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[ビッグデータが変える課金システムの姿]

課金システムの現状と課題:第1回

ビッグデータが変える課金システムの姿

2015年6月26日(金)Andrew Tan(独Enterest CEO)

世の中は、サービス化の流れを加速しています。「もの」単体による差異化が難しくなり、サービスを含めた付加価値競争が激しくなっているためです。そこでは、課金の仕組みが重要になってきます。当初からサービスを提供していたテレコム業界や、電気・ガス・水道といったユーティリティ業界では、課金システムの構築・運用では先行しています。これからの課金システムを考えるに当たり、テレコム業界の課金システムがどのように発展し、どんな課題を抱えているのかを考えてみます。

 本題に入る前に、私がテレコム業界に関与してからの20年強の時間を振り返ってみます。それは、あっという間の出来事でした。インターネットがなく、従ってメールもなく、独占的な事業者しか存在しませんでした。携帯電話も、それを持つ余裕がある人たちに向けた、質の悪いサービスでした。

 それが今では、通信サービスプロバイダー(Communication Service Provider)が、固定電話から携帯電話、インターネット通信、映像配信まで、統合的なサービスを提供しています。インターネットやモバイルのサービスエリアも拡大し、人里離れたところでも通信が可能です。昔とは逆に、ネットがつながらないことが“贅沢”にもなっています。

 猛スピードで進む市場の革新によって、我々は私生活とビジネスの双方において、様々な方法でリアルタイムなつながりを持つようになっています。今や誰とでもつながることができます。

 そして次なる段階は、すべてのモノとの接続、すなわちIoT(Internet of Things:)モノのインターネット)時代の到来です。既に、私が使っている体重計はWi-Fiを通じてWebにつながり、ダイエットが進まない体重計の数字を私が見つめている間にも、あらゆるデータを収集しリアルタイムで最新状況を更新しています。

 たった20年の間に、限られた手段しかなかった通信の“石器時代”から、どこからでも瞬時に情報を伝えられる無数の手段が選択可能な時代になったのです。一方で、多くの利用者にとっては、理解できないサービスやオプションの“ジャングル”になりました。正直、完全に理解できている人はほとんどいないでしょう。

 将来的に人々は、通信サービスを選択するのに、携帯電話事業者と対話することをあきらめるのではないでしょうか。代わって「デジタルライフスタイル・プロバイダー」と呼べるような、新たなサービス提供者と相談し、適切なサービスを選ぶようになるでしょう。

サービスの増強と共に課金システムも変化

 ただ、デジタルライフスタイル・プロバイダーは、今回の主題ではありません。以下では、テレコム業界における課金システムの現状と課題を取り上げます。

 テレコム業界では、ROI (投資対効果)を高めつつ、競争相手より一歩先を行く、あるいは取り残されないようにする方法を見出そうとして、多数のサービスが開発されてきました。そうしたビジネスストリームに合わせ、現在の課金システム環境は一般に、以下のようなシステムで構成されています(図1)。

図1:通信事業者が運用している課金システムの全容図1:通信事業者が運用している課金システムの全容
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 このほかに、次のようなシステムとも連携しています。

・ポストペイドシステム:顧客の利用実績にもとづき後日課金するシステム
・ネットワーク型のプリペイドプラットフォーム:ネットワーク内で特定の加入者の利用状況をリアルタイムでコントロールする典型的な複合型ソフトウェア/ハードウェアソリューション
・契約者のオーダ管理システム:契約者のサービス追加・変更に基づき、必要なシステムを作動させたり停止させたりするシステム
・代理店コミッションシステム:代理店契約や販売手数料の算出、支払いを管理するシステム
・代理店POSシステム:代理店が新規顧客の契約データを直接入力したり、契約情報(請求情報、住所など)を参照したりするシステム
・コンテンツパートナー決済システム:コンテンツプロバイダー(広告、新サービスなど)とのサービス決済システム
・相互課金システム:外部事業者との提携による、複数事業者をまたぐ国際通信といったサービスの管理・決済をするシステム
・ローミング決済システム:ネットワーク外の顧客に対するローミングサービスの管理・決済をするシステム
・企業リソース計画と在庫管理システム:製品計画、原価管理、販売計画のためのERP(Enterprise Resource Planning)システム
・収益・品質保証システム(ポストペイド):ポストペイド課金における収益改善、品質改善のためのシステム
・収益・品質保証システム(プリペイド):プリペイド課金における収益改善、品質改善のためのシステム
・データウェアハウス:複数のシステムからのデータを統合して蓄積し、報告やデータ分析に活用するシステム

場当たり的な対応が課金システムをますます複雑に

 こうした仕組みを実現するために、多くの事業者が本当に苦労してきました。にも関わらず、彼らのITシステムや課金システムは、先進的な未来志向のシステムになっているとは言えません。実際、多くの通信サービスプロバイダーが、10数年以上も前に設計されたレガシーシステムをベースにしたITシステムや課金システムを稼働させています。

 その背景には、市場を注視しながら進めるビジネスにおいて、課金システムは重要であるにもかかわらず、バックエンドのシステムであるが故に、ほとんど注目されてこなかったことがあります。結果、古い課金システムの中心部分が残ったまま、その場限りの対応が取られたアーキテクチャーになっているのです。この影響は、システム統合が困難なサイロ問題として今も残っています。

 新しいサービスに“間に合わせ”で対応すれば、アーキテクチャーはますます複雑になり、新製品やサービス、価格戦略への対応をさらに困難にします。課金システムを軽視したことによる副作用として、課金システムを最新鋭のシステムに刷新するプロジェクトでは、2年以上の期間と1億ドル以上を費やすようなケースが急増し、失敗の可能性も高くなってしまいました。

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