[市場動向]

「IoTに取り組むなら社会活動を変える勇気が必要」TRONの父、東大・坂村教授

2015年12月14日(月)志度 昌宏(DIGITAL X編集長)

IoT(Internet of Things:モノのインターネット)を事業に生かそうと、全世界で多くのプロジェクトが動き出している。そうした中、日本発のプラットフォームとして注目を集めるのがTRON。発案者である東京大学の坂村 健 教授は今も、住宅やスマートシティを含め、今日のIoTアプリケーションの実現を推進している。東京大学医療社会システム工学寄付講座とベリサーブが2015年12月2日に開いた共同シンポジウムの基調講演に登壇した坂村氏の「IoTの可能性と課題」と題した講演から紹介する。

 次に必要なのがAPIの公開だ。これはIoTに限らず、クラウドコンピューティングの世界では「APIエコノミー」と呼ばれるほどに、その重要性が高まっている。そのためTRONにおいても、「公開すべきはAPIだとの声が強まっている。種々の機能をAPI連携で動作させられるように、TRONにおいても、オープンAPIを推進する」(坂村教授)方針だ。組み込み製品は、メーカーが用意するゲートウェイにアクセスし、そのゲートウェイがAPIを提供する形態を基本にする(図2)。

図2:TRONにおけるオープンAPIの基本モデル図2:TRONにおけるオープンAPIの基本モデル
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 そのうえでTRONプロジェクトの次のゴールは、「アグリゲートコンピューティングだ」と坂村教授は強調した。アグリゲートには「総体」の訳を当て、「総体コンピューティング」とも呼んでいる。「そこでの主戦場は、総体を管理するためのメタOS、すなわちフレームワークだ。アクセスコントロールとセキュリティが争点だからだ」と指摘する。

技術だけでは社会への出口戦略はない

 TRONやIoTのためのテクノロジー要件の説明に続けて坂村教授は、これらテクノロジーへの取り組みだけでは不十分だと強調した。「『イノベーション』の定義がないと良く言われるが、経済学者のヨセフ・シュンペーター氏が『経済発展の理論』において『利益を生むための差を新たに生む行為』だと定義している。つまり、工場の移転や商売相手を変えることもイノベーションであり、テクノロジーは必須要件ではない」(同)とする。

写真2:シンガポールにおけるERPのゲートの例写真2:シンガポールにおけるERPのゲートの例
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 その一例に挙げるのが、シンガポールのERP(Electronic Road Pricing:電子道路課金)システム(写真2)。都心部の交通渋滞を回避するため、一定エリア内を走行する際に料金を自動徴収するための仕組みである。日本が高速道路などに設置しているETC(Electronic Toll Collection System)と、基本的な仕組みは共通で、ゲートに設置したアンテナと車両の車載器が通信し、どの車がいつ通過したかを把握する。

 だが坂村教授は、「シンガポールのERPには、遮断機が付いたゲートも、料金を徴収する人もいない。車載器の設置を当初から義務化したからで、結果として車載器を含め、システムが安価に構築されている。これに対し日本のETCは車載器の料金負担でもめ、ゲートだけで数千万もする」と説明。そのうえで「パブリックとプライベートの議論がないことが最大の問題だ」と指摘した。

 別の例に挙げたのが、日本の法律制度。「(西ヨーロッパが起源の)大陸法に従っており、ポジティブリスト、すなわち、やって良いことを明示するもので、そのリストにない、新たなことへの取り組みが難しい」(坂村教授)。これに対し英国発の英米法は「ネガティブリスト、すなわち、やってはいけないことを明示するため、新しいコトへの挑戦が容易だ」(同)。両者の差が、イノベーションの速度を大きく左右するというわけである。

 そのうえで坂村教授は、「インフラは、テクノロジーと制度によって成り立っている。システムは制度そのものであり、世界の競争点は(テクノロジー開発ではなく)制度開発に移っている」ことを強調。ただ、法制度そのもののを見直しや規制緩和には時間もかかれば限界もある。「少なくとも、新たなことへのチャレンジが容易で、失敗しても、その失敗を分析し直ぐにリカバリーする、といったサイクルで若手が活躍できるような環境を整備するべきだ」(同)とする。

「技術だけでは社会への出口戦略はない。今こそ、社会活動を変える勇気が求められている。そのためには、クローズな連携からオープンな連携に切り替える必要がある。米GEの『Industrial Internet』も独政府の『Industry4.0』も、企業固有の取り組みをオープンにすることで普及を加速している。オープンなIoTに向けては哲学が必要なのだ」と、坂村教授は強く訴えた。

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