理 決済システムをクラウド経由で提供。見積もり管理、契約書の受け渡し、受注完了までの作業をサポートする。「Sales Cloud」などに統合する
2013年11月 Bitzer Mobile モバイル 個人所有のスマートデバイスから業務アプリケーションに安全にアクセスするためのソフトウェアを提供。遠隔から業務アプリケーションのデータを削除する機能もある。モバイルセキュリティの中核製品に位置付ける
2013年12月 Nirvanix ストレージ 企業向けのクラウドストレージを提供。主にデータのバックアップとしての利用を想定する。なおNirvanixは2013年10月に破産申請しており、ラクルが買収によ同事業を引き取った
2013年12月 Responsys マーケティング(キャンペーン管理) Webやソーシャル、モバイルにおけるキャンペーン活動を支援するマーケティングソフトを提供。「Marketing Cloud」に統合する
2014年1月 Corente SDN SDN(Software-Defined Networking)関連のソリューションを提供する。買収したXsigoとともに、仮想化技術によるネットワーク管理に利用する
2014年2月 BlueKai マーケティング 複数チャネルのマーケティング活動を管理するプラットフォームを提供。買収したEloquaやResponsysの製品と組み合わせて、マーケティング/キャンペーンのソリューションを強化する
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