[真のグローバルリーダーになるために]

従来の人材像定義ではグローバルリーダーにはなれない:第2回

2015年1月23日(金)海野 惠一(スウィングバイ 代表取締役社長)

日本ITCソリューションの課長である佐々木は、三森事業部長から香港出張の命令を受けた。だが、今回の入札案件については、互いに口に出さなかったものの、三森、佐々木の2人ともが勝ち目がないと思っていた。一方で佐々木は「なんとかならないだろうか」という気持ちもあった。中国企業が日本企業と違って、こうした入札に強い背景には、その人事体制が全く異なることがあった。

 中国企業の人事システムは日本企業のそれとは全く異なる。例えば、50%の売上増という目標に対し中国企業は、たとえ未達であっても、日本企業のような減点主義は採用せず、本人の能力を評価する。そのため担当役員は強気だ。経営スタンスが日本企業とは全く違うため、海外に進出し日本企業が対抗しても歯が立たないケースが多々ある。

 どの日本企業も、海外での営業は極めて厳しい状況だ。「中国企業から採算割れの攻勢があり負けました」という話は、佐々木の耳にも良く入ってくる。勝ち目がないとは分かっていても、今回ばかりは何とかして勝てないものかと思案しつつ、佐々木は香港に向かうことにした。

図1:アジアを含め世界への玄関口の機能が高まる羽田国際空港(撮影:Swingby)図1:アジアを含め世界への玄関口の機能が高まる羽田国際空港(撮影:Swingby)

 2014年5月11日、8時55分発のNH859便に乗るため、佐々木は羽田に6時45分に着いた(図1)。いつも朝5時に起きているので、朝が早い分には問題がない。今朝も1時間、日課である英BBCの時事問題番組「Panorama」を聞いてから、自宅を出た。彼の自宅は港区田町なので、羽田まではタクシーで30分で着く。

 チェックイン後は、ANAのラウンジで仕事をすることにしている。羽田のラウンジは狭いが、成田より近いので、いつも羽田を利用するようにしている。昨晩は遅くまで今回の打ち合せ資料に目を通してみた。だが、通し切れなかったので、このラウンジで残りの資料に目を通すことにした。もともと勝てそうにない戦いをどう勝つのか。しかしながら、どう考えても勝てそうにはなかった。

 飛行機は定刻に出発し、12時55分に香港国際空港に到着した。最近はエアポートエクスプレスがあるので25分で香港市内に着いてしまう。そこからタクシーを拾えばいい。

図2:アジア攻略の拠点の位置付けが強い香港(撮影:Swingby)図2:アジア攻略の拠点の位置付けが強い香港(撮影:Swingby)

 ホテルは九龍半島南端の尖沙咀(チムサーチョイ)近くのカオルーンホテルを予約している(図2)。この日は日曜日だったので、ホテルにチェックインした後は、近く雑踏をブラブラすることにした。ともかく考えなければならない。明日の会議の前に自分なりの方向は出しておきたい。

 香港支社のNippon ITC Solution (Hong Kong) Limitedは明日訪問することにしていたので、今日の午後は自由時間である。だが、彼の心は明日の作戦をどうするかで一杯で、どこをどう散策したのかすら覚えていなかった。

 なんらの対策も見出せずに、あたりはまだ明るかったが、午後6時過ぎにホテルに戻ってきた。お腹は空いていなかったので、屋台でチャーハンと餃子を買い、ついでに小瓶のウィスキーも購入した。合わせて、90ドル(約1400円)だった。

 佐々木は「香港の物価も、だんだん高くなってきた」と思った。3年前の倍になっている。日本が円安のせいもある。そう思いながら、部屋に入った。やはりまだお腹は空いていない。

 明日は8時から、支社の担当者と入札について打ち合わせる。今までに海外事業には色々と携わってきたが、本格的な営業活動は今回が初めてになる。佐々木はホテルの窮屈な部屋の小さなソファに腰掛けて一息つくと、木元塾頭の言葉を思い出した。

 「佐々木君、グローバルリーダーになるには英語ができても、専門的な知識があっても、仕事ができてもダメです」

 木元は、グローバルリーダーの育成に携わる私塾「山下塾」の塾頭だ。アメリカのコンサルティング会社に30年以上、勤務した経験を持ち、海外のトップマネージメント相手にビジネスを展開できる数少ない日本人である。木元は、「アジアにはグローバルリーダーの育成機関がない」との想いから山下塾を開き、「修行には最低3年かかる」と公言していた。

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