[調査・レポート]

産官学でITを活用した地方創生に臨む─アクセンチュア福島イノベーションセンター[前編]

2016年3月16日(水)中村 彰二朗(一般社団法人オープンガバメント・コンソーシアム 代表理事)

「地方創生」というと「ふるさと納税」や「観光振興」などを思い浮かべる方も多いかと思うが、政府は2015年6月30日に「地方創生IT利活用促進プラン」を打ち出し、地域の課題解決や経済復興へのIT活用を促している。「地方創生の成功にはITが不可欠」ということだ。ここに紹介する福島県会津若松市の取り組みは、産官学でITによる地方創生に臨む1つの好事例と言える。(本誌)

 「地方創生」にITを活用した例としては、ITベンチャーのサテライトオフィスの誘致に成功した徳島県神山町や、道路などの公共インフラの不具合を市民がスマートフォンでレポートする千葉市の「ちばレポ」の成功事例が知られている。ここに紹介する福島県会津若松市は、最新のIT技術を駆使して、東日本大震災からの復旧・復興、そして「スマートシティ」を実現しようと取り組んでいる大規模な例となる。

 推進するのが、アクセンチュア、会津若松市、会津大学の産官学連合。この3者が会津若松市で、ビッグデータやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)などIT技術の最新の取り組みを実証実験として行い、絶好のショーケースとなっている。自治体や大学では、これらの最新技術をどのように活用しようとしているのか、民間企業でも興味のあるところだ。

 震災直後から現地で中心メンバーとして取り組んできたアクセンチュア 福島イノベーションセンターの中村彰二朗氏はかつて、IT Leadersにこの3者による取り組みの一端を語ってくれた人物だ(関連記事日本の復興モデルを福島から発信 ITで支える「豊かな社会」を世界に提示)。

 今回、ビッグデータやIoTを取り入れ、さらに興味深い動きを見せ始めている会津若松市における復興政策の最新の状況を語ってもらった。

アクセンチュア福島イノベーションセンターによる、復旧・復興と地方創生

アクセンチュア株式会社
福島イノベーションセンター センター長
中村 彰二朗

1.アクセンチュア、会津若松市、会津大学で復興に関する基本協定を締結

 2011年7月26日、アクセンチュアは会津若松市、会津大学との3者で復興に関する基本協定を結び、地域の産業振興、雇用創出に向けた取り組みに着手することを発表した。

 我々は世界中の70以上の都市でスマートシティプロジェクトに取り組んできた。その経験を活かし東日本大震災からの復興プロジェクトの全体像としてスマートシティを推進することを会津若松市に提案した。その重要な道具としてITを位置付け、会津大学と共に今後必要となる人材を、スマートシティ実現プロジェクトという実践の場を通じて育成すること、復興のシンボルとして、先進的かつ持続可能性都市を追求する、実証フィールドとして会津若松市を新たにブランディングしていく方針を決めた。

 私は、長い間、IT産業までもがなぜ東京に集中しているのかという疑問を持っていた。例えば、対面を必要としない、eコマース(電子商取引)のITサービス会社が東京で事業を始め、東京での事業を拡大して行く、その理由はどこにあるのか? ITは、物理的、時間的、距離的制約がないというのが特性であるのに。会津にはITを専門とする会津大学があるし、会津若松市長もITに造詣が深い。新たな雇用創出のためにIT産業の集積をこの会津で実現できると考え、それを全計画の中心に置いた。

 そして、会津若松市や会津大学および地元の有識者の方々と協議を行い、スマートシティ実現に向けた以下の8案を策定した。

➀ 首都圏一極集中から地方(機能)分散社会へ
・必ずしも東京で行う必要のない事業の地方移転
・データセンター等、社会のリスク分散に資する機能の地方移転
・東京と地方の待遇の均衡(フラット化)
② 少子高齢化対策モデル都市構築
・地方大学卒業生の地元雇用のための受け皿の構築
・高齢化により発生する新たな支援業務をIoTでサポートする。
③ 予防医療への転換(健康長寿都市)
・健康・食・生活(運動)を連携させたPHR(Personal Health Record)の実現
④ データに基づく政策決定体制の構築(ビッグデータ・アナリティクス)
・見える化による客観的課題整理、政策立案、実証検証。
・政策策定を経験に頼ることなく、若い世代の参加を促進する。
⑤ 地方での高付加価値産業政策の実施
・既存産業と新たな高付加価値産業のコラボレーション
・地元学生の積極的雇用
⑥ 観光・農業のIoTを活用した戦略的強化
・デジタルDMO(Destination Marketing/Management Organization)によるインバウンド戦略
・季節や気候変動によるマイナス要因を克服したデジタル農業の推進
⑦ 産学連携次世代人材育成
・産業界と人材育成事業を連携することで、企業が必要する次世代人材を創出
⑧ 再生可能エネルギーへのシフトと省エネルギーの推進
・エネルギーの地産地消モデルの確立

 首都圏一極集中モデルから、ITという強力なツールを使った、自立・分散・協調モデルを実現することによって会津という地方都市の持続可能性を図ることを方針とし、この成果を必要とする多くの地方都市に展開、成果をシェアする方針を決めた。

2.アクセンチュアが会津若松市に拠点を構えた経緯

 そもそも、なぜ会津若松市と縁もゆかりもないアクセンチュアが、同市に拠点を構えプロジェクトに係わるまで至ったのか。事の始まりは、2011年3月の東日本大震災にまでさかのぼる。

 2011年は、アクセンチュアが日本での事業開始50周年を翌年に控え、この節目に日本社会への恩返しとして、自らが投資し「社会に必要とされる新たなサービスを提供していく」という方針でそのサービス内容の検討が始まろうとしていた。そんな矢先の3月11日14時46分、震災が起きた。・・・そして、多くの企業や団体は、直ちに復興支援プロジェクトを立ち上げ、自分たちに何ができるか、現地の情報を集めながら話し合いを始めた。

 アクセンチュアの復興支援プロジェクトメンバーとして私も参加していたが、現地の情報把握には限界もあり、机上の空論を繰り返していたと言わざるを得ない。また、復興原案を練って被災地に入るにしても、各社が乱立するようなことがあれば、むしろ復旧作業に混乱を来してしまうのではないかという懸念すら抱いていた。しかし実際には、各社は可能な限りの義援金と復旧作業支援のための社内ボランティアを募り、被災地に送り出すことが精一杯の状況だった。

●Next:会津若松市スマートフォンプロジェクト始動前夜

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