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「経営に資するIT部門」になるべく断行した情報システム部の構造改革─大和ハウス工業

2015年8月21日(金)河原 潤(IT Leaders編集部)

住宅総合メーカーから「人・街・暮らしの価値共創グループ」へと業容拡大に取り組む大和ハウスグループ。グループのIT戦略を統括する加藤恭滋氏がIT部門のミッションとして掲げたのは「企業の成長に合わせ、価値のあるITをスピーディーに提供すること」だ。ミッションの遂行にあたって加藤氏と情報システム部が挑んだ構造改革の実際を、ガートナー アウトソーシング&ITマネジメント サミットの特別講演から紹介する。

「信頼される情報システム部」を目指して

 大和ハウス工業は、プレハブ工法を編み出し工業化住宅/工業化建築を世に普及させたご存知の業界最大手だ。近年は強みの住宅に加えて、商業・事業施設、物流、環境・エネルギーなど時代の変化を捕捉して事業を多角化させている。グループ140社・3万5000人の従業員を擁して2015年3月期に2兆8000億円を売り上げた同社は、みずからを「人・街・暮らしの価値共創グループ」と位置づける。

写真1:「事業部門にもっと信頼される情報システム部でありたい。そのために、企業成長により貢献できるような組織体制の確立が急務だった」と話す大和ハウス工業株式会社 執行役員 情報システム部長 加藤恭滋氏

 大和ハウスによって2015年は創業60周年という節目の年であり、グループの経営は2013年4月にスタートした第4次中期経営計画(2016年3月末まで)の最終年度にあたる。同経営計画では、コア事業、多角化事業、新規事業のそれぞれにおいて成長戦略が描かれ、併せて経営課題として「ものづくり機能の再整備」「事業拡大に伴う体制・人財の強化」が掲げられている。

 大和ハウスの中期経営計画はいずれの期においても早期達成が常で、いわば前倒しで事業が展開されるという。広範な領域でスピーディーに展開される多数の事業を、ITを駆使して支えるのが、ほかならぬ情報システム部だ。

 執行役員 情報システム部長としてグループ全体のIT戦略を指揮する加藤恭滋氏(写真1)は、業容拡大を支える側にとっての課題を次のように話す。「3年間で計画したプロジェクトが、期限を待たずして完了し次が始まる。情報システム部にとっては非常にきついが、前倒しの事業展開に合わせて、IT部門もスピードアップしなくてはならないと考えた」。

 中期経営計画の下、大和ハウスが営む事業群は、今後もスピードを増しつつさらに領域を広げていく。「そうした中で、何より事業部門にもっともっと信頼される情報システム部でありたい。そのためには、各事業系列をきちんとフォローアップしてグループの成長により貢献できるような組織体制の確立が急務だった」と加藤氏。この目標に向けて、以下に紹介する、組織やプロセスの抜本的な構造改革が取り組まれた。

構造改革のグランドマップ

 先に構造改革の全体像を概観しよう。加藤氏の言う「信頼される情報システム部」をビジョンに、「グループの業績向上に貢献する(ソリューション)」「グループのガバナンス向上を支援する(マネジメントインフラ)」を構造改革のミッションとして設定。加えて、これらのミッションの遂行に不可欠な課題として、「IT部門としての組織力強化」が掲げられた。

 グループ業績向上貢献ミッションでは、売上拡大や業務効率/品質向上をはたすための施策として、情報共有環境の整備、コミュニケーションツールの活用、新規事業/事業のグローバル展開支援、ワークスタイル変革、BPO導入などが計画された。また、グループのガバナンス向上ミッションでは、経営資源の最適配置やリスク極小化の観点から、情報やフローの可視化、情報基盤とそこでの分析によるヒト・モノ・カネの有効配分・活用、業務プロセス内での統制機能の整備、グループ全体でのITガバナンスなどがテーマとなった。そして、IT部門としての組織力強化では、組織力と個人力の2軸において強化向上が取り組まれることになった。

大規模ERPプロジェクトを成功に導いたTOC/CCPM

 情報システム部が構造改革に挑む発端として、加藤氏の統括で2009年から2012年にかけて取り組んだSAP ERP導入プロジェクトでの経験が大きかったという。「当時、ユーザーからの要望にこたえようとするうちに要件が膨らみ、プロジェクトを一時凍結せざるをえないほどの事態に直面した」(同氏)が、問題を再整理し立て直しに成功。ERP実装後のテストプロセスの期間短縮をはじめ、最終的には、プロジェクト全工程を計画から25%短縮して本稼働にこぎ着けている。

 この大規模プロジェクトにおいてカギを握ったのが、TOC(Theory of Constraints:制約理論、注1)に基づくプロジェクトマネジメント手法「CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)」の採用だ。CCPMは、プロジェクトの各工程で、作業を工夫して余裕・余力を持たせる「プロジェクトバッファ期間」を設けて集約管理することで、プロジェクト全体の進捗を最適化するというメソッドである。

 「プロジェクトの規模、難度、また情報システム部のリソースから見ても、TOC/CCPMなくして成功は到底おぼつかなかった」と加藤氏は語る。CCPMと基底にあるTOCの考え方が、情報システム部にとっていわば原典的な役割をはたすことで、遅延が珍しくない大規模ERPプロジェクトで工期短縮を図ることができたわけだ。

注1:TOC(制約理論または制約上の理論)は、イスラエルの物理学者で『ザ・ゴール』などのビジネス小説の著者としても知られるエリヤフ・ゴールドラット博士が提唱した経営理論/哲学。大まかに言うと、業績達成のプロセスにおける種々の制約を特定し、それらを活用して生産性や効率を高めるといったアプローチをとる。

●Next:情報システム部の構造改革で立てた方針と実践したこと

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