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【第6回】クラウドと仮想ネットワークが可能にするIoTの世界

2014年4月21日(月)大和 敏彦

サーバー、ストレージから始まった仮想化は、ネットワークの仮想化へとつながってきた。データセンター全体の仮想化や、ネットワークで接続された複数のデータセンター全体の仮想化が実現されれば、よりダイナミックにコンピュータ資源を利用できるインフラが整うことになる。その先に待っているのが、多種多様なモノがネットにつながるIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の世界だ。

 2004年3月14日、O3(Open organic Optima)が研究成果を披露するシンポジウムを開催した。O3は総務省の予算によって、イーサネットから無線、WDM(光波長多重通信)までの広い範囲を対象にしたネットワークの仮想化を目指している。NTT持ち株会社、NTTコミュニケーションズ、NEC、富士通、日立製作所の5社が参加する。

 こうしたキャリアレベルの仮想ネットワーク技術の確立と標準化によって、サーバーやストレージの仮想化と統合された環境の構築が可能になる。それは、運用の容易性やネットワーク品質の改善へとつながり、コンピュータ資源をよりダイナミックに利用できるクラウド環境が整うことになる。

2020年には500億個のモノがインターネットにつながる

 クラウドのインフラが強固になればなるほど、その応用も加速する。その1つがIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の流れだ。IoTとは、これまでインターネットに接続されていなかった多種多様なモノがインターネットに接続され、新しい価値やビジネスを生み出していく流れである。米Cisco Systemsはこれを「IoE(Internet of Everything)」と呼んでいる。

 米HPの報告では、2020年にはモバイル端末を含め500億個の様々なモノがインターネットにつながる。モノ自体や、モノの情報通信に必要な通信機器、その接続によって得られる情報の処理や蓄積のためのクラウド市場が生み出され、2020年にIoTが創り出す経済付加価値は、1兆9000億ドルに達するという。

 筆者の開発グループでは、1990年末から2000年初頭にかけて、カメラや、ゲーム機、医療機器、自動車、電車をインターネットにつないできた。電車プロジェクトの結果として、新幹線のWi-Fiコネクションが生まれている。これまでの経験から言えば、自動車や電車は、それ自体がモノとしてネットワークにつながることよりも、インターネット・インフラを移動体に拡張するという意味が大きい。

 ユビキタスコンピューティングという言葉も生まれた。その時の課題は、接続品質と接続コストだった。当時、携帯のモバイルアクセスはスピードが遅く、Wi-Fiスポットも地域カバー率が低くかった。まだ従量制料金だったので、ビデオ・音声や大容量のトラフィックを流すには高価でもあった。

 モバイル・ブロードバンドの時代になり、LTE(Long Term Evolution)では100Mbpsクラスの高速ネットワークが定額で利用できる。Wi-FiスポットやWiMAXによりアクセスできる場所のカバー率も格段に広がった。加えて、クラウドの進化と広がりにより、ストレージの機能や処理が安く簡単に使える。

 こうしたインフラの進化と並行して、センサーがより小型化され安価になった。GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)による位置情報や、加速度センサーのような動きの情報、生体情報のセンサーなど、様々なセンサーの応用分野が広がっている。このような技術とインフラの組み合わせによって、有用な応用またそれを活用したビジネスが生まれようとしている。

様々なデータの収集・送信が可能に

図1:IoT(Internet of Things:モノのインターネット)がもたらす機能
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 モノが繋がることによって実現できる機能は、大きく以下の4つに分類できる(図1)。

(1)データ収集

 機器が持つ情報や状態、機器やセンサーを通じて得られる環境情報をネットワーク経由で収集する。それらの情報を基に判断したり行動したりする。情報の蓄積によって、さらに高度な処理や分析を行う。

 収集方法も、様々なテクノロジーによって進化を続けている。ビデオインテリジェンス(VI)と呼ばれるビデオの解析技術の進化によって、ナンバープレートの読み取り、顔認識や動作認識などによって、より広く応用できる情報に変換できる。

 米IBMは2012年にイノベーションとして「コグニティブ・システム」を取り上げている。コンピュータが独自の方法で見たり、匂いを感じたり、触れたり、味わったり、聞いたりできるようになる。五感(触覚、視覚、聴覚、味覚、嗅覚)をシステムとして実現するのだ。

 五感センサーや、それを処理するモノが実用化されれば、ますます精度が高く現実世界をデジタル化することが可能になる。様々な解析や他のデータと組み合わせた応用へのイノベーションが起きる。

 かつてAI(Artificial Intelligence:人工知能)がブームになったことがある。だが当時は、Expert Systemへのデータ入力に手間がかかり、処理にさけるコンピュータ資源を確保するのも容易ではなかった。

 IoTによりリアルタイムなデータ収集が簡単になり、構造化データだけでなく非構造化データもデータベースとして扱え、それをクラウドによって大規模に解析・分析できるようになってきた。様々な応用分野がさらに広がるはずだ。

(2)モノにデータを送る

 ソフトウェアのアップデートや、モノの動作・使用において必要となる情報を送る。モノとしてのスマートフォンは、通信や処理、および基本機能を提供するプラットフォームであり、そのプラットフォーム上で動くアプリケーションによって機能が拡張できる。

 このような仕組みが可能になった製品は、保守、物流はもとより、ビジネスモデル自体を大きく変えることが可能になる。

(3)データの蓄積と応用、集合知に変える

 データを蓄積して保管する。これまで不可能だったデータ量を安価に蓄積できることで、過去からの様々な情報を蓄積できる。そして、集積自体が集合知としての価値を生む。集められたデータ同志のマッチングや、統計解析によって次の価値を生み出すことが可能になる。

(4)離れた物を操作する
リモコンで操作するレベルから、画像や音声、センサーから得た環境情報などをモニターしながらの操作が可能になる。環境情報をクラウドに蓄積し、その集合知に基づいて判断する自動運転などへの進化が始まっている。

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