[市場動向]

「半導体工場で栽培したレタスは甘みがあった」富士通の野菜工場を見に行く

2014年8月19日(火)田口 潤(IT Leaders編集部)

富士通が農業とITの融合ビジネスを加速させている。2014年8月4日には、人気が高い日本酒「獺祭(だっさい)」を製造する旭酒造と提携し、原料米である「山田錦」の生産量増加をITで支援すると発表。8月18日には自社が運営する「会津若松Akisaiやさい工場」を拠点に、近隣の大学や病院などとのコラボレーションを推進することを発表した。それにしてもなぜ富士通が農業なのか?百聞は一見にしかずとばかり夏のある日、同工場を取材した。

写真1:旭酒造が富士通と提携した理由写真1:旭酒造が富士通と提携した理由
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 旭酒造との提携は、「山田錦」を作付けする農家に富士通の農業クラウド「Akisai」のタブレット端末などを配布し、原料米の生産量の安定化や増大を目指すものだ(写真1)。旭酒造は、「獺祭の売れ行きは順調に伸びていますが、原料米である山田錦の栽培が難しく、安定的に供給できない問題が浮かび上がってきました。富士通と組むことで、この問題を解消したいと考えています」と話す。

写真2:圃場に設置するセンサー。ソーラーパネルを搭載し自立動作する写真2:圃場に設置するセンサー。ソーラーパネルを搭載し自立動作する
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 仕組みとしては、農家は日々の作業内容や使用した農薬・肥料・資材をAkisaiに登録。同時に圃場(田んぼ)にはセンサーネットワークを設置して気温や湿度、土壌温度・土壌水分などを1時間ごとに自動収集する(写真2)。これらの情報によって稲の生育状況を可視化する。すでに山口県内の2農家に導入。今後は、兵庫県など山田錦の生産者が多い地域に拡大していく計画だ。

 一方、会津若松Akisaiやさい工場の高度化は、周辺の大学と共同研究したり、食と医に関わる医療団体と協業したりするための拠点として、同工場での活動を強化するもの。例えば、同工場で現在生産している低カリウムのレタス以外の低カリウム野菜を栽培する共同研究を、秋田県立大学と8月から開始した。

 低カリウム野菜は、機能性野菜の1種。植物の生育に必須なカリウムだが、日本に1300万人以上いるとされる腎臓病患者や、より重篤な透析患者(約30万人)は、このカリウムを摂取できない。低カリウム野菜なら、カリウムを採れない人でも新鮮な生野菜が食べられる。秋田県立大学は、一般のレタスの8分の1から10分の1程度にまでカリウムを減らすための栽培方法で特許を持っている。

 それにしても、コンピュータメーカーであり、システムインテグレータでもある富士通が、なぜ農業なのか?クラウドサービスやセンサーネットワーク(IoT:Internet of Things)などを利用するAkisaiは、まだしも、なぜ自ら工場で野菜を作り、品目の拡大に乗り出すのだろうか?その解を求めて同工場を訪れた。

半導体の製造ノウハウや設備を野菜に転用

●写真3:会津若松Akisaiやさい工場の全景。中央の真っ白な屋根の建物がレタス栽培用。それ以外の建屋ではマイコンやロジックICなど半導体製品を製造している●写真3:会津若松Akisaiやさい工場の全景。中央の真っ白な屋根の建物がレタス栽培用。それ以外の建屋ではマイコンやロジックICなど半導体製品を製造している
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 会津若松Akisaiやさい工場があるのは、名前の通り福島県会津若松市。1984年から半導体を作り続けてきた由緒ある工場だ。だが半導体の生産量が減少たことで、建屋の一部が空いた。それを、そのまま、やさい栽培に転用している(写真3)。

 富士通ホ一ム&オフィスサービス先端農業事業部生産部長の宮部 治泰 氏は、「半導体で培った生産技術やクリーンルームを別の用途に活用できないかを考えました。検討の末、機能性野菜なら付加価値を高められると判断し生産に着手したのです。当社が推進する食・農クラウドAkisaiのリファレンスモデルになり得ることも理由の1つです」と話す。

 加えて、「クリーンルームで包装することで雑菌をシャットアウトできます。包装袋から取り出したレタスは洗わずに食べられます。冷蔵すれば2週間以上新鮮さを保持できるので、輸送コスト削減にもつながります」(宮部氏)。しかも、機能性野菜なら既存の野菜農家と直接競合しない。ここは、農家にAkisaiを展開する富士通にとっては重要なポイントだろう。

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