[イベントレポート]

「大企業を俊敏に」「中小企業のビジネスを大企業並みに」─米NetSuiteが語るERPの意義

SuiteWorld2016が開催

2016年5月26日(木)田口 潤(IT Leaders編集部)

財務・管理会計や販売・在庫管理、生産や物流計画…。こういった業務システムを近代化(モダナイズ)し、事業環境の変化対応力を高めることは、多くの企業にとって重要な課題だ。業務生産性の向上やITコストの低減は当然、情報セキュリティやコンプライアンス(法令遵守)にも直結するからである。クラウドERPベンダーの米NetSuiteは、2016年5月中旬に開催した自社イベントでこれらを指摘。それに向けた新機能を発表した。

 何年も前に構築した業務システムをどう刷新するか? あるいは、世界各国の現地法人や子会社向けのシステムはどうしていくか? 毎年のように変わる法制度や会計基準をフォローする必要があるだけに、特別な機能が必要な一部の生産系や受注系システムを除けば、今やスクラッチ開発(手組み)は合理的とは言えない。それゆえ様々なベンダーが提供するERP(本来の意味は異なるが、ここでは市販される業務パッケージやサービスを総称してこう呼ぶ)の何を選ぶかは、ベンチャーから大企業まで、規模の大小を問わず検討する価値のあるテーマだろう。

 当然、「一定のシェアを持つベンダーの製品なら何でもいい」というわけにもいかない。ERPといっても会計中心、サプライチェーン中心、人材管理(HCM)中心などの違いがあり、ニーズに合うとは限らない。ほかにもオンプレミスかクラウド・ベースか、パートナーや周辺ツールは豊富か、多言語/多通貨にどこまで対応しているか、ベンダーの将来性やソリューションのロードマップはどうかなど、検討すべきことは多い。

 1社のERPで大半の業務をカバーするのか、それとも適材適所で会計や生産、人事、あるいは子会社や海外事業所に別々のERPを採用するのか、といった項目もある。ERPへのIT投資の比重をできるだけ下げ、“攻めのIT”への投資を増やす必要もあるだけにTCO(総保有コスト)も当然、大事になる。

“意外”に見どころが多い「NetSuite」

 特にグローバル対応の点で一歩先を行くのが外資系ERPベンダーだ。中でも忘れてはならないベンダーの1社が、クラウド(SaaS)専業の米NetSuiteである。米ガートナーが発表するマジック・クアドラント(図1https://www.gartner.com/doc/reprints?id=1-2TW8BC5&ct=151211)に同社の名前はないが、その理由はクラウドのみでの提供という形態が評価基準に合致しなかったからである。

図1 ガートナーによる、中堅企業向けERPのマジック・クアドラント(出典:ガートナー)
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 ガートナーも評価に値するソリューションだと見ており、実際、NetSuiteの特徴は多い。列挙すると、以下のようなところである。

  1. 米Salesforce.comより前の1998年に創業。20年近い歴史を持つエンタープライズ向けSaaSの先駆けである
  2. 財務会計や在庫管理などの業務処理とeコマース、CRMといった「ビジネスを遂行するのに必要な」(同社)ソリューションを提供する
  3. 190の通貨、20の言語、100カ国以上の税務処理をサポートするなど、多国籍企業のグローバル展開に対応する
  4. ERPソリューションとしては相対的に新しく、アーキテクチャはシンプル。最初からカスタマイズを考慮した設計である
  5. 自社はERPの中核機能にフォーカスし、業種特有機能などはパートナーに任せるという明解な役割分担(エコシステム)がある
  6. 準大手以下の企業におけるメインERP(Tier1)としてだけでなく、SAPやOracleのERP製品を採用する大手企業が海外法人向けに導入する、いわゆる2層(Tier2)システムに対応する

 SaaSとして提供されるだけに初期導入費用が少なくて済み、サーバーの老朽化対策や運用管理が不要なのも特徴の一つだ。日本での認知度は低いが、SaaSとして提供されるERPにまだ馴染みがないうえ、導入に携わるIT企業やコンサルティング会社も少ないことを考えると、致し方ないだろう(正直なところ筆者も名前はもちろん、ある程度の特徴を押さえているつもりだったが、ここまでとは知らなかった)。

 NetSuiteの売上高は7億4110万ドル(2015年12月)。対前年比成長率も2010年以降は高く、2014年から15年のそれは33%である(写真1)。2016年には10億ドルの大台に近づく見通しだ。ちなみにSaaSでトップを行く米Salesforce.comのそれは66億7000万ドル(2016年1月、同24%)。さすがにNetSuiteの小ささは否めないが、一方でHRM(人材マネジメント)主体のSaaS ERPベンダーである米Workdayの7億8790万ドル(同68%)とは、いい勝負である。 

写真1 NetSuiteの売上高の推移
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 顧客数は同社によると全世界で3万社超。日本では「約300社」と100分の1にすぎないが、公表されているところではDeNAや全日空商事、アシックス、金型部品のパンチ工業、オリンパス(海外の法人向け、日本はSAP)などがある。

 さて、そのNetSuiteが5月に年次カンファレンス、「SuiteWorld2016」を開催。会場となった米国サンノゼのコンベンションセンターに約8000人(主催者発表)を集めて、最新版の新機能やユーザー事例を披露した(写真2)。競合がひしめく米国市場を中心に戦うだけに、これからのERPのあり方について同社の考え方や製品戦略から学べる点は少なくない。 

写真2 SuiteWorld の会場となった米サンノゼのコンベンションセンター
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 例えば「今日、製品の販売だけでなく、サービスの提供や月額課金による利用料モデルが広がっている。請求処理や売上認識のあり方が多様化しており、既存のERPはそれに対応できない」(CEOのZach Nelson氏、写真3)といった問題に、どう対処するかがその1つだ。この回答を含めて、SuiteWorld2016の基調講演で語られたことを中心に報告しよう。 

写真3 CEOのZach Nelson氏
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●Next:基幹システムのガバナンスをサービス、サブスクリプションで届ける

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