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[ビッグデータが変える課金システムの姿]

CIOは“トレンドの波”が崩れるトンネル内で奮闘している:第2回

サービス化で重要性増す課金

2015年7月24日(金)Andrew Tan(独Enterest CEO)

前回、これからの課金システムを考えために、導入が先行しているテレコム業界の課金システムの発展経緯と課題を紹介しました。将来に向けて、あらゆる課題に効き目がある解決策を打ち出すことは、なかなかできません。あなたが企業のCIO(最高情報責任者)やCTO(最高技術責任者)、あるいはこれからのシステムのあり方を考えなければならない立場だったら、頭を抱えてしまうことでしょう。そこで今回は、よりリラックスできる方法を提案します。

 通信業界の標準化団体であるTMF(TeleManagement Forum)」は毎年、フランスのニースで年次会議を開催しています。そこでは「ネットワーク事業者が“土管会社(ダムパイプ、単なるネットワークの提供者)”になることを回避するには、どうすればよいか」が問い続けられています。

 それへの回答は「ダムパイプ化は避けられない」しかありません。ネットワークは既にユビキタスな(いつでも、どこにでもある)商品になっています。相違点は、品質と価格だけなのです。

 しかし、ネットワーク事業者はこれまで、利益率の高いビジネスが崩壊してゆくのを、何もせずにただ傍観していただけでした。従来のテレコムビジネスの周囲にある新たな収益源を確保しようとする試みは、もっと早くから取り組むべきでした。

大規模携帯電話ネットワーク事業者の“失敗”

 確かに、集中型のサービス価格表や、オーダ管理など、特定のシステムにおいては、素晴らしい解決策を打つ事業者はいます。それでも、将来を見越した統合課金システムを構築することは、誰もできていないのです。

 これらの経験から私たちは、優れた課金システムは、適切な位置に配置された適切なシステム構成であるべきだということを悟りました。しかし、事業者たちが5年前には気づかなかったのと同様に、我々は現時点の要求しか考えられません。5年後に、どんな要求が待ち受けているのかは分からないからです。

 今では彼らは、5年ごとに課金システムの全部または一部分を取り換えるといった抜本的な取り組みを実施するようになりました。それでも、システムの更改に失敗し、その過程で何年もの時間と数百万ドルを失うケースも少なくありません。課金システムの刷新で成功できるのは、まだ目の前にない市場が求める新しい機能の要求を見い出だせる人たちだけです。

 私が、これまでの10年にわたって関与してきた最大の事業者の1社も、課金システム環境においては、競合他社と同様の挑戦をしてきました。同社は、数千万の加入者に対し、プリペイド/ポストペイドサービスや、多数の追加オプションを運用しています。

 提携関係も、長距離回線事業者や専用回線事業者との相互接続や、コンテンツパートナーなど様々です。多数のサードパーティーの販売チャンネルを持ち、米Appleや韓国のSamsung、LGなど多数のハードウェアベンダーと戦略的関係を構築しています。

 彼らは、課金システムが抱えるすべての課題を克服するために、巨大なプロジェクトを立ち上げました。古いシステムをすべて取り除き、完全にフレキシブルで統合された新しいオールインワンシステムを作り出すというものです。

 しかし残念ながら、同プロジェクトは、2年と2億ドルを費やして崩壊し、彼らが待ち望んでいたトンネルの先にある光は見られませんでした。解消しようとした多数の課題は、とても複雑に絡み合っていて、それを解きほぐせなかったのです。

 彼らは今、現行システムに立ち戻り、ジグソーパズルを解くように、1つずつ課金システム環境の改善を試みています。プロジェクトは失敗に終わりましたが、果たしてすべてが無駄だったのでしょうか?いいえ、ここで学べたことは多々あります。

サーフィンのように波が崩れる手前で乗りこなす

 物事には色々な実現方法があります。 問題は、どれが一番良い方法かということでしょう。ただ、サーフィンを例に取れば、次々に押し寄せる波に対応するために、波が崩れ続けるトンネルの中ではなく、波が崩れる手前で乗りこなすことが良い方法なのは明らかです。これを、課金システムに取り組むCIOの日々の活動に置き換えれば、どうなるでしょうか?

 答えは、実に簡単です。常に最新情報を入手し続けることです。CIOは日課として、どこが市場を先導し、どんな課金関連のニーズがあるかを見続けなければなりません。「そんなことは当然やっている」という声があがりそうですが、これまでに筆者が話をした多数のCIOは、“波の直前で十分な情報を得て”先を見通すのではなく、日々の業務すなわちトンネルの内で奮闘していました。みなさんは、どうでしょう。

 市場が、翌月や次の四半期の計画を教えてくれるのを待っていては遅いのです。テクノロジーの進化は、ドッグイヤーと呼ばれるように速いと考えられていますが、ITシステムは、市場の動きほど速くには動けません。なかでも課金システムは“空母”のような存在です。ニーズが攻撃範囲内にある時は実にパワフルですが、常に周到な事前計画を必要としています。

 ではCIOあるいは、それに準ずる人たちは、どのように最新情報を得ることができるのでしょうか?重要なことは、すべてを把握する必要はないということです。継続的に情報を収集し分析すれば良いのです。そのために利用可能な資源は豊富にあります。市場の動向や業界アナリストのレポート、従業員や顧客の声、さらには自分の子供たちが今、どんなことをしているのかを調べるのです。

 そうした情報収集を怠っていなければ、通信事業者にとって大きな経営課題になっている、インターネット上で数々のサービスを提供し収益を上げている、いわゆるOTT(Over the Top)プレーヤーの台頭は予測できたはずです。

リアルタイム対応による価値の創造が重要に

 ダムパイプ化の流れに打ち勝つためネットワーク事業者は、他社の買収や提携によってエコシステムを作り出し、高い成長率と利益率につながるサービスを提案しようとしています。一方で、米Googleや米Facebookのように、ドローン(無人連続飛行体)を使ったネットワークアクセスにより通信事業に進出してくる会社もあります。

 ソフトバンクが、その良い例です。ポータルサイト(Alibaba、Yahoo)や、ゲーム(Supercell)、ECサイト(Snapdeal、Alibaba)、輸送会社(Ola)といった複数の市場に多額の投資をして、ビジネスを多様化しようと試みています。

 興味深いことに、これらのエンタテイメントや物流サービス、商品などは、いずれもソフトバンクの従来ビジネスであるネットワークを通じて顧客に提供されています。さらに、M2M(Machine to Machine)やモバイル広告、支払いサービス、クラウドコンピューティングなども補完的に使っています。

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