[ザ・プロジェクト]

AOKIのオムニチャネル戦略─HTML5+Ajax+インメモリーでサクサク動く業務システム増殖中

オムニチャネル&業務改革を目指す5カ年システム刷新プラン

2014年10月17日(金)緒方 啓吾(IT Leaders編集部)

AOKIは2014年6月に、オムニチャネル戦略を支える新しいシステム基盤を運用開始した。ポイントカードやメールマガジンなど、チャネルごとに分散していた顧客データベースを一元化。チャネルごとの顧客の動きを分析できるようにした。プロジェクトは情報システム部門が主導。インメモリーデータベースを活用し、スクラッチ開発でコストを抑えるなど、気になるポイントが目白押しの事例だ。AOKIホールディングスの日下康幸 情報システム本部・企画開発部長に話を聞いた。

日下氏AOKIホールディングス 情報システム本部・企画開発部長 日下康幸氏

―業務システムをリニューアルされたと聞きました。

 顧客データベースを作成し、社内に分散していた顧客情報を一元化しました。従来は、店舗、ダイレクトメール、メールマガジンなど、複数のチャネルで約1500万件の顧客情報を保持してきました。各データベースは独立しており、「お客様が何をご覧になって実店舗に来店しているか」といった分析はできていませんでした。今回の各チャネルのデータを統合し、可能な範囲で名寄せをしました。

 今後、顧客データベースをAOKIのオムニチャネル戦略の基盤として活用します。データを利用するためのシステムも順次整備しています。すでに、店舗での接客支援システムや、販売動向の分析システム、経営者向けのダッシュボードを構築しました。来年度には、ECサイトをリニューアルします。顧客データベースと連動して、ポイントや購入履歴を管理したり、商品をレコメンデーションしたりする予定です。

データベース統合のイメージ図:データベース統合のイメージ
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―そもそものきっかけは何だったのでしょうか?

 直接的なきっかけは、小売業向けのテクノロジーの展示会「リテールテック」でした。一昨年、ニューヨークで開催された時に参加する機会がありました。そこで、海外企業がオムニチャネルに本格的に取り組もうとしているのを感じたのです。もともと、オムニチャネルには関心がありましたし、社内でECサイトのリニューアルが持ち上がっていたので、それに合わせて顧客データも統合することにしました。

―すると、情報システム部門が主導して、プロジェクトを実施したのですか?

 はい。基本的に情報システム部門が主導しています。顧客データベースの統合も含めて、今後、AOKIのシステムをこうしていくべきという5年分のロードマップを描いて、経営層に提案しました。要件定義などの際には、扱うデータの過不足をチェックしたり、UIの使い勝手を見てもらったりするために、営業や販促、経理、経営企画部門に入ってもらいながら進めました。

―マーケティング分野の取り組みを情報システム部門が発案、主導するのは簡単ではなさそうですが。

 実は私はもともと、コンサルティングファームでBPR(Business Process Reengineering)を担当していました。そこで、同様のシステムも3回ほど手掛けていました。コンサルタントの職を辞した後はWeb関連の会社を立ち上げ、コンシューマ向けサービスを提供しました。企業の業務システムも、モバイルを使ったコンシューマ向けサービスも経験していたので、システムの企画には自信がありました。

―なるほど、そういう経歴をお持ちだったのですが。AOKIにはいつから?

 2年前にコンサルティング案件でお仕事をしたのがきっかけで今のポジションにつきました。

短期集中のスクラッチ開発で、構築費用を9500万円に

―さて、要件定義からリリースまでのスケジュールを教えて下さい。

 プロジェクトがスタートしたのは、昨年10月。2014年6月にシステムをカットオーバーしました。

―8カ月ですか。ずいぶんと短期間ですね。

 コストを削減するためです。この手のシステムは、普通に作るとすごくコストが掛かります。新しい取り組みだけにコストには気を遣いました。コスト削減の手っ取り早い手段は、開発期間を短縮すること。必要最小限のものをキッチリ作ることに集中しました。枝葉末節の議論に囚われなければ、工数はずいぶん減らせます。

 要件定義も情報システム部門がイニシアティブをとりました。実際に動くモックを作ってから業務部門と意識合わせをしました。最初から答えが見えている人などいません。システムを開発した経験がなければなおのことです。目に見えるモノが目の前にないと、議論が紛糾するばかりで時間を浪費してしまいますからね。

 システムをスクラッチで開発したのもポイントだと思います。汎用的なパッケージソフトを使うと、どうしても過剰な部分が出てきます。自社に合わせて、パッケージを膨らませたり減らしたりするのは大変です。その会社にあったものをサッと作った方が早い。コストも抑えられます。システム開発は、AOKIグループの非連結子会社アストロラボ株式会社が担当していたので、ほぼ内製に近いと思います。

―業務とテクノロジーを把握しているからこそですね。ちなみに構築費用は上手く抑えられたのですか?

 ざっくりとした数字で言えば、分析システムと顧客システム、アプリの開発費合計が9500万円。データ移行費用が2000万円強。サーバーはメモリー追加しただけなので450万円ほどでした。相場よりはコストを抑えられたと思います。

インメモリーDBを活用、5分前の売り上げを見えるように

―システム面で工夫された点は?

 3つあります。1つはシステム構成。顧客データベースにインメモリーデータベースを使いました。それにより、処理時間の短縮とシステム構成の簡素化を図りました。

 まず、処理スピードを見て下さい。ここでは、分析用システムで3月分の売上を分析してみましょう。客層、品種、購入金額といった指標を指定し、ボタンを押すと…、5秒ほどで結果が出ます。何でもないように見えるかもしれません。とんでもない。今のクエリーは1500万人分の会員データと、6000万枚(5年間分)のレシートデータをクロス集計しています。従来のシステムでは、8時間ほどかかっていました。

―明細レベルでデータを持っているということですか?

 はい。キューブやデータマートは一切持っていません。顧客データベースには、過去の購買履歴を明細レベルで保持しています。レシートをそのまま持っているとイメージしていただいて結構です。クエリーを投げるたびに、それらを全て舐めるのです。レシートデータは、全600店舗のPOSサーバーから5分おきに吸い上げます。これによって、店舗の状況をほぼリアルタイムに把握できるようになりました。

新・顧客管理DBの全体イメージ図:新・顧客管理DBの全体イメージ
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 効果が分かりやすいのが、経営ダッシュボードです。売上高や粗利、利益率といった経営指標をビジュアルに表示するシステムで、やはり顧客管理データベースを直接参照しています。ユーザーが操作するたびにクエリーを投げるので、常に最新データを閲覧できるのです。例えば、今朝からの売り上げ状況を把握したり、販売員を特定し、過去1時間に何をどれくらい売っているのかを調べたりできます。

 顧客データベースは必要なデータを全て明細レベルで保持しています。新しいUIを開発したり、分析を試したりしたくなった時もクエリーさえ書けば良い。だから、システム構成をシンプルに保つことができますし、システムの拡張も簡単です。例えば、ダッシュボードは10月にリリースする予定ですが、その後も要望に応じて新しいページを2カ月おきに増やしていく予定です。

―ちなみに、どれだけメモリーを積んでいるんですか?

 256GBです。意外と少ないでしょう。数理技研さんの「Core Saver」というデータベースを使っているんですが、これが上手くデータを整理して、コンパクトしてくれるのです。サーバーも、3年前に開発プロジェクトで使ったものを流用しているんですが、それでも処理速度は十分です。ECサイトの行動データなどを取り込む場合は別途考慮が必要ですが、対応方法は費用対効果を見極めながら検討します。

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