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[ビッグデータが変える課金システムの姿]

立ち上がるクラウド課金サービスは使えるのか:第6回

2016年1月15日(金)Andrew Tan(独Enterest CEO)

これまで、伝統的な課金システムの様々な面について説明してきました。技術の進歩やビッグデータ、ソーシャルメディアの台頭が課金システムに対し、どんな新たな要求やアーキテクチャを求めているかにも触れました。最終回は、ここ数年の新しい動きであるクラウド課金サービスについて見てみましょう。

 課金の仕組みをクラウドサービスとして提供するプロバイダーは大きく2分されます。1つは、カナダのCGIやRedknee、米MetraTechといった既存の課金システムベンダーで、クラウド化により顧客拡大を狙っています。他方は、米Ariaや米Zuoraといった小規模の新興ベンダーで、新しいアプローチによって市場に踏み込もうとしています。

 いくつかのプロバイダーは、数千から数十万の加入者に限定的なサービスを提供しています。中には、何百万もの加入者をサポートする巨大企業にサービスを提供するプロバイダーもいます。

 通信事業者にとって、課金システムが市場ニーズに迅速に対応できるかどうかは重要なポイントです。特に、新規サービスの立ち上げ時に、インフラや製品の導入作業が不要で迅速にサービスを提供できるクラウド課金サービスは、その点で大きな魅力があります。

 しかしながら、通信事業者のクラウドサービスの採用率は極めてゆっくりとした伸びしか示していません。なぜでしょうか。その理由を考えるために、クラウド課金サービスのメリットとデメリットを見ていきましょう。

クラウド課金サービスのメリット

 クラウド課金サービスのメリットは主に、ビジネス初期設定の迅速性、コスト、プロバイダーの乗り換えの3つです。

メリット1:ビジネス初期設定の迅速性

 クラウド課金サービスの特徴は、即座に利用可能なことです。エンドツーエンドのシステムを極めて短期間に稼働させられます。

メリット2:コスト

 クラウド課金サービスの料金体系は、事業者が使う機能や、契約加入者数、データ量によって決められます。中小規模の事業者や、標準的な要件しか必要としない事業者にすれば、クラウド課金サービスを利用することは、個別にシステムをカスタマイズするよりも、ずっと低コストな方法です。

 特に、新たに事業を立ち上げる企業にとっては、ハードウェアコストやシステムの設定コストは、かなり大きな先行投資になります。ここにクラウド課金サービスを利用することで、初期段階のリスクを低減できます。

メリット3:プロバイダーの乗り換え

 クラウド課金サービスは、新規の利用開始や利用の中止が容易です。言い換えると、クラウドベースであれば、より良いサービスを見つけたときには直ぐにプロバイダーを乗り換えられるということです。

クラウド課金サービスのデメリット

 クラウド課金サービスのデメリットは主に、セキュリティ、リアルタイム性、コスト、柔軟性の4つが挙げられます。

デメリット1:セキュリティ

 セキュリティは、事業者にとって重要な課題であるばかりでなく、規制や法律の観点から遵守が求められる事項があります。例えば、いくつかの国の法律では、データは海外に持ち出さず国内に保持することが求められています。ところが、プロバイダーの多くは、データセンターをオフショアに移しているため、そうした国ではクラウド課金サービスが利用できません。

 また、多くの顧客に対する課金サービスを同じプラットフォーム上で稼働させるため、それぞれのデータが完全に隔離され、漏えいしないという保証はありません。

デメリット2:リアルタイム性

 データの処理ボリュームが増大し、サービスがリアルタイム性を要求していくにつれ、高い品質が求められるようになります。クラウド課金サービスを利用する場合、そのサービス自体がミッションクリティカルな要素になり、高いSLA(Serivice Level Agreement:サービス品質契約)の保証が必要になります。ただ、クラウド課金プロバイダーの多くが、こういったSLAの契約条項を用意できていません。

 リアルタイムサービスを提供しないプロバイダーもいます。その場合、リアルタイムサービスだけは、クラウドではなく、オンプレミスなど従来の方式でサービスを実現する必要があります。

デメリット3:コスト

 クラウド課金プロバイダーの料金設定は、初めは極めて魅力的に見えます。しかし、データ量や、SLA条項、国内サーバーの設置など、必要なオプションを加えていくと、オンプレミスの場合に比べて、多くの費用が掛かる可能性があります。

デメリット4:柔軟性

 ビジネスを展開していくと、新しいニーズに対して、あらかじめ用意された機能ではカバーできないという問題が発生するものです。このような時、クラウド課金サービスの柔軟性のなさがネックになります。

 元々、クラウドサービス・プロバイダーは、彼らの顧客の最大公約数的な機能のみを用意していることがほとんどです。機能を改良するかどうかの基準は、プロバイダーにとっての投資対効果であり、通信事業者にとっての改善効果ではありません。例えば、ある通信事業者が、より大きな規模を必要とする状況になった場合、クラウドプロバイダーは、他の顧客への影響を考え、その通信事業者ためだけにプラットフォームを交換することを嫌がります。

 このとき、クラウドプロバイダーは、その通信事業者の課金システムを切り出し独立した環境で動かすことを提案してくるかもしれません。しかし、これは間違いなく、標準のクラウドサービスより高くつき、またアップグレードパスからも取り残されることになってしまいます。

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